タウンゼント版イソップ寓話集

hanama 訳




略記号:
Pe=ペリー版 Cha=シャンブリ版 H=ハルム版 Ph=パエドルス版 Ba=バブリオス版
Cax=キャクストン版 イソポ=天草版「イソポのハブラス」 伊曽保=仮名草子「伊曽保物語」
Hou(Joseph Jacobs?)=ヒューストン編  Charles=チャールス版 Laf=ラ・フォンテーヌ寓話
Kur=クルイロフ寓話 Panca=パンチャタントラ
J.index=日本昔話通観28昔話タイプ・インデックス TMI=トムスン・モチーフインデックス
<>=cf ( )=系統 Aesop=ペリー 1〜273に属する寓話


1.オオカミと仔ヒツジ

ある日のこと、オオカミは、群とはぐれて迷子になった仔ヒツジと出会った。オオカミは、仔ヒツジを食ってやろうと思ったが、牙を剥いて襲いかかるばかりが能じゃない。何か上手い理由をでっち上げて手に入れてやろうと考えた。
 そこで、オオカミはこんなことを言った。
「昨年お前は、俺様にひどい悪口を言ったな!」
 仔ヒツジは、声を震わせて答えた。
「誓って真実を申しますが、私はその頃、まだ生まれていませんでした。」
 するとオオカミが言った。
「お前は、俺様の牧草を食べただろう!」
「いえいえ、私はまだ、草を食べたことがありません。」
 するとまたしてもオオカミが言った。
「お前は、俺様の井戸の水を飲んだな!」
 仔ヒツジは悲鳴を上げて答えた。
「いえ。まだ、水も飲んだことがありません。……だって、お母さんのお乳以外は、まだ何も口にしたことがないのですから……」
「ええい! もうたくさんだ! お前がなんと言おうとも、俺様が、夜飯を抜いたままでいるとでも思っているのか?」
 オオカミはそう言うと、仔ヒツジに襲いかかった。
 
 暴君は、いかなる時にも、自分に都合のよい理由を見つけるものである。

Pe155 Cha221 H274b Ph1.1 Ba89 Cax1.2 イソポ1.1 伊曽保2.11 Hou2 Charles1 Laf1.10 Kur1.13 TMI.L31 (Ba)


2.コウモリと二匹のイタチ

 コウモリが、地面に落っこちてイタチに捕まった。コウモリは、命ばかりはお助けを……と懇願した。しかしこのイタチは生まれてこの方ずうっと、鳥と戦ってきたと言うのだ。そこでコウモリは、自分は鳥ではない……ネズミだと言い張った。それを聞いてイタチは、コウモリを逃がしてやった。
 それからまもなく、コウモリは、また、地面に落っこち、そしてまたしても、イタチに捕まってしまった。
 コウモリは今度も……命ばかりはお助けを……と懇願した。しかし今度のイタチは、ネズミを大変憎んでいると言う……。そこでコウモリは、自分はネズミではなくコウモリだと言った。
 こうして、コウモリは、二度までも窮地を脱した。

 賢い人は、その場その場でうまく立ち回る。

Pe172 Cha251 H307 Charles29 Laf2.5 TMI.B261.1 (Aesop)


3.ロバとキリギリス

 ロバは、キリギリスの歌声を聞いて魅了され、自分もあんな風に美しい声で歌ってみたいものだと考えた。そこでロバは、キリギリスたちに、どんなものを食べるとそんなに素敵な声が出るのかと尋ねてみた。
 キリギリスたちは答えた。
「水滴だよ」
 それで、ロバは、水しか摂らないことに決めた。

 ロバは、空腹ですぐに死んでしまった。

Pe184 Cha278 H337 Charles24 TMI.J512.8 (Aesop)


4.ライオンとネズミ

 ライオンが気持ちよく寝ていると、何者かに眠りを妨げられた。ネズミが顔を駆け抜けたのだ。ライオンは、いきりたってネズミを捕まえると殺そうとした。
 ネズミは、必死に哀願した。
「命を助けて下されば、必ず恩返しを致します。」
 ライオンは、鼻で笑ってネズミを逃がしてやった。それから数日後、ライオンは、猟師の仕掛けた網にかかって動けなくなってしまった。ネズミは、ライオンのうなり声を聞きつけると、飛んで行き、歯でロープを、ガリガリとかじり、ライオンを逃がしてやった。
 ネズミは、得意になって言った。
「この前、あなたは私を嘲笑しましたが、私にだって、あなたを、助けることができるのですよ。どうです。立派な恩返だったでしょう?」

Pe150 Cha206 H256 PhP Ba107 Cax1.18 イソポ1.10 伊曽保2.23 Hou11 Charles8 Laf2.11 Kur9.9 TMI.B371.1 (Aesop)


5.炭屋と洗濯屋

 あるところに、働き者の炭屋が住んでいた。ある日のこと、炭屋は友人の洗濯屋にばったり出合った。そして洗濯屋に、自分の所へ来て、一緒に住まないか……? そうすれば、家計は助かるし、一生楽しく暮らせるからと熱心に誘った。
 すると、洗濯屋はこう答えた。
「私は、あなたと住むことなどできません。だって、私が洗濯して、白くしたそばから、あなたは、黒くしてしまうでしょうからね……」

水と油は混ざらない。

Pe29 Cha56 H59 イソポ2.5 Charles81 TMI.U143 (Aesop)


6.父親とその息子たち

 その男には、息子が大勢いたのだが、兄弟喧嘩が絶えず、いつもいがみ合ってばかりいて、父親が止めても、喧嘩をやめないというありさまだった。
 この期に及んで、父親は、内輪もめが如何に愚かなことであるかを、教え諭さなければならぬと痛感した。
 頃合いを見計らって、男は息子たちに、薪の束を持ってくるようにと言いつけた。息子たちが薪の束を持って来ると、男は、一人一人にその束を手渡し、そして、それを折るようにと命じた。
 息子たちは、懸命に力を振り絞ってみたが、薪の束はびくともしなかった。そこで、男は、束をほどくと、今度は、一本一本バラバラにして、息子たちに手渡した。すると息子たちは、たやすく薪を折った。
 そこで、彼は息子たちに、こんなことを語って聞かせた。
「よいか、息子たちよ。もしお前たちが、心一つに団結し、互いに助け合うならば、この薪の束のように、どんな敵にもびくともしない。しかし、互いがバラバラだったなら、この棒きれのように、簡単にへし折られてしまうのだ。」

Pe53 Cha86 H103 Ba47 イソポ2.31 Hou72 Charles68 Laf4.18 TMI.J1021 (Aesop)


7.イナゴを捕まえる少年

 ある少年がイナゴを捕まえていた。そしてかなりの数が集まったのだが、少年は、イナゴと間違えてサソリに手を伸ばそうとした。するとサソリは、鋭い毒針を振り立てて少年に言った。
「さあ、捕まえてごらん。君のイナゴを全部失う覚悟があるならね。」

友だちを作るなら、ちゃんと見定めてからにせよ。見誤って悪い友だちを作ろうものなら、善い友だちを一瞬にして失うことになる。

Pe199 Cha293 H350 BaP168 Kur6.9 (Aesop)


8.オンドリと宝石

 オンドリが餌を探していて、宝石を見つけた。
 すると、オンドリはこう叫んだ。
「なんと詰まらぬものを見つけたことか! 俺にとっちゃ、世界中の宝石よりも、麦一粒の方がよっぽど価値がある。」

Pe503 Ph3.12 Cax1.1 伊曽保2.10 Hou1 Charles49 Laf1.20 Kur2.18 TMI.J1061.1 (Ph)


9.ライオンの御代

 野や森の動物たちは、王様にライオンを戴いていた。ライオンは残酷なことを嫌い、力で支配することもなかった。つまり、人間の王様のように、公正で心優しかったのだ。
 彼の御代に、鳥や獣たちの会議が開かれた。そこで彼は、王として次ぎのような宣言をした。
「共同体の決まりとして、……オオカミと仔ヒツジ、ヒョウと仔ヤギ、トラとニワトリ、イヌとウサギは、争わず、親睦をもって、共に暮らすこと……」
 ウサギが言った。
「弱者と強者が共に暮らせるこんな日を、私はどんなに待ちこがれたことか……」
ウサギはそう言うと死にものぐるいで逃げていった。

地上の楽園などこの世にはない。

Pe334 Cha195 H242 Ba102 狐ラインケ1.1 (Ba)

註:原典などでは、最後の「ウサギはそう言うと死にものぐるいで逃げていった」というような記述はなく、「めでたしめでたし」で終わっている。


10.オオカミとサギ

 喉に骨が刺さったオオカミが、多大な報酬を約束してサギを雇った。というのも、口の中へ頭を突っ込んでもらって、彼女に骨を抜いて貰おうと考えたからだった。サギが、骨を抜き出し、約束の金を要求するとオオカミは、牙を光らせて叫んだ。
「何を言ってやがる! お前は、もう俺様から、十分すぎる報酬を受け取ったはずだぞ。俺様の口から無事に出られたのだからな!」

悪者へ施す時には、報酬など期待してはならぬ。もしなんの危害も受けずにすんだなら、それでよしとすべきである。

Pe156 Cha224 H276 Ph1.8 Ba94 Cax1.8 イソポ1.5 伊曽保2.16 Hou5 Charles12 Laf3.9 Kur6.12 狐ラインケ3.11 TMI.W154.3 (Aesop)


11.笛を吹く漁師

 笛の上手な漁師が、笛と網を持って海へ出掛けた。彼は、突き出た岩に立ち、数曲、笛を奏でた。と言うのも、魚たちが笛の音に引き寄せられて、足下の網に、自ら踊り入るのではないかと考えたからだった。
 結局、長いこと待ったが無駄であった。そこで、男は笛を置き、網を投じた。すると、一網でたくさんの魚が捕れた。
 男は、網の中で跳ね回る魚たちを見て言った。
「なんとお前たちは、ひねくれ者なんだ! 俺が笛を吹いていた時には踊らなかったくせに、吹くのをやめた今、こんなに陽気に踊りやがる。」

Pe11 Cha24 H27 Ba9 Cax6.7 Hou42 Laf10.10 TMI.J1909.1 (Aesop)


12.ヘラクレスとウシ追い

 あるウシ追いが、ウシに車をひかせて、田舎道を進んで行った。すると、車輪が溝に深くはまり込んでしまった。頭の弱いウシ追いは、牛車の脇に立ち、ただ呆然と見ているだけで、何もしようとはしなかった。そして、突然大声でお祈りを始めた。
「ヘラクレス様、どうか、ここに来てお助け下さい」
 すると、ヘラクレスが現れて、次ぎのように語ったそうだ。
「お前の肩で、車輪を支え、ウシたちを追い立てなさい。それからこれが肝心なのだが、自分で何もしないで、助けを求めてはならない。今後そのような祈りは一切無駄であることを肝に銘じなさい」

自助の努力こそが、最大の助け

Pe291 Cha72 H81 Ba20 Avi32 Hou61 Charles101 Laf6.18 TMI.J1034 (Ba)


13.アリとキリギリス

 ある晴れた冬の日、アリたちは、夏の間に集めておいた、穀物を干すのに大わらわだった。そこへ腹をすかせて、死にそうになったキリギリスが通りかかり、ほんの少しでよいから食べ物を分けてくれるようにと懇願した。
 アリたちは、彼に尋ねた。
「なぜ、夏の間に食べ物を貯えておかなかったのですか?」
 キリギリスは、答えた。
「暇がなかったんだよ。日々歌っていたからね」
 するとアリたちは、嘲笑って言った。
「夏の間、歌って過ごしたお馬鹿さんなら、冬には、夕食抜きで踊っていなさい」

Pe373 Cha336 Ha401 PhP Ba140 Avi34 Cax4.17 イソポ1.23 伊曽保3.1 Charles14 Laf1.1 Kur2.12 TMI.J711.1 (Ba) 

註:この話は、パエドルスの散文にも入っているので、現在は失われてしまったデメトリウスのイソップ寓話集にも含まれていたのかも知れない。


14.旅行者と彼のイヌ

 男が、旅に出かけようとすると、彼のイヌがドアのところで、伸びをしていた。
「なぜ、伸びなどしているんだ? 用意万端、直ぐに出かけられるのか?」
 男は、イヌをピシャリと叱った。すると、イヌは、しっぽを振りながら答えた。
「ご主人様、わたしゃ、支度は済んでます。待っていたのはわたしの方です」

自分のせいで遅くなったくせに、難癖をつけて相手のせいにする者がいる。怠け者は得てしてそういうものだ。

Pe330 H227 Ba110 TMI.J1475 (Ba)


15.イヌと影

 イヌが肉をくわえて、橋を渡っていた。すると、水面に写る自分の影を見て、どこかのイヌがもの凄く大きな肉をくわえているのだと思った。
 彼は、自分の肉を放り出すと、大きな肉を目指して、烈火の如く躍り掛かった。こうして、彼はどちらの肉も失った。
 彼が、水の中で奪おうとした肉は影であったし、自分の肉は、流が運び去ってしまったからだ。
Pe133 Cha185 H233 Ph1.4 Ba79 Cax1.5 イソポ1.3 伊曽保2.13 Hou3 Charles3 Laf6.17 J.index843 TMI.J1791.4 (Aesop)


16.モグラと彼の母親

 モグラは、生まれながらに目が見えないのだが、そんな彼が、ある日母親に言った。
「僕は、ちゃんと目が見えます!」
 母親は、息子の間違いをきちんと正さなければと考え、彼の前に、一片の乳香を置き、そして尋ねた。
「これは何だと思う?」
「これは、水晶です」
 すると母親は、大声で言った。
「なんてことだい! お前は、目が見えないだけでなく、鼻まで利かなくなってしまったんだね」

Pe214 Cha326 H71b BaP TMI.J446.1 (Aesop)


17.ウシ飼と盗まれたウシ

 あるウシ飼が、森でウシたちの世話をしていたのだが、一匹の雄の仔ウシが囲いからいなくなってしまった。ウシ飼は、あちこち仔ウシを探し回ったが、徒労に終わった。そこで、ウシ飼は、ヘルメスやパーンなど森の神々に、もし、ウシ泥棒を見つけることができたならば、生贄に仔ヒツジを捧げると誓った。
 それからすぐに、ウシ飼が小高い丘に登ると、丘の麓で、ライオンが仔ウシを食べているのを発見した。その恐ろしい光景に、ウシ飼は、天を仰ぎ、両手をさしのべてこう言った。
「おお、森の神々よ! 私は、たった今、泥棒を見つけることが出来たなら、仔ヒツジを捧げると誓いましたが、今度は、仔ウシに立派な牡ウシもおつけ致しますから、どうか、私を無事に、ライオンから逃がして下さい」

Pe49 Cha74 H83 Ba23 Laf6.1 TMI.J561.2 (Ba)


18.ウサギとカメ

 ある日のこと、ウサギがカメを、足が短くてのろまだと嘲笑った。するとカメは笑みを浮かべてこう答えた。
「確かに、あなたは、風のように速いかもしれない。でも、あなたをうち負かしてみせます。」
 ウサギはそんなことは、無理に決まっていると思い、カメの挑戦を受けることにした。キツネがコースとゴールの位置を決めることになり、両者はそれに同意した。
 競争の日が来た。二人は同時にスタートした。カメは、遅かったが、一瞬たりとも止まらずに一歩一歩着実にゴールへと向かった。ウサギは、道端でごろりと横になると、眠りこんだ。
 しまった!
 と思って、目を覚ましたウサギは、あらん限りのスピードで走ったが、カメはすでに、ゴールインして、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

ゆっくりでも、着実な者が勝つ。

Pe226 Cha352 H420 BaP177 Hou68 Charles36 Laf6.10 J.index545B TMI.K11.3 (Aesop)


19.ザクロとリンゴとイバラ

 ザクロの木とリンゴの木が、どちらが美しいかということで言い争っていた。両者の議論が最高潮に達した時、近くの垣根から、イバラがしゃしゃり出た。
「ねえ、お友達のザクロさんにリンゴさん。せめて、私のいる前では、そんな無益な議論はおやめ遊ばせ。」

Pe213 Cha324 H385 TMI.J466.1 (Aesop)


20.農夫とコウノトリ

 ある農夫が、種蒔きを終えたばかりの畑に網を仕掛け、種を食べに来たツルの群を一網打尽にした。するとツルの群と一緒に、コウノトリが一匹捕らえられていた。網に足が絡まり傷ついたコウノトリは、農夫に泣きついた。
「私は骨を折っているのです、どうか私を哀れんで今回は見逃して下さい。それに、私は下世話なツルではなく、コウノトリなのです。私が、父や母をどんなに慈しみお世話するか、あなたもご存じでしょう? 私の羽を見て下さい。ツルの羽とは違うでしょう」
 すると農夫は、大きな声で笑った。
「言いたいことは全部言ったか? では、俺の番だ。お前は、あの盗人どもと一緒に捕まった。よってお前は奴らと一緒に死なねばならぬ。」

同じ穴の狢

Pe194 Cha284 H100b Ba13 Cax6.9 Charles111 TMI.J451.2 (Ba)


21.農夫とヘビ

 ある冬の日のこと、農夫は、寒さに凍えて今にも死にそうになったヘビを見つけた。彼は可哀想に思い、ヘビを拾い上げると自分の懐に入れてやった。
 ヘビは暖まると、元気を取り戻し、本性を顕わにして命の恩人に噛みついた。農夫は今際の際にこう叫んだ。
「おお、これも、悪党に哀れみを与えた、当然の報いだ!」

悪党には親切にしないのが、一番の親切。

Pe176 Cha82 H97b Ph4.20 Ba143 Cax1.10 Hou17 Charles43 Laf6.13 TMI.W154.2 (Aesop)


22.仔ジカと彼の母親

 むかし昔のことである。仔ジカが母シカに言った。
「お母さんは、イヌよりも大きいし、敏捷で、駆けるのもとっても速い。その上、身を守る角だって持っている。それなのになぜ、猟犬を怖がるの?」
 母シカはにこやかに答えた。
「お前の言うことは、みなその通りなんだけど・・・・でも母さんは、イヌの吠えるのを一声聞いただけで、卒倒しそうになり、飛んで逃げたくなるんだよ。」

いくら説得しても、臆病者は勇者にはならない。

Pe351 Cha247 H303 BaP156 イソポ2.33 Charles95 TMI.U127 (Ba)


23.クマとキツネ

 あるクマが、我こそは、動物の中で、一番人間への愛情が細やかであると、痛く自慢した。……と言うのも、自分は人の死体にさえ、触れようとはしないからだと言うのだ。それを聞いてキツネが言った。
「おお、クマさんや、生きた人を食べずに、死んだ人を食べなさい。」

Pe288 Cha63 H69 Ba14 Kur6.19 (Ba)


24.ツバメとカラス

 ツバメとカラスが、羽のことで言い争っていた。そして、カラスがこんな事を言って、その議論に決着をつけた。
「君の羽は、春の装いにはぴったりかもしれない。でも、僕の羽は、冬の寒さからをも、身を守ってくれるんだよ!」

困難な時の友こそ本当の友。

Pe229 Cha348 H415 Charles76 TMI.J242.6 (Aesop)


25.山のお産

 かつて、山が大いに揺れ動いたことがあった。巨大なうなり声が響き渡った。一体何が起こるのか一目見ようと、あらゆる所から、人々が集まってきた。何か恐ろしい大災害が起こるのではないか? と、皆、固唾を飲んで見守った。
 が、しかし、出てきたのはネズミ一匹だけだった。

大山鳴動してネズミ一匹

Pe520 Ph4.24 Cax2.5 Hou14 Laf5.10 TMI.U114 (Ph)(ホラ−テウス詩論・引用句集139)


26.ロバとキツネとライオン

 危ない目に合ったら、互いに助け合おうと約束して、ロバとキツネが、森へと狩りに出かけた。だが、森の奥へと踏み込む前にライオンと出くわしてしまった。絶体絶命の窮地に立って、キツネはライオンの所へ近づいて行き、もし、自分を助けてくれるならば、ロバを捕らえるよい知恵を授けると言った。
 キツネは、ロバを言いくるめると、深い穴に連れて行き、ロバがその中に落ちるように仕向けた。ライオンは、ロバが動けないのを見ると、即座にキツネを捕まえた。そして、ロバに取りかかったのは、キツネがすんでからだった。

Pe191 Cha270 H326 イソポ2.39 TMI.Q581 (Aesop)


27.カメとワシ

 日がな一日、日向ぼっこをしていたカメが、海鳥に向かって、誰も空の飛び方を教えてくれないのだと愚痴をこぼした。近くを舞っていたワシが、カメの溜め息まじりの言葉を聞くと、何かお礼をくれるのなら、空高く連れて行って、飛び方を教えてやると言った。
 カメは喜び勇んでこう答えた。
「紅海の幸を全てあなたに差し上げます」
「よしわかった、ではお前に、空の飛び方を教えてやろう」
 ワシはそう言うと、カメを鈎爪でひっつかみ、雲間へと運んでいった。
「さあ、飛ぶのだ!」
 ワシはそう言うと、突然、カメを放り出した。カメは、そびえ立つ山の頂きに落ちて行き、甲羅もろとも粉々に砕け散った。カメは死ぬ間際にこう言った。
「こうなったのも当然だ。地上を歩くのさえおぼつかぬ者が、翼や雲の真似をして空を飛ぼうとしたのだから……」

望むことの全てを叶えようとするならば、破滅が待っているだろう。

Pe230 Cha351 H419 Ba115 Avi2 Cax7.2 イソポ2.25 Hou47 TMI.K1041 (Ba)


28.ハエとハチミツ壷

 ハエたちは、倒れた壷から溢れ出る、蜜の匂いに誘われて、台所へとやって来た。彼らはハチミツの上へと降り立つと、一心不乱になめ回した。ところが、蜜が、足にべたべた絡みつき、ハエたちは、飛べなくなってしまった。蜜の中で息が詰まって死に行く時に、ハエたちはこんな風に叫んだ。
「ああ、なんて我等は間抜けなんだ! ほんの少しの快楽のために、身を滅ぼすとは……」

楽しみの後には、痛みと苦しみが待っている。

Pe80 Cha239 H293 Charles36 TMI.N339.2 (Aesop)


29.人とライオン

 人とライオンが、一緒に森の中を旅していた。すると両者ともに、力と勇気について自慢しはじめた。互いに言い争っていると、二人は、ある石像の前へとやってきた。それは、人がライオンを絞め殺している像だった。男は、それを指さして言った。
「あれを見ろよ! 俺たち人間がどんなに強いか、百獣の王さえあの通りだ。」
 すると、ライオンはこんな風に言い返した。
「この石像は、あんた方人間が造ったものだ。もし、我々ライオンが、石像を造れたなら、足下にいるのは、その男の方だろうよ」

どんなに下らない話でも、反論されるまでは、一番である。

Pe284 Cha59 H63 PhP BaP194 Avi24 Cax4.15 Hou35 Laf3.10 TMI.J1454 (Ba)


30.農夫とツルたち

 ツルたちは、種蒔きの終えたばかりの小麦畑を餌場にしていた。農夫はいつも、投石機を空撃ちして、ツルたちを追い払っていた。と、いうのも、ツルたちは空撃ちしただけで、怖がって逃げたからだ。
 しかしツルたちは、それが空を切っているだけだということに気付くと、投石機を見てもお構いなしにそこに居座った。そこで農夫は、今度は投石機に本当に石を装填し、そして、たくさんのツルたちを撃ち殺した。
 ツルたちは皆、一様にこんなことを言って嘆いた。
「リリパットの国に逃げる時が来たようだ、彼は、我々が怯えるだけでは満足せずに、本気で撃ってくるのだからな」

 優しく言われているうちに言う事を聞け!さもないとげんこつが飛んでくるぞ!

Pe297 H93 Ba26 TMI.J1052 (Ba)

註:リリパットは、ガリバー旅行記に出てくる小人の国のこと。原典などでは、ピグミーとなっている。(ピグミーはギリシア神話などの伝説の小人) 


31.かいば桶の中のイヌ

 あるイヌが、かいば桶の中に入り、吠えたり唸ったりして、牛たちが干し草を食べるのを邪魔していた。すると、一匹のウシが仲間に言った。
「奴は、干し草など食わぬくせに、干し草を食べる我々に、譲ろうとはしない」

Pe702 <H228> Cax5.11 Hou40 Charles39 TMI.W156 (Steinhowel)


32.キツネとヤギ
 
 ある日のこと、一匹のキツネが、深い井戸に落ちて出られなくなってしまった。そこへ、ヤギが通りかかった。ヤギは喉が渇いていたので、キツネを見ると、その水は美味しいかと尋ねた。キツネは、自分の窮状を隠し、この水はとても美味しいと褒めちぎり、降りてくるようにと促した。
 ヤギは、渇きを癒すことばかりに気を取られ、深く考えもせずに深い井戸へと飛び降りた。ヤギが水を飲みはじめると、キツネは、自分たちの窮状をヤギに打ち明け、そして、二人して抜け出す方策を語って聞かせた。
「いいかい、君が、前足を壁に掛けて、角でしっかりと支えてくれたら、僕は君の背中を駆け上って、ここから抜け出すから……そしたら、君を助けてあげるよ」
 こうして、キツネは、ヤギの背中を跳躍し、井戸から抜け出した。しかしキツネは、そのまま井戸を後にした。
 ヤギが、それでは約束が違うと叫んだ。するとキツネは振り向いてこう言った。
「ヤギさん、あんたは老いぼれて、もうろくしたようだね。もしあんたの頭に、その、あごひげ程の脳味噌が詰まっていたなら・・・抜け出せるかどうかも確かめずに、降りては行かなかっただろうがね・・・」

転ばぬ先の杖

Pe9 Cha40 H45 Ph4.9 BaP182 Cax6.3 イソポ2.30 伊曽保3.14 Hou82 Charles33 Laf3.5 J.index581,582 TMI.K652 (Aesop)


33.クマと二人の旅人

 二人の男が一緒に旅をしていた。と、二人は、ばったりとクマに出くわした。一人は、すぐさま、木に登り、葉陰に身を隠した。もう一人は、クマにやられてしまうと思い、地面に横たわった。すると、クマがやってきて、鼻先で探りを入れながら、全身をくまなく嗅ぎ回った。
 彼は、息を止め、死んだ振りをした。クマは死体には触れないと言われているのだが、その通り、クマはすぐに彼から離れて行った。クマが見えなくなると、木に登っていた男も降りてきて、「さっき、クマは、なんて囁いたの?」と、間抜けなことを言い出した。すると相方はこんな風に答えた。
「クマはね、僕にこんな忠告をしてくれたよ。……危険が迫った時に、知らんぷりするような奴とは、一緒に旅をするな!」

災難は、友の誠実さを試す。

Pe65 Cha254 H311 BaP Avi9 Cax7.8 イソポ2.2 Hou50 Charles67 Laf5.20 TMI.J1488 (Aesop)


34.牡ウシと車軸

 重い荷物を積んだ、数頭立ての牛車が、田舎道を走っていた。すると、車軸がもの凄い音を立てて、ギジギシときしんだ。ウシたちは振り向くと、車輪に言った。
「なぜ、あんたらは、そんなに大きな音を立てるんだね、引っ張っているのは、我々だ、泣きたいのは、こっちの方だよ」

怠け者は無駄口ばかり叩くが、働き者にはそんな暇はない。

Pe45 Cha70 H79 Ba52 Charles117 (Aesop)


35.喉の渇いたハト

 喉の渇いたハトが、水差しを見つけた。実はそれは、看板の絵であったのだが……ハトはそれに気付かずに、ばたばたと飛んで行くと、もの凄い音を立てて、激突した。その衝撃で、両の羽とも、砕け、ハトは地面へと落っこちて、見ていた人に捕まった。

熱中し過ぎて分別を無くしてはならない。

Pe201 Cha301 H357 Charles77 TMI.J1792.1 (Aesop)


36.カラスとハクチョウ

 カラスは、ハクチョウの姿を見て、自分もあんな風に美しくなってみたいと思った。カラスは、ハクチョウの羽が白いのは、いつも泳いでいるからだと思い、自分も湖に居を構えようと、餌場としている近くの祭壇を後にした。しかし、いくら洗っても、羽は白くならなかった。それどころか、餌が不足して、彼はとうとう死んでしまった。

習慣を変えても、本質は変わらない。

Pe398 H206 Charles45 TMI.W181.3 (Aphthonius)


37.ヤギとヤギ飼

ヤギ飼は、群からはぐれたヤギを連れ戻そうとやっきになっていた。彼は、口笛を吹いたり角笛を吹き鳴らしたりと大わらわだったが、当のヤギは、全く意に介さぬようだった。
とうとう、ヤギ飼は、ヤギに向かって石を投げつけた。すると、石がヤギの角に当たって角が折れてしまった。
 ヤギ飼いは、どうか、このことは主人には内緒にしてくれと、ヤギに頼んだ。すると、ヤギはこう答えた。
「あなたは、どうかしていますよ、私が黙っていようとも、この角が黙っていますまい」

一目で分かるようなものを隠そうとしても無駄である。

Pe280 Cha15 H17 Ph6.24 Ba3 TMI.J1082.1 (Ba)


38.守銭奴

 金にうるさい男が、全財産を売り飛ばし、それを金塊に変えた。彼は、金塊を古塀の脇の畑に埋めると、毎日見に行った。
 しかし、彼がしょっちゅうそこへ行くのを、使用人の一人が不審に思い、何をしているのか、探りを入れた。使用人は、すぐに宝が隠してあるのを嗅ぎ当てると、そこを掘り返し、金塊を盗んでしまった。
 守銭奴は、金塊が盗まれたことに気付くと、髪の毛を掻きむしり、大声で泣きわめいた。隣に住む人が、泣きわめく彼を見て、事の次第を見て取ると、こんな風に言った。
「お前さん、そんなに悲しむことはありませんよ。何処かで石でも拾ってらっしゃい。そしてそれを金塊だと思ってお埋めなさい。……どのみち、お前さんにとっては、同じことですからね」

 使わなければ、持ってないのも同じ。

Pe225 Cha344 H412 イソポ2.11 Hou63 Charles78 Laf4.20 TMI.J1061.4 (Aesop)


