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 二つ折りの機械を開ける手付きも、キー操作する指先も、どこかぎこちない。
「新品なんだ。前のと操作が違って……」
 何を言われた訳でもないのに、彼は言い訳めいたことを口走る。
「くれぐれも、無くすなよ」
 光輝が念を押す。口元に幽かな笑みがある。
「おう」
 悠助は小さな液晶モニタを睨んだまま、生返事を返した。
「それから、もうじき校門が全部閉まるから、閉込められないウチに返った方がいいと思うよ」
 光輝の言葉に、悠助は慌てて顔を上げた。
 黒板の上、白枠のアナログ表示の時計が、午後7時を指していた。
「ヤベ!」
 呼気として小さな叫び声を吐き出すと、悠助は「俺の携帯」を握りしめて小会議室を飛び出ていった。
 開けっ放しのドアから首を出し、光輝は彼の背中を見送った。その手の中には、悠助の「携帯」とよく似た形状の、しかし漆黒の機械が握られている。
 光輝は慣れた手付きでそれを展開した。そして電話をかけると言うよりは、トランシーバーで通信するといった格好で、その機械に向かって一言、云った。
『すり込み成功』
 冷静で機械的ですらあるその声が、薄暗い地下の「秘密基地」のスピーカーを振動させる。
「とりあえず、あの坊やは今日のことは忘れてる、と。単純な子で良かったわぁ」
 ねっとが満面の笑みを浮かべた。
 真田は渋い顔で机の上のモニタに視線を落としている。
「全部じゃないさ。彼は携帯が『新しくなった』ことは憶えているし、むしろそれに違和感を感じることはない。そして、『オバケ』とエンカウントしたら、所定の操作をする押すって事も、しっかり憶えている。それから、しばらくは遠出をしてはならないって事もだ。まぁ、ぜんぶ無意識下で、だがね」
 モニタには、校門に向かって走る悠助の後ろ姿が映っている。
「しばらく、ね」
 ネットの声音は、むしろ楽しげな物だった。
「で、これから彼をどうしちゃうわけ?」
 それに対する真田の答えは明快だった。
「彼が襲われたら助ける」
「何度でも?」
「ああ。彼が襲われるたびに助ける。総ての『オバケ』を捕獲するまで何度でも」
「おみっちゃんも大変ね」
 ねっとのため息に、一瞬、真田の顔が曇った。
「自分を囮にする必要がなくなる分、今までよりは楽になる筈だ」
 まるで自分に言い聞かせるように彼はつぶやいた。
「優しい叔父様だこと」
 ねっとの声に、嫌みと、わずかばかりの同情が入り交じる。
 真田は返事をしなかった。顔を上げて彼女を見ることもしない。
 落ちくぼんだくらいめは、じっとモニタを見つめている。
 映し出されている画像は、線で描かれた地図に変っていた。
 小さな街の細い路地を、赤い点が一つ、ゆらゆら点滅しながら動いている。  
 真田はニタリと笑った。
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