朝靄の食卓。

「ったく、危なっかしいヤツだぜ、お前は」
 しなびたリンゴをかじりながら、ブライトがぼやくように言う。
「油断するから痛い目に遭う。……ま、目の保養にはなったが」
 彼は網膜に前日の光景を焼き付けていた。男の形をした若い娘の肢体に、血管の浮いた長大で赤黒い「男の肉体の一部」がまとわりついているその様を思い出し、北叟笑む。
「私はあなたを信頼しているのですよ。あなたが必ず助けてくれると信じているから、油断もできる」
 エルの微笑み。
 それは大理石の彫刻の物でも白磁の人形のそれとも違う、一人の少女の笑顔だった。
「……その油断を夜中の寝室でもしてくれてりゃぁ、夜這いのし甲斐もあるのにさぁ」
 ブライトは、ようやく腫れの引いた左頬と、まだだいぶ腫れている右頬とをさすった。


 End.

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