39.病気のライオン
 
 寄る年波には勝てずに衰えて、力では獲物を獲れなくなったライオンが、策略によって獲物を獲ることにした。彼は洞穴に横たわって、病気の振りをした。そして自分が病気であることが、世間に知れ渡るようにと画策した。
 獣たちは、悲しみを伝えようと、一匹づつ、洞穴へとやって来た。すると、ライオンは、やって来た獣たちを、片っ端からむさぼり食った。こうして、多くの獣たちが姿を消した。
 キツネはこのカラクリに気付き、ライオンのところへやって来ると、洞穴の外に立ち、うやうやしく、ライオンの加減を尋ねた。
「どうもよくない」
 ライオンはこう答えると、更にこう言った。
「ところで、なぜ、お前は、そんな所に立っているのだ? 話が聞こえるように、中に入ってこい」
 するとキツネがこう答えた。
「だって、洞窟の中へ入って行く足跡は、たくさんあるのに、出てくる足跡が、一つも見あたらないんですもの」

他人の災難は、人を賢くする。

Pe142 Cha196 H246 PhP Ba103 Cax4.12 イソポ2.45 Hou73 Laf6.14 Panca3.4, 5.10 TMI.J644.1 (Aesop)


40.ウマと別当

 別当は、日がな一日、馬を櫛ですいてやったり、擦ってやったりしていた。しかし、同時に、餌の大麦を盗んでは売り飛ばし、自分の懐を肥やしていた。
 馬はこのことに気付いてこう言った。
「もし、私に元気でいてもらいたいなら、手入れは程々でよいですから、もっと食糧を下さい」

Pe319 Cha140 H176 Ba83 TMI.J1914 (Ba)


41.ロバと愛玩犬

 ある男が、マルタ種の小イヌと、ロバを飼っていた。
 小イヌは、芸がたくさん出来たので、主人に大変可愛がられた。一方ロバは他の仲間と同じように、大麦や干し草を十分に与えられてはいたが、臼を曳いたり、森から木を運んだり、農場から荷物を運んだりと、大変こき使われていた。ロバは、小イヌの、優雅で安逸な暮らしぶりを羨み、自分の境遇を嘆いてばかりいた。
 ある日のこと、ついに、ロバは、手綱やはづなを引き裂いて、ギャロップしながら、主人の家へと向かった。そして加減も知らずに、蹄で戸を蹴破ると、家の中に入り込み、めいいっぱいはしゃいだ。そして、イヌの真似をして、主人の周りを跳ね回った。すると、その勢いでテーブルは壊れ、皿は木っ端微塵に砕け散った。そしてお次は主人をなめ回し、背中にじゃれて跳び乗った。
 使用人たちは、この騒動を聞きつけて、主人の一大事と、飛んで来ると、……ロバを蹴飛ばし、棒で叩き、平手打ちを喰らわせて、厩舎へたたき込んだ。
 自分の馬房に戻され、死ぬほど打ち据えられたロバは、こんな風に嘆いた。
「ああ、なんてことだ、これも皆自業自得だ。おいらは、なぜ、仲間と一緒に、仕事に精を出さなかったんだろう? あの役立たずの小イヌのように、一日中安逸をむさぼろうなど、土台無理な話だったのだ!」

Pe91 Cha275 PhP Ba129 Cax1.17 イソポ1.9 伊曽保2.22 Hou10 Charles53 Laf4.5 狐ラインケ3.9 TMI.J2413.1 (Ba)


42.牝のライオン

 子供を一番多く産むことのできるのは誰か? というような論争が、野に棲む獣たちの間に持ち上がった。
 獣たちは、論争に決着をつけてもらおうと、牝のライオンのところへ、がやがやと押し掛けて行った。
「……ライオンさんは、一度に何人の子供をお産みになります?」
 獣たちが牝のライオンに尋ねた。すると彼女は、笑いながらこう答えた。
「なぜそんなことを気にするのです? 私はたった一匹しか産みませんよ。でも、その子は、間違いなくライオンの子ですよ」

量より質

Pe257 Cha194 H240 BaP189 TMI.J281.1 (Aesop)


43.旅先での出来事を自慢話する五種競技の選手

 よその国々を旅してきた五種競技の選手が、故郷に帰って来て、彼の国々で行った、数々の英雄的な偉業について、いたく自慢した。とりわけ、ロードス島では、大変なジャンプを行い、その距離は、かつて、些かでもその近くまで跳躍した者がいないという程の大ジャンプで、……ロードス島には、その偉業を見届け、証人となってくれる者も大勢いる。と彼は語った。すると、側で聞いていた一人の男が、彼の話を遮って、こんなことを言った。
「よし分かった、英雄さんよ、もしその話が本当なら、証人などいらない。さあ、ここがロードスだ。ここで跳べ!」

Pe33 Cha51 H203 TMI.J1477 (Aesop)


44.ネコとオンドリ

 ネコがオンドリを捕まえた。そして、このニワトリを食べるのに、なにかもっともらしい理由はないかと考えた。そこで、ネコは、オンドリに、お前は、夜、うるさく鳴いて、人の眠りを妨げる。といちゃもんをつけた。
 すると、オンドリは、自分が鳴くのは、人が仕事に遅れないように、起こすためで、それは、人の為めなのだ。と、弁解した。
 すると猫はこう言った。
「もっともらしい言い訳はいくらでも出てくるだろうが、だが、俺様は、夕食抜きでいるつもりはないんでね……」

 ネコはそう言うと、夕食に取りかかった。

Pe16 Cha12 H14 Cax6.4 Charles20 TMI.U31.1 U33 (Aesop)


45.仔ブタとヤギとヒツジ

 仔ブタが、ヤギとヒツジと共に、柵の中に閉じこめられた。ある時、ヒツジ飼が仔ブタを捕まえようとおさえつけた。すると、仔ブタは、ブヒブヒ喚き散らし、激しく抵抗した。ヒツジとヤギは、その喚き声にうんざりして、文句を言った。
「我々もしょっちゅう、彼に捕まえられるけど、そんなに泣き喚いたりしないよ。」
 すると、仔ブタが言った。
「あんたらと、僕とでは、事情が違うよ。……彼があんたらを捕まえるのは、毛やお乳をとるためだけど、僕をおさえつけるのは、肉をとるためなんだから!」

Pe85 Cha94 H115 Laf8.12 TMI.J1733 イソップ伝48 (Aesop)


46.少年とハシバミの実

 少年は、ハシバミの実がたくさん入った壷に手を突っ込み、つかめるだけつかんだ。しかし、壷から手を抜こうとして、途中で手が引っかかり、抜けなくなってしまった。それでも、少年は、ハシバミの実を諦めようとはせずに渋っていたので、依然手は抜けぬまま、……少年は、涙を流して身の不幸を嘆いた。
 すると、側にいた人がこう言った。
「半分で我慢しなさい。そうすれば、すぐに抜ける」

一度に、欲張るな!

Charles92 J.index866


47.恋をしたライオン

 ライオンが、樵の娘に恋をして、結婚を申し込んだ。父親は、ライオンになど娘をやりたくなかったのだが、怖くて断れなかった。
 と、彼は、ふと、名案が浮かんだ。彼はライオンに、娘が恐がるといけないので、牙を抜き、爪を切るようにと言ったのだ。ライオンは、二つ返事で承知した。
 ライオンが、牙を抜き爪を切って戻って来た時、樵は、もうライオンを恐れなかった。彼は、こん棒をふるって、ライオンを森へと追いやった。

Pe140 Cha198 H249 Ba98 Hou71 Laf4.1 TMI.J642.1 (Aesop)


48.人とヘビ

 ある家の庭先に、ヘビの穴があった。そして、そのヘビはその家の子供を噛んで殺してしまった。父親は、子供の死を悲しみ、ヘビへの復讐を誓った。
 翌日、ヘビが餌を獲りに穴から這い出して来ると、彼は斧を握りしめ、ヘビめがけて、振り下ろした。しかし、慌てていたため、ねらいが外れ、しっぽを切っただけで、頭を真っ二つにすることは出来なかった。
 その後しばらくして、男は、自分もまたヘビに噛まれてしまうのではないかと恐れ、ヘビの穴に、パンと塩を置いて、仲直りをしようとした。ヘビは、シュルシュルと舌を鳴らして、こんなことを言った。
「我々は、仲直りなどできない。……私は、あなたを見れば、尻尾を無くしたことを思い出すだろうし、あなただって、私を見れば、子供の死を思い出すだろうから……」

傷を負わされた者は、決してその痛みを忘れない。特にその仇が目の前にいる時には……。

Pe51 Cha81 H96 BaP167 Hou6 TMI.J15 (Aesop)


49.ヒツジの皮をかぶったオオカミ
 
 昔、あるオオカミは、餌を楽して獲ろうと、ヒツジの皮を被って変装した。そして、ヒツジ飼の目をすり抜けて、牧場の中へと潜り込んだ。
 夕方、ヒツジ飼は、オオカミに気付くことなく、牧場の扉をしっかりと閉ざして帰って行った。オオカミはほくそ笑んだ。ところが、その夜の内に、ヒツジ飼が、翌日の食糧を確保しようと戻ってきた。そして、オオカミはヒツジと間違えられて殺された。

悪の栄えたためしなし。

Pe451 H376 Hou39 Charles91 TMI.K828.1 (ニケポロス・バシラキス「弁論術の準備」1.133)


50.ロバとラバ

 ある馬方が、ロバとラバにたくさんの荷を積んで後ろから追っていた。
 ロバは、平らな道では、苦もなく運んだが、山にさしかかり、急な坂道を登り始めると、重荷に耐えられなくなった。そこで、ロバは相方に、少しでよいから、荷物を肩代わりしてくれるようにと頼んだ。……このままでは、なにもかも運べなくなってしまうから……と、しかしラバは取り合おうともしなかった。
 その後すぐに、ロバは、地面に崩れ落ち、荷の下で息絶えた。山奥のことなので、馬方は他にしようがなく、ラバの荷物に、今までロバが運んでいた荷物を載せ、さらに、ロバの皮を剥ぐと、それを、一番上に積んだ。
 ラバは、重い荷物に喘いで、一人ごちた。
「これも、自業自得というものだ。もし、あの時、ロバのちょっとした願いを聞いてやっていたら、こんなことにはならなかったのに……。それにしても、まさか、奴のことまで、背負う羽目になるとは……」

Pe181 Cha141 H177b PhP Ba7 イソポ2.13 Laf6.16 TMI.W155.1 (Aesop)


51.王様を求めるカエルたち
 
 カエルたちは、自分たちに、支配者がいないのを悲しんで、ジュピター神に使者を送り、王様を賜りたいとお願いした。ジュピター神は、カエルたちが馬鹿なのを知っていたので、太い丸太を池に落としてやった。カエルたちは、その水しぶきにびっくりして、池の深みに隠れた。しかし、彼らは、丸太が動かないことに気付くと、水面に出てきて、今まで怯えていたのも忘れて、丸太の王様に上がり馬鹿にして座り込んだ。
 しばらくすると、カエルたちは、こんな、動かない王様を戴いているのは、こけんに関わると思い、ジュピター神に、二番目の使者を送って、別な王様を戴きたいとお願いした。そこでジュピター神は、支配者として、ウナギを使わした。しかし、カエルたちは、ウナギの御しやすい性質を見て取ると、三度目の使節を送って、またしても、別な王様を与えてくれるようにとお願いした。ジュピター神は、カエルの度重なる申し立てに、腹を立て、今度は、サギを送り込んだ。
 サギは、来る日も来る日もカエルを捕らえて食べたので、池には、クレロ・クレロと鳴いて不平を言う者は、一匹もいなくなった。

Pe44 Cha66 H76 Ph1.2 BaP174 Cax2.1 イソポ1.12 伊曽保2.25 Hou13 Charles15 Laf3.4 Kur2.1 狐ラインケ1.24 TMI.J643.1 (Aesop)(Ph)


52.少年たちとカエルたち
 
 男の子たちは、池の近くで遊んでいたのだが、池に、カエルの群を見つけると、石を投げつけて、何匹か殺した。
 すると、一匹のカエルが水の中から顔を出して叫んだ。
「子供たちよ、止めるのだ。君たちが戯れでやっていることは、我々の命に関わることなのだ」

Charles42


53.病気のシカ

 病気のシカが、静かな、草原の片隅で横になっていた。そこへ、病気の見舞いと称して、仲間が大挙して押し掛け、蓄えておいた、食糧を食い荒らした。
 それからまもなくして、シカは死んだ。死因は、餓死だった。

悪い仲間は、利益よりも被害をもたらす。

Pe305 H131 Ba46 Charles105 Laf12.6 TMI.W151.2.1


54.塩商人とロバ

 ある行商人が、塩の買い付けをするために、ロバを後ろから追って海岸へと向かった。
 商いも無事終わり、商人は宿へ帰ろうと、とある小川にさしかかった。と、その時、ロバが、何かに躓いて、川へ落っこちた。ロバが起きあがった時、塩は水に溶け、荷は軽くなっていた。商人は引き返し、前よりもたくさんの塩を袋に詰め込んだ。
 それから、また、先ほどの小川までやって来た。すると、今度は、ロバはわざと倒れた。そして、荷物が軽くなるのを見計らって起きあがり、してやったりと、いなないた。
 商人は、ロバの計略を見て取ると、またもや、海岸へと引き返し、今度は、塩の代わりに海綿を買い付けた。
 ロバは、流れにさしかかると、今度もわざと倒れた。しかし、海綿は水を吸って膨らみ、今度は、倍の重さの荷を背負う羽目になった。

Pe180 Cha265 H322 Ba111 Laf2.10 TMI.J1612 (Ba)


55.牡ウシたちと肉屋

 むかしのこと、牡ウシたちは、肉屋がこの世からいなくなればよいと考えた。と言うのも、肉屋は、ウシたちを殺戮することを生業としているからだ。
 牡ウシたちは、日時を示し合わせて集結すると、戦を前に、角の手入れに余念がなかった。しかし、彼らの中に、大変年老いたウシがいた。彼は長年畑を耕してきたのだが、そんな彼がこんなことを言った。
「肉屋が、我々を殺すのは紛れもない事実だ。しかし、彼らは手慣れている。もし、彼らを抹殺してしまったら、我々は、未熟な者の手に落ち、倍の苦しみを味わいながら死ぬことになるだろう。……肉屋がいなくなっても、人間は牛肉を食べるのをやめぬだろうからな……」

悪を取り除こうとして、別な悪を招来しては何にもならない。物事は深く考えてから行え!

Pe290 H80 Ba21 TMI215.2 (Ba)


56.ライオンとネズミとキツネ

 夏のある日、ライオンは、暑さにやられて、穴蔵で、眠りほうけていた。すると、一匹のネズミがたてがみや、耳を駆けのぼり、彼の眠りを妨げた。ライオンは、起きあがると怒りで身を震わせ、そして、ネズミを見つけようと、穴の隅々を探しまわった。
 それを見ていたキツネが言った。
「あなたのような立派な方が、ネズミ一匹を恐れるとは……」
 するとライオンがこう答えた。
「私は、ネズミを恐れたのではない。奴の、不作法な振る舞に腹が立ったのだ!」

ちょっとした不作法が、相手には、大変な不快と感じられることがある。

Pe146 Cha213 H257 Ba82 TMI.J411.8 (Ba)

註:原典などでは、ライオンはネズミの振る舞いに腹を立てたのではなく、ライオンの上を駆け抜ける度胸のある者に驚いたという話になっており、教訓は、「賢明な人は大したことでなくても軽く見てはいけない・・・・・・」となっている。


57.虚飾で彩られたカラス
 
 ある、言い伝えによると、ジュピター神は、鳥たちの王様を決めようとしたことがあったそうだ。ジュピター神は、鳥たちの集まる日時を決め、その中で一番美しい者を王様にするというお触れを出した。
 カラスは自分が醜いことを知っていたので、美しく装うために、野や森を見てまわり、他の鳥たちが落とした羽を拾い集め、身体中に貼りつけた。
 約束の日、鳥たちはジュピター神の前に集まった。そして、色とりどりの羽で着飾ったカラスも姿を見せた。ジュピター神は、カラスの羽が美しいので、彼を、王様にしようとした。 
 すると、鳥たちは、憤然と異議を申し立て、それぞれ自分の羽をカラスから引き抜いた。

 結局、カラスに残されたのは、自分自身の羽だけだった。

Pe101 Cha162 H200b Ba72 Charles51 TMI.J951.2 (Aesop)


58.ヤギ飼と野生のヤギ

 夕暮れ時、ヤギ飼が、ヤギの群を放牧地から移動させていると、群の中に野生のヤギが混ざっていることに気が付いた。そこで、彼は、野生のヤギたちを、自分の群と一緒に、囲いの中に入れておくことにした。
 翌日、雪が激しく降り、ヤギ飼は、ヤギたちをいつもの牧草地へ連れて行く事ができずに、やむなく、群を囲いの中に留めておいた。そして、彼は、自分のヤギには、飢え死にしない程度にしか餌を与えなかったが、新参者たちには、たくさん餌を与えた。と、いうのも、こうすれば、彼らをうまく手なずけられるのではないかと考えたからだった。
 翌日、雪が溶けはじめると、ヤギ飼は、ヤギたちを牧草地へと連れて行った。ところが、野生のヤギたちは、一目散に山の奥へと逃げて行った。彼は、逃げて行くヤギたちに向かって、吹雪の時に、自分のヤギに倍して、あんなに世話をしてやったのに、逃げて行くとは、なんと恩知らずなんだと叫んだ。すると、一匹がくるりと振り向いてこんな事を言った。
「我々が、こんなに用心するのは、そこなんですよ。あなたは、長年慣れ親しんだヤギたちよりも、我々を大切にした。ということは、もし、我々の後に、また別の者がやってきたら、あなたは、同じように、新しい方を大切にするでしょうからね……」

新しい友人のために、古くからの友人を裏切る者は、その報いを必ず受ける。

Pe6 Cha17 H12 Ba45 Kur7.13 TMI.J345.1 (Aesop)


59.人を噛むイヌ

 そのイヌは、人を見ると、気付かれぬように、そおっと駆け寄り、背後から踵をガブリと噛んだ。
 こんなことをしょっちゅうしたもので、飼い主は、イヌの首に鈴をつけた。イヌは、この鈴を栄誉の印だと思い、誇らし気に、市場をリンリン鳴らして練り歩いた。
 すると、年老いたイヌが、彼に言った。
「お前は、なぜ、そんな恥さらしな真似をしているんだね。いいかね、お前のつけているその鈴は、何の価値もないんだよ。それどころか、噛む癖のある奴が来るのを知らせるための不名誉の印さ!」

悪名は、しばしば名声と勘違いされる。

Pe332 Cha186 H224 Ba104 Avi7 Cax7.6 Charles69 TMI.J953.1 (Ba)


60.尻尾をなくしたキツネ

 あるキツネが、罠に掛かり、なんとか逃げおおすことは出来たのだが、その時に尻尾を失った。それ以来、キツネは、嘲笑の恥辱にまみれて苦しんだ。
 そこで、彼は、尻尾のないことをなんとか繕うために、一計を巡らせた。キツネは、仲間を集めると、役に立たない尻尾などない方が見場は善いし、それに身軽になれると言って、皆も、尻尾を切るようにと勧めた。
 すると、一匹のキツネがこう言った。
「君も、尻尾を失うようなことがなかったら、我々を説得しようなどとは考えなかっただろうにね……」

Pe17 Cha41 H46 Hou65 Charles90 Laf5.5 TMI.J758.1 (Aesop)


61.少年とイラクサ

 ある男の子が、イラクサの棘を手に刺し、家へと飛んで帰り、母親にこんなことを言った。
「イラクサったら、そおっと触っただけなのに、僕を刺すんだよ」
 すると母親が言った。
「いいかい坊や、イラクサが刺したのは、そおっと触ったからなんだよ。……次は、思いっきりつかんでご覧。そうすれば、ちっとも刺すようなことはないし、それどころか、絹のように滑らかなはずだから……」

どんなことにも、死力を尽くせ。

Charles84


62.男と二人の恋人

 白髪がちらほら見え始めた、中年男が、同時に二人の女に言い寄った。一方は若く、もう一方は、渋皮の剥けた年増女だった。
 年増女は、自分より若い男に、言い寄られたのが恥ずかしく、男が訪れるたびに、黒い毛をごっそり抜いた。一方若い女は、年寄りの妻にはなりたくないと、白髪を見つけ次第、片っ端から抜いていった。
 こうして、二人に毛を抜かれた男は、あっという間にツルっ禿。

あっちを立てればこっちが立たず。

Pe31 Cha52 H56 Pha2.2 Ba22 Cax6.16 伊曽保3.18 Hou45 Laf1.17 TMI.J2112.1 (Aesop)


63.天文学者

 ある天文学者は、夜になるとしょっちゅう、星を観測しに郊外へと出かけて行った。ある晩、彼は、星に気を取られていて、誤って深い井戸に落ちてしまった。
 彼は、打ち身や切り傷をつくって、悲鳴を上げた。その声を聞きつけて、近所の人が井戸へと飛んできた。そして何が起きたのかを知ると、こんな事を言った。
「天国を覗くことばかりに、うつつを抜かしてないで、少しは足下に注意を払いなさいな」

Pe40 Cha65 H72 Laf2.13 TMI.J2133.8 (Aesop)


64.オオカミたちとヒツジたち

 ある時、オオカミたちが、ヒツジたちにこんなことを言った。
「君たちと我々の間に、恐怖と殺戮が蔓延しているのは何故か?……それは皆、イヌどものせいなのだ。なぜなら、我々が、君たちに近づこうものなら、イヌどもは、我々に襲いかかって来る。我々が君たちに何かしたとでも言うのか?」
 オオカミたちは、更に続けた。
「もし、君たちが、奴らを追い払ってくれるなら、我々と君たちの間には、和解と平和の協定が、すぐにでも、結ばれるだろう」
 ヒツジたちは、条理をわきまえぬ者たちばかりだったので、オオカミに簡単に欺かれ、イヌたちを追い払ってしまった。そして、守りのなくなったヒツジたちは、オオカミたちに、殺戮の限りを尽くされた。

Pe153 Cha217 H268 PhP Cax3.13<伝> イソポ<伝> 伊曽保1.10 Laf3.13 TMI.K2061.1.1 (Aesop)


65.老婆と医者

 目を患った老婆が、医者を呼ぶと、証人の前で、次のような契約を結んだ。もし、医者が目を治したなら、彼女はそれなりの金を支払う。しかし、治らなかったなら、金を支払う必要はない。
 このような契約の後、医者は、何度も老婆の許を訪れ、彼女の目に軟膏を塗ると、その隙に、いつも何かしら盗んだ。
 医者は、徐々に盗んで行き、全てを盗み尽くし、もう盗む物がなくなってしまうと、老婆の目を治し、彼女に約束の金を要求した。しかし、老婆は、目が見えるようになると、家にあった品々が全て消えていることに気が付いた。
 医者は、老婆に金を支払うようにと強く求めたが、老婆が支払いを拒んだので、彼女を裁判官の前へと引っぱり出した。
 裁判に立たされた老婆は、次のように反論した。
「この男の言う通り、目が見えるようになったら、それなりの金を払うと約束をしたのは確かです。その限りでは、この男の言うことに、間違いはありません。しかし、目が治らなければ、払わずともよいことになっていたのです。この男は、今、私の目を治したと宣言しましたが、そんなことはありません。私は断言します。私の目はまだ見えぬままなのです。と、言いますのも……目の見えていた頃には、私の家には、たくさんの品々があったのです。しかし、この男が、目を治したと宣言した今、それらの品が一つたりとて見えないのです」

Pe57 Cha87 H107 TMI.J1169.1 (Aesop)


66.二羽のオンドリとワシ

 二羽のオンドリが、ボスの座を巡って激しく戦っていた。そしてついに、一方が、もう一方をうち破った。負けたオンドリは、隅の方に隠れた。一方、勝利したオンドリは、高い塀に飛び乗ると、羽をばたつかせて、我が世の春とばかりに雄叫びを上げた。
 すると、空を滑空していたワシが、突然、オンドリに襲いかかり、鈎爪に引っかけてさらっていった。
 先ほど敗れたオンドリは、すかさず、隅の方から出てくると、それ以後、自他共に認める支配者として君臨した。

破滅の露払いに傲慢がやってくる。

Pe281 Cha20 H21 Ba5 Laf7.12 TMI.J972 (Ba)


67.軍馬と粉屋

 年老いて身体の弱った軍馬が、戦場へ送られる代わりに、粉挽き場へと送られた。彼は、運命の暗転を嘆きつつ、かつての勇姿を思い浮かべて、こんな風に言った。
「聞いておくれよ粉屋さん。こう見えても、昔は、戦場でたくさんの手柄を立てたものさ。……奇麗なかがりで飾られて、いつも馬丁がつきっきりで世話を焼いてくれたものなのだが……今ではこの有様……」
「ねえ、昔のことをくどくど言い募るのはおよしよ」
 粉屋はそう言うと更に続けた。
「人生には、浮き沈みがつきものさ」

Pe318,549 Cha138 H174 Ph6.21 Ba29 Laf6.7 TMI.J14 (Ph)(Ba)


68.キツネとサル

 ある日のこと、サルが、動物の集会で踊りをおどった。サルの踊りは、皆を大変喜ばせたので、動物たちはサルを王様に選んだ。
 キツネは彼の栄誉を妬み、肉の塊が仕掛けられている罠を見つけると、サルを案内し、……どうぞ王国の宝物として、お納め下さいと言った。サルは、注意も払わずに近づいて、罠にあっさりと捕まった。サルは、キツネの不実を咎め立てた。
 するとキツネがこう答えた。
「おお、おサルさんや。そんな知恵足らずで、王様気取りとは・・・・・・」

Pe81 Cha38 H44 Laf6.6 TMI.K730.1 (Aesop)


69.ウマと騎馬兵

 その兵士は戦場でウマを駆り、幾度もの修羅場をくぐり抜けてきた。彼はウマを、ともに助け合うよき相棒とみなし、戦争の間中、干し草やトウモロコシを与えて大切にした。しかし、戦争が終わると、彼は、ウマに重い木材を運ばせるなど、たくさんの苦役を課し、食料ときたら、もみ殻ばかりという、まったくひどい扱いをした。
 ところが、またしても、宣戦布告のラッパが高々と鳴り響き、彼は軍旗の許へと馳せ参じようと、馬に戦の装いを施し、自らも、ずっしりと重い、クサリカタビラで身を包み、馬に跨った。しかし、馬はその重さに耐えられずに、地面に押しつぶされてしまった。そして、主人に向かってこんなことを言った。
「ご主人様、今回は、歩いて戦争へお行きなさい。あなたは、私をロバに変えてしまった、そんな私を、一瞬にして、ウマに変えられるとでも思っているのですか?」

Pe320 Cha142 H178 Ba76 Charles83 TMI.J1914.1 (Ba)


70.腹とその他の部分

 ある日のこと、手と足と口と目が、腹に反旗を翻してこう言った。
「君はいつもなにもしないで怠けてばかり、……贅沢三昧、好き放題!……我々は、君の為に働くのは、もう、うんざりだ……!」
 身体の各部分たちは、このように、日頃の鬱憤をぶちまけると、それ以後、腹の助けをするのを拒んだ。しかし、すぐに、身体全体がやせ衰えていった。

 手と足と口と目は自分たちの愚かさを後悔したが、時すでに遅かった。

Pe130 Cha159 H197 PhP Cax3.16 イソポ1.21 伊曽保2.36 Hou29 Laf3.2 J.index1175 TMI.J461.1 A1391 (Aesop)


71.ブドウの木とヤギ

 若葉の季節、一匹のヤギがブドウの新芽を食べていた。すると、葡萄の木がヤギにこう言った。
「なぜ、あなたは、私を傷つけるのですか? 草原に若葉がもうないとでもいうのですか? たとえ、根だけになっても、私は必ず復讐しますよ。……あなたが生け贄として供される時、酌み交わされる葡萄酒を、私は提供するのです」

Pe374 Cha339 H404 BaP181 (Ba)


72.ジュピター神とサル

 ジュピター神は、森に棲む動物たちに、皆の中で、一番美しい者を王様にする。というお触れを出した。
 するとそこへ、他の者に混じって、心根は優しいが、鼻は低く、毛の禿げた、若ザルがやってきて、王の栄誉に浴したいと言い出した。
 これを聞いて、皆は、彼の母親を笑い者にした。しかし、彼女は毅然として答えた。
「神様が、息子に栄誉をお与えになるかどうかは、分かりません。しかし、母親であるこの私には、彼が、優美で端麗で、誰よりも美しいということが分かるのです」

Pe364 H364 Ba56 Avi14 Cax7.11 TMI.T681 (Ba)


73.後家と小間使い
 
 洗濯好きの後家さんには、二人の小間使いが、かしずいていた。女主人は、二人をいつも、夜明けとともに叩き起こして働かせた。そんな重労働に辟易した二人は、夜明けを告げるオンドリを殺してしまうことにした。
しかしそれは、更なる災厄を招いただけだった。オンドリがいなくなって、時間の分からなくなった女主人は、二人を夜中から起こして働かせた。

Pe55 Cha89 H110 イソポ2.1 Charles79 Laf5.6 Kur5.5 TMI.K1636 (Aesop)


74.ヒツジ飼の少年とオオカミ

 少年は、村の近くで、ヒツジの番をしていたのだが、退屈すると、「狼だ!」「狼だ!」と叫ぶことがよくあった。村人たちが駆けつけると、少年は、皆の慌てた様子を見て笑った。そんなことが、何度も続いた。ところが、ついに、本当にオオカミがやって来た。少年は、恐怖に駆られて叫んだ。
「お願だ。助けてくれ! オオカミがヒツジを殺してるんだ!」
 しかし、少年の声に耳を傾ける者は誰もいなかった。こうしてオオカミは、ヒツジを一匹残らず引き裂いた。

嘘つきが本当の事を言っても、信じる者は誰もいない。

Pe210 Cha318 H353b BaP169 Cax6.10 イソポ2.28 Hou43 Charles44 TMI.J2172.1 (Aesop)


75.ネコとニワトリたち

 ネコは、ニワトリたちが病気だという噂を聞きつけると、黒い鞄とステッキを持って、鶏小屋を訪問した。
 ネコは扉をノックすると、中のニワトリたちに、……私は医者です。さあ、病気を治してあげましょう。と言った。すると、ニワトリたちはこう答えた。
「いえ、結構、皆元気です。……あなたが、ここから立ち去ってくれさえすれば、これからも、私たちの健康が損なわれることはありません」

Pe7 Cha14 H16 Ba121 Charles31 TMI.K2061.7 (Aesop)


76.仔ヤギとオオカミ

 屋根の上に立っていた仔ヤギが、オオカミが通るのを見ると、口汚く罵った。するとオオカミは仔ヤギを見上げて言った。
「こ奴、何を言うか! 俺に悪口を吐いているのは、お前ではない。お前の立っている屋根が言わせておるのだ」
 
 よくあることだが、時と場所が、力のある者よりも、力のない者を強くする。

Pe98 Cha106 H135 Ba96 Hou16 Charles110 TMI.J974 (Aesop)


77.牡ウシとカエル

 牡ウシが、水を飲みに池へとやって来た時、カエルの子供たちを踏みつけて、その中の一匹を死なせてしまった。後からやって来た母親が、子供が一匹足りないことに気付き、皆にどうしたのかと尋ねた。
「お母さん。弟は死んでしまいました。四つ足のとっても大きな生き物がやって来て、先の二つに割れた蹄で、弟を踏みつぶしてしまったのです」
 すると、母親は、お腹をぷうっと膨らませ、息子たちに尋ねた。
「そいつは、このくらい大きかったかい?」
 すると一匹が言った。
「お母さんやめてください。いくら頑張っても無理です。あの化物と同じ大きさになる前に、きっと破裂してしまいます」

Pe376 H84 Ph1.24 Ba28 Cax2.20 伊曽保3.22 Hou22 Charles83 Laf1.3 Kur1.6 J.index591<323> TMI.J955.1 (Ba)


78.ヒツジ飼とオオカミ

 ある日のこと、ヒツジ飼はオオカミの仔を見つけて、連れ帰った。
 その後、しばらくたってから、ヒツジ飼は、オオカミの仔に、近くの牧場から仔ヒツジを盗んでくることを教えた。
 オオカミは、教わったことを完璧にこなすようになると、ヒツジ飼にこう言った。
「あなたは、私に盗むことをお教えになりました。ですから、これからは、自分の群を失わぬように、いつも目を光らせていなければなりませんよ」

悪に悪を教えるとはなんたることか!

