魅惑の 「おまえ、ドレスってヤツを、上から下まで正式に着たことがあるか?」
昼前、不意にいなくなったと思っていたら、日がとうに暮れてから唐突に戻ってきて、いきなりこれだ。
木賃宿の壊れかけたベッドの上で膝を抱えていた、エル・クレール=ノアールは顔をしかめた。
ブライト・ソードマンは、両手に一杯、なにやら布の固まりを抱えている。
真剣に、何かに悩んでいるようだ。
「上から下まで、というのは、どういう意味ですか?」
「コルセットからナニから、全部女物を着たことがあるか、ってことさ」
「ありますよ」
エルの「女装」を一度も見たことのないブライトだった。芳しい答えを期待していなかった無精ひげ面が、ぱっと明るくなった。
「じゃ、訊く」
抱えていた布の固まりを、エルが乗っているベッドの上に放り出した。
衣服であった。下品なデザインのドレスと、胴鎧のようなコルセットと、襞(ひだ)だらけのペチコートと、品の悪い靴下と、しわの寄ったリボン類。
彼はその布の山をかき回して、ようやく何かを見つけると、まじめな顔で訊いた。
「ドロワースってのは、みんなこんな風に股ンところを縫ってないものなのか?」
ごわごわした、縫製の良くないその肌着の、腰から突っ込んだ手を、両足の間に大きく開かれたスリットから突き出している。
「ふっ不潔……!」
二の句が継げない。その前に、右のストレートが繰り出されていた。
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