葉っぱドラゴンのおさんぽ


「緑色のドラゴンが来たんだ、首としっぽが長くて、ちっちゃな翼が生えてるの!」
 十五夜の晩の明けた朝、アース君はテラじいさんの背中にぽんと飛びついた。
「体中に洗濯物や垣根の板やバラのアーチやいろいろくっつけてて、ざわざわって音をたてて飛んで来て、でもすぐに帰っちゃった」
 瞳がきらきら。ほっぺはぴかぴか。
 テラじいさんは真っ白なひげをなでた。
「急いでばあさんにお弁当を頼んどいで。できたらすぐに、カヌーで湖に出かけよう」

 テラじいさんはオールで、すいすいと水をかく。アース君のオールは、ばちゃばちゃと水をかき回す。
 ゆっくり進んでお昼前、湖のちょうど真ん中の、小さな島までやって来た。
 小さな島は、小さな森。高い木低い木あつまって、大きなドラゴンを作ってる。
 緑のドラゴンのおなかには、長いハシゴがかかってた。小さなおじさんが大きなはさみを持って、よっこらしょっと登ってる。
 おじさんは森の床屋さん。ドラゴンの首の後ろ側、ちょっとでっぱってる枝を、はさみで切ってそろえてる。
 枝や葉っぱがぱらぱらと、湖の上に落ちてゆく。汚れたシーツや割れた板、花のしおれたバラの木も、みんな一緒に浮いている。
「やあ」
 テラじいさんが手をふった。
 おじさんはすまなそうに笑い返した。
「こいつ、満月になると、いつも浮かれて飛び立って、みんなに迷惑かけるから…」
 大きなはさみがヂョキンと鳴った。
 小さな翼がポトンと落ちた。
 アース君はさみしくなった。なんだかとても残念で、もったいない気分になった。
「次の十五夜は僕ンちに来れないんだね」
『仕方ないさ。今度は君から来ておくれ』
 翼のないドラゴンが、ざわざわっと笑った。