Pe366 Cha315 H375 BaP175 TMI.J1908 (Ba)


79.父親と二人の娘

 男には二人の娘があった。一人は、庭師と結婚し、もう一人は、煉瓦職人と結婚した。
 ある日のこと、男は、庭師と結婚した娘の所へ行き、暮らし向きはどうかと尋ねた。
「すべて順調です。ただ、願い事が一つだけあります。草花にたくさん水をやれるように、大雨になってもらいたいのです」
 その後すぐ、男は、もう一方の煉瓦職人と結婚をした娘の所へ行き、暮らし向きはどうかと尋ねた。
「私は取り立てて何もいりません。ただ、願い事が一つだけあります。それは、太陽が照り、乾燥した暖かい日が続くことです。そうすれば、煉瓦が乾きますから……」
 父親は娘の話を聞くとこう言った。
「お前の姉さんは雨の日を願い、お前は晴れの日を願う。わしは、どちらを願えばよいのだ?」

あちらを立てればこちらが立たず。

Pe94 Cha299 H166 J.index979 TMI.J1041.1 (Aesop)


80.農夫と息子たち

 ある農夫が死に際して、自分が畑に心血を注いだように、息子たちにも畑仕事に精を出してもらいたいと願った。
 彼は息子たちを、枕元に呼び寄せるとこんなことを言った。
「息子たちよ、よくお聞き、実はブドウ畑に、宝が隠してあるのだ」
 父親が死ぬと、息子たちは、スコップとクワを手に、畑を隅々まで掘り返した。だが結局、宝は見つからなかった。

 しかしその秋、息子たちは、莫大なブドウの収穫という宝を手にしたのだった。

Pe42 Cha83 H98b Cax6.17 Laf5.9 J.index424<730> (Aesop)


81.カニとその母親

カニの母親が息子に言った。
「なぜ、横歩きばかりするの? 真っ直ぐ歩くようにしなさい」
 すると仔ガニはこう答えた。
「お母さんが、真っ直ぐ歩いてくれたら、僕も真っ直ぐに歩くよ」
母ガニは、真っ直ぐ歩こうとしたが、どうしても出来なかった。

実例は教訓より説得力がある。

Pe322 Cha151 H187 Ba109 Avi3 Cax7.3 伊曽保3.19 Hou48 Charles11 Laf12.10 J.index590 TMI.J1063.1,U121.1 (Ba)


82.牝の仔ウシと牡ウシ

 牝の仔ウシは、牡ウシが鋤に繋がれ、こき使われているのを見ると、ウシの仲間の面汚しだと責め立てた。
 それからすぐに、収穫祭があり、牡ウシは野に放たれた。しかし、牝の仔ウシは、縄で縛られ、祭壇へと連れて行かれた。
 牡ウシは、その様子を見て、笑いながら言った。
「お前さんは、生贄に捧げられることになっていたから、怠けていられたんだよ」

Pe300 Cha92 H113 Ba37 Avi36 TMI.L456 (Ba)


83.ツバメとヘビと裁判所
 
 ツバメの中でも、人と暮らすのを特に好んだツバメが、春渡って来ると、裁判所の壁に巣を作った。そして七羽の雛が誕生した。
 ところが、一匹のヘビが、壁の穴から、巣の中へスルスルと入り込み、まだ羽の生えそろっていない雛を次から次へと全部食べてしまった。
 巣が空っぽであることに気が付いたツバメは、嘆き悲しんでこう叫んだ。
「なんて理不尽な! ここは、皆の権利を守る場所なのに、私だけが被害を受けるとは……」

Pe227 Cha347 H418b Ba118 TMI.U27 (Ba)


84.盗人と彼の母親

 ある少年が、友達の教科書を盗んで、家に持ち帰った。母親は、少年を打ち据えるどころか、もっと盗って来るようにと促した。少年は次に外套を盗み、母親の許へと持って行った。すると彼女はまたしても、少年を褒めそやした。
 少年は成長すると、大泥棒になり、ついに捕まった。そして、両手を後ろ手に縛られ、処刑場へと引っ立てられて行った。
 母親は、悲嘆に暮れて、群衆の中をついて行った。そのとき、息子が母親にこう言った。
「お母さん、ちょっと耳打ちしたいことがあります」
 母親が、息子のそばまで行くと、彼は突然、母親の耳に噛みついて、耳を噛み切った。彼女は息子を、残忍この上ない子だと罵った。すると息子はこう言い返した。
「もし、私が、教科書を盗んだ時に、打ち据えていてくれたら、こんな事にはならなかったろうに・・・ああ、私はこうして死の淵へと引っ立てられて行くのだ!」

Pe200 Cha296 H351 Cax6.14 イソポ2.8 Hou44 TMI.Q586 (Aesop)


85.老人と死神

 その老人は、森で木を切り出し、切り出した木材を町へ運ぶ仕事をしていた。
 ある日のこと、老人はいつものように、重い荷物を背負って、長い道のりを歩いていたのだが、とうとう、精も根も尽きてしまい、道ばたにへたり込むと、背中の荷を放り出し、「ああ、もう死んでしまいたい。」 と深く溜息をついた。
 すると、突然、死神が現れ、私を呼んだのはお前か? と尋ねた。
 老人は、慌ててこう答えた。
「おお、ちょうどよいところへ来てくれました。この荷物を背負うのを、ちょっと手伝ってくれませんか?」

Pe60 Cha78 H90 イソポ2.44 Hou69 Laf1.16 Kur5.10 J.index898 TMI.C11 (Aesop)


86.樅の木とイバラ

 樅の木がイバラを見下して言った。
「私は、世の中に色々と役に立つが、お前には一体何の取り柄がある?」
 するとイバラがこう言った。
「確かに、私には何の取り柄もありません。でも、ほら、斧を持った樵がやって来ましたよ。まあ、私には関係ありませんけどね、……あれ? どうしました? 風もないのに急に震え出したりして、私は本当にイバラでよかった!」

不安を抱える金持ちよりも、貧乏でも憂いがない方がよい。

Pe304 Cha101 H125 Ba064 Avi19 Cax7.15 TMI.J242.2 (Ba)


87.ネズミとカエルとタカ

 陸に棲むネズミが、水に棲むカエルと友達になった。これが、そもそもの間違いだった。
 ある日、カエルは、自分の足にネズミの足をしっかりとくくりつけ、自分の棲む池へと向かった。そして、水辺へやってきた途端、池の中へ飛び込んで、善行を施しているとでも言うように、
ケロケロ鳴いて泳ぎ回った。哀れネズミは、あっという間に溺れ死んだ。
 ネズミの死体は水面に浮かんだ。一羽のタカがそれを見つけると、鈎爪でひっつかみ、空高く舞い上がった。
 ネズミの足には、カエルの足がしっかりと結ばれていたので、カエルも共にさらわれて、タカの餌食となった。

害を成す者は、また、害を被る者なり。

Pe384 Cha244 H298 PhP BaP191 Cax1.3 イソポ伝<2.41> 伊曽保2.9伝 Charles40 Laf4.11 J.index196 TMI.J681.1 (Life of Aesop)


88.イヌに噛まれた男

 ある男が、イヌに噛まれ、誰か治療してくれる人はないかと方々訪ね歩いた。そして、ある友人に出会った。その友人は、こんなことを言った。
「傷を癒したいならば、傷から流れる血にパンを浸して、君を噛んだイヌに与えてごらん」
 男は、この忠告に笑って答えた。
「どうしてそんなことをしなくちゃいけないんだい? そんなことをしたら、街中のイヌに噛んでくれと、お願いするようなものではないか!」

自分を害する者に、情けをかけてはならぬ。相手につけいる隙を与えてはならぬからだ。

Pe64 Cha177 H221 Ph2.3 TMI.J2108 (Aesop)


89.二つの壷

 二つの壷が、川に流されていた。一つは陶器の壷で、一つは真鍮の壷だった。
 陶器の壷が真鍮の壷に言った。
「どうか、私から離れていて下さい。あなたが、ほんの少しでも触れたら、私は粉々に砕けてしまいます」

分相応の相手が最上の友である。

Pe378 Cha354 H422 BaP193 Avi11 Cax7.9 Hou51 Charles115 Laf5.2 Kur7.12 TMI.J425.1 (Ba)


90.オオカミとヒツジ

 オオカミは、イヌに噛まれて、ひどい傷を負い、自分のねぐらで、身動きがとれずにいた。腹を空かせたオオカミは、そばを通りかかったヒツジを呼び止めて、川から水をくんできてくれるようにと頼んだ。
「もし、君が水をくんできてくれたら、肉はなんとか用立てられるから。」
 すると、ヒツジはこう応えた。
「ははーん、あなたは、水だけでなく、肉も、私からせしめるつもりなんでしょう。そんなこと、お見通しですよ。」

偽善者の言説は、簡単に見透かされる。

Pe160 Cha231 H284 TMI.K2061.5 (Aesop)


91.エチオピア人

 黒人の奴隷を買った男が、彼の黒い肌を見て、前の主人が怠慢で、彼を洗ってやらなかったので、汚れがこびりついているのだと思った。
 男は、彼を家に連れてくると、ひっきりなしにごしごし洗った。しかし、肌の色は落ちなかった。それどころか、彼はひどい風邪をひいてしまった。

生まれつきは変わらない。

Pe393 Cha11 H13 TMI.J511.1 (Aphthonius)


92.漁師と網

 腕のよい漁師が上手に網を投じて、魚を一網打尽にした。そして、熟練した網さばきで、大きな魚を残らず岸壁まで曳き上げた。
 しかしさしもの漁師も、小魚が、網の目をすり抜けるのは如何ともし難かった。

危機に際しては小物の方が安全である。

Pe282 Cha25 H26 Ba4 TMI.L331 (Ba)


93.猟師と漁師

 森から帰って来た猟師が、海から帰って来た漁師と出会った。猟師は魚が欲しくなり、漁師は獣が欲しくなった。二人は、その日の猟と漁の成果を交換することにした。
 両者ともこの取引が気に入り、毎日、獲物の交換をした。それを見かねた近所の人が彼らに言った。
「あんた方、毎日そんなことをしていたら、すぐに、飽きてしまうよ」

たまにだから楽しいのである。

Pe327 H220 Ba61 TMI.U136 (Ba)


94.老婆とワイン壷

 老婆は地下室を片づけていて、空のワイン壷を見つけた。そして匂いを嗅いでみた。
「ああ、なんて素晴らしい匂いなんだろう! この壷に入っていたワインは、よっぽど上等だったに違いない。だって、こんなに甘い香りを残して行ったのだからね!」

美しい思い出は、生き続ける。

Pe493 Ph3.1 Hou81 TMI.J34 (Ph)


95.キネツとカラス

 カラスが、肉をくわえて、木にとまっていた。キツネはそれを見ると、うまくせしめてやろうとこう言った。
「ああ、なんて素敵なカラスなんだ! 容姿端麗、肌はきめ細やかで、非の打ち所がない。もし、姿と同じように声も美しかったら、鳥の女王様に違いないんだけど……」
 カラスはキツネの言葉を真に受けて、自分の声の素晴らしさを披露しようと、「カア」と啼いた。
 カラスの口から肉は落ち、キツネが、さっと拾い上げた。
「おお、カラスさんや。声の美しさは申し分ありません。でも、おつむが少し足りないかもしれませんね」

Pe124 Cha165 H204 Ph1.13 Ba77 Cax1.15 イソポ1.8 伊曽保2.21 Hou8 Charles55 Laf1.2 Kur1.1 J.index537A,537B 狐ライネケ2.1 TMI.334.1 (Aesop)


96.二匹のイヌ

 ある人が、イヌを二匹飼っていた。一匹は猟犬として訓練し、一匹は家の番をするように仕込んだ。男は猟を終えて家に帰ってくると、いつも番犬の方に獲物をたくさん与えた。猟犬は、憤懣やるかたなく、番犬を咎めだてた。
「お前は、猟の手伝いもしないくせに、俺の獲物を貪り食う」
 すると、番犬はこう答えた。
「私を非難するのはお門違いですよ。文句を言うならご主人様に言って下さいな。だって、ご主人様は、私に働くことを教えずに、他人のあがりで暮らすように躾たのですからね」

親の躾が悪かった場合、子供に責任はない。

Pe92 Cha175 H217 Laf8.24 Kur7.22 TMI.J142.1 (Aesop)


97.ウシ小屋にいる牡ジカ

 猟犬に追い回された、牡ジカが、そこが危険なところであるということも知らずに、農場へと逃げ込んで、ウシ小屋に隠れた。すると牡ウシが言った。
「敵の家に身を隠すとは、君も不運だな!」
 すると、牡ジカが言った。
「そう責めないで下さい。ここにとどまっていれば、逃げるチャンスがきっとありますよ」
 夕闇が迫り、牧者がウシに餌をやりに来た。しかし、牡ジカは見つからなかった。さらに、農場の支配人が、数人の従者を従えてやって来た。しかし今回も、牡ジカは気付かれなかった。
 シカは、無事にすんだことを喜んで……困っている折りに、親切にかばってくれた、牡ウシたちに心からのお礼を述べた。
すると、一匹の牡ウシがこういった。
「我々は、君の無事を心から願っているよ。でも、まだ危険が去ったわけではない。この小屋を抜け出すには、大きな難関が、まだ一つ残っている。そいつは、百個の目を持っているような奴なんだよ」
 と、その時、農場主自らが入って来た。そして、まぐさ棚へ歩み寄ると、ウシたちの餌が不十分だと怒鳴り散らした。
「なぜ、かい葉がこんなに少ないんだ? クモの巣はとらない、かい葉は足りない、お前たちは一体何をしているんだ!」
 農場主は、こうして、詳細に調べていった。そして、干し草の中から牡ジカの角がのぞいているのを、あっさり見つけると、従者に捕まえて殺すように命じた。

Pe492 Ph2.8 Cax3.19 Hou30 Laf4.21 TMI.J582.1, 1032 (Ph)


98.タカとトンビとハト

 ハトたちは、しょっちゅうトンビに襲われるので、その害から逃れようと、タカに守ってくれるようにお願いした。タカは快く承知した。
 そこで、ハトたちは、タカを鳩舎に入れたのだが、この時はじめて、タカがトンビよりも、獰猛であることに気が付いた。大勢の仲間がタカに殺された。その日一日の被害は、トンビから受ける被害の一年分以上だった。

病気よりも恐ろしいのは、下手な治療である。

Pe486 Ph1.31 Cax2.2 イソポ1.13 Charles62 TMI.K815.8 (Ph)


99.後家とヒツジ

 大変貧しい後家さんが、ヒツジを一匹飼っていた。彼女は、ヒツジの毛は欲しいが毛を刈る費用が惜しかった。そこで、自分で刈ることにした。しかし、鋏がうまく扱えなかったので、毛と一緒に肉まで切ってしまった。
 ヒツジは痛さの余りのたうち回ってこう言った。
「ご主人様、あなたはなぜ、私を、傷つけるのですか? 毛が欲しいなら、毛刈り職人に頼んで下さい。もし、肉が欲しいのなら、肉屋に頼んで下さい。苦しまずに殺してくれますから……」

安物買いの銭失い

Pe212 Cha321 H382 Ba51 TMI.J229.2 (Ba)


100.野生のロバとライオン

 野生のロバとライオンが、一緒に狩りをした。ライオンは力でもって……、ロバは脚力でもって、それぞれ狩りに貢献した。そして、大きな成果を上げたので、それぞれの取り分を決めることにした。
 ライオンは獲物を三等分するとこう言った。
「私は、動物の王であるが故に、まず最初の部分をもらう。二番目は、狩りの報酬としてもらう。さて、三番目だが、……君が、これを辞退しないと、大いなる災いが降りかかることになる」

力は正義なり

Pe339 Cha207 H258 Ph1.5 Ba67 Cax1.6 イソポ1.4 伊曽保2.14 Hou4 Laf1.6 Kur4.16 TMI.J811.1.1 (Ba)

註:「獅子の分け前」の語源となった寓話


101.ワシと矢

 そびえ立つ岩の上から、ワシがウサギを狙っていた。しかし、岩影から射手がそのワシを狙っていた。放った矢は正鵠を射た。
 ワシは、胸を貫いた矢を一瞥して絶叫した。
「なんと言うことだ! この矢羽は、私の羽だ! ああ、私は自分の羽に殺される。……私にとってこれほどの苦しみが他にあろうか!」

Pe276 Cha6 H4 BaP185 Hou75 Charles80 Laf2.6 TMI.U161 (Ba)


102.病気のトンビ

 病気で死にそうになったトンビが、母親にこう言った。
「お母さん。悲しまなくても平気です。神様がきっと、救ってくれますから。」
 すると母親が言った。
「祭壇から生贄をくすねてばかりいるお前に、腹を立てていない神様などいるのかえ?」

 逆境の折りに、援助を得るには、順風の時に友をつくれ!

Pe324 Cha168 H208 PhP Ba78 Cax1.19 (Ph)

註:バブリオスでは、「病気のカラス」となっている。
パエドルス(ロムルス)系のシュタインヘーヴェル版やキャクストン版は「トンビ」となっている。


103.ライオンとイルカ

 ライオンが浜辺をうろついていると、イルカが波間から頭を出しているのを見つけた。そこでライオンは、互いに同盟を結ぼうとイルカに言った。……と、言うのも、一方は、地上の王であり、一方は、海の王として君臨しているからだ・・・・・・。 イルカは、ライオンの申し出を快く受け入れた。
 それからすぐに、ライオンは野牛と戦争することになり、イルカに加勢を求めた。
 イルカは、勇んで、ライオンに加勢しようとした。しかし、出来なかった。と、言うのも……どうにもこうにも地上へ行けなかったからだ。
 ライオンは、イルカを裏切り者と罵った。するとイルカはこう答えた。
「それじゃあ、あなた、泳いで来て私を陸へ連れていって下さいな」

Pe145 Cha202 H251 (Aesop)


104.ライオンとイノシシ

 ある夏の大変暑い日の事、イノシシが喉の渇きを癒そうと井戸へとやってくると、時を同じくして、ライオンもやって来た。
 彼らは敵意をむき出しにして、どちらが先に井戸水を飲むかと言い争い、そしてすぐに、生死を賭けた戦いが始まった。
 彼らは、いよいよ激しくぶつかり合おうと、息を止めて睨み合った。と、その時、二匹は、禿タカどもが少し離れたところから、こちらを伺っているのに気が付いた。すると、どちらからともなくこう言った。
「喧嘩はヤメだ! ヤメ! さあ、仲良く水を飲もう」

Pe338 Cha203 H253 BaP149 TMI.J218.1 (Ba)


105.片目のシカ

 片目のシカは、身を守ろうと、海に突き出た岸壁に居を構えた。そして、猟師や猟犬が近づいてくるのをいち早く察知しようと、見える方の目を陸地に向け、怪我をした方の目は、危険のない海の方へ向けていた。
 しかし、船がそこを通りかかりシカを見つけると、狙いを定めて銛を放った。シカは、息絶える時、喘ぎ悲しんでこんなことを言った。
「ああ、なんて不幸なんだ。安全な場所を求めて遙々森からやってきたのに、そこがもっと危険な場所だったとは……」

Pe75 Cha105 H126 イソポ2.34 Hou66 Charles54 TMI.K929.2 (Aesop)


106.ヒツジ飼と海

 海の近くで、ヒツジの世話をしていたヒツジ飼が、とても穏やかで平らかなる海を見て、船で交易をして一旗揚げようと思い立った。
 彼は、ヒツジの群を全部売り飛ばし、ナツメ椰子をいっぱいに詰め込んで、船出していった。ところが、海に乗り出した途端、嵐が巻き起こった。彼は、積み荷を全て海へ放り出し、船を空にして、かろうじて沈没を免れた。
 それから間もなくして、ある男が穏やかで静かな海を見ていた。するとヒツジ飼がこんな風に彼に言った。
「騙されてはいけないよ。そいつは、また、ナツメ椰子が欲しくなったのさ・・・・・・」

Pe207 Cha311 H370 イソポ2.4 Laf4.2 Kur6.15 TMI.J11 (Aesop)


107.ロバとオンドリとライオン

 ロバとオンドリが、庭で麦藁を食べていると、腹を空かせたライオンがやってきて、ロバに襲いかかろうとした。と、その時、オンドリが大声で鳴いた。するとライオンは、一目散に逃げ出した。(ライオンは、オンドリの鳴き声を恐れると言われている)
 逃げて行くライオンの姿を見て、ロバは、勇気百倍、後を追いかけた。ロバが、もう少しでライオンに追いつこうとした時、ライオンは、くるりと向きを変えると、ロバに襲いかかりバラバラに引き裂いた。

よくあることだが、故無き自信は危険をもたらす。

Pe82 Cha269 H323 イソポ2.16 TMI.J952.2 (Aesop)


108.ネズミとイタチ

 ネズミとイタチは、もう長いこと、互いに多くの血を流して戦争をしていた。しかし、ネズミたちは、一度たりとてイタチに勝つことができなかった。
 ネズミは、自分たちが負けるのは、指揮官がおらず、訓練も不足しているからだと考えた。そこで、彼らは、中隊・連隊・大隊と戦闘隊形を整えるために、血筋も力も計略もずば抜けて優れ、その上、戦いに於いて勇者の誉れ高いネズミたちを指揮官に選んだ。
 あらゆる訓練が終わると、先触れのネズミが、イタチに挑みかかり、正式に宣戦が布告された。新たに選ばれた将校たちは、目印になるようにと、頭に麦藁の飾りをつけて指揮をとっていた。しかし、まもなく、ネズミたちは総崩れになって敗走し、我先へと穴の中へと逃げ込んだ。だが、将校たちは、頭の飾りがつかえて中に入れず、皆イタチに捕まって、食べられてしまった。

栄光と危険は隣り合わせ。

Pe165 Cha237 H291 Ph4.6 Ba31 Laf4.6 TMI.L332 (Ba)


109.ネズミの会議

 ネズミたちは、ネコの害から身を守るにはどうすればよいかと、会議を開いた。口角泡を飛ばし、百出する案の中で、最も支持を得たのは、ネコの首に鈴をつけるというものだった。・・・・・・ネコが近づけば、鈴の音が警告を発し、皆、穴の中へ逃げ込むことができる。
 ところが、「誰がネコの首に鈴をつけるのか?」 という話になった途端、議場は静まり返り、誰も発言する者はいなくなった。

Pe613 伊曽保3.17 Hou67 Charles17 Laf2.2 TMI.J671.1 (?)(Odd of Cheriton)


110.オオカミとイヌ

 あるオオカミが、まるまると肥えたマスチフ種のイヌと出合った。そして、イヌの首輪を見ると、……誰が、そんなに太らせ、そして誰がそんなに重い首輪をするようにと命じたのか? と、尋ねた。
「ご主人様だよ」
 イヌが答えると、狼がこう言った。
「俺の知り合いには、そんな哀れな身の上の奴はいないよ。鎖の重さで、食欲などふっとんじまうだろうからな」

Pe346 Cha226 H278 Ph3.7 Ba100 Avi37 Cax3.15 Hou28 Charles57 Laf1.5 TMI.L451.3 (Ba)


111.川と海

 川たちは、皆で一緒になって、海に対して不平を言った。
「あなたの潮へと流れ込むまでは、我々は、甘くて飲み水に適しているのに、どうしてあなたは、我々を塩辛く変えてしまうのですか?」
 海は、川たちが、自分を卑しめようとしていることに気づき、こう答えた。
「私の所へ流れ込まないように祈りなさい。そうすれば、塩辛くならずにすむ」

Pe412 H380 TMI.W128.3 (Syntipas)


112.陽気なロバ

 あるロバが、建物の屋根に登って跳ね回り屋根を壊した。主人は、すぐに屋根に登って行くと、ロバを引きずり下ろし、太いこん棒で何回も打ち据えた。
 するとロバがこう言った。
「昨日、サルが同じことをしたときには、ご主人様は、始終笑ってとても楽しげだったのに……」

Pe359 H338 Ba125 TMI.J2413.2 (Ba)


113.三人の商人

 大きな都市が、軍隊に包囲されていた。そこで、敵から身を守るために、最善の方策を検討しようと市民たちが召集された。
 ある煉瓦職人は、抗戦する際に最も有用になるのは煉瓦である。と、熱心に主張した。大工も同じような熱の入れようで、鉄壁な防御には木材が欠かせない。と、言い張った。そこへ今度は、なめし皮職人がしゃしゃり出た。
「私の意見はあなた方と違います。抗戦する際には、皮の覆いほど有用なものはありません。それには、なめし皮が最良です」

手前味噌

Charles118


114.男と彼のイヌ

 ある男が、田舎の別荘に滞在している時に、嵐にあって足止めをくった。彼は、家族の食卓のために、まず最初に、ヒツジを殺し、次にヤギを殺した。嵐はそれでもおさまらず、つないであった牡ウシも殺すことになった。
 これを見ていたイヌたちは、みなで会議を開き、そしてこんな風に語り合った。
「ここから出て行く時が来たようだ。ご主人様ときたら、大切なウシさへ食べてしまうのだから、我々も無事ですむはずがない」

身内を粗末にする者は信用されない。

Pe52 Cha80 H95 イソポ2.38 TMI.J2211.3 (Aesop)


115.オオカミとヒツジ飼たち

 ヒツジ飼たちが詰め所で、ヒツジの肉を食べていた。するとそこにオオカミが通りかかった。
 オオカミは彼らを見てこう言った。
「俺がそんな真似をしたら、あんたらは、もう、大変な騒ぎをするだろうにね……」

Pe453 H282 Charles86 Laf10.5 Kur6.1 TMI.J1909.5 (プルタルコス「七賢人の饗宴」156a)


116.イルカとクジラと小魚

 イルカとクジラが、激しい戦争を繰り広げていた。戦いが佳境に入った時、一匹の小魚が波間から頭を出して、……吾が輩が調停役を引き受ける。と、言い出した。
 すると、一匹のイルカが言った。
「君に干渉されるくらいなら、戦って死んだ方がましだ……」

Pe62 Cha95 H116 Ba39 TMI.J411.6 (Aesop)


117.神像を運ぶロバ

 あるロバが、有名な神像をお寺に納めるために、町の通りを運んで行った。ロバは、自分が通る道々で、人々がひれ伏すので、鼻高々、有頂天、毛を逆立てると歩くのを拒んだ。
 すると馬方は、ロバの背中に嫌というほど鞭を入れてこう言った。
「この間抜め! ロバを拝みに来る者がいるとでも思っているのか!」

他人の名声を自分のものと考えるのは愚かなことだ。

Pe182 Cha266 H324 BaP163 Laf5.14 TMI.J953.4 (Aesop)


118.二人の旅人と斧

 二人の男が一緒に旅をしていた。一人が道ばたに落ちていた斧を拾ってこんなことを言った。
「この斧は、僕が見つけたんだよ」
 するともう一方がこう言った。
「違うだろ、"僕"ではなく、"僕たち"が見つけたんだろう」
 それから、そう行かぬ内に、斧の持ち主が二人を追いかけて来るのが見えた。
 すると、斧を見つけた方がこう言った。
「僕たちは、失った」
 するとすかさず、もう一方がこんな風に答えた。
「違うだろう! "僕たち"ではなく、"僕"が失った。だろう……最初に君が言ったことに基づくならね……」

危険を共有したのなら、褒美も共有すべきである。

Pe67 Cha256 H309 イソポ2.14 Charles109 (Aesop)


119.年老いたライオン

 老いさばらえて、病気になりすっかり力を失ったライオンが、今にも死にそうになって、地面にうずくまっていた。
 すると、一匹のイノシシがライオンに突進し、牙で突き、積年の恨みを晴らした。それからすぐに、牡ウシがやってきて、角でライオンを突いた。それを見ていたロバは、ライオンがなんの反撃もできないのを見て取ると、蹄でライオンの額を蹴飛ばした。
 ライオンは、死に際にこう言った。
「力のある者からの辱めは、なんとか堪えることができた。しかし、汝のような者から辱められるとは、不名誉の極み、これほどの苦しみはない」

Pe481 Ph1.21 Cax1.16 イソポ2.42 Hou9 Laf3.14 Kur8.1<7.9> (Ph)


120.年老いた猟犬

 若い時分には、森のどんな動物にも決して遅れをとらなかった猟犬が、年老いてから狩りに引っ張り出された。
 彼はイノシシと出くわすと、ガブリと耳に噛みついた。しかし、歯が弱っていたので、獲物を逃してしまった。彼の主人が後からやって来て、事の顛末を知ると、落胆して大層彼を叱った。
 するとイヌは、主人を見上げてこう言った。
「ご主人様、私は、これまでと同じように一生懸命やったのです。しかし、寄る年波に抗う術はありません。ですから、今の私を叱るよりも、かつての私を褒めるべきなのです」

Pe532 Ph5.10 Cax2.7 イソポ2.21 Charles50 TMI.W154.4 (Ph)


121.ミツバチとジュピター神

 ある女王バチが、ジュピター神に、ハチミツをプレゼントしようと、オリンポスへと昇って行った。
 ハチミツを痛く気に入ったジュピター神は、彼女の望むものなら何でも与えると約束した。そこで、彼女はこんな事をジュピター神に乞うた。
「偉大なるジュピター様。私はミツを盗みに来る人間を殺せるように、針が欲しいのです」
 ジュピター神は、人間を愛していたので、その願いを大変不快に思ったが、約束は約束なので、彼女の望みを断ることができなかった。そこで、ジュピター神は、彼女にこんな風に応えた。
「おまえの望みは叶えてやる。だが、もし、おまえが、その針を使うならば、おまえ自身の命も危ういものになるだろう。おまえの刺した針は、傷口から抜けることはない。そして、その針を失う時、おまえは死ぬ」

人を呪わば穴二つ

Pe163 Cha234 H287 BaP Cax6.12 Charles108 TMI.A2232.2 (Aesop)


122.乳搾りの女と、彼女の桶

 ある農家の娘が、楽し気なことを空想しながら、牛乳桶を頭に乗せて運んでいた。
「このミルクを売ったお金で、少なくとも300個の卵が買えるわ……そして、どんなに悪くても卵から200の雛が孵るわね……そして、50羽は、親鶏に成長するわ……ちょうどその頃は、鶏肉が一番高値で取引される時期だわ……すると、年の瀬までには、新しいドレスが買えるわね……そのドレスを着てクリスマスパーティーに出かけるのよ……若い殿方は、みな私にプロポーズしてくるわ……でもあたしは、つれなく頭をつんともたげて、皆の申し出を断るのよ……」
 と、彼女は夢中になって頭を揺らした瞬間、牛乳桶が地面に落ちてしまった。そして、彼女の壮大な計画は、一瞬にして費えてしまった。

捕らぬ狸の皮算用

Hou76 Charles106 Laf7.9 Panca5.9 KHM164 (?)


