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「なんだ、あいつ等でかけてるんだな」
 すぐに戻ってくるだろう。そうでなきゃ、パソコンの電源は切ってあるはずだ。
 そう思うと人気のない小会議室の寂しさも気にならない。悠助はモニタに近づいた。
 マウスを少し揺すると、スクリーンセイバーは画面から消えた。モニタの中では画像処理ソフトのウインドウが、空っぽのまま開いている。
 マウスの傍らに、なにやら小さな箱のような物が置かれていた。マウス同様にコードが出ていて、パソコン本体の裏側に接続されている。
 これが「メディアリーダー」と呼ばれる端末で、今悠助が持っている媒体だけでなく、何種類かの記憶媒体のデータを読み書きするための機械だ……ということを、悠助は知らない。
 ただ、手に取ればいくつかの小さなスロットがあるのがわかり、その中の一つに見覚えのある細長い外部メモリーが刺さっているのが見えたから、
「ここにメモリーを突っ込めば、中のデータがパソコンで見えるんだろう」
ということを感覚的に察知した。
 悠助は刺さっていたスティックを少々強引に抜き取って、換わりに自分の持っている媒体を差し込んだ。
 スロットの横にある小さなランプが、緑色に点滅している。
 モニタに目を向けるが、特になんの変化も起きていないように見えた。
「なんだ? 突っ込んだのに何も始まらないじゃないか」
 コンピュータソフトと言ったら、コンシューマゲームソフトぐらいしか知らない悠助だ。
 ファイルには様々な種類があるとか、種類毎に対応したアプリケーションで開かないといけないとか、そもそもアプリケーションを立ち上げないといけないとか言う厄介な作業のことは解らない。
 どんな記憶媒体でも、「本体」に入れ込めばオートで何かが始まるのだと思い込んでいる。
「ちぇ」
 舌打ちすると、彼はメディアリーダーを放り投げた。精密機器は角から机の上に落ち、弾んでさらに床へと落下した。
「ちッ」
 悠助は一層大きく舌打ちし、メディアリーダーを拾い上げようとしゃがみ込んだ。
 背中が机にあたり、パソコン本体とモニタが大きく揺れた。
 起きあがって机の上を見る。
 モニタが揺れていた。いや、モニタのに映し出されている物が揺れている。
 それは先ほどまで表示されていたウインドウではなかった。
 真っ暗な闇。その奥でうごめく何か。
 砂嵐のようにざらっぽい映像が、ぐねぐねとゆがみながら点滅している。
「やべぇ! パソコン壊しちまったか?」
 悠助はあわてモニタを押さえた。
 ビチッという衝撃が、彼の体に走った。冬場、静電気に感電したときよりも数倍強い痛みが、両腕から脳天へと突き抜ける。
 モニタから手を放そうとするのだが、指先が痙攣して言うことを聞かない。
 やがてモニタはバチバチと放電しはじめた。
 青白い蛇のような稲妻が、悠助の腕にまとわりついた。
「なんだ、これ!?」
 彼は悲鳴を上げた。
 放電の発する光は、生白い腕のような形になって、しっかりと彼の腕を掴んでいるのだ。
 腕はモニタの中から突き出ている。
 そして腕の先には肩があり、2つの肩の間には当然のように頭があった。
 緑色の光を弾く長い髪、赤く揺らめく目玉、尖った耳には羽毛が生えている。
 何処からどう見ても「人間」には見えない。
 ……が。
 悠助の目はモニタの中で笑うその発光体に奪われていた。
 ゆらゆらと点滅するその「顔」は、美少女アニメのヒロインよりも可憐だった。そしてその下には、グラビアアイドルよりも豊満な胸元が見える。
「カ、カワイイ」
 思わず、鼻の下が伸びる。
 するとモニタの中の「顔」が
「ステキ」
 とつぶやいて、にっこりと微笑んだ。
「ねぇ……もっとよく……顔を見せて……」
 モニタの中の「顔」は艶めかしく笑う。
 バチバチというかなり危険そうな音を聞きながら、しかし悠助の脳みそはノルアドレナリンを大量に放出していた。
 快楽ホルモンに誘発されたβ−エンドルフィンが、放電による痛みを快楽に変化させる。
 もちろん、悠助自身はそんな現象が自分の中で起こっていることを理解している訳もなく、ただただ強烈な「気持ち良さ」を全身に感じているに過ぎなかった。
「よく見せて、って?」
 ふわふわした心持ちで彼が問うと、モニタの中の「顔」は目をうっすらと閉じ、赤い唇を尖らせた。
「顔を……近づけて……こっちに……」
 言われるまま、悠助はモニタに顔を近づけていった。

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