123.海辺を歩いている旅人

 海辺を歩いていた旅人たちが、高い断崖に登り海を見渡した。すると彼方に大きな船が見えた。旅人たちは、船が入港するのを一目見ようと待つことにした。しかし、船が風に流され、岸に近づくに従い、それは、単なる小舟であることが分かった。それどころか、小舟が浜に漂着した時には、木の束となっていた。

希望的観測は裏切られるものと、相場が決まっている。

Pe177 Cha258 H310 Laf4.10 TMI.K1886.4 (Aesop)


124.鍛冶屋と彼のイヌ

 ある鍛冶屋が小イヌを飼っていた。彼はその小イヌを大変可愛がり、いつもそばにおいていた。小イヌは、主人が仕事をしている間は寝ているが、主人が、食事を始めると目を覚まし、お相伴に預かろうと尻尾を振る。
 ある日の事、鍛冶屋は怒ったふりをして、小イヌにステッキを振り上げながらこう言った。
「こら、この怠け者のチビ助め! おまえときたら、儂が金床にハンマーを振り下ろしている間は、寝ておるくせに、……儂が、食事を始めると、目を覚まし、餌をくれよとせがみよる。……よいか、働かずしては、何も得られぬのじゃぞ。働かざる者食うべからずという諺を知らぬのか」

Pe415 Cha345 H413 BaP190 TMI.W111.5.4 (Ba)(Syntipas)


125.ロバの陰

 ある人が、遠くの町へ行くためにロバと馬方を雇った。その日は、太陽の日差しが強烈で、とても暑かった。旅人は、一休みしようとロバを止め、日差しから逃れるために、ロバの陰にもぐりこもうとした。しかしあいにく、陰は一人分のスペースしかなかった。
 すると馬方が言った。
「あんたに貸したのは、ロバだけで、ロバの陰は貸してない」
 すると旅人が答えた。
「そんなことはない。ロバと一緒に、ロバの陰も借りたのだ」
 口論はいつしか殴り合いの喧嘩へと発展した。と、その隙に、ロバはどこかへ駆けていってしまった。

陰のことで争っているうちに、実体を失うことはよくあることだ。

Pe460 H339 Charles113 TMI.J1169.7, K477.2 (プルタルコス「十大弁論家伝」848a)

註:Pe460,Pe63,Cha96 を参照のこと。


126.ロバと飼主

 薬売りに飼われていたロバは、ほんの少しの食料で、大変こき使われていたので、今の仕事から解放され別な主人に仕えたいと、ジュピター神にお願いした。ジュピター神は、ロバに、後で悔やむなよ。と警告して、ロバが煉瓦職人のところへ売られて行くように、取りはからってやった。
 するとすぐに、ロバは、そこでの仕事が以前よりも、重労働であることを思い知らされた。そこでロバは、もう一度、ジュピター神に主人を変えてくれるようにとお願いした。ジュピター神は、これが最後だと言って、ロバが革屋の所へ売られて行くようにしてやった。
 ロバは、主人の職業を知ってこんな風に嘆いた。
「前の主人に仕えて、ひもじい思いや、重労働をしていた方が、まだましだった。今度のご主人は、おいらが死んだ後にも、皮をはいで、こき使うつもりなんだから」

Pe179 Cha273 H329 Laf6.11 TMI.N255.2 (Aesop)


127.カシの木とアシたち

 とても大きなカシの木が、風になぎ倒され川に投じられると、アシの生えているところへと流されて行った。
 カシは、アシにこんなことを言った。
「お前たちは、そんなに細くて弱いくせに、どうして、あんなに強い風を受けても平気でいられるのだ?」
 すると、アシたちがこんな風に応えた。
「あなたは、風と戦おうとしたのですから、身を滅ぼすのも当然です。私たちは、ほんのそよ風にも頭を垂れます。だから、無事でいられるのです。」

負けるが勝ちよ

Pe70 Cha143 H179 Ba36 Avi16 Cax4.20 イソポ2.3 Hou37 Charles58 Laf1.22 Kur1.2 Panca1.122, 3.19, 3.20, (Ba)


128.漁師と小魚

 ある漁師が海で網を投じていたのだが、一日かかって捕まえたのは、小魚一匹だけだった。
 小魚は、身体をぴちぴち震わせながら、悲鳴を上げてこう言った。
「漁師さん。私はまだほんの小魚です。どうか海に帰して下さい。あなたの食材として見合うだけの大きさになったら、その時、改めて捕まえて下さい」
 すると、漁夫はこう答えた。
「あやふやな希望を当てにして、手の中にある確実な利益を放り出すとするならば、私は、とんでもない間抜けだろうよ……」

Pe18 Cha26 H28 Ba6 Avi20 Cax7.16 Hou53 Charles52 Laf5.3 TMI.J321.2 (Aesop)


129.猟師と樵

 ある猟師が、ライオンの跡を追い掛けていた。彼は、森で樵に出合うと、ライオンの足跡を見なかったか? と訊ねた。
 すると樵はこう答えた。
「よし、今から、ライオンのところへ連れていってやろう」
 すると猟師は、真っ青になって、歯をがたがた震わせてこう答えた。
「いや、いいんだ。私の探しているのは、ライオンの足跡で、ライオンではない……」

口先だけでは勇者にはなれない。

Pe326 Cha93 H114 Ba92 Laf6.2 TMI.W121.1 (Ba)


130.イノシシとキツネ

 あるイノシシが、木の幹で牙を磨いていた。そこへキツネが通りかかり、猟師や猟犬がいるわけでもないのに、なぜ、牙を磨いたりしているのか? と、訊ねた。
 すると、イノシシはこんな風に答えた。
「用心のためだよ。だって、いざ、この武器を使う段になってから、研ごうとしても手遅れだからね」

Pe224 Cha327 H407 Charles119 TMI.J674.1 (Aesop)


131.農場にいるライオン

 ライオンが、農場に入り込んだので、農夫は、そいつを捕まえようと門を閉ざした。ライオンは、逃げられないと分かると、ヒツジたちに跳びかかり、そして、牡ウシたちにも襲いかかった。
 農夫は、このままでは自分もやられてしまうと思い、扉を開いた。ライオンが出て行くと、農夫は、ヒツジや牡ウシの無惨な死体を見て、嘆き悲しんだ。
 すると、一部始終を見ていた妻がこう言った。
「こうなったのも当然よ。だって、うなり声を聞いただけで、震え出すあなたがよ・・・・よりによって自分の農場に、ライオンを閉じこめようなんて、よくそんなこと思いついたものね。呆れて物が言えないわ」

Pe144 Cha197 H250 TMI.J2172.2 (Aesop)


132.マーキュリー神と彫刻家

 ある時、マーキュリー神は、人間がどれくらい、自分を敬っているか確かめてみようと思った。そこで、人間の姿に身をやつし、沢山の彫像が陳列してある彫刻家の工房を訪れた。
 まず彼は、ジュピター神と女神ジュノーの神像の値段を尋ねてみた。そして次に、自分の神像を指してこんなことを言った。
「こっちの神像は、もっと高いんだろうね? なんたって、こっちは神々の伝令であり、そして富を司る神様なんだからね」
 すると、彫刻家はこう答えた。
「分かりました。もし、あなたが、ジュピターとジュノーの両方を、お買い上げ下さるのなら、これはおまけします」

Pe88 Cha108 H137 TMI.L417 (Aesop)


133.ハクチョウとガチョウ

 ある大変金持ちの男が、市場でガチョウとハクチョウを買い、一匹は、食卓に供するために、もう一匹は、歌声を聞くために餌を与えて飼っていた。そして、とうとうガチョウが殺される日が来た。
 夜、料理人がガチョウを捕まえに行った。しかし、暗かったので、ガチョウとハクチョウを見間違えて、取り違えてしまった。
 死の恐怖が迫った時・・・ハクチョウは突然歌い出し、自分が何者であるかを知らせた。こうしてハクチョウは、自分の歌声で命拾いをした。

Pe399 Cha173 H215 Laf3.12 TMI.N651 (Aphthonius)


134.腹の膨れたキツネ

 腹ぺこキツネは、ヒツジ飼が、カシの木のうろに忘れていった、パンと肉を見つけると、その穴に這い入って、たらふく食べた。しかし、すっかり食べてしまうと、腹がぱんぱんに膨れて、そこから抜け出せなくなっていた。
 キツネがこの不運を嘆き悲しんでいると、その声を聞きつけて、仲間のキツネがやってきた。そして、事の次第を知ってこう言った。
「まあ、そう嘆きなさんな。入った時と同じ姿になれば、簡単に出られるさ」

Pe24 Cha30 H31 Ba86 イソポ2.24 Laf3.17 TMI.K1022.1 (Aesop)


135.キツネと樵

 キツネが猟犬に追われて、樵のところへやってきた。キツネは樵に、身を隠す場所を乞うた。樵は、自分の小屋に隠れるようにと勧めた。そこでキツネは、小屋の隅に身を潜めた。
 すぐに、猟師が猟犬と共にやって来た。そして樵に、キツネを見かけなかったかと尋ねた。樵は、見なかったと答えたが、応えている間ずうっと、キツネの隠れている小屋を指さしていた。
 しかし、猟師は、その合図に気付かずに、樵の言葉だけを信じて、先を急いだ。
 猟師たちが遠くへ行ってしまうと、すぐにキツネは出てきた。そして、樵に一瞥もくれずにそこから去って行こうとした。樵は、キツネを呼び止めると咎め立ててこう言った。
「まったく、命を救ってもらったくせに、お礼の一つも言わずに出て行くとは、なんて恩知らずな奴なんだ!」
 するとキツネがこう応えた。
「あなたの振る舞いが、あなたの言葉と同じだったら、いくらでもお礼を言うのですがね・・・・」

Pe22 Cha34 H35 Ph6.28 Ba50 Cax4.3 イソポ1.22 伊曽保2.38 TMI.K2315 (Aesop)


136.鳥匠とシャコとニワトリ

 鳥匠がハーブ料理を食べようとしていると、不意に友人がやって来た。しかし、鳥匠は、鳥の一羽も捕まえておらず、鳥の罠は空だった。そこで、デコイとして飼い慣らしていた、まだらのシャコを絞めなければならなくなった。
 シャコはどうにか命ばかりは助けてもらおうと、こんな風に懇願した。
「次に網を張るときに、私がいなくとも平気なのですか? 結束の堅い鳥の群を呼び寄せているのは誰なのです? あなたが寝るときに、子守歌を歌っているのは誰なのですか?」
 これを聞くと、鳥匠は、シャコを絞めるのをやめにした。そこで今度は、鶏冠が生えたばかりの、若い元気なオンドリを絞めることにした。すると、止まり木のオンドリは、哀れな声でこんな風に言った。
「私を殺してしまったら、誰が夜明けを知らせるのですか? 日々の仕事のために起こしたり、朝、鳥の罠を見回る時間を知らせているのは誰なのですか?」
 すると鳥匠はこう応えた。
「おまえの言うことは正しい。 おまえは、時間を教えてくれるから大切な鳥だ。でも、友人と私は、夕食を食べなければならない」

背に腹はかえられない。

Pe361 H341 Ba124 TMI.U33 (Ba)


137.サルと漁師

 サルが、高い木の上に座って、漁師たちが川に網を投じるのをじいっと観察していた。しばらくすると、漁師たちは、食事のために、土手に漁網を残して帰って行った。
 ものまね屋のサルは、木のてっぺんから下りて行き、漁師たちの真似をしようと、漁網をとって、川の中へ投じた。しかし網が体に絡みつき、サルは溺れてしまった。
 サルは、死に際に独りごちた。
「こんな目に遭うのも当たり前だ。網など扱ったこともない者が、魚を捕らえようとするなんて、一体どういう了見だったのだろう」

Pe203 Cha304 H362 BaP157 Kur1.14 (Aesop)


138.ノミと格闘家

 ノミは、格闘家の足にとりつくと、その足をがぶりと咬んだ。格闘家は、たまらずに、ヘラクレスに大声で助けをもとめた。
 その後、ノミがまた、男の足にとりついた時のこと、格闘家は呻きながらこう言った。
「おお、ヘラクレス様! ノミを相手にさえ、あなたのご加護が得られないというのに、強い格闘家と闘う時に、あなたのご加護をどうして期待できるでしょうか?」

Pe231 Cha356 H424b Laf8.5 (Aesop)


139.二匹のカエル

 二匹のカエルが小さな池に棲んでいた。しかし、太陽の日差しで池は干上がってしまった。彼らは池を後にして、新天地を探しに出ていった。道を行くと、偶然に深い井戸に出くわした。見ると井戸は、満々と水を湛えている。
 そこで一方のカエルがこう言った。
「この井戸を我々の棲家にしよう。ここなら、餌はあるし、身も隠せそうだよ」
 すると、一方のカエルが、こんな風に忠告した。
「でも、こんなに深くちゃ、水がなくなったら、二度と出られなくなるんじゃないのかい?」

結果を考えずに事にあたってはならない。

Pe43 Cha68 H74 TMI.J752.1 (Aesop)


140.ネコとネズミたち

 あるところに、ネズミで溢れかえっている家があった。ある猫がそれに気づき、その家に入って行くと、ネズミを一匹、また一匹と捕まえては食べていった。ネズミたちは、食べられるのを恐れて、巣穴に閉じこもった。ネコはネズミが全く捕れなくなってしまったので、なにか策略でもって、ネズミたちをおびき出さなければならないと思った。そこで、彼女はくぎに跳びつき、そこにぶら下がって、死んだ振りをした。
 一匹のネズミがそおっと出てきて、彼女を見るとこう言った。
「ご機嫌麗しゅうマダム。たとえ、あなたが粉袋になったとしても、あなたのそばになど近寄るものですか」

Pe79<511> Cha13 H15 <Ph4.2> Ba17 Cax6.8<4.2> 伊曽保3.16 Laf3.18 TMI.K2061.9
(Aesop)

註:タウンゼントの204は、Pe511,Ph4.2 


141.ライオンとクマとキツネ

 ライオンとクマが、同時に同じ仔ヤギを射止めた。すると両者は、今度は獲物を独占しようと、熾烈な戦いを繰り広げた。戦いの末、両者共ひどい傷を負い、ふらふらになってぶっ倒れてしまった。
 この争いを遠巻きに見ていたキツネは、二匹がのびたのを確認すると、両者の真ん中に手つかずで横たわっている仔ヤギをひっ掴み、あらん限りの速さで跳ねて行った。
 ライオンとクマは起きあがることも出来ずに、こう呻いた。
「ああ、忌々しい。我々は、キツネに獲物をくれてやるために闘っていたのか……」

とんびに油揚げさらわれた。

Pe147 Cha200 H247 イソポ2.10 TMI.K348 (Aesop)


142.牝ジカとライオン

 牝ジカが、猟師たちに激しく追い立てられて、ライオンの棲んでいる洞穴へ逃げ込もうとした。ライオンは、シカがやって来るのを見ると身を隠し、彼女が洞穴に飛び込んだところを、襲いかかって、バラバラに引き裂いた。
 シカは絶叫した。
「ああ、なんてこと! 人間から逃れようと、逃げ込んだ穴が、野獣の口だなんて!」

一つの悪を避ける時には、別な悪の手に落ちぬように注意せよ!

Pe76 Cha104 H129 TMI.N255.1 (Aesop)


143.農夫とキツネ

 農夫は、キツネがニワトリを盗むので大変憎んでいた。ある日のこと、農夫はついにキツネを捕まえた。そして、徹底的に懲らしめてやろうと、縄を油に浸し、キツネの尻尾に縛りつけて火をつけた。突然の災難に、キツネは、そこらじゅうを駆け回った。そして、ある畑へと入って行った。実はそこは農夫の畑だった。……畑はその時期、小麦の収穫の季節であった。たわわに実った小麦は、景気よく燃え上がり、跡には何も残らなかった。
 彼は悲嘆にくれて家路についた。

腹を立てたにしても、無茶なことをしてはならぬ

Pe283 Cha58 H61 Ba11 TMI.K2351.1.1 (Ba)


144.カモメとトンビ

 大きな魚を呑み込んだカモメが、喉の奥深くを裂いて、浜辺で死んでいた。トンビがそれを見てこう言った。
「お前が、こんな目に遭ったのも当然だ。空飛ぶ鳥が、海で餌を獲ろうなんて、どだい無理なのさ」

Pe139 Cha193 H239 (Aesop)


145.賢者とアリたちとマーキュリー神

 船が沈没し、乗客乗員全てが溺れ死ぬのを、岸から見ていたある賢者は、たった一人の罪人が、たまたま乗っていただけなのに、大勢の罪のない人々にも死の審判を下した、神の不条理を罵った。
 賢人は、しばらくこうして、憤りに心を奪われていたのだが、一匹のアリが彼の足にはい上がり噛みついた。彼はアリの巣のすぐ近くに立っていたのだ。
 すると、賢者はすぐさま、アリというアリを踏みつけて全て殺してしまった。すると、マーキュリー神が現れて、杖で賢者を打ち据えながらこう言った。
「おまえに、神の審判を任せたら、この哀れなアリどもにした事と同じ仕打ちをするのではないのか?」

Pe306 Cha48 H118 Ba117 TMI.U21.3 (Ba)


146.ネズミと牡ウシ

 ネズミに噛まれた牡ウシが、腹を立て、ネズミを捕まえようとした。しかしネズミは、うまく自分の穴へ逃げ込んだ。牡ウシは、角で穴を掘り返そうとしたが、ネズミを引きずり出す前に疲れてしまい、穴の前にしゃがみ込んで寝てしまった。
 ネズミはそっと穴の外へと出てくると、牡ウシに忍び寄り、そしてもう一度噛みついて、穴の中へ逃げ込んだ。牡ウシは跳ね起きたが、どうしてよいやら分からずに、困惑しきってモーモー鳴いた。
 するとネズミがこう言った。
「大きければよいとは限らないのだ! 悪戯にかけちゃ、小さい方が、ずうっと有利なのだ!」

Pe353 H299 Ba112 Avi31 Cax7.23 TMI.L315.2 (Ba)


147.ライオンとウサギ

 ライオンは、偶然にも、ぐっすりと眠っているウサギを見つけた。ライオンがウサギを捕まえようとしたその時、一匹の若い立派な牡ジカが駆けていった。ライオンは、ウサギはそのままにしてシカの後を追った。
 ライオンは長いことシカを追いかけたが、結局捕まえることはできなかった。それでライオンは、ウサギの許へと引き返そうと思った。しかし、引き返してみるとウサギもすでに居なくなっていた。ライオンは独りごちた。
「こんな目に遭うのも当然だ。もっとよい獲物を捕ろうと、手の内にあった獲物を投げ出してしまったのだからな!」

Pe148 Cha204 H254 TMI.J321.3 (Aesop)


148.農夫とワシ

 農夫は、罠にかかったワシを見つけたのだが、ワシがとても立派だったので、逃がしてやることにした。すると、ワシは恩知らずではないことを、農夫に証明してみせた。
 ワシは、農夫が危険な壁の下に座っているのを見ると、急降下して、彼の頭からはちまきを奪い取った。農夫が追いかけると、ワシは、そのはちまきを落として返してやった。農夫がはちまきを拾い上げて、もとの場所に戻ると、彼が寄りかかっていた壁は、崩れ落ちていた。
 農夫はワシの恩返に、大変心を打たれた。

Pe296 Cha79 H92 BaP144 TMI.B455.3, B521.2.1 (Ba)


149.マーキュリーの神像と大工

 とても貧しい大工が、マーキュリーの神像を持っていた。男は毎日、神像にお供え物をして、自分を金持ちにしてくれるようにと祈った。しかし、彼の熱心な祈りにも関わらず、彼はどんどん貧しくなって行った。
 ある日のこと、大工はとうとう神像に腹を立て、神像を台座から引きずり下ろすと、壁に叩きつけた。神像の頭が割れ、さらさらと砂金が流れ出た。
 大工はそれを拾い集めながらこう言った。
「全く、あなたは、理不尽でひねくれ者です。私がお祈りしていた時には、御利益を授けて下さらなかったくせに、こうして、ひどいことをしたら、富をお与えになった」

悪は拝むよりも殴った方がよい。

Pe285 Cha61 H66 Ba119 Cax6.6 伊曽保3.15 Hou41 Laf4.8 TMI.J1853.1.1 (Ba)


150.牡ウシとヤギ

 ライオンに追われていた牡ウシが、洞穴へと逃げ込んだ。するとそこには牡ヤギがいて、角を烈しく突き立ててきた。
 牡ウシは静かに言った。
「好きなだけ、そうしていればいいさ。私は、お前などなんとも思わない。怖いのはライオンだけなのだ。あの化物が行ってしまったら、ヤギとウシではどちらが強いか思い知らせてやる」

友人の苦境につけ込むなど、もってのほかだ。

Pe217 Cha332 H306b Ba91 Avi13 Cax7.10 TMI.J371.1 (Ba)


151.踊るサル

 ある王様が、踊りを踊るように仕込まれたサルを数匹飼っていた。人のしぐさをとても上手に真似るサルたちは、利発な生徒よろしく、立派な洋服と、マスクに身を包み整列すると、廷臣の誰よりも上手に踊った。そのショーはしばしば、大変な賞賛のもとに、再演された。
 あるとき、一人の廷臣が悪戯しようと、ポケットからナッツを一掴み取り出すと、ステージに投げた。ナッツを見たサルたちは、自分たちの踊りを忘れ、芸人であることも忘れて、(本性むき出しの)サルへと戻ってしまった。彼らは、マスクを剥ぎ取り、ローブを引き裂くと、ナッツを巡ってお互いに争った。
 このようにダンスショーは、観衆の笑いと嘲笑に包まれて終わった。

Pe463 H360 TMI.J1908 (ルキアノス「漁師」36)


152.キツネとヒョウ

 キツネとヒョウが、どちらが美しいかということについて、言い争っていた。ヒョウは、自分の身を飾っている斑点が、一つ一つ色彩豊かであることを披露した。
 しかし、キツネはそれを遮ってこう言った。
「私の方がどんなに美しいことか、私を飾っているのは、身体ではなく、精神なのですから」

Pe12 Cha37 H42 BaP180 Avi40 Charles71 Laf9.3 TMI.J242.3 (Aesop)


153.二匹の仔ザルと母ザル

 サルは、二匹の子どもを育てると言われている。二匹とも、自分でお腹を痛めた仔なのだが、一匹は、最大限の愛情と、細心の注意を払い、胸に抱いて育てる。しかし一方は憎悪して構おうとはしない。
 ある日のこと、胸に抱かれ愛情を注がれていた仔ザルが、母親の過剰な愛情に押しつぶされて窒息して死んでしまった、一方、蔑ろにされていた仔ザルは、ほったらかしにされたにも関わらず元気に育った。

細心の注意を払っても、思わぬ落とし穴が待っているものだ。

Pe218 Cha307 H366 Ba35 Avi35 Cax7.25 伊曽保3.26 TMI.L146.1 (Ba)


154.カシの木とジュピター神

 カシの木がジュピター神に不満を申し立てた。
「私たちは生まれてきた甲斐がありません。それは、いつも、斧の脅威に晒され続けているからです」
 すると、ジュピター神がこう答えた。
「お前たちの災難は、自らが招いたものだ。もし、お前たちが、良質な柱や支柱を生み出さなかったら……そして、その有用さを、大工たちに知らしめなかったならば、斧が、お前たちの根本に据えられることもなかっただろう」

Pe302 Cha99 H122 <PhP> Ba142 <Cax3.14> <イソポ2.23> <Hou27> <Charles13><73> <Laf12.16>
(Ba)

註:タウンゼント166参照


155.ウサギと猟犬

 ある猟犬が、ウサギを巣穴から狩りだした。しかし長いこと追いかけたが、結局、追いかけるのを諦めた。それを見ていたヤギたちが、イヌをあざ笑って言った。
「あんたより、チビ助の方が速いとはね……」
 すると、イヌはこう言い返した。
「私は夕食の為に走っているだけだが、ウサギの方は、命をかけて走っているのだ」

Pe331 H238 Ba69 Charles85 TMI.U242 (Ba)


156.旅人と運命の女神

 長旅で疲れ果てていた旅人が、疲労のあまり、深い井戸のすぐ側に横になった。彼が水の中へ落ちようとした、まさにその時、運命の女神が現れ、こう言って彼を起こしたそうだ。
「さあ目覚めなさい。もしお前が井戸に落ちたら、私のせいにするに違いない。すると人々の間で私の評判が下がってしまい、そうなったら、たとえ、自分たちの愚かさから起こったことであろうとも、その災難を皆、私に転嫁するに決まっているのです。」

自分の運命は、自分で決定している。

Pe174 Cha261 H316 Ba49 Laf5.11 TMI.N111.4.1 (Aesop)


157.禿の騎士

 鬘をつけた禿の騎士が、猟に出かけた。と、突然一陣の風が吹き抜け、帽子と鬘を吹き飛ばした。それを見て、仲間がどっと笑った。
 彼は、馬を止めると、爆笑の渦に、こんな冗談で応えた。
「あれは私の髪の毛ではない、本当の持ち主の頭を見捨てた者たちが、私の頭から飛んで行ったとて、何の不思議もあるまい」

Pe375 Cha343 H410 BaP188 Avi10 (Ba)


158.ヒツジ飼とイヌ

 夕方、ヒツジ飼は、囲いの中にヒツジを入れて、オオカミの害から守ろうとしていた。と、その時、イヌが、ヒツジの群に紛れ込もうとしているオオカミに気付いてこう言った。
「ご主人様、オオカミを囲いの中に入れてしまったら、ヒツジたちは皆食われちまいますよ」

Pe365 Cha317 H371 Ba113 TMI.J2172.2.1 (Ba)


159.ランプ

 しこたまオイルをくらって、酔っぱらったランプは、めらめらと明るく燃えながら、自分は、太陽よりも明るいと自慢した。と、その時、一陣の風が巻き起こり、ランプは、パッと消えてしまった。
 するとランプの持ち主がこう言った。
「もう自慢などするんじゃないよ。今後は、黙って、光っておいで。星だって、消えたりしないのだからね」

Pe349 Cha232 H285 Ba114 Charles126 TMI.L475 (Ba)


160.ライオンとキツネとロバ

 ライオンとキツネとロバが、互いに協力し合って狩りをした。大いなる戦利品を手にすると、ライオンは、ロバに、協定に基づいて、森の報酬を3人に分配するようにと言った。
 ロバは獲物を正確に三等分すると、他の二匹が先に選ぶようにと謙虚に言った。ところが、ライオンが突然怒り出し、ロバに跳びかかり食ってしまった。そして今度は、キツネに、獲物を分配するようにと言った。キツネは、自分にほんの一口分だけ残し、その他は全てライオンに差し出した。
 するとライオンがこう言った。
「おお、素晴らしき我が友よ。一体誰が、そのような分配の仕方を教えてくれたのだ? 君の分け方は申し分がない!」
 すると狐はこう応えた。
「このような分け方を教えてくれたのは、ロバさんの運命ですよ」

他人の不幸から学ぶ者は幸いです。

Pe149 Cha209 H260 TMI.J811.1 狐ラインケ3.13 (Aesop)


161.牡ウシと雌のライオンとイノシシ狩りをする猟師

 牡ウシが、眠っているライオンの仔を見つけて、角で突いて殺した。戻ってきた母親は、子供の痛ましい亡骸を見て、嘆き悲しんだ。すると、イノシシ狩りに来ていた猟師がそれを見て、少し離れた所からこう言った。
「考えてみなさいな。どれほどの人々が、子供を失って悲しんだことか。皆、あなたに殺されたんだよ」

Pe414 H395 Laf10.12 TMI.U36 カリーラとディムナ(ライオンと山犬) 鬼子母神 (Syntipas)


162.カシの木と樵

 樵は、カシの木を切り倒すと、その枝で楔を作った。そして、幹に楔をあてがってカシの木を易々と解体した。
 するとカシの木は、ため息混じりにこう言った。
「斧が、根本へ打ち下ろされるのは、我慢できる。しかし、自身の枝から作られた楔で引き裂かれるのには泣けてくる」

身から出た不幸は、耐え難い。

Pe303 Cha100 H123 Ba38 TMI.U162 (Ba)


163.メンドリと金の卵

 ある農家の夫婦が、金の卵を産むニワトリを持っていた。二人は、ニワトリの腹の中には、大きな金塊があるに違いないと思い腹を裂いてみた。しかし、腹の中には金塊などなかった。
 こうして、いっぺんに、金持ちになろうと望んだ夫婦は、毎日保証された利益をふいにしてしまった。

Pe87 Cha287 H343 Ba123 Avi33 Cax7.24 伊曽保3.25 Hou57 Laf5.13 Kur6.4 TMI.D876 (Ba)


164.ロバとカエルたち

 木材を運んでいたロバが、水たまりを渡っていると、足を取られて転んだ。そして重荷のせいで起きあがることが出来ずに、烈しく嘶いた。
 すると、水たまりに集まっていたカエルたちが、ロバの悲鳴を聞いてこう言った。
「水に倒れたくらいでそんな大騒ぎして、もし、あんたが、我々のように毎日ここに住まなければならなかったら、どんな騒ぎをするんだろうね」

人が不幸に堪えられるのは、勇気があるからではない。大きな不幸を省みて小さな不幸に安堵しているだけなのだ。

Pe189 Cha271 H327 Charles30 TMI.J2211.1 (Aesop)


165.小カラスと渡りカラス

 ある小カラスが、渡りカラスを羨んだ。というのも、渡りカラスは、瑞鳥と目されており、人々は、渡りカラスを見て、吉凶を占うからだった。
 数人の旅人が近づいてくるのを見た小カラスは、木に飛んで行き、枝にとまると、あらん限りの声で、カァーと鳴いた。旅人たちは、何かの予兆かと耳をそばだてた。
 その時、仲間の一人がこう言った。
「さあ、旅を続けよう。あれは、小カラスの鳴き声だ。ほらあそこに居るだろう。君たちも知っているだろう、あれには、予兆などない」

自分に備わってもいない物を、あたかもあるように装うのは、滑稽なだけだ。

Pe125 Cha170 H212 TMI.J951.3 (Aesop)


166.木々と斧

 ある人が森に入って、木々に、斧の柄をくれないかと頼んだ。木々たちは、彼の願いを承知して、若いトリネコの木を与えた。男は新しい柄を斧に取り付けるが早いか、高い立派な木々に斧を打ち下ろしていった。
 もう後の祭りであったが、古いカシの木は、仲間の木々が切り倒されるのを嘆き悲しんで、隣のスギにこう言った。
「我々は、最初のボタンの掛け違いで、全てを失ってしまった。もし、トリネコを手放してなかったら、我々は未だ安泰であったろうし、末永く立っていられたろうに……」

<Pe302> <Cha99> <H122> PhP <Ba142> Cax3.14 イソポ2.23 Hou27 Charles13,73 Laf12.16 TMI.U162 (Ph)
註:タウンゼント154参照


167.カニとキツネ

 ある蟹が、浜辺を見捨て、近くの緑の草原を餌場に選んだ。そこへ腹ぺこのキツネがやって来て、カニを平らげた。カニは、食われようとするその時にこう言った。
「ああ、こうなったのも当然だ。一体私は、陸で何をするつもりだったのだ? 私の本性は、海だけにしか適していないものを……」

自分の持っているもので満足できるということは、幸福なことである。

Pe116 Cha150 H186 Charles26 TMI.J5512.1 (Aesop)


168.女将とメンドリ

 ある女将が、毎日卵を一つ産むメンドリを持っていた。彼女は、一度に二つの卵を手に入れるにはどうすればよいかと、あれこれ考えた。そして、メンドリに二倍の大麦を与えることにした。
 それ以来、メンドリは太り、羽毛もつやつやした。しかし、メンドリは一度に二つの卵を産むことはなかった。

Pe58 Cha90 H111 Charles99 J.index76,257 TMI.J1901.1 (Aesop)


169.ロバと年老いたヒツジ飼

 ヒツジ飼は、草原でロバの番をしていたのだが、突然の敵の叫び声に慄然とした。ヒツジ飼は、捕まるといけないので、一緒に逃げようとロバに言った。しかし、ロバはめんどくさそうにこう答えた。
「なぜ私が逃げなければならないのです? 敵が私を捕まえたら、倍の荷を担がせるのですか?」
「いや、そんなことはないとおもうが……」
「それじゃあ、誰に仕えようが構いませんよ。荷物を運ぶのには代わりがないのですからね」

貧しい者は、政府が転覆しても、仕える主人が変わるだけで、他は、何も変わらない。

Pe476 Ph1.15 Laf6.8 TMI.U151 (Ph)


170.トンビとハクチョウ

 昔、トンビたちは、ハクチョウと同じように、歌の才能に恵まれていた。しかし、ウマのいななきを聞いて、すっかりその声に魅了されてしまい、その声を真似ようとした。そして、ウマの真似ばかりしていたものだから、自分たちの歌を忘れてしまった。

何かを望むあまり、今持っている天恵をも失うことがある。

Pe396 Cha136 H170 Ba73 TMI.J512.2 (Aphthonius)


171.オオカミどもと牧羊犬たち

 オオカミたちが、牧羊犬たちにこんな風に話しかけた。
「君たちは、我々とそっくりなのに、どうして、気心を通わそうとしないのだ? 兄弟のように仲良く暮らすべきじゃないのかね? 君たちと我々の違いは一つだけだ。我々は自由に生き、君たちは、人間にへりくだって仕えている。その見返りはと言えば、鞭で打たれて、首輪をはめられるという始末。それに、人間たちは、君たちにヒツジの番をさせているくせに、自分たちはヒツジの肉を食べ、君たちには骨を投げてやるのが関の山。どうだね我々の話に嘘はないだろう?
 そこで相談なんだが、どうだろう我々にヒツジを与えてくれないかい? そして、一緒に、げっぷが出るまで、食い尽くそうじゃないか」
 イヌたちは、オオカミどもの話に涎を垂らすと、オオカミの棲む洞穴へと入って行った。そして、ばらばらに引き裂かれた。

Pe342 Cha216 H266 BaP159 TMI.K815.3 (Ba)


172.野ウサギとキツネたち

 野ウサギとワシが戦争をした。そして、野ウサギたちは、キツネに援軍を求めた。すると、キツネたちはこう応えた。
「君たちが何者で、誰と闘っているのか知らなければ、喜んで助けに行くけどね……」

態度を明らかにする前に、あらゆる事情を思量せよ。

Pe256 Cha190 H236 Charles123 TMI.J682.1 (Aesop)


173.射手とライオン

 弓の名人が、獲物を求めて山へと入って行った。森の動物たちは、彼が近づくと皆、逃げてしまうのだが、ただ、ライオンだけが、男に戦いを挑んだ。男は、すぐさま、一本の矢を打ち込むと、ライオンに言った。
「さあ、我が使者を送ったぞ、汝は、その使者から学んだことであろう。我自身が、汝を責めたらどうなるかをな……」
 傷ついたライオンは、恐怖に駆られて、急いで逃げた。と、その時、事の次第をつぶさに見ていたキツネが・・・・・・あなたはとびきりの勇者なのですから、一度の攻撃ぐらいで、逃げたりしないで下さい。と言った。
 するとライオンはこう答えた。
「お前の助言など聞く耳持たぬ。あ奴はあんなに恐ろしい使者を送ってよこしたのだ。あ奴自身の攻撃など、堪えようがあろうか?」

離れた所から攻撃する術を心得た敵には、用心せよ。

Pe340 Cha338 H403 Ba1 Avi17 Cax7.13 TMI.J32 (Ba)


174.ラクダ

 人が初めてラクダを見た時、その余りの大きさに肝を冷やし逃げて行った。その後、その動物が、気性は穏やかで、従順であることに気付くと、彼は、勇気を奮い起こしてその生き物に近づいた。その後すぐに、その動物が全くの馬鹿であることに気付くと、彼は、その動物にクツワをつけ、そして、ついには子供に引かせた。

恐怖を払拭するには慣れるのが一番

Pe195 Cha148 H180 Charles56 Laf4.10 TMI.U131.2 (Aesop)


175.スズメバチとヘビ

 スズメバチが、ヘビの頭にとまって、死ぬほど刺した。ヘビは、激痛に苦しんだが、ハチを追い払う術がなかった。そこへ材木を満載した荷車がやって来た。ヘビは自らその車輪に頭を突っ込んでこう言った。
「どうせ死ぬなら、敵を道連れに……」

Pe216 Cha331 H393 TMI.J2102.2 (Aesop)


176.イヌとウサギ

 猟犬が、ウサギを追いかけていた。そしてすぐに追いつくと、一度は死ぬ程噛みついた。しかし、次には、他のイヌと戯れるかのように、じゃれついた。
 するとウサギがこう言った。
「いいですか、もっと素直になって、本心を見つめて下さい。友達ならば、そんなに強く噛むのはおかしいし、敵ならば、じゃれついたりしないでしょう?……」

一体何を考えているか分からないような人は、友達ではありません。

Pe136 Cha182 H22b Ba87 Charles60 TMI.K2031 (Ba)


177.牡ウシと仔ウシ

 牡ウシが、牛房に続く狭い通路を通り抜けようと、全身の力を振り絞って、身体を割り込ませようとしていた。そこへ仔ウシがやって来て、・・・・先に行って、通り方を教えて上げる。と、しゃしゃり出た。
 すると牡ウシが答えた。
「それには及ばぬよ。そんなことは、お前さんの生まれる前から知っている」

Pe531 Ph5.9 Charles75 (Ph)


178.シカとオオカミとヒツジ

 シカがヒツジに、オオカミを保証人に立てるから小麦を貸してくれと頼んだ。
 するとヒツジはこう答えた。
「オオカミさんは、自分の欲しいものと見れば、襲いかかってとんずらするのがいつもの手だし、あなただって、足が速いので、私などあっという間に置いてけぼり。支払日になって、あなた方をどうやって見つければよいのですか?」

悪人二人が力を合わせて、善いことなどするはずがない。

Pe477 Ph1.16 Cax2.11 TMI.J1383 (Ph)


179.クジャクとツル

 クジャクはツルに出合うと、きらびやかな尾を広げてこう言った。
「私は王様のように、金色や高貴な紫、そして虹の色を全て彩った服を着ています。それにひきかえあなたの羽ときたら、薄汚れた灰色だらけ」
 するとツルがこう言い返した。
「確かにその通りかもしれません。でも、私は、天高く、それこそ天国まで飛翔することができるのです。そして、星の彼方まで、声をとどろかすことができるのです。それにひきかえあなたときたら、あの、下劣なニワトリのように、はいつくばっているだけではないですか」

馬子にも衣装というけれど、いくら着飾っても馬子は馬子。

Pe294 Cha333 H397 Ba65 Avi15 Cax7.12 伊曽保3.20 TMI.J242.5 (Ba)


180.キツネとハリネズミ

 川を泳いで渡っていたキツネが、急流にさらわれ、深い谷底へと押し流されてしまった。キツネは傷ついてそこに横たわり、長いこと身動きできないでいた。すると、血の臭いを嗅ぎつけた、アブの大群がわんさか押し寄せ、キツネにとりついた。
 そこへ、ハリネズミが通りかかった。ハリネズミは、キツネの悲惨な姿を見ると、そのアブどもを追い払ってやろうか? と言った。するとキツネはこう答えた。
「どうか、その者どもに害を加えないでくれ!」
「ええ? どういうことなんだ?」ハリネズミが訝しげに聞き返した。「君はこいつらを取り除いてもらいたくないと言うのか?」
「もちろんだとも」キツネはそう答えるとこう続けた。「だってね、このアブどもは、血をたらふく食らっているから、もうほとんど刺さない。けれども、君が、この満腹している奴らを追い払ったりしたら、腹を空かせた奴らがやって来て、残りの血まで全部吸われちまうよ」

Pe427 H36 Hou64 Laf12.13 TMI.J215.1 (アリストテレス「弁論術」1393b22)


181.ワシとネコとイノシシ

 そびえ立つ樫の木のてっぺんに、ワシが巣をつくった。ネコが、その木の中間に、ほどよい穴を見つけて引っ越して来た。そして、イノシシが木の根元の穴に、子供と共に住まわった。
 ネコは、このたまたま知り合った者たちを、出し抜いてやろうと悪賢いことを考えた。まず彼女は、ワシの巣へと登って行ってこんな風に言った。
「大変です。あなたと私の身に危険が迫っているのです。あなたもご存じのように、あのイノシシは、毎日地面を掘り返していますが、あれは、この樫の木を根っこから倒してしまおうと目論んでいるのです。そして、我々の家族が落っこちたら、捕まえて子供の餌食にしようとしているのです」
 ネコは、このように、ワシに恐怖を吹き込んで、彼女を恐慌状態に陥れると、今度は、イノシシの許へそおっと下りて行き、そしてこんなことを言った。
「お子さんたちに、大変な危機が迫っています。ワシの奴は、あなたが、子供たちと穴から出ようとするところを狙っているのです、あなたたちが餌を探しに穴から出たら、すぐさま一匹さらってしまおうと目論んでいるのです」
 ネコはこのように、イノシシにも恐怖を吹き込むと、自分の穴に籠もって身を隠すふりをした。夜になると彼女は、そおっと出掛けて行き、自分と子供たちのために餌を捕った。しかし、昼間は、一日中外を見張り続けて、恐怖に駆られているふりをした。
 一方、ワシはイノシシが木を倒すのではないかと恐れ、尚も枝に止まり、……イノシシはワシに怯え、決して巣穴から出て行こうとはしなかった。
 こうして、ワシとイノシシの家族は、飢えて死に、ネコとその子供たちの、豊かな栄養となった。

Pe488 Ph2.4 Laf3.6 TMI.K2131.1 (Ph)


182.泥棒と宿屋の主

 泥棒が、宿屋に部屋を借りて、何かめぼしいものを盗んでやろうと思ってしばらく逗留することにした。
 数日間、泥棒は空しく時を過ごしたが、宿屋の主が仕立ての良い新しいコートを着て、店の前に座っているのを見つけた。泥棒は主の脇に座って話しかけた。
 会話が一段落つくと、泥棒は、恐ろし気に大口を開けて、そして、狼のように吠えた。すると宿屋の主が尋ねた。
「どうして、そんなに恐ろしい声を張り上げるのかね?」
「わけはお話しますが、でも、その前に……私の服を持っていてもらえないでしょうか? さもないと私は服をズタズタに引き裂いてしまうのです」泥棒はそう言うと先を続けた。「いつから、こんな大口を開けるようになったのか分からないのです。また、この遠吠えの発作にしても、私が何か罪を犯して、罰として与えられたものなのかどうかも分からないのです。……ただ分かっていることは、私は三回大口を開けると、狼に変身して、必ず人間を襲うのです」
 泥棒はこう言うと、二度目の大口を開けて、狼のように吠えた。泥棒の話を信じ込んでしまった宿屋の主は、恐怖に駆られて、跳び上がるとそこから逃げて行こうとした。すると泥棒は、彼のコートを掴んで、ここに留まるようにと懇願した。
「お願いです、どうかここにいて、私の服を持っていて下さい。さもないと、私が狼に変身して、狂暴になった時に、服をズタズタに引き裂いてしまうのです」
 泥棒はそう言うと、三度目の大口を開いて、そして恐ろしい唸り声を上げた。恐怖に震えた宿屋の主は、男に襲われないようにと、自分の新しいコートを手渡すと、一目散に宿の中へ逃げ込んだ。
 泥棒は、そのコートをもってとんずらすると、二度と戻って来なかった。

世の中には、信じてよい話と信じてはならぬ話がある。

Pe419 H196 TMI.K335.0.4.1 (Laurentianus)


183.ラバ

 ラバは、仕事をさせられるわけでもなく、トウモロコシをわんさか与えられたので、浮かれて、大層得意になって、ギャロップしながら、一人こう言った。
「僕の父さんは、とても優秀な競走馬だったにちがいない。僕は、その速さを父さんから受け継いだのだ」
 次の日、ラバは長い距離を走らされて、くたくたになると、絶望的に叫んだ。
「僕の考えは間違だった。僕の父さんはロバだったのだ」

Pe315 Cha128 H157 Ba62 Laf6.7 TMI.L465 (Ba)

註:ラバは、雌のウマと雄のロバの交雑種。
原典などでは、ラバは父親を自慢するのではなく、母親が競走馬だったと自慢する。


184.シカとブドウの木

 シカが、猟師に執拗に追い立てられ、大きなブドウの葉陰に隠れた。猟師たちは、シカに気付くことなく足早にそこを通り過ぎて行った。
 シカは、危険が去ってほっとすると、ブドウの蔓を食べ始めた。すると、一人の猟師が、ブドウの葉がカサカサいうのに振り返り、シカを見つけると、見事弓で射抜いた。
 シカは、今際の際にこう呻いた。
「こんな目に遭うのも当然だ。助けてくれたブドウの木に、ひどい仕打ちをしてしまったのだから・・・・・」

Pe77 Cha103 H127 イソポ2.35 Laf5.15 TMI.J582.2 (Aesop)


185.ヘビとワシ

 ヘビとワシが壮絶な死闘を繰り広げていた。ヘビが優位に立ち、ワシを絞め殺そうとした時、それを見つけた農夫が、走って来て、ワシに巻き付いているヘビを解いてやった。
 ヘビは、獲物をふいにされたことを根に持ち、農夫が愛用している角製の杯に、自分の毒を、注ぎ込んだ。農夫は毒に気付かず、その杯から飲もうとした。と、その時、ワシの翼が農夫の手を打ちすえた。と、見る間にワシは、鈎爪で角杯をひっ掴むと空高く持ち去っていった。

Pe395 H120 TMI.B521.1,cf. N332.3


186.カラスと水差し

 喉がカラカラに渇いたカラスが、水差しを見つけて、喜び勇んで飛んで行った。しかし、水差しには、水がほんの少ししか入っておらず、どうしても水面まで嘴が届かない。カラスは悲嘆に暮れたが、それでも、あらゆる手段を講じて水を飲もうとした。しかし、その努力もみな徒労に終わった。 
 だが、カラスはまだ諦めなかった。カラスは集められるだけの石を集めると、一つ一つ嘴で水差しの中へ落としていったのだ。水はどんどん嵩を増し、ついにカラスの嘴まで届いた。
 こうしてカラスは命を長らえることが出来たのだった。

必要は発明の母。

Pe390 BaP200 Avi27 Cax7.20 Hou55 Charles27 TMI.J101 (Ps.-Dositheus)


187.二匹のカエル

 小さな水たまりに二匹のカエルが住んでいた。一匹は、広く世間を知っていたので、遠くにある、深い池に引っ越していった。もう一匹は、溝にかろうじて残った水たまりから離れようとはしなかった。しかもそこには、馬車の行き交う太い路が横切っていた。
 池のカエルは、友達の身を案じて、自分の住んでいる所は、こんな水たまりよりも、ずうっと安全で、しかも餌も豊富だから、一緒に来て住むようにと、熱心に誘った。
 しかし、水たまりのカエルは、住み慣れたこの場所を引き払うのは忍びないと言い張って、首を縦には振らなかった。
 数日後、大きな馬車が水たまりを通り抜け、カエルは、車輪でぺしゃんこにされてしまった。

頑固者は、その頑固さ故にひどい目にあうものだ。

Pe69 Cha67 H75 Charles7 TMI.J652.1 (Aesop)


188.オオカミとキツネ

 ある日のこと、あるオオカミの群に、大層大きくて力のつよいオオカミが生まれた。彼は、強さ・大きさ・速さと、どれをとっても、並外れていたので、みなは、彼を「ライオン」と呼ぶことにした。
 しかし、このオオカミは、体は大きかったが、その分思慮に欠けていたので、皆が「ライオン」と呼ぶのを真に受けて、仲間から離れて行くと、専らライオンと付き合うようになった。
 これを見て、年老いて狡知に長けたキツネが言った。
「おいおい、狼さんや、一体、どうすりゃお前さんのような馬鹿気たことができるのかね。まったく、その、見栄と虚栄心ときたひにゃ……。いいかね、お前さんは、オオカミたちの間では、ライオンのように見えるかもしれないが、しかし、ライオンたちの間じゃ、ただの狼にしか見えないんだよ……」

Pe344 H272 Ba101 TMI.J952.1 (Ba)


189.クルミの木

 道端に立っていたクルミの木は、たわわに実った自分の実が恨めしかった。と、言うのも、道行く人々が、クルミを採ろうと、石を投げつけたり、棒きれで枝を折ったりするからだった。 クルミの木は、哀しげに嘆いた。
「ああ、なんてみじめなんだろう。私は、この実でもって、皆に喜びを与えているというのに、その礼が、この苦痛とは……」

Pe250 Cha152 H188 Bap151 TMI.154.6 (Aesop)


190.ブヨとライオン

 ブヨがライオンの許へとやって来てこう言った。
「俺はお前など、ちっとも怖くない。一体お前の何処が強いのか? まあ、お前の爪や歯は、女が口答えした時に役立つかもしれないが・・・・。繰り返し言うが、俺はお前よりも、ずうっと強いんだ。疑うならば、俺と勝負しろ」
 ブヨはこう言うと、進軍ラッパを吹き鳴らし、ライオンに挑みかかった。そして、鼻の穴など毛の生えていない所を刺しに刺した。
 ライオンは、ブヨを叩き潰そうと、鋭い爪を振り回したが、しかしその度に、ブヨはさっとよけ、逆に自分自身を引き裂いてしまう。
 ブヨはこのようにしてライオンを打ち負かした。そして、勝利のラッパを響かせて、飛んでいった。と、突然、ブヨはクモの巣に絡まった。
 ブヨは嘆き悲しんでこう言った。
「ああ、なんて哀れなんだろう! 百獣の王に勝ったこの俺が、こんなちっぽけなクモに命を奪われるとは……」

Pe255 Cha188 H234 イソポ2.19 Laf2.9 Kur3.9 TMI.L478 (Aesop)


191.サルとイルカ

 ある船員が、長い航海の慰めにと、サルをつれて船に乗り込んだ。ところが、船がアテネの岸から離れると、烈しい暴風雨がまきおこり、船は転覆し、全員海に投げ出されてしまった。
 サルが波と格闘していると、イルカがやってきて、彼を人間だと思い(イルカは人を必ず助けると言われている)無事に岸まで運んでやろうと、サルを背中に乗せてやった。そして、アテネまでほんの僅か、陸地が見えるところまで来ると、イルカはサルに、アテネ人か? と尋ねた。
 すると、サルは、正しく自分はアテネ人であり、しかも、アテネでも屈指の名家の出であると言った。するとイルカは、ピレウスを知っているかと尋ねた。(これはアテネの有名な港の名前なのだが……)サルは人の名前だと思い、彼のことはよく知っているし、大変懇意にしているとまで言った。
 この嘘に腹を立てたイルカは、海に潜るとサルを溺死させた。

Pe73 Cha3.5 H363 Laf4.7 TMI.M205.1.1 (Aesop)


192.カラスとハト

 カラスは、ハトたちが小屋の中で、たくさん餌をもらっているのを見ると、その餌にありつこうと、身体を白く塗って仲間に加わった。
 ハトたちは、カラスが黙っていたので、仲間だと思い、彼を小屋に入れてやったのだが、しかしある日のこと、カラスは迂闊にも、鳴き声を上げてしまった。ハトたちは、カラスの正体を見破ると、嘴でつついてカラスを追い立てた。
 カラスは、そこで餌にありつけなくなると、自分の仲間の許へと帰っていった。しかし、カラスたちもまた、彼の色が違うので仲間とは認めず、彼を追い払った。

このようにカラスは、二つの生活を望んだために、どちらも失うことになった。

Pe129<472> Cha163 H201b イソポ2.18 <Ph1.3> <Cax2.15> <イソポ1.15> <伊曽保2.27> <Hou21>
<Laf4.9> <J.index592> <TMI.J951.2> (Aesop)


193.ウマとシカ

 昔、ウマは草原で自由に暮らしていた。そこへシカがやってきて、ウマの草をぶんどった。ウマは、このよそ者に仕返ししてやろうと、人間に協力を求めた。すると人間は、ウマがくつわをつけて、自分を乗せてくれるなら、シカをやっつける武器を考案してやると言った。
 ウマは承知して、人間を乗せ、見事シカへの復讐を果たした。しかしその代償として、ウマは人間の奴隷となってしまった。

Pe269a<269> Cha328 H175 Ph4.4 BaP166 Cax4.9 Hou32 Laf4.13 狐ラインケ3.8 TMI.K192
(アリストテレス「弁論述」1393b13)


194.仔ヤギとオオカミ

 牧草地からの帰り道、群からはぐれた仔ヤギが、オオカミに狙われてしまった。
 仔ヤギは逃げられないと観念すると、オオカミに向かってこう言った。
「あなたに、食われる覚悟はできました。でも、死ぬ前に一つだけお願いがあります。私が踊れるように笛を吹いてくれませんか?」
 オオカミは仔ヤギの願いを叶えてやることにした。
 こうして、オオカミが笛を吹き、仔ヤギが踊っていると、イヌどもがその騒ぎを聞きつけて走って来た。
 オオカミは逃げる時に、仔ヤギをチラリと振り返ってこう言った。
「こうなるのも当然だ。屠殺しかできないこの俺が、お前を喜ばせようと、笛吹きなどに転向せねばよいものを……」

Pe97<680> Cha107 H134 イソポ2.15 Charles18 TMI.K551.3.2 (Aesop)


195.予言者

 ある予言者が、市場に座って道行く人の運勢を見ていた。そこへ、男が慌てて駆けてきて、家に泥棒が入り、家財道具一切合切盗まれた。と、予言者に知らせた。予言者は、重いため息を一つつくと急いで駆けていった。
 彼の駆けて行く後ろ姿を見て、ある人がこんなことを言った。
「お前さんは、人の運命を予言出来ると言っとったのに、自分のことは予言できんとはどういうことなんだね?」

Pe161 Cha233 H286 TMI.K1956.4 (Aesop)


196.キツネとサル

 キツネとサルが一緒に旅をしていた。二人が道を歩いていると、立派な碑の立ち並ぶ墓地へとやってきた。
 するとサルがこう言った。
「この碑は、皆、僕のご先祖様を讃えて建立されたものなんだよ。僕のご先祖様方は、皆、偉大なる名声を博した市民だったのさ」
 するとキツネはこう言い返した。
「僕が君の先祖を知らないと思って、随分とうまい嘘をつくものだね」

嘘は、大抵はばれるものだ。

Pe14 Cha39 H43 Ba81 TMI.J954.2 (Ba)


197.泥棒と番犬

 夜、泥棒が、ある家に忍び込んだ。泥棒は、番犬に吠え立てられたりしないようにと、肉を持参して投げ与えた。
 すると、イヌはこう言った。
「こんなことで、私の口を封じられると思うのなら、それは大間違いですよ。この親切には何か裏があるのでしょう? あなたが得ようとする利益は、私の主人の不利益に繋がるのではないのですか?」

Pe403 H164 Ph1.23 Cax2.3 イソポ2.20 TMI.K2062 (Ph)


198.人とウマとウシとイヌ

 ウマとウシとイヌが寒さに凍えてしまい、人に助けを求めた。すると人は親切に、彼らを中に入れてやると、火をおこして暖めてやった。そして、ウマにはオート麦を好きなだけ食べさせ、ウシには藁をどっさりと与え、イヌには自分のテーブルから肉を与えてやった。これらの親切に感謝をあらわそうと、動物たちは、自分たちの最高のもので、お返しをすることにした。
 こうして、彼らは、人間の寿命を3つに分けると、各自がそれぞれのパートを自分たちの気質でもって引き受けることにした。
 ウマは、最初の部分を選んだ。それ故に、人は皆、若い頃は激しく、頑固で、そして、執拗に自分の意見を主調する。
 ウシは、二番目の部分を選んだ。それ故、人は中年になると、仕事を好み労働に身を捧げ、富を蓄え、倹約しようと心がけるようになる。
 最後の部分はイヌが受け持った。それ故、年寄りは怒りっぽく、短気で気むずかしく、我が儘で、そして自分の家族には寛容だが、よそ者や、自分の好みでないものや、自分に必要でないものは、全て嫌悪する。

Pe105 Cha139 H173b Ba74 J.index10 TMI.A1321 KHM176 (Ba)


199.サルたちと二人の旅人

 片やいつも真実を語り、片や嘘しか言わないという二人が、一緒に旅をしていて、サルの国へと迷い込んでしまった。
 王様の位にまで登りつめていたサルは、自分が、人間たちにどのように映るのか知りたいと思って、二人を捕まえて連れてくるようにと命じた。と、同時に、他のサルたち全員には、人間の宮廷のように、左右に長い列を作り、玉座を用意するようにと命令した。
 準備が整うと、彼は、二人を自分の前に連れてくるように命じ、次のような挨拶で、彼らを迎えた。
「異国の者たちよ、そちたちには、朕がいかなる王に見えるかな?」
 嘘つきの男はこう答えた。
「私には大変偉大な王に見えます」
「それでは、朕の周りにいる者たちは、そなたには何とみえる?」
「彼らですか……」男はこう答えた。「彼らは、大使や将軍たちに違いありますまい。王様に相応しいお仲間とお見受け致します」
 サルの王様と、廷臣たちは、すっかりその嘘に気をよくして、この、太鼓持ちに、素晴らしい褒美を使わすようにと命じた。
 これを見て、正直者は、こんな風に考えた。「嘘でこんなに凄い褒美が貰えるのだから、いつものように、本当の事を言えば、どんな褒美が貰えるかしれない」
 すると、サルの王様が言った。
「そなたにはどのようにみえるかな?」
 すると正直な男はこう答えた。
「あなたは、とても優秀なサルです。そしてあなたの範に従うお友達もとても優秀なサルです」
 サルの王様は、本当の事を言われて、怒りに震えると、男を仲間の歯と爪に委ねた。

Pe569 Ph4.13 Cax4.8 伊曽保2.39 狐ライネケ4.4 TMI.J815.1 (Ph)


200.オオカミとヒツジ飼

 あるオオカミが、ヒツジの群の後について歩いていた。しかしこのオオカミは、ヒツジを一匹たりとて傷つけようとはしなかった。初めのうちヒツジ飼は、警戒して、オオカミの行動を厳しく監視した。しかしいつまでたっても、オオカミは、ヒツジを噛んだり傷つけたりする素振りすら見せなかった。いつしかヒツジ飼は、オオカミを悪賢い敵ではなく、群の見張り役と見なすようになっていた。
 ある日のこと、ヒツジ飼は町に用事が出来たので、ヒツジたちを皆、オオカミに任せて出掛けて行った。
 ところが、オオカミはこの機会を待ちわびていたのだ。オオカミは、ヒツジに襲いかかると、群の大部分を食い尽くした。
 ヒツジ飼が町から帰ってきて、この惨状を目にするとこう言って嘆いた。
「こんな目に会うのも当然だ。オオカミなど信じた自分が馬鹿だった」

Pe234 Cha229 H283 Charles89 TMI.K206.1.1 (Aesop)


201.ウサギたちとライオン

 ウサギたちが集会で熱弁をふるって、誰もが平等であるべきだと論述した。するとライオンたちがこう答えた。
「おい、ウサギどもよ、なかなか善いことを言うじゃないか。だが、その議論には、鈎爪や歯が足りない。我々はそれを身につけている」

Pe450 H241 TMI.J975 (アリストテレス「政治学」1284a15)


202.ヒバリとその雛

 春先のこと、ヒバリが新緑の小麦畑に巣を作った。それから、雛たちはぐんぐん成長し、空を飛べるまでになっていた。そんな時、畑の主が、たわわに実った作物を見てこう言った。
「近所の皆に頼んで、刈り入れを手伝ってもらわねばなるまいな」
 一羽の雛が男の話を聞いて、「どこか安全な場所に避難しなければなりません」と、母親に言った。すると母親はこう答えた。
「まだ、避難しなくても平気なのよ。友達に手伝ってもらおうなんていうのは、刈り入れを真剣には考えていない証拠なんだからね……」
 数日後、畑の主がまたやって来て、実が入りすぎて落ちた小麦を見てこう言った。
「明日は、使用人と一緒に来なければなるまい。そして雇えるだけ人を集めて、刈り取りをせぬことには……」
 母ヒバリはこの言葉を聞いて、雛たちに言った。
「さあ、坊やたち、出掛ける時が来ました。今度こそ彼は本気です。友達を頼りにせず、自分自身で刈り取ろうとしているのですから……」

自助努力こそが、我が身を助ける

Pe325 H210 Ba88 Avi21 Charles4 Laf4.22 TMI.J1031 (Ba)


203.キツネとライオン

 まだ、ライオンを見たことのなかったキツネが、森で初めてライオンに出会った時、死ぬかと思ったほど恐怖した。
 二度目に会った時は、とても驚いたが、最初ほどではなく、三度目に出会った時には、近づいて行って親しく話しかけるほど、大胆になっていた。

面識を持てば、先入観も払拭される。

Pe10 Cha42 H39 Hou34 Charles2 Kur5.17 TMI.J1075.2 (Aesop)


204.イタチとネズミたち

 寄る年波には抗しきれずに衰えて動きが鈍くなったイタチは、以前のようにネズミが捕れなくなってしまった。そこで、粉の中をごろごろ転がって、粉を体中に塗すと、薄暗い隅の方へ横たわった。
 ネズミは、これを食べ物と思って飛びつき、そして、即座にイタチに捕まって絞め殺されてしまった。二番目も同じことをして殺され、三番目も殺された。それでもまだ、同じ目に遭う者が後を絶たなかった。
 今まで多くの罠や策略から逃れてきた、一匹の年老いたネズミが、イタチの狡猾な罠を看破して、安全な場所からこう言った。
「そこに寝転がっている、そこのお方。あんたの、その扮装が上手ければ上手い分だけ、あんたの腹は膨れるという寸法なんだね」

Pe511 Ph4.2 Cax4.2 Laf3.18 TMI.K2061.9 (Ph)

註:タウンゼント140参照


205.水浴びをする少年

 川で水浴びをしていた少年が、深みにはまって溺れてしまった。
 少年は大声で叫んで、通りかかった旅人に助けを求めた。しかし旅人は、手を差し延べようとはせずに、無頓着に傍観したまま、少年の軽はずみを叱りつけるばかりだった。
「おじさん」少年が叫んだ。「お願いだから助けて! そうしたら、どんなに叱っても構わないから・・・・」

助けの伴わない忠告は役に立たない。

Pe211 Cha297 H352 BaP165 Charles37 Laf1.19 TMI.J2175.2 (Aesop)


206.ロバとオオカミ

 ロバが草原で草を食んでいると、オオカミが近づいて来るのに気付いた。ロバはすぐに、足を痛めている振りをした。
 オオカミは、ロバになぜ足を引きずっているのかと尋ねた。するとロバは、垣根を抜けようとした時に、鋭い棘を踏んでしまったのだと答えた。そしてロバは、オオカミが自分を食べる時に、喉を痛めたりしないように、棘を抜いてくれるようにと頼んだ。
 オオカミはそれを承知すると、ロバの足を持ち上げた。そして、棘を見つけようと、全神経を集中させた。と、そのときロバは、蹄でもって、オオカミの歯を蹴飛ばした。そして、ぱっか、ぱっかと逃げて行った。
 オオカミは、独りごちた。
「こんな目に遭うのも当然だ。俺はなぜ、医術を施そうとしたのだ? 親爺は、俺に屠殺の仕事しか教えなかったというのに……」

Pe187 Cha281 H334b PhP Ba122 Cax3.2 イソポ1.17 伊曽保2.30 Laf5.8 TMI.K566 (Aesop)


207.神像売り

 ある男が、マーキュリー神の木像を造って、売りに出していた。しかし、まったく売れないので、人々を惹きつけようと思い、「とりいだしましたるは、富と利益を授けてくれる、ありがたい神像だよ。」と大声で叫んだ。
 すると客の一人が彼にこう言った。
「おい、相棒。そんなにありがたい神像ならば、なぜ売るんだ? 自分がその御利益に預かればよかろうものを…」
「なぜですと?」神像売りは答えた。「私はすぐにでも利益がいるのです。でも、この神様は、恵みを授けてくれるのがとても遅いのですよ」

Pe99 Cha2 H2 (Aesop)


208.キツネとブドウ

 ブドウ棚に、よく熟れたブドウがぶら下がっていた。それを見つけた腹ペコ狐は、あらゆる手段を講じて、ブドウをとろうとした。しかし、全て徒労に終わった。どうしてもブドウの房に届かなかったのだ。
 とうとう彼女は諦めて、悔し紛れにこう言った。
「あのブドウは酸っぱい。熟してないのよ」

Pe15 Cha32 H33 Ph4.3 Ba19 Cax4.1 Hou31 Charles10 Laf3.11 Kur6.17 TMI.J871 (Aesop)(Ph)


209.男と女房

 その男の女房は、召使いたちに嫌な思いをさせるので皆に嫌われていた。男は、妻が実家の使用人に対しても同じように振る舞うのかどうか確かめようと思った。そこで、なにか理由を見つけて、彼女を父親の家へと送った。
 ところが、彼女はすぐに帰って来た。そこで彼は妻に、実家ではどのような生活をし、そして、使用人たちの態度はどうだったかと尋ねた。
 すると、彼女はこう答えた。
「ウシ飼やヒツジ飼は、嫌悪の表情で私をみました。」
 すると、男はこう言った。
「ねえ、僕の奥さんや。彼らは、朝早くヒツジやウシの群れを連れて出掛けて行き、夕方遅く帰ってくるのだろう。そんな彼らに嫌われるとするなら、一日中お前と一緒にいる者たちが、お前をどう思っていたか分かるだろう!」

鈍感な者でも、色々な事例を示せば嫌でも分かる。

Pe95 Cha49 Ha52 Laf7.2 (Aesop)


210.クジャクとユノ

 クジャクが女神ユノに不満を申し立てた。ナイチンゲールは、その歌声で皆を幸せな気分にさせるのに、自分が口を開くと、その途端、皆が笑い出すというのだ。
 すると女神は慰めて言った。
「でも、お前は、美しさや大きさの点で秀でているではないか。首は豪華なエメラルドで輝き、そして色とりどりの立派な尾が広がる」
 すると、クジャクがこう答えた。
「しかし、いくら美しくても、歌声で劣っていては、その美しさも輝きません」
 すると、女神がこう言ってたしなめた。
「よいですか、それぞれには、領分というものがあるのです。ワシには強さ、ナイチンゲールには歌声、ワタリガラスは瑞兆を知らせ、小ガラスは凶兆を知らす。お前には美しさがあるのです。皆は与えられたもので満足しているのですよ」

Pe509 Ph3.18 Cax4.4 Hou33 Laf2.17 TMI.W128.4 (Ph)


211.タカとナイチンゲール

 ナイチンゲールが、いつものように、カシの高枝にとまって、歌を歌っていると、腹を空かせたタカに急襲されて捕まってしまった。死の迫ったナイチンゲールは、自分は、タカの空腹を満たすには小さすぎるので、どうか逃がしてくれるようにと懇願した。
 すると、タカは、ナイチンゲールの言葉を遮って言った。
「もし、まだ見ぬ獲物を求めて、既に手の内にある獲物を逃がしたとしたら、それは、まったくどうかしているとしか言えないね」

Pe4 Cha8 H9 Charles19 Laf9.18 TMI.J321.1 (Aesop)


212.イヌとニワトリとキツネ

 イヌとニワトリが大の仲良しになって、一緒に旅に出ることにした。
 夕方になると、二匹は、太い木を宿に決め、ニワトリは枝に飛び乗り、イヌは木の根本近くの洞を寝床にした。明け方、ニワトリがいつものように大きな声で鳴いた。すると、キツネがその声を聞きつけて、やって来た。そして内心を隠してこんなことを言った。
「僕は、君のような素晴らしい声の持ち主と知り合いになりたかったんだよ」
 ニワトリはキツネの言葉を訝ってこう言った。
「それは光栄です。それでは、下の方に洞がありますからそこへ行って、私の下男を起こして下さいませんか。そうすれば、彼が扉を開いてあなたを中へ入れてくれますから」
 キツネは洞へと近づいて行った。と、イヌが跳びかかりキツネを捕まえるとズタズタに引き裂いた。

Pe252 Cha180 H225 イソポ2.9 Charles35 TMI.K579.8 (Aesop)


213.オオカミとヤギ

 オオカミは、険しい崖の上で草を食べているヤギをみつけた。しかしオオカミは、そこへ行くことは出来なかったものだから、そんな崖にいるのは危ないから、降りてくるようにと呼びかけた。そして更に、ここには、とても柔らかな牧草が生い茂っていると付け加えた。
 するとヤギはこう答えた。
「ご遠慮申し上げますわ、オオカミさん。あなたが私をご招待下さるのは、私を満腹にさせるためではなく、ご自分の腹を満たすためなのでしょう」

Pe157 Cha220 H270 BaP Avi26 Cax7.19 Charles6 TMI.K2061.4 (Aesop)


214.ライオンと牡ウシ

 ライオンは、牡ウシが食いたくて仕方なかった。しかし、襲いかかって倒すには、牡ウシは大きすぎた。そこで、ライオンは計略を巡らすことにした。
「やあ、ウシ君、実は旨そうなヒツジが手に入ったのだけど、僕の家へ来て、食味をしてみないか? 君の来るのを楽しみに待っているから……」
 ライオンは、牡ウシが食事につられて隙ができたところを襲い掛かり、餌食にしてしまおうと思ったのだ。
 牡ウシは、ライオンの家へとやって来た。しかし、巨大な串や大釜はあるのに、ヒツジが用意されていないことに気が付いた。それで牡ウシは何も言わずにくるりと背を向けた。
 するとライオンは、自分に何か落ち度があるわけでもないのに、どうして、一言の挨拶もなしに、行ってしまうのかと言った。
 すると牡ウシはこう答えた。
「理由は、十分すぎる程ありますよ。ヒツジは見あたらないと言うのに、料理の準備は万端で、後は食材の牡ウシを待つばかり……」

Pe143 Cha221 H262 Ba97 (Aesop)


215.ヤギとロバ

 昔ある男が、ヤギとロバを飼っていた。ヤギはロバにたくさんの餌が与えられるのを羨んで、こんなことを言った。
「ねえロバ君、君は粉を挽いたり、重い荷物を運ばされたりと、本当に大変だね」
 ヤギは更にこう言った。
「気を失った振りをして溝に落っこち、休養でもしたらいいよ」
 ヤギの言葉を真に受けたロバは、溝の中へ落ちるとひどい怪我をしてしまった。飼い主は、医者を呼びにやって、どうすればよいかと訊ねた。すると医者は、ヤギの肺を傷口に塗りつけるようにと言った。
 飼い主は、ヤギを殺してロバを治療した。

Pe279 Cha16 H18 BaP142 TMI.Q581 (Ba)


216.町のネズミと田舎のネズミ

 田舎のネズミが、御馳走を振る舞おうと、仲の良い町のネズミを招待した。二匹は土くれだった畑へ行き、麦の茎や、大根を引っこ抜いて食べていたのだが、町のネズミがこう言った。
「君のここでの暮らしぶりは、まるで蟻のようだ。それに引き換え僕の家は、豊饒で溢れているよ。あらゆる贅沢に囲まれているんだよ。ねえ、僕のところへ来ない? そうすれば珍しいものが腹一杯食べられるよ」
 田舎のネズミは二つ返事で承知すると、友と連れだって町へと向かった。家に着くと、町のネズミは、パンに大麦、豆に乾燥イチジク、蜂蜜、レーズン、そして極めつけに、籠から上質のチーズを取り出して、田舎のネズミの前に置いた。
 めくるめく御馳走を前に、田舎のネズミは、心のこもった言葉でお礼を述べた。そして、自分の暮らしが如何に惨めであるかを嘆いた。
 しかし、彼らが御馳走を食べようとしたその時、何者かが扉を開けた。ネズミたちはチューと鳴きながら、なんとか二匹が潜りこめる狭い穴をみつけると、一目散に逃げ込んだ。
 彼らが食事を再会しようとすると、また、別な誰かが入って来た。腹が減ってたまらなくなった田舎の鼠は、ついに友達にこう言った。
「こんなに素晴らしい御馳走を用意してもらったけど、これは、どうぞあなた一人でお召し上がり下さい。こんなに危険が多くては、とても楽しめません。私には、土くれだった畑で大根でも食べている方が性に合うのです。あそこならば、安全で怖いこともなく暮らせますからね」

Pe352 Cha243 H297 Ba108 PhP Cax1.12 イソポ1.6 伊曽保2.18 Hou7 Charles48 Laf1.9 J.index566 TMI.J211.2 (Ba)


217.オオカミとキツネとサル

 オオカミがキツネを盗の罪で告訴した。しかし、キツネは全く身に覚えがないと、その罪を否認した。そこでサルが、この訴訟を請け負うことになった。オオカミとキツネが互いに自分の立場を主張すると、サルは次のような判決を下した。
「オオカミ君、本官には、君が、何か取られたとは思えない。そして、キツネ君、君がどんなに否定しようとも、それを盗んだに違いない」

嘘つきは、たとえ本当のことを言っても信用されない。

Pe474 Ph1.10 Cax2.18 charles120 Laf2.3 TMI.B270 (Ph)


218.アブと二輪戦車を曳くロバ

 ロバが二輪戦車を曳いて走っていると、一匹のアブが車軸に止まってこう言った。
「なんて遅いんだ。どうしてもっと速く走らないんだ。僕の針で首を刺されたいのかい?」
 すると、ロバはこう言った。
「僕は、お前など何とも思っちゃいない。僕が言うことを聞くのは、鞭ふるって僕を速めたり、手綱で御したりする方だけだよ。そう、お前の上に座っている方さ。だから、下らぬことを言ってないで、とっとと、いっちまいな。速くしなければならぬ時も、遅くしなければならぬ時も、僕はよく心得ているのだからね」

Pe498 <Pe724> Ph3.6 Cax2.16 <Laf7.8> <Kur3.17> (Ph)


219.漁師たち

 網を曳きあげていた漁師たちは、それがとても重かったので、大漁だと思い、喜び勇んで踊り廻った。ところが、網を浜辺まで曳きあげてみると、魚はほとんどかかっておらず、砂や石だらけだった。猟師たちは思わぬことに、意気消沈して落胆した。
 すると年老いた漁師がこう言った。
「おい、みんな、もう嘆くのは止めにしよう。悲しみは喜びの双子の姉妹なんだよ。あれだけ喜んだのだから、後は悲しみを待つばかりだったのだよ」

Pe13 Cha23 H23 イソポ2.26 TMI.J866.1 (Aesop)


220.ライオンと三頭の牡ウシ

 三頭の牡ウシが、牧草地で仲良く暮らしていた。
 ライオンは、牡ウシたちを餌食にしようと待ちかまえていたが、三頭一緒では、如何なライオンでも二の足を踏んだ。そこで、ライオンは狡猾な言を労して、ついに三頭を引き離すことに成功した。ライオンは、牡ウシが、一頭ずつばらばらに草を食んでいるところを、苦もなく襲いかかった。そして、自分の好きな時に一頭一頭食味した。

団結は力

Pe372 Cha71 H394 Ba44 Avi18 Cax7.14 Hou52 TMI.J1022 (Ba)


221.鳥刺しとマムシ

 鳥刺しが、鳥もちと竿を持って、鳥を捕まえに出掛けた。彼は、ツグミが木にとまっているのを見つけると、竿を適当な長さに調節して、じいっと見つめた。こうして、彼は木の上を見ていたので、すぐ足下で寝ていたマムシに気づかずに踏みつけてしまった。マムシは向き直ると彼に噛みついた。
 彼は息絶えようとする時にこう言った。
「ああ、なんてことだ! 獲物を捕ろうとして、自分が死に捕まるとは・・・・」

Pe115 Cha137 H171 Panca1.15 J.index0316 TMI.N335.1 (Aesop)


222.ウマとロバ
 自分の素敵な馬具を鼻にかけていたウマが、馬車道でロバに出合った。ロバは重荷を積んでいたので、よけるのがのろかった。
 するとウマがこう言った。
「本当なら貴様を蹴っ飛ばしてやるところだがな」
 ロバは黙したまま、神の公正な裁決が下されることを只々祈った。
 それからすぐに、ウマは肺を患い、農場へと送られた。そして、肥桶車を曳かされることになった。
 ロバはその姿を見てこんな風に嘲った。
「ああ、これはこれは、いつぞやの高慢チキ様ではありませんか。あのときの派手な衣装はどうなさいました? それにしても、侮蔑でもって遇されている程に身を落とすとは・・・・」

Pe565 PhP Cax3.3 イソポ1.18 伊曽保2.32 Charles63 TMI.L452.1 (Ph)


223.キツネとお面

 キツネが役者の家へ入り込んで、役者の持ち物を片っ端から引っかき回していると、人間の顔を見事に模造したお面があった。キツネはそのお面を手に取るとこう言った。
「なんて素晴らしい顔なんだろう。でも、これには何の価値もない。だって脳味噌が入ってないのだからね」

Pe27 Cha43 H47 Ph1.7 Cax2.14 Hou20 Laf4.14 TMI.J1793 (Aesop)


224.ガチョウとツル

 ガチョウとツルたちが同じ草原で餌をついばんでいた。すると、人間が、鳥たちを網で捕まえようとやってきた。ツルたちは人間が近づいてくると、素早く飛んで逃げたが、ガチョウは飛ぶのがのろく、体も重かったので捕らえられてしまった。

危険が迫った時、貧乏人は身軽に逃げられるが、金持ちは逃げ遅れて身を滅ぼす。

Pe228 Cha353 H421 BaP TMI.J689 (Aesop)


225.盲人とオオカミの仔

 その盲人は、動物を手で触れただけで見分けることができた。ある時、狼の仔が手渡され、それが何か答えるようにと言われた。
 彼は、それに触れると、首を傾げながらこう言った。
「キツネの仔か、オオカミの仔かは断定できないがね。まあ、確実なことは、これを、ヒツジの群に入れるとよくないということだね」

悪い性分は、小さな頃から顕れる。

Pe37 Cha54 H57 Charles121 TMI.J33 (Aesop)


226.イヌどもとキツネ

 幾匹かのイヌがライオンの皮を見つけて、チリヂリに裂いていた。キツネがそれを見てこう言った。
「彼が生きていたなら、お前たちの歯なぞより、彼の爪の方が強いことを、瞬時に思い知らされるだろうがな」

倒れている者を蹴飛ばすのはたやすい。

Pe406 H219 TMI.W121.24 (Syntipas)


227.医者になった靴職人

 仕事がうまくゆかずに、暮らしが立ち行かなくなった靴職人が、貧乏に窮して、知らない町で医者を始めた。そして、あらゆる毒に有効な解毒剤だと称して、薬を売った。長広舌と巧みな宣伝のために彼は有名になった。
 ある時、この靴職人が重い病気に罹り、これを不審に思った町の長が、彼の腕を試してみようと、彼に杯を持って来るようにと言いつけ、彼の作った解毒剤に毒を混ぜるふりをした。そして、褒美をやるから、それを飲み干すようにと命じた。
 靴職人は、死ぬのを恐れて、自分は本当は薬の知識など持ち合わせておらず、蒙昧な民衆の評判で有名になったに過ぎないことを白状した。すると町の長は、会議を召集して、市民にこんなことを言った。
「君たちは、なんと馬鹿な過ちを犯していたことか! 足に履く靴さえも注文しなかった男に、命を委ねたのだからな」

Pe475 Ph1.14 TMI.K1955.7 (Ph)


228.オオカミとウマ

 麦畑をうろついていたオオカミが、畑から出て来ると、ウマに出合った。そこで、オオカミはこんなことを言った。
「いいことを教えて上げるよ、畑の中へ行ってごらん、美味そうなオート麦がどっさりあるよ。僕は手を着けずに君のために残しておいたんだよ。だって、君は僕の友達だろう。僕は友達が、食べ物を歯で噛み砕いている音を聞くのが大好きなんだよ。」
 すると、ウマはこう答えた。
「もし、オオカミの餌がオート麦だったなら、胃袋を満たさずに耳で我慢するなんてことはなかっただろうよ」

悪評のある人は、善行をしても、悪評がために信用を得ない。

Pe154 Cha225 H277 (Aesop)


229.兄と妹

 その男には、息子と娘の二人の子供がいた。息子の方は見目麗しかったが、娘の方はこの上なく醜かった。ある日のこと二人がままごと遊びをしていると、母親の椅子の上にあった鏡を見つけ、それを二人して覗いてみた。男の子は自分が美しいので喜んだが、女の子は、兄の自慢が我慢ならず、また、兄が自分の姿をとやかく言うのも我慢ならなかった。(実際、腹を立てるなという方が無理なのですが・・・・・)
 彼女は父親の所へ駆けて行くと、兄にひどい仕打ちを受けたと言い募り、男のくせに、美しさを自慢するなんて女の子のようだと口を極めて責め立てた。
 父親は二人を抱き寄せると、同じ愛情でもって二人にキスをしてこう言った。
「お父さんはお前たち二人に、毎日鏡を覗いてもらいたいね。息子よ。お前は、悪い行いで、その美しさが損なわれないようにしなさい。娘よ、お前は自分の美徳でもって、外面を補うようにしなさい」

Pe449 Ph3.8 TMI.J244.1 (Ph)


230.スズメバチと山ウズラと農夫

 喉の渇いたスズメバチと山ウズラが、農夫のところへやって来て、お礼をするから水をもらいたいと懇願した。山ウズラたちは、葡萄の木の周りを掘り返して、葡萄を見事に実らせると言い、ハチたちは、見張をして、泥棒たちを針で追い払うと言った。
 しかし農夫は、それらを遮ってこう言った。
「俺は二頭の牡ウシを持っている。しかし、奴らは、約束などせずに、仕事をやってくれる。お前たちに水をやるならば、牛たちに水をやるがよいに決まっている」

Pe215 Cha330 H392 (Aesop)


231.カラスとマーキュリー神

 罠に掛かったカラスが、アポロン神に、祭壇に乳香をお供えするので、どうか逃がしてくれるようにとお祈りした。こうしてカラスはこの危機から救われたのだが、お供えをするという約束の方は忘れてしまった。それからすぐ、またもや、カラスは罠に掛かってしまった。カラスは今度は、アポロン神を差し置いて、マーキュリー神にお祈りした。
 すると、マーキュリー神はすぐさま現れそしてこう言った。
「これ、卑しい者よ。お前は、以前の主人を裏切って縁を切った。そんな者を、わしが、どうして信ぜられようか」

Pe323 Cha166 H205 BaP (Ba)


232.北風と太陽

 北風と太陽が、どちらが強いか言い争った。そこで、旅人の服を早く脱がすことができた者を勝者とすることにした。
 まず北風が、あらん限りの力で風を吹きつけた。しかし、激しい突風のために、旅人はよけいマントを身体にぴったりと巻き付けた。とうとう、北風は諦めた。
 次に、太陽がやってみることにした。太陽は、俄に輝きだした。旅人はこのぽかぽかの日差しを感じると、一枚一枚服を脱いで行き、とうとう、暑さに耐えかねて、裸になった。

権力者の争いに巻き込まれた民衆は、結局、身ぐるみはがされてしまうのである。

Pe46 Cha73 H82 Ba18 Avi4 Hou60 Charles64 Laf6.3 TMI.L351 (Aesop)

註:勿論このような教訓であるはずがない。


233.敵同士

 互いに死を決するほどの敵と思っている二人の男が、同じ船に乗り合わせた。出来うる限り離れていようと、一人は船尾に、一人は船首にそれぞれ陣取った。すると、激しい嵐が吹き荒れて、船には沈没の危機が迫った。船尾の男が、船員に、船尾と船首のどちらが先に沈むかと尋ねた。
 船乗りの答えは、船首が先だろうとのことだった。
 すると男はこう言った。
「そうか、それなら死も苦痛ではない。私よりも先に敵が死ぬのを見られるのだから」

Pe68 Cha114 H144 (Aesop)


234.シャモとウズラ

 その男は、二匹のシャモを飼っていた。ある日のこと、男は、飼い慣らされたヤマウズラが売りに出されているのを見つけ、それを買った。
 ヤマウズラが鶏小屋に入れられると、二匹のシャモは、彼を蹴飛ばし、しつこく追い回した。ヤマウズラは、自分がよそ者だから、こんなひどい仕打ちを受けるのだと思い、陰鬱に沈んだ。
しかしその後すぐ、シャモたちが共に戦い、片方が一方を打ちのめすまで執拗に追いかけるのを見て、ヤマウズラは独りつぶやいた。
「もう、彼らにぶたれても、悲しむことはない。だって、彼らは仲間同士でも喧嘩せずにはいられないのだから」

Pe23 Cha21 H22 Laf10.7 TMI.J1025 (Aesop)


235.蛙のお医者様

 昔々の話だが、沼の家から出てきた蛙、動物みんなに言ったとさ。
 我こそは偉い医者なるぞ。あらゆる薬に通じたれば、どんな病気も治して見せよう。
 それを聞いた狐が言うには、「人に薬を出す前に、お前自身のチンバを治せ、皮もしわしわしているぞ」

Pe289 Cha69 H78 Ba120 Avi6 Cax7.05 Charles116 J1062.1 (Ba)


236.ライオンとオオカミとキツネ

 年老いたライオンが、病気になって巣穴で横たわっていた。あらゆる動物たちが、自分たちの王であるライオンを見舞ったが、キツネだけは見舞いに来なかった。するとオオカミは、願ってもない機会とばかりに、キツネの奴は、支配者であらせられるあなた様を蔑ろにして、見舞いにもやってきません。と讒言した。と、まさにその時、キツネがやって来て、その讒言を耳にした。
ライオンは、キツネに腹を立て、うなり声を轟かせた。キツネはなんとか身を守ろうと機会を窺ってこう言った。
「あなたをお見舞いした者たちの中に、私のように役立つ者はいたでしょうか? 実は私は、あなたを治す手だてを教えてもらおうと、あらゆる地方をくまなく旅して探し回ったのです。」
 ライオンはすぐに、その治療法を教えるようにと命じた。そこでキツネはこう答えた。
「活きのよいオオカミの毛皮を剥いで、その皮で身をくるんで暖めるのです」
 オオカミは、すぐに捕まえられて皮を剥がれた。そこでキツネは、オオカミに向かってにこやかに言った。
「主人を悪ではなく、善き方に導くが肝要である」

Pe258<585> Cha205 H255 Cax5.9 イソポ1.24 伊曽保3.6 Laf8.3 狐ライネケ3.12 TMI.K961 (Aesop)


237.イヌの家

 冬のこと、イヌは、寒さのために、できるだけ身体を小さく縮めて丸くなると、家を作ろうと決意した。ところが、夏がやってきて、身体をめいいっぱい伸ばして横になって寝ると、イヌは自分がとても大きくなったように思われた。そして、自分に合う家を作るのは、容易なことではないし、それに必要もないと考えた。

Pe449 H222 TMI.A2233.2.1, J2171.2.1 (プルタルコス「七賢人の饗宴」157b)


238.オオカミとライオン

 夕暮れ時に、山の麓を徘徊していたオオカミは、とても長く大きくなった自分の影を見て、こうつぶやいた。
「俺様は巨大だ。1エーカー近くはある。ライオンなど恐るに足りぬ。俺様こそが百獣の王として認められるべきではないのか?」
 オオカミが、このように高慢な思いに浸っていると、ライオンがオオカミに襲い掛かった。
 オオカミは、こう叫んだのだが後の祭りだった。
「ああ、惨めだ。自惚れにより身を亡ぼすとは……」

Pe260 Cha219 H280 TMI.J411.5 (Aesop)


239.鳥と獣とコウモリ

 鳥と獣たちが戦争をしていたのだが、両陣営は、ともに、勝ち負けを繰り返していた。コウモリは、先の見えない戦いに不安を感じ、いつも、優勢な陣営の側について戦った。しかし、平和の宣言がなされた時、コウモリの卑怯な行状が、両軍に知れ渡ることとなった。その裏切り行為は、両陣営から糾弾され、コウモリは、白日の下から追放されてしまった。
 それからというもの、コウモリは、暗い隠れ家に身を隠し、夜、一人っきりで飛ぶようになった。

Pe566 PhP Cax3.4 イソポ1.19 伊曽保2.33 Hou24 Charles46 J.index484 TMI.B261.1 (Ph)


240.放蕩者とツバメ

 放蕩の限りを尽くした若者は、全財産を使い果たし、残っているものといえば、上等なマント一着きりという有様だった。
 ある日のこと、彼はたまたま、ツバメを見掛けた。実はまだ季節前にツバメはやってきたのだが、池を掠めて飛んで、陽気に囀った。若者は、夏が来たのだと思い、マントを売ってしまった。
 それから幾日もたたないうちに、寒が戻り、辺り一面霜で被われた。彼は、ツバメが地面に落ちて死んでいるのを見つけて、こう言った。
「不幸な鳥よ! お前はなんてことをしてくれたんだ。春が来る前におまえが現れたせいで、おまえばかりではなく、私をも破滅させるのだ」

Pe169 Cha248 H304 Ba131 Charles122 Kur7.4 TMI.J731.1 (Aesop)


241.キツネとライオン

 キツネは、檻に閉じこめられているライオンを見て、近くへ行くと、口を極めて罵った。するとライオンはキツネにこう言った。
「我を罵っているのは、お主ではない。我に降りかかった災難がお主に言わせておるのじゃ!」

Pe409 H40 TMI.W121.2.2 (Syntipas)


242.フクロウと鳥たち

 物知りのフクロウは、ドングリが芽生えると、これが大きくなる前に、全部地面から引き抜くようにと、鳥たちに忠告した。なぜなら、ドングリが成長すると、やがてヤドリギを寄生させ、そのヤドリギからは、災厄をもたらす薬、トリモチが抽出され、それで皆捕まえられてしまうと言うのだった。
 次にフクロウは、人間が播いた麻の種は、鳥たちに災いをもたらす予兆となる植物なので取り除くようにと忠告した。
 そして、最後に、射手がやって来るのを見て、この人間は歩いているが、彼は、我々よりも速く飛ぶことのできる、羽を付けた矢を射ようとしているのだ。と予言した。ところが、鳥たちは、フクロウの予言を信用せず、それどころか、彼女のことを心身症の気狂いだと罵った。
 しかしその後、鳥たちは彼女の言葉が正しかったことを思い知った。鳥たちは、彼女の知識に驚嘆した。
 その後、彼女が現れると、鳥たちはあらゆることを知っている彼女の知恵にあやかろうと集まってくるのだが、彼女はもはや忠告を与えず、かつての鳥たちの愚鈍な行いを一人嘆くだけだった。

Pe437<39> <Cha349> H105<417> <PhP> <BaP164> <Cax1.2> <イソポ1.11> <伊曽保2.24> <Hou12> <Charles41> <Laf1.8> TMI.J621.1 (ディオン・クリュソストモス「弁論」12.7)


243.捕らえられたラッパ兵

 勇ましく兵士たちを先導していたラッパ兵が、敵に捕まってしまった。彼は、捕縛者にこう叫んだ。
「俺は、あんた方を誰一人として殺してはいない。俺は武器を、何一つ持っていないのだ。俺が持っているのは、真鍮のトランペット、唯一つなんだよ」
 すると、敵の兵隊たちはこう言った。
「それが、お前の処刑される理由だ、お前は自分では戦わぬが、ラッパで、兵士たちを鼓舞するのだからな!」

Pe370 Cha325 H356 BapP179 Avi39 イソポ2.7 Hou79 TMI.J1465 (Ba)


244.ライオンの皮を被ったロバ

 ロバがライオンの皮を被って、森を歩き回った。道すがら、出合う動物たちが慌てふためくのを見て、ロバはすっかり気をよくした。
 そうこうしているうちに、キツネに出会った。ロバは、キツネもおどかしてやろうと思った。しかし、キツネは、ロバの声を聞くが早いか、こう言った。
「もし、君の声を聞かなかったなら、僕も、恐れおののいたかもしれないけどね・・・」

Pe188<358> Cha267<279> H336<333> <Ba139> <Avi5> <Cax7.4> イソポ2.12 Hou49 Charles16 Panca4.5 TMI.J951.1 (Aesop)

註:イソポのハブラスは、バブリオス系ではなく原典系である。


245.スズメとウサギ

 ワシに捕まえられたウサギが、子供のようにむせび泣いた。スズメがそれを見て揶揄して言った。
「君のその素早い足はどうしたの? 君はどうしてそんなにのろまなんだ!」
 スズメがこのように罵声を浴びせかけていると、突然タカがスズメをひっつかみ、彼を殺してしまった。
 ウサギは心安らかに死に臨み、今際の際にこう言った。
「ふん。お前さんは、自分が安全だと思って、私の災難を喜んでいたのだろうが、早々に、同じ不幸を嘆く羽目になろうとはね!」

Pe473 Ph1.9 Laf5.17 TMI.J885.1 (Ph)


246.ノミと牡ウシ

 ノミが牡ウシに尋ねた。
「あんたは、そんなに大きくて強いのに、人間たちのひどい扱いにも反抗せず、来る日も来る日も、彼らのために働くのはなぜなんですか? 私などは、こんなに小さいのに、人間たちの肉をかじり、そして思う存分血を吸うんですよ」
 すると牡ウシはこう答えた。
「私は、恩知らずではないからね、人間たちは、私を愛してくれているし、よく世話してくれるんだよ。彼らはね、しょっちゅう、頭や肩をとんとん叩いてくれるんだよ」
 するとノミが言った。
「なんてこった! あんたの好きな、とんとんで、私は、間違いなく、あの世行きだよ」

P273 Cha358 H426 TMI.U142 (Aesop)


247.善い者と悪い者たち

 昔、善い者たちと悪い者たちは、共に人間の面倒をみていたのだが、ある日、悪い者たちによって、善い者たちは追い出された。というのも、地上では悪い者たちの数が勝っていたからである。
 善い者たちは、天国へと昇って行くと、自分たちを迫害した者たちに対し、公正な処置がとられるようにとジュピター神にお願いした。彼らが言うには、・・・・自分たちは、悪い者たちと共通点が全くないので、一緒に暮らすことは出来ない、それどころか、悪い者たちの間では、争いが絶えないので、もう彼らと関わるのさえ嫌だと言うのだ。そして、絶対的な法により、自分たちを永遠にお救い下さいと訴えた。
 ジュピター神は、彼らの訴えを聞き入れて、これからは悪い者たちは、集団で地上へ行き、善い者たちは、一人一人ばらばらに、人間の住まいへ入るようにと定めた。
 それ故、悪い者が大勢いるのは、彼らが集団でやって来て、決して一人一人ばらばらにはやってこないからである。一方、善い者たちは、ばらばらと、一人一人やって来て、決して集団で来ることはない。そして、善良な人を見つけると順番に彼らの許に入って行くのである。

Pe274 Cha1 H1 BaP184 (Ba)


248.ハトとカラス

 篭の中のハトが、自分が産んだ子供が大勢いることを自慢した。カラスがそれを聞いて、こう言った。
「ねえ、ハトさんや、そんな場違いな自慢はおよしなさいよ。こんな牢獄の中では、家族が増えれば増えるだけ、悲しみも増すものですよ」

Pe202 Cha302 H358 TMI.U81.1 (Aesop)


249.マーキュリー神と樵

 川のそばで木を切り倒していた樵が、ひょんなことから、斧を川の深い淀みに落としてしまった。樵は生活の糧とする斧を失ってしまい、土手に座り込んで、この不運を嘆き悲しんだ。
 すると、マーキュリー神が現れて、なぜ泣いているのかと尋ねた。樵がマーキュリー神に自分の不運を語ると、マーキュリー神は、流れの中へ消えて行き、金の斧を持ってきて、彼がなくしたのはこの斧かと尋ねた。
 樵が自分のではないと答えると、マーキュリー神は、再び水の中へ消え、そして手に銀の斧を持って戻ってきた。そして、これが樵の斧かと尋ねた。
 樵はそれも違うと答えると、マーキュリー神は、三度川の淀みに沈んで、樵がなくした斧を持ってきた。樵は、これこそ自分の斧だと言って、斧が返ってきた喜びを神に伝えた。
 すると、マーキュリー神は、樵が正直なことを喜んで、彼自身の斧に加えて、金の斧も銀の斧も樵に与えた。
 樵は家に帰ると、起こったことを仲間に話して聞かせた。すると、その中の一人が、自分も同じような良い目を見ようと考えた。
 男は川へ走って行くと、同じ川の淀みにわざと斧を投げ込んだ。そして、土手に座ってしくしく泣いた。
 すると、彼が思った通りにマーキュリー神が現れて、男が嘆いている理由を知ると、流れの中に消えて行き、金の斧を持ってきて、彼がなくしたのはこの斧かと尋ねた。
 欲に駆られた樵は、金の斧をしっかりと抱えると、これこそ間違いなく自分がなくした斧だと言った。
 マーキュリー神は、男の不正直に腹を立て、金の斧を取り上げただけでなく、彼が投げ込んだ斧も持ってきてやらなかった。

Pe173 Cha253 H308 Cax6.13 Charles124 Laf5.1 J.index52 TMI.Q3.1 (Aesop)


250.ワシとカラス

 ワシが高空から峨々たる岩の上へと舞い降りた。そして、鉤爪で仔ヒツジを捕まえると、空へと運んでいった。カラスはそれを目の当たりにして、妬ましく思い、ワシの飛ぶ力や強さと、張り合ってみたくなった。
 カラスは羽を大きくバタつかせながら飛び回ると、大きなヒツジに止まって、そいつを運び去ろうとした。しかし、彼の爪はヒツジの毛に絡まってしまい、いくらバタついても、抜け出すことができなくなってしまった。事の次第を見ていたヒツジ飼は、走って行ってカラスを捕まえると、すぐさま、カラスの羽を刈り込んだ。ヒツジ飼は、夜になって家に帰ると、そのカラスを子供たちに与えた。
 すると子供たちが言った。
「お父さん、これは何ていう鳥ですか?」
 すると彼はこう答えた。
「どう見てもカラスなんだが、自分では、ワシと思われたいようだ」

Pe2 Cha5 H8 Ba137 Cax6.1 イソポ2.29 伊曽保3.12 Laf2.16 Kur2.21 TMI.J2413.3 (Aesop)


251.キツネとツル

 キツネがツルを夕食に招待した。これといって何もなかったが、美味そうなスープにツルは心躍った。しかし、スープは平らな石の皿に注がれ、ツルが飲もうとすると、スープは長い嘴からこぼれてしまう。キツネは、スープが飲めないでいらだっているツルがおかしくて仕方がなかった。
 今度はツルの番である。ツルは、一緒にスープを飲もうとキツネを誘い、キツネの前に首の細長い壺を置いた。そして、自分は壺の中に嘴を突っ込むと、ゆうゆうとスープを味わった。味見すらできないキツネは、……自分がツルにした相応の持てなしを受けたのであった。

Pe426 H34 Ph1.26 Cax2.13 伊曽保3.32 Hou19 Charles34 Laf1.18 J.index576 TMI.J1565.1(Ph)(プルタルコス「食卓歓談集」614e)


252.ジュピターとネプチューンとミネルヴァとモーモス

 遠い伝説によると、最初の人間を造ったのはジュピター神で、最初のウシを造ったのはネプチューン神で、最初の家を造ったのは女神ミネルヴァだったそうだ。
 神々が仕事を終えたとき、一番完璧な仕事をしたのは誰か? ということで言い争いになった。そこで神々は、酷評家のモーモス神に判定を委ねた。
 ところが、モーモス神は、彼らの仕事がとても妬ましく、皆のあら探しをはじめた。
 最初にネプチューンの仕事を非難して言うには、突くところがよく見えるように、牛の角は目の下につけるべきだった。
 次にジュピター神の仕事を非難して言うには、悪意ある者を警戒できるように、人間の心は外側につけるべきだった。
 そして最後に、女神ミネルヴァを罵倒して言うには、隣人が嫌な奴だと分かった時に、容易に移動できるように、家の土台には鉄の車輪をつけるべきだった。
 ジュピター神は、モーモスの露骨なあら探しに腹を立て、裁定者としての権能を剥奪すると、
オリンポスの神殿から追い出した。

Pe100 Cha124 H155 Ba59 Charles125 <Kur4.9> (Aesop)


253.ワシとキツネ

 ワシとキツネが友情を誓い合いそれぞれ近くに住むことにした。ワシは高い木の枝に巣を作り、キツネは藪の中で子どもを生んだ。
 しかし、この同盟が結ばれて、いくらもたたないうちに、ワシは自分の子どもたちにやる餌が必要になると、キツネが出掛けている隙に、キツネの子どもに襲いかかり、一匹捕まえて雛と一緒に食べてしまった。キツネは帰ってきて、事の次第を悟ったが……、キツネは、子どもを失ったこと以上に、彼らに復讐できないことを悲しんだ。
 ところが、それからまもなく、ワシに天罰が下った。
 ワシは神殿の近くを舞っていたのだが、そこでは、村人たちがヤギを生贄に捧げていた。と、ワシは、肉片と一緒に燃えさしをもひっつかんで巣へと運んで行った。一陣の風が吹くと、瞬く間に炎が燃え上がった。まだ飛ぶことも何も出来ないワシの雛たちは、巣の中で燻されて、木の根元へ、どさっと落っこちた。キツネは、ワシの見ている前で、雛たちをがつがつ食い尽くした。

Pe1 Cha3 H5 Ph1.28 BaP186 Cax1.13 伊曽保2.19 Charles59 TMI.K2295,L315.3 (Aesop)
註:パエドルスは、結末を全く変えている。Cax,Charlesはパイドルス系


254.人とサテュロ

 昔、人とサテュロが、互いの同盟の固めにと、共に祝杯を上げた。
 会談の日は、とても寒かったので、人は、手に息を吹きかけた。サテュロがなぜそんなことをするのかと尋ねると、人は、指がとても冷たいので暖めているのだと答えた。
 その後、食事をすることになり、用意されていた食べ物が温められた。人は、皿をすこし持ち上げると、息を吹きかけた。すると、サテュロがまた、なぜそんなことをするのかと尋ねた。人は、食べ物がとても熱いので、冷ましているのだと答えた。
 すると、サテュロがこう言った。
「金輪際君と友達でいるのは御免だ! 君は、同じ息で、熱のやら冷たいのやらを吐くのだからね」

Pe35 Cha60 H64 BaP192 Avi29 Cax7.22 伊曽保3.24 Hou56 Charles112 Laf5.7 (Aesop)


255.ロバと買い手

 ある男が、ロバを一匹買いたいと思っていた。そこで、ロバを買う前に、そのロバを調べてみるということで、売り手と話が纏まった。
 男はロバを家に連れて行くと、他のロバたちと一緒に麦の置かれた囲いの中に入れてみた。するとこのロバは、他のロバたちには目もくれず、一番怠け者で一番大飯食らいのロバと仲間になった。
 男はこの様子を見ると、このロバに端綱をつけ、売り手の所へ返しに行った。こんなに短い時間で、どうやってロバを調べたのか? と、売り手に問われると、男はこう答えた。
「簡単ですよ。こいつが選んだ仲間を見れば、こいつのことも分かりますからね」

その友をみれば、その人がわかる。

Pe237 Cha263 H320 TMI.J451.1 (Aesop)


256.二つの袋

 昔からの言い伝えによると、人は皆この世に生を受ける時、首に二つの袋をぶら下げて生まれてくるそうだ。
 前についている袋は、隣人の誤りがいっぱい詰まっており、後ろの大きな袋には、自身の誤りが詰まっている。それゆえ、人は、他人の誤りにはすぐに気づくが、自分自身の誤りにはなかなか気付かないのだ。

Pe266 Cha303 H359 Ph4.10 Ba66 Charles107 Laf1.7 (Aesop)


257.水辺のシカ

 暑さに参ったシカが水を飲もうと泉へとやって来た。シカは、水に映る自分の影を見て、枝わかれした大きな角が誇らしかった。しかし、ほっそりとした貧弱な脚には腹が立った。
 このようにシカが、自分の姿を眺めていると、ライオンが水辺にやってきて、シカに飛びかかろうと身を屈めた。シカはすぐさま逃げ出した。広々とした草原を走っている時には、全力疾走ができたので、ライオンとの距離を容易に引き離すことができた。
 しかし、森に入ると、角が絡まってしまい、ライオンはすぐさまシカに追いつきシカを捕まえてしまった。今となっては、後の祭りなのだが、シカはこう言って自分を責めた。
「なんてゆうことだ! 私はなんという勘違いをしていたのだろう! 自分を助けてくれる脚を軽蔑し、自分を破滅に追い込んだ角を尊んでいたとは……」

価値のあるものが、過小評価されることがよくある。

Pe74 Cha102 H128 Ph1.12 Ba43 Cax3.7 イソポ1.20 伊曽保2.34 Hou25 Charles21 Laf6.9 TMI.L461 (Aesop)


258.カラスとキツネ

 餓死しそうな程腹をすかせたカラスが、全くの季節外れだというのに、いくつか実をつけたイチジクの木にとまり、実が熟すだろうと期待して待っていた。
 キツネがそれを見てこう言った。
「まったくあなたときたら、悲しいかな自分自身を欺いて、希望の虜になっていますが、そんな希望は偽りであって、決して実を結ぶことなどありませんよ」

Pe126 Cha160 H199 TMI.J2066.2 (Aesop)


259.父親を埋葬するヒバリ

 古い伝説によると、ヒバリは、大地よりも先に創られた。それで、彼女の父親が死んだ時、埋葬する場所が見つからなかった。彼女は、亡骸を五日間、埋葬せずに横たえておいた。そして、六日目に、他に場所がなかったので、自分の頭に父親を埋葬した。こうして、ヒバリは冠毛を手入れた、これは、父親の墳墓なのだと言われている。

子の第一の務めは、親を敬うことである。

Pe447 H211 (アリストパネス「鳥」471)


260.蚊と牡ウシ

 蚊が牡ウシの角にとまり、そこに長いこと居座っていたのだが、飛び去ろうと羽音を立てると、重いだろうからどいてやるよと言った。
 すると牡ウシがこう答えた。
「君が来たのも分からなかったのだから、君が行ってしまっても、別段なんとも思わないがね」

人からはそれほどとは、思われてないのに、自分では大人物だと思っている者がいるものだ。

Pe137 Cha189 H235 PhP Ba84 Cax4.16 Charles25 Panca1.123 TMI.J953.10 (Aesop)(Ba)


261.母イヌとその子

 出産間近の牝イヌが、ヒツジ飼に、子供を産む場所を貸してくれるようにとお願いした。牝イヌは、その願いが叶えられると、今度は、そこで子供たちを育てたいと言った。ヒツジ飼はその願いも叶えてやった。
 しかし、仔イヌたちが成長して、母イヌを守ることができるようになると、母イヌは、その場を占領してしまい、ヒツジ飼が近づくのさえ許さなかった。

Pe480 Ph1.19 Cax1.9 Charles66 Laf2.7 TMI.W156 (Ph)


262.イヌと皮

 飢えたイヌたちが、川に、ウシの皮が浸っているのを見つけた。イヌたちは、そこへ行くことが出来なかったので、川の水を飲み干すことにした。しかし、イヌたちは、皮に到達する前に、水を飲み過ぎて破裂してしまった。

出来ることをせよ

Pe135<669> Cha176 H218 Ph1.20 Charles72 Laf8.25 TMI.J1791.3.2 (Aesop)(Ph)


263.ヒツジ飼とヒツジ

 ヒツジ飼が、ヒツジたちを森へと導いていると、とても大きな樫の木を見つけた。樫の木には、ドングリがたわわに実っていたので、ヒツジ飼は枝の下にマントを広げると、木に登り枝を揺すった。
 すると、ドングリを食べていたヒツジたちは、いつの間にか、マントをボロボロに引き裂いてしまった。ヒツジ飼は木から下りてきて、事の次第を知るとこう言った。
「ああ、お前たちは、なんて恩知らずなんだ! 仕立屋には、自分の毛をくれてやるくせに、食わせてやっている私の服は台無しにする……」

Pe208 Cha316 H378 (Aesop)


264.セミとフクロウ

 フクロウは、夜食べて昼間は寝ているという習性なのだが、セミの騒音に大変悩まされ、どうか鳴くのを止めてくれるようにと懇願した。しかしセミはその願いを拒絶し、それどころか、より一層大声で鳴いた。フクロウは、願いが聞き入れられず、自分の言が小馬鹿にされたことを知ると、謀をもって当たろうと、うるさいセミにこんなことを言った。
「アポロンの竪琴のような、あなたの甘い歌声を聞いていると、私は、寝ることができません。そこで、近頃女神パレスに頂いた、甘露を飲もうと思うのですが、もし、お嫌じゃなかったら、私の所に来て一緒に飲みませんか?」
 喉の渇いていたセミは、梟のお世辞に気をよくして、勇んで飛んで行った。すると梟は、洞から身を乗り出すと、セミを捕まえて殺した。

Pe507 Ph3.16 Charles103 TMI.K815.5 (Ph)


265.サルとラクダ

 森の動物たちが大きな宴会を催した時、サルが立ち上がって踊った。その踊りはとても素晴らしかったので、サルは中央に座ると、皆からヤンヤの喝采を浴びた。
 ラクダはサルが妬ましく、自分も皆の称賛を勝ち得たいと思って、次は自分が踊って皆を楽しませようと申し出た。
 しかし、ラクダはひどく不格好に動き回ったので、皆は激怒して、ラクダを棍棒で叩きのめした。

猿真似ほど間抜けなものはない。

Pe83 Cha306 H365 TMI.J512.3 (Aesop)


266.農夫とリンゴの木

 農夫の庭には一本のリンゴの木があった。しかし、その木は、スズメやセミの憩いの場となるだけで、実を全くつけなかった。農夫は、この木を切り倒してしまおうと、斧を手に持つと、根元に豪快に振り下ろした。セミとスズメは、この木は自分たちの避難場所なので、切り倒さないで欲しいと懇願した。そして、もしこの木を切らずにいてくれたならば、自分たちは農夫のために歌を歌って、労働の慰めとなると言った。
 しかし、農夫は彼らの願いに耳を貸そうとはせずに、二度、三度と斧を打ち込んだ。すると、斧が木の洞に到達し、蜜のいっぱいつまったハチの巣が見つかった。農夫はハチ蜜を味わうと、斧を放り出した。そして御神木かなにかのように、かいがいしく世話をした。

世の中には、利益のためにしか行動しない人がいる。

Pe299 Cha85 H102 BaP187 Charles93 TMI.J241.2 (Ba)


267.二人の兵士と泥棒

 二人の兵士が一緒に旅をしていると、追い剥ぎに襲われた。一人は逃げ去り、もう一人はそこに留まって、剛腕を奮って身を守った。追い剥ぎが倒されると、臆病者の仲間が急いでやってきて剣を抜き、マントを放り投げるとこう言った。
「さあ、私が相手だ、誰を相手にしているのか思い知らせてやるぞ」
 すると、追い剥ぎと闘った当の本人がこう答えた。
「たとえ、言葉だけでも、今のように、助けてくれていたらもっと心強かっただろうに、だがもう、その剣は鞘に収め、その役立たずの舌もとっておくことだ。……知らぬ者をだませるようにな」

Pe524 Ph5.2 TMI.W121.2.5 (Ph)


268.御神木

 古い伝説によると、神々は、ご自分の庇護する木を特別に選んだそうです。
 ジュピター神は樫の木、女神ヴィーナスはギンバイカ、アポロ神は月桂樹、キュベレ神は松の木、そしてヘラクレス神はポプラの木。……という具合に。
 すると女神ミネルヴァは、皆がなぜ実のならぬ木を好むのか不思議に思い、選んだ理由をお尋ねになりました。すると、ジュピター神はこのようにお答えになりました。
「それはだな、実を得んがために、庇護していると思われるのを潔しとしないためなのだ」
 すると女神ミネルヴァはこう仰ったそうです。
「誰が何と言おうと、私には、実のなるオリーブの方が好ましいですわ」
 すると、ジュピター大神はこうお答えになったそうです。
「我が娘よ。お前が聡明だと言われるのは真のことであるな。どんなに立派なことであっても、それが実を結ばぬことならば、その栄光は虚栄と言うほかあるまいな」

Pe508 Ph3.17 TMI.J241.1 (PH)


269.母親とオオカミ

 ある朝の事、腹を空かせたオオカミが、餌を求めてうろつき回っていた。オオカミが、森の小さな家の前を通りかかると、母親が子供にこんなことを言っているのが聞こえてきた。
「静かにしなさい。さもないと窓から放り投げてオオカミに食わせてしまうよ」
 それを聞いたオオカミは、一日中家の前に座って待っていた。ところが夕方になると、母親が子供をなでながら、こんな事を言っているのが聞こえてきた。
「おとなしくて良い子だね。オオカミがやって来たら、奴を殺してやるからね」
 オオカミはこれらの言葉を聞くと、飢えと寒さにうちひしがれて家に帰って行った。巣穴に戻るとオオカミの妻が、どうして、何も獲らずに帰って来たのかと訊ねた。 
 すると彼はこんな風に答えた。
「女の言葉を信用して、無駄な時間を費やすとは、とんだ間抜けだったよ」

Pe158 Cha223 H275b Ba16 Avi1 Cax7.1 イソポ2.40 Hou46 Charles94 Laf4.16 TMI.J2066.5
(Ba)


270.ロバとウマ

 ロバがウマに、ほんの少しでよいから食物を分けてくれるようにとお願いした。
 するとウマがこう答えた。
「分かりましたよ、今食べているものが残ったら、全てあなたにあげましょう、私の高貴な性質がそうせずにはいられないのです。夕方私が厩舎へ戻ったら、いらっしゃいな、そうしたら大麦のいっぱい詰まった袋をあげますよ」
 すると、ロバがこう言った。
「ありがとうございます。でも、今、少しも分けてくれないのに、後でたくさん分けてもらえるとは思えないのですよ」

Pe571 PhP TMI.W152.8 (Ph)


271.真理と旅人

 男が砂漠を旅していると、ひどく落胆した様子で独り佇んでいる女に出合った。
「あなたは、どなたなのですか?」旅人が訊ねた。
「私は、真理です」彼女が答えた。
「どうして、こんな人里離れた荒れ地にいらっしゃるのですか?」
 旅人が訊ねると、彼女は次のように答えた。
「以前は殆どみられなかった偽りが、今では、あらゆる人々の間に蔓延しているからです」

Pe355 Cha259 H314 Ba126 TMI.Z121.1 (Ba)


272.人殺し

 殺人を犯した男が、殺した男の親類たちに追われていた。
 男がナイル川までやって来ると、丘の上にライオンがいるのに気づいて、男は恐怖に震えて木に登った。ところが、木の枝の先にヘビがいるのを見つけ、またもや仰天すると、今度は川へ飛び込んだ。しかし、そこにはワニが大口を開けていた。
 このように、地、空、水は皆、殺人者を庇護するのを拒んだのであった。

Pe32 Cha45 Ha48 (Aesop)


273.ライオンとキツネ

 キツネがライオンの家来になった振りをして、協定を結んだ。そして、それぞれ、その性質と能力に応じた義務を果たすという約束が取り交わされた。
 キツネが獲物を見つけて教えると、ライオンが跳びかかり、獲物を捕まえた。しかしすぐに、キツネはライオンの取り分が多いことが妬ましくなり、もう、獲物を見つける役は御免だ、自分で獲物を捕まえると言い出した。
 次の日キツネは、囲いから仔ヒツジをさらおうとした。しかし、キツネ自身が猟師と猟犬の餌食となった。

Pe394<704> H41 <Cax5.14> <伊曽保3.10> TMI.J684.1 (Aphthorius)


274.ライオンとワシ

 ワシが空を飛びながら、ライオンに、互いの利益のために同盟を結ぼうと懇請した。
 するとライオンはこう答えた。
「別に断る理由はないが、君が信じられるものかどうか証拠を見せてもらわないとね。だって、自分の好きな時に、飛んでいってしまえる友達を信じられるかい? 約束も果たさずに逃げられたらたまらないからね」

試してから信用せよ

Pe335 H245 Ba99 TMI.Z121.1 (Ba)


275.メンドリとツバメ

 メンドリがマムシの卵を見つけると、一生懸命温め続けた。
 それを見たツバメがこう言った。
「なぜ、マムシどもを孵そうとするのです? マムシたちが成長したら、まず手始めにあなたを害し、そしてあらゆる者に危害を加えるのですよ」

Pe192 Cha286 Charles22 TMI.J622.1.1 (Aesop)


276.道化と田舎者

 ある時、金持ちの貴族が劇場を開き、無料で人々を招待した。そして、新しい出し物を考えた者には、多大な報酬を遣わすとのおふれを出した。
 報酬を勝ち得ようと、腕に覚えのある者が大勢競い合った。そこへ、大変面白いと評判の道化がやって来て、今まで、一度も舞台に掛けられたことのない出し物があると言った。すると、この話は世間で持ちきりとなり、人々は大挙して劇場に詰めかけた。
 道化は、道具も助手も連れずに一人舞台に姿を現した。群衆は何が始まるのかと固唾を飲んで見守った。と、突然道化は頭を自分の胸にもってくると、子豚の鳴き真似をした。それがとても上手かったので、人々は、マントの下に子豚が隠れているのだと言った。そして、マントを脱ぐようにと要求した。道化は言われるままにマントを脱いだ。しかし何も出てこなかった。人々は道化に喝采を浴びせた。
 それを逐一見ていたある田舎者がこんなことを言った。
「ヘラクレス様、わしに力をお貸し下せえまし。いいかね、そんな芸当ではわしにはかなわんよ」
 田舎者はこういうと、明日同じ芸を演じてみせよう、いや、それどころか、もっとずうっと上手なものまねを披露すると公言した。
 次の日、劇場には更に大勢の群衆が詰めかけた。しかし、大多数の者は、道化を贔屓にして応援していた。人々は、田舎者の芸を見に来たというよりも、田舎者を笑い者にしてやろうと思ってやって来たのだ。
 まず最初に、道化がブウブウ鳴いて、そしてキーキー叫び、昨日と同じように、観衆の称賛と喚声を勝ち取った。
 次に田舎者の番が来た。彼は、服の下に子豚を隠し、耳を引っ張って、鳴かせる真似をした。
 すると、人々は、道化の方が遙かに上手なものまねだったと一様に叫び、田舎者を劇場から叩き出せと喚きだした。
 と、その時、田舎者はマントをぱっと脱ぎ去った。するとそこから本物の子豚が出てきた。
 そして田舎者は群衆に向かってこう言った。
「これをみておくれ。あんたたちが、どんな審査員かこいつが教えているよ」

Pe527 Ph5.5 Hou80 TMI.J2232 プルタルコス「食卓歓談集」647C (Ph)


277.カラスとヘビ

 飢えて餌を欲していたカラスが、日溜まりで眠っているヘビを見つけ、舞い降りて行ってひっつかまえた。するとヘビはくるっと向きをかえると、噛みついてカラスに深手を負わせた。
 カラスは、死の苦しみの中でこう叫んだ。
「ああ、なんて不幸なんだろう! こいつを見つけて、勿怪の幸いと思ったのに、そいつが私を破滅させるとは……」

Pe128 Cha167 H207 BaP150 (Aesop)


278.猟師とウマ乗り

 ある猟師が、罠に掛けたウサギを肩に担いで家に帰ろうとしていた。
 道すがら、ウマに乗った男に出合った。男は買うような素振りをして、ウサギを見せてくれと頼んだ。
 ところが男はウサギを受け取ると、ウマを駆って走って行ってしまった。猟師は、ウマを追い掛けた。しかし、ウマとの距離はますます開くばかりだった。
 すると猟師は、大声で叫ぶと、全く心にもないことを言った。
「さあ、行った行った。そのウサギは、君に上げようと思っていた所なんだよ」

Pe402 H163 TMI.J1395 (Sytipas)


279.王子と絵のライオン

 狩りの好きな王子を持つ王様が夢でお告げを聞いた。それは、息子がライオンに殺されるというものだった。
 その夢が正夢になるのを怖れて、王様は王子のために、愉快な宮殿を建て、壁は動物の等身大の絵で装飾した。その中にライオンの絵もあった。若い王子はこの絵を見ると、このように閉じ込められたことへの、憤りが爆発するのだった。そして、ライオンの近くに立ってこう言った。
「この忌々しい獣め! 父の眠りに現れた偽りの夢のせいで、私は女の子のように、この宮殿に閉じ込められているのだ。お前をどうしてくれようか」
 王子はこう言うと、枝を折って鞭にしようと、棘のある木に手をのばした。そして、ライオンを打ちのめした。ところが、その棘の一つが王子の指に刺さった。指に激痛が走り、王子はけいれんして崩れ落ちた。
 王子は突然の高熱に苛まれ、数日で死んでしまった。

困難から逃げようとするよりも、勇気をもって困難に立ち向かった方がよい。

Pe363 Cha295 H349 Ba136 Laf8.16 Panca1.323 J.index149 TMI.M341.2 (Ba)


280.ネコとヴィーナス

 ネコが若い素敵な男性に恋をした。そこで、ヴィーナスに自分を人間の女に変えてくれるようにとお願いした。ヴィーナスはその願いを承知すると、彼女を美しい娘に変えてやった。こうして若者は、娘に一目惚れすると、彼女を家に連れ帰ってお嫁さんにした。
 ヴィーナスは姿を変えたネコが、性質も変えたかどうか知ろうとして、二人が寝室で横になっていると、ネズミを放した。今の自分をすっかり忘れてしまったネコは、ネズミを食べようと、寝椅子から跳ね起きネズミを追い掛けた。
 ヴィーナスはこの様子に大変失望して、彼女をもとの姿に戻した。

Pe50 Cha76 H88 Ba32 Hou77 Laf2.18 TMI.J1908.2 (Aesop)


281.牝ヤギたちのあご髭

 牝ヤギたちは、ジュピター神にお願いをして、あご髭を手に入れた。牡ヤギたちは、女たちに男と同等の威厳が与えられたことが腹立たしく、不満を申し立てた。
「まあ、よいではないか」ジュピター神がそう言った。「女たちは、力、勇気においてはお前たちには及ばない。お前たちと同じ高貴な印をつけ、その虚栄に浸ることくらい許してやるがよい」

いくら外見が似ていようとも、中味が劣る者ならば、それを相手にする必要はない。

Pe516 Ph4.17 TMI.U112 (Ph)


282.ラクダとアラブ人

 アラブ人が、ラクダに荷物を積み終わると、丘を上って行くのと下るのではどちらがよいかとラクダに尋ねた。哀れなラクダは、とっさにこう答えた。
「なんでそんなことを聞くのです? 平らな砂漠の路は通行止めですか?」

Pe287 H68 Ba8 TMI.J463 (Ba)


283.粉屋と息子とロバ

 粉屋と彼の息子が、隣町の市でロバを売るためにロバを曳いて行った。歩き出してからすぐ、彼らは、井戸端会議をしている女将さんたちに出合った。
「ほらみてごらん」一人が叫んだ。「あの人たちときたら、ロバに乗らずに、とぼとぼ歩いているよ。みんなはあんなのを見たことがあるかい?」
 粉屋はこれを聞くと、すぐさま息子をロバに乗せた。そうして、自分はその脇をさも楽し気に歩き続けた。
 それからまたしばらく行くと、老人たちが熱心に議論しているところへやってきた。
「あれを見なさい」その中の一人が言った。「ほら、わしの言うとおりじゃろう。近頃では、年寄りにどんな敬意が払われているのだ? 年老いた父親が歩いていると言うのに、怠け者の息子はロバに乗っておる。やくざな若者よ下りるのだ。そして、年老いた父親を休ませてやりなさい」
 こうして、父親は息子をロバから下ろすと、自分がロバにまたがった。こうして歩いていると、またすぐに、彼らは母親と子供たちの一団に出くわした。
「あんたときたら、なんて、いけずな年寄りなんだい」数人が粉屋を非難した。「可哀想に小さな息子は、あんたの脇を、やっとの思いでついて行っているというのに、よく自分はロバに乗って、平気でいられね」
 気のよい粉屋は、すぐさま息子を自分の後ろに乗せた。こうして、彼らは町の入口にさしかかった。
「おお、正直な我が友よ」ある市民が言った。「これはあなた方のロバですか?」
「その通りですよ」年老いた父親がこう答えた。
「本当ですか? あんた方二人がロバに乗っているのでは、誰もそうとは思わないですよ」男はそう言うと更に続けた。「ロバに乗るよりも、自分たちでロバを運んだ方がよいのに、なぜそうしないんですか?」
「あなたの言うとおりですね、とにかくそうしてみます」
 こうして、粉屋は息子と共にロバから下りると、ロバの脚を束ねた。そして棒を使って肩に担ぐと、町の入口の橋までロバを運んで行った。この様子を見ようと人だかりができ、人々は笑い転げた。
 ロバはうるさいのが嫌いなのに、その上、へんてこりんな扱いを受けたので、縛っている縄を破ろうと、棒を揺さぶった。そして川に落ちてしまった。
 苦い思いをして、恥ずかしくなった粉屋は、家に引き返すしかなかった。こうして粉屋が得たものは、全てを喜ばせようとすることは、結局誰も喜ばせないことであり、そのうえロバまで失うというということであった。

Pe721 伊曽保3.30 Hou62 Charles47 Laf3.1 Panca3.3 TMI.J1041.2 (Poggio)


284.カラスとヒツジ

 意地悪なカラスがヒツジの背中に乗っかった。ヒツジは嫌々ながらも、あちこちとカラスを運んだ。そしてしまいにこう言った。
「もし、イヌを相手にこんなことをしたら、鋭い歯でお返しされるだろうに」
 これに対してカラスはこう答えた。
「私はね、弱い者は蔑み、強い者にはへつらうんですよ。誰をいじめればよいか、そして誰に媚びればよいかちゃんと分かっているのです。だからこそ、天寿を全うできるのです」

Pe553 Ph6.26 Cax4.19 Charles98 TMI.W121.2.3 (Ph)


285.キツネとイバラ

 垣根に登っていたキツネが、足場を失ってイバラに掴まって難を逃れようとした。ところが、足の裏に棘がさってひどい怪我をした。助けを求めたのに、イバラが垣根以上にひどい仕打ちをしとキツネは非難した。
 するとイバラがこう言った。
「私を掴もうなんざ、正気の沙汰ではない。人を掴むのが私の生業なのだからね」

Pe19 Cha31 H32 Cax6.5 TMI.J656.1 (Aesop)


286.オオカミとライオン

 オオカミが、仔ヒツジを囲の中から盗んで巣穴に運んでいた。その帰り道のことである。ライオンがこれを見つて、オオカミから仔ヒツジを奪った。
 オオカミは安全な場所に立って叫んだ。
「私の獲物を奪うとは、なんてひどい奴なんだ」
 すると、ライオンがからかうようにこう言った。
「これは、お前のものなのか? 友達にもらったとでも言うのか?」

Pe347 Cha227 H279 Ba105 狐ラインケ1.3 TMI.U21.4 (Ba)


287.イヌとハマグリ

 卵を食べる習慣のあるイヌが、ハマグリを見て、それを卵だと思って、めいいっぱい口を開くと、ごくりと呑み込んだ。しかし、すぐに腹が猛烈に痛みだし、犬はこう言った。
「こんなに苦しむのも当然だ。間抜けにも、丸い物は皆、卵だと思ったのだからな」

熟考せずに行動する人は、しょっちゅう、思いも寄らぬ危険に見舞われるものだ。

Pe253 Cha181 H223 Charles70 TMI.J1772.2 (Aesop)

註:タウンゼントでは、The Dog and the Oyster (犬と牡蠣)となっているが、牡蠣は卵のように丸くはないので、ハマグリとした。


288.アリとハト

 アリが喉の渇きを癒そうと、川の土手へ行ったのだが、激流にさらわれ溺れて死にそうになった。すると、川面に突き出た枝に止まっていたハトが、葉をむしり、アリのすぐそばに落としてやった。アリは葉に這い上がって流れに浮いて、無事に土手まで辿り着いた。
 それから幾日もたたないある日、鳥刺しが、枝に止まっていたハトに、鳥黐竿を差し伸べた。男のたくらみに気付いたアリは、彼の足を刺した。鳥刺しは痛みに耐えかねて、竿を放り出した。その音でハトは飛んでいった。

情けは人のためならず

Pe235 Cha242 H296 Cax6.11 イソポ1.25 伊曽保3.8 Charles28 Laf2.12 TMI.B362 (Aesop)


289.ウズラと鳥刺し

 鳥刺しが、ウズラを捕まえてそして殺そうとした。ウズラはどうか助けてくれるようにと懸命に命乞いをした。
「お願いです、どうか私を生かしておいて下さい。生かしておいて下さるならば、私は、たくさんのウズラをおびき寄せて、あなたの慈悲に報います」
 すると、鳥刺しがこう答えた。
「お前の命を奪うのにためらう必要がなくなった。お前は、自分の友達や身内を裏切って、助かろうとするのだからな」

(Pe265) Cha300(285) H356 Ba138 Charles65 TMI.2295.1 (Ba)


290.ノミと人

 ノミにひどく悩まされた男が、ついにノミを捕まえてこう言った。
「俺様の手足を食った奴め、捕まえるのに手間取らせやがって、お前は何者だ?」
 するとノミが答えた。
「おお、親愛なる我が君よ、どうか命ばかりはお助け下さい。どうか殺さないで下さい。だって、私は迷惑をかけると言っても、大したことはできないのですから」
 すると男が笑って答えた。
「駄目だ、お前は俺の手で握りつぶされるのだ。悪は大小に係わらず、決して許されるものではないのだ!」

Pe272 Cha357 H425 Cax6.15 (Aesop)


291.盗賊とオンドリ

 賊が家に押し入ったが、何も発見できなかったので、オンドリを盗んだ。そして一目散に逃げ去った。盗賊たちはアジトにつくとすぐに、オンドリを殺そうとした。
 するとオンドリは、命を助けともらおうとしてこう言った。
「お願いです。助けて下さい。私はとても人の役にたつのですよ。夜が明けるのを知らせて、人々を起こしてあげるのです」
 すると、盗賊たちがこう言った。
「お前が隣近所の人たちを起こしたりしたら、我々の商売はあがったりだ」

悪人は、美徳を守ろうとする者たちを嫌悪する。

Pe122 Cha158 H195 TMI.U33


292.イヌと料理人

 ある金持ちが宴を催し、多くの友人や知人を招待した。すると彼の飼いイヌも便乗しようと、友達のイヌを招待してこう言った。
「主人が宴を催すと、いつもたくさんの残飯が出るので、今夜、お相伴に預からないかい」
 こうして、招待されたイヌは、約束の時間に出掛けて行き、大宴会の準備をしているのを見て、胸をわくわくさせてこう言った。
「こんな素晴らしい宴会に出席できてとても嬉しいよ。こんなチャンスは希だからね。明日の分まで、たらふく食べることにするよ」
 イヌは、嬉しさを友人に伝えようと尻尾を振った。すると、料理人が、皿の周りで動いている尻尾を見つけ、彼の前足と後ろ足をひっつかむと、窓から宴会場の外へと投げ飛ばした。イヌは力一杯地面に叩きつけられ、すさまじい叫び声を上げて、ふらふらと逃げて行った。彼の叫び声を聞いて、通りにいたイヌたちがやってきて、夕食は楽しかったか? と尋ねた。すると彼は、こんな風に答えた。
「どうだったかだって? 実を言えば、ワインを飲み過ぎて、なにも覚えてないんだよ。家から
どうやって出てきたのかも覚えてないのさ」

Pe328 Cha178 H62 Ba42 狐ライネケ4.10 TMI.J874 (Ba)


293.旅人とプラタナス

 ある昼下がり、二人の旅人が、夏の照りつける太陽にあてられて、広く枝を張ったプラタナス木の下に横になった。二人が影で休んでいると、一方が言った。
「プラタナスって、本当に役に立たない木だな。実はつけないし、人にちっとも恩恵をもたらさない」
 すると、プラタナスの木がこう言った。
「この恩知らずめ! 私の木陰で休んで恩恵を享受しているくせに、無駄で役立たずなどよく言えたものだな」

大変な恩恵を受けているのに、それに気付かない人がいるものだ。

Pe175 Cha257 H313 Kur7.7 TMI.W154.7 (Aesop)


294.ウサギたちとカエルたち

 ウサギたちは、自分たちが並外れて臆病で、絶えずなにかに驚いてばかりいることに嫌気がさし、切り立った岸壁から深い湖に飛び込んでしまおうと決心した。こうして、ウサギたちは、大挙して湖へと跳ねていった。
 すると、湖の土手にいたカエルたちが、ウサギたちの足音を聞いて、慌てて深い水の中へ潜り込んだ。カエルたちが慌てて水の中へ消える様子を見て、一羽のウサがが仲間に叫んだ。
「みんな、ちょっと待って。死んだりしてはいけない。皆も今見ただろう。我々よりももっと臆病な動物がいることを……」

Pe138 Cha191 H237 PhP Ba25 Cax2.8 Hou15 Charles61 Laf2.14 TMI.J981.1 (Aesop)


295.ライオンとジュピター神とゾウ

 ライオンは、しきりに不満を申し立てジュピター神をうんざりさせていた。
「ジュピター神よ。私は大変な力があり、姿形も素晴らしく、鋭い牙も鉤爪も持っています。私は森に棲む全ての動物の支配者なのです。しかし、その私が、オンドリのトキの声に恐怖しなければならぬとは、なんと不名誉なことでしょうか」
 するとジュピター神がこう言った。
「故無く責め立てるではない。お前には、私と同じ性質を全て与えてやった。その一つの例を除いては、お前の勇気は決して挫かれることはないのだ」
 この話を聞いて、ライオンは悲嘆して一声唸ると、臆病な自分に憤り死んでしまいたいと願った。このような考えを思いめぐらせていると、ゾウに出合った。
 ライオンはゾウと話をしようと近づいていった。すると、ライオンは、ゾウが耳をバタバタさせているのを見て、どうしてそんなにしょっちゅう、耳をバタつかせるのかと尋ねた。と、その時、蚊がゾウの頭の上にとまった。
 するとゾウがこう言った。
「プーンと唸って飛ぶ、このちっぽけな虫が見えますか? こいつが耳に入ったならば、私は一巻の終わりなのです」
 するとライオンが言った。
「こんなに巨大な動物が、ちっぽけな蚊を怖がるとは・・・・、私ももう不平は言うまい。そして死にたいなどと考えるのもよそう。ゾウに比べればまだましだ」

Pe259 Cha210 H261 TMI.J881.2 (Aesop)

註:ライオンがオンドリの鳴き声に弱いと言うのは、タウンゼント107番を参照。


296.仔ヒツジとオオカミ

 オオカミに追いかけられた仔ヒツジが、ある神殿に逃げ込んだ。
 オオカミは仔ヒツジに大声でよびかけてこう言った。
「神官に捕まったら、生贄にされてしまうよ」
 すると仔ヒツジがこう答えた。
「お前に食われるくらいなら、神殿で生贄になった方がましだよ」

Pe261 Cha222 H273 Ba132 Avi42 Cax7.27 TMI.J216.2


297.金持ちと皮なめし屋

 金持ちの男が、皮なめし屋の近くに住んでいたのだが、皮なめしの作業場の悪臭がどうにも我慢ならなかった。
 男は隣人に引っ越してくれるようにと迫まった。皮なめし屋は、その都度、すぐに出て行くと言っては、出て行かずにごまかしていた。
 しかし、こうして、長いこと、皮なめし屋がそこに居座っていると、金持ちの男は、臭いに慣れてしまい、全く不快に思わなくなり、もう不満を言うことはなくなった。

Pe204 Cha309 H368 BaP146 TMI.U1133 (Aesop)


298.難破した男と海

 船が難破して、男は、波に翻弄され、浜辺へ打ち上げられると深い眠りに落ちた。しばらくして男は目を覚ますと、海を見つめさんざんに罵った。お前は、穏やかな表情で人々を誘い込み、我々が海に乗り出すと、荒れ狂って皆を破滅させる。と、論難したのだ。
 すると、海が女性の姿となって、彼にこう言った。
「私を咎め立てしないで、風を責めて下さい。私は、穏やかなのです。そして、大地と同様に急変したりしないのが本来の姿なのです。でも、突然吹き付ける風が、波立たせ、そして私を暴れさせるのです」

Pe168 Cha245 H94b Ba71 Kur6.10 TMI.J1891.3 (Aesop)


299.二匹のラバと盗賊

 たくさんの荷物を背負った二匹のラバが歩いていた。一匹は、お金のいっぱい入った篭を運び、もう一方は、穀物の袋を荷なわされていた。お金を運んでいるラバは、その荷物の価値が分かっているかのように、頭を立て、そして、首につけられた、よく響く鈴を上下に揺らして歩いた。仲間のラバは、静かにそしてゆっくりと後に続いた。
 と、突然、盗賊たちが、物陰から一斉に押し寄せてきた。そして、ラバの主たちと乱闘となり、お金を運んでいたラバを剣で傷つけ、金を奪い取った。掠奪され傷ついたラバは、身の不幸を嘆き悲しんだ。
 すると相方がこう言った。
「僕は穀物を運んでいたので、何も失わなかったし、怪我を負わされることもなかった。ああ、よかった」

Pe491 Ph2.7 Charles102 Laf1.4 TMI.L453 (Ph)


300.マムシと鑢

 マムシが鍛冶屋の仕事場へ入っていって、道具たちから腹の足しになるものを求めた。マムシは特に鑢にしつこく食べ物をねだった。
 すると鑢はこう答えた。
「私から何かもらおうなどと考えているならば、あなたは、馬鹿者にちがいない。私は皆からもらうのが生業で、与えることなど決してしないのですからね」

Pe93 Cha116 H146 Ph4.8 Cax3.12 イソポ2.22 Hou26 Laf5.16 J.index290 TMI.J552.3 (Aesop)


301.ライオンとヒツジ飼

 森を歩き回っていたライオンが、棘を踏み抜いてしまった。そこで、ライオンはヒツジ飼のところへいって、じゃれついて、まるで「私はあなたの助けが必要です」とでも言うように尻尾を振った。
 ヒツジ飼は剛胆にもこの野獣を調べてやり、棘を見つけると、ライオンの前足を自分の膝の上に乗せて抜いてやった。こうして痛みが治ったライオンは、森へと帰って行った。
 それからしばらく過ぎた日のことである。ヒツジ飼は無実の罪で投獄され、「ライオンに投げ与えよ」という刑罰が宣告された。
 しかし、檻から放たれたライオンは、彼が自分を癒してくれたヒツジ飼であることに気づき、襲いかかるどころか、近づいて行って、前足を彼の膝に置いた。
 王様はこの話を耳にするとすぐに、ライオンを解き放ち森に返してやり、ヒツジ飼も無罪放免にして、友だちの許へ返すようにと命じた。

Pe563<563a> PhP Cax3.1 伊曽保2.31 Hou23 J.index389 TMI.B381 (Ph)


302.ラクダとジュピター神

 ラクダは、雄ウシが角を戴いているのを見て羨ましく思い、自分も同じような角が欲しくなり、ジュピター神の許へと行って、角を与えくれるようにと懇願した。
 ジュピター神は、駱駝は身体が大きくて強いにもかかわらず、更に角を欲したことに腹を立て、角を与えなかったばかりか、耳の一部を奪い取った。

Pe117 Cha146 H184 BaP161 Avi8 Cax7.7 TMI.A2232.1 (Aesop)


303.ヒョウとヒツジ飼たち

 ヒョウが運悪く穴の中に落ちた。
 ヒツジ飼たちはヒョウを見つけると、幾人かは棒で打ち据えて石を投げつけた。一方、別な者たちは、殴ったりしなくても死んでしまうだろうと、ヒョウを哀れんで、餌を与えて生き長らえさせようとした。
 夜になると、ヒツジ飼たちは、ヒョウは翌日には死んでしまい、危険はないだろうと思って、家に帰って行った。ところが、ヒョウは、最後の力を振り絞って、跳び上がると穴から抜け出し、全速力で自分の巣穴へと駆けて行った。
 それから数日後、ヒョウがやってきて、家畜を殺し、この前彼を打ち据えたヒツジ飼たちを猛り狂って引き裂いた。この前ヒョウを助けた人たちは、殺されるのではないかと恐怖して、ヒツジの群を引き渡すので、命ばかりは助けてくれるようにと懇願した。
 すると、ヒョウは彼らにこう答えた。
「私は、石を投げて命を奪おうとした者たちを覚えているし、食べ物を与えてくれた者たちのことも覚えている。だから、怖れることはない……私は石を投げつけた者たちに、仕返しに来ただけなのだから・・・・」

Pe494 Ph3.2 Cax4.5 TMI.B361 (Ph)


304.ロバと軍馬

ロバはウマが惜しみなく心をこめて扱われることが羨ましかった。
 一方自分は重労働なくして腹いっぱい食べることはまずありえなかったし、そうしてさえ十分ではないこともあった。
 しかし、戦争が勃発すると、重武装した兵士がウマに跨り、敵の真っただ中へウマを駆って突進して行った。そして、ウマは戦いの際に傷を負って死んでしまった。
 これら全てを見届けたロバは、考えを変えて、ウマを哀れんだ。

Pe357 Cha268 H328 BaP160 Hou78 TMI.J21201 (Ba)


305.ワシとワシを捕まえた男

 ある日のこと、ワシが人間に捕まり、羽を切り取られると、他の鳥たちと一緒にニワトリ小屋に入れられた。このように扱われて、ワシは悲しみで打ちひしがれていた。
 その後、隣人がワシを買い求め、もう一度羽を生えさせてやった。ワシは舞い上がると、ウサギに襲いかかり、恩人への贈り物として持っていこうとした。
 するとこれを見ていたキツネが声高に言った。
「この人の善意を耕しても仕方がない。それよりも以前君を捕まえた男の善意を芽生えさせよ。彼がまた君を捕まえ、羽を奪わぬようにね」

Pe275 Cha6 BaP176 TMI.B366 (Ba)


306.禿頭とアブ

 アブが禿頭に噛みついた。男はアブを殺そうと、ピシャリと頭を叩いた。しかし、アブはさっとよけると嘲るように言った。
「小さな虫が刺しただけなのに、あんたは命を奪おうと、とんだ復讐劇を企てて、自分で自分を痛めた日にゃどうするんだい?」
 すると男はこう言い返した。
「自分自身と和解するのは簡単なことだ。わざと痛めつけようとしたのではないことは承知しているからな。だが、たとえ痛い思いをしたとしても、お前のような、人の血を吸って喜ぶような不快で下劣な虫けらを、私はゆるしておけないのだ」

Pe525 Ph5.3 Cax2.12 Hou18 <Laf8.10> <Kur4.11> <J.index151> <Panca1.22> TMI.J2102.3
<KHM58> <今昔物語26-19> (Ph)


307.オリーブの木とイチジクの木

 オリーブの木がイチジクの木を嘲った。というのも、オリーブは一年中緑の葉をつけているのに、イチジクの木は季節によって葉を落とすからだった。
 すると、そこへあられが降ってきた。あられは、オリーブがたくさん葉をつけているので、そこにとりつき、そしてその重みで枝を折った。こうしてオリーブは、あっという間にしおれて、枯れてしまった。
 しかし、イチジクには葉がなかったので、雪は地面にそのまま落ちて行き、全く傷つくことはなかった。

Pe413a<413> H124 (Aphthonius)


308.ワシとトビ

 ワシが悲しみに打ちひしがれて、木の枝にとまっていた。
「どうして、そんなに悲しんでいるのですか?」一緒の木にとまっていたトビが尋ねた。
「わたしは、自分に合う連れ合いが欲しいのですが、見つからないのです」ワシがこう答えた。
「僕ではどうでしょう? 僕はあなたよりも強いですからね」トビが言った。
「あなたの獲物で、どうやって、生計が成り立つというのですか?」
「大丈夫ですよ。僕はしょっちゅうダチョウを鉤爪で仕留めて運び去るのですから」
 ワシはこの言葉に心動かされて、彼との結婚を承諾した。
 それからすぐ、結婚式が執り行われ、ワシがトビに言った。
「さあ、約束通り、ダチョウを捕まえてきて下さい」
 トビは空高く舞い上がった。しかし、持ち帰ったのは貧相なネズミ一匹だった。しかも、長いこと野原にうち捨てられていたらしく、臭いがした。
「これが、わたしに約束したものなの?」ワシが言った。
「できないことは百も承知だったが、約束しなければ、君のような王家の者と結婚するにはできなかっただろからね」

Pe574 PhP TMI.B282.2.1 (Ph)


309.ロバとロバ追い

 ロバが大通りを曳かれていたが、突然、深い崖の淵へと走り出した。ロバがその淵へ身を投じようとしているので、主はロバの尻尾を掴み、一生懸命引き戻そうとした。ロバはそれでも強情を張るので、主人はロバを放してこう言った。
「お前の勝ちだ。だが、勝ってもひどい目に合うのはお前の方だぞ」

Pe186 Cha277 H335 BaP162 TMI.J683.1 (Aesop)


310.ツグミと鳥刺し

 ツグミがギンバイカの実を食べていた。そして、その実があまりに美味しかったので、そこから離れようとはしなかった。
 鳥刺しはツグミを見つけると、葦の竿にトリモチをまんべんなく塗りつけ、ツグミを捕まえた。
 ツグミは、死の間際にこう叫んだ。
「ああ、私はなんて間抜けなんだろう! 僅かな食べ物のために、命を棄てることになるとは……」

Pe86 Cha157 H194 TMI.J651.1 (Aesop)


311.バラとアマランス

 庭に咲くバラの近くに植えられていたアマランスが、こんな風に言った。
「なんて、バラさんは美しいのでしょう。あなたは、神様や人間たちのお気に入り、私は、あなたの美しさや香しさを嫉んでしまいますわ」
 するとバラがこう答えた。
「アマランスさん。私の盛りは短いのです。無残につみ取られなかったとしても、萎んでしまう運命にあるのです。けれどもあなたは、萎むことはありません。永遠に若いまま咲き続けるのです」

Pe369 Cha323 H384 BaP178 TMI.J242.1 (Ba)


312.太陽に文句を言うカエル

 昔々のことである。太陽が、妻を娶ると発表した。するとカエルたちは、空に向かってわめき声を張り上げた。ジュピター神は、カエルたちの鳴き声のうるささに閉口して、不満の原因を尋ねた。
 すると一匹のカエルがこう言った。
「太陽は独り者の今でさえ、沼を干上がらせます。それが結婚して子供をもうけたりしたら、我々の未来はどうなってしまうのですか?」

Pe314 Cha127 H77 Ph1.6 Ba24 Cax1.7 伊曽保2.15 Laf6.12 TMI.J613.1 (Ph)



底本にしたのは、
Project Gutenberg aesop11.txt
Aesop's Fables Translated by George Fyler Townsend
訳に際して、意味の分かりにくい部分には筆を加えました。

主な参考文献:
イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫
イソップ寓話集 山本光雄訳 岩波文庫
新訳イソップ寓話集 塚崎幹夫訳 中公文庫 
イソップ寓話集 伊藤正義訳 岩波ブックセンター 
叢書アレクサンドリア図書館10 イソップ風寓話集 パエドルス/バブリオス 岩谷智・西村賀子訳 国文社 
吉利支丹文学全集2(イソポのハブラス) 新村出 柊源一 平凡社 
古活字版 伊曽保物語 飯野純英校訂 小堀桂一郎解説 勉誠社 
寓話 ラ・フォンテーヌ 今野一雄訳 岩波文庫
寓話 ラ・フォンテーヌ 市原豊太訳 白水社
クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫
アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
カリーラとディムナ 菊池淑子訳 平凡社
日本昔話通観 28 昔話タイプインデックス 稲田浩二 同朋舎
狐ラインケ 藤代幸一訳 法政大学出版局
知恵の教え ペトルス・アルフォンシ 西村正身訳 渓水社


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