軍爭篇 第七 − 【軍爭篇 第七】読み下し文 【2】 BACK | INDEX | NEXT

2019/04/10 update

孫子曰く、
およそ兵を用るの法は、将、命を君より受け、軍を合し衆を聚め、和を交えて舎まるに、軍争より難きはなし。
軍争の難きは、迂をもって直となし、患をもって利となす。
故にその途を迂にして、これを誘うに利をもってし、人に後れて発し、人に先んじて至る。
これ迂直の計を知る者ものなり。

故に軍争は利たり、軍争は危きたり。
軍を挙げて利を争えばすなわち及ばず、軍を委てて利を争えばすなわち輜重捐てらる。
この故に甲を巻きて趨り、曰夜処らず、道を倍して兼行し、百里にして利を争うときは、すなわち三将軍を擒にせらる。
勁き者は先だち、疲るる者は後れ、その法、十にして一至る。
五十里にして利を争うときは、すなわち上将軍を蹶す。その法、半ば至る。
三十里にして利を争うときは、すなわち三分の二至る。
この故に軍に輜重なければすなわち亡ほろび、糧食なければすなわち亡び、委積なければすなわち亡ぶ。

故に諸候の謀を知らざる者は、予め交わることあたわず。
山林・険阻・沮沢の形を知らざる者は、軍を行ることあたわず。
郷導を用いざる者は、地の利を得ることあたわず。

故に兵は詐をもって立ち、利をもって動き、分合をもって変をなすものなり。
故に
その疾きこと風のごとく、
その徐かなること林のごとく、
侵掠すること火のごとく、
動かざること山のごとく、
知り難きこと陰のごとく、
動くこと雷震のごとし。
郷を掠むるには衆を分かち、地を廓るには利を分かち、権を懸かけて動く。
迂直の計を先知する者は勝つ。
これ軍争の法なり。

軍政に曰く、
「言うともあい聞えず、故に金鼓を為つくる。視すともあい見えず、故に旌旗を為つくる」と。
それ金鼓・旌旗は人の耳目を一にするゆえんなり。
人すでに専なれば、すなわち勇者もひとり進むことを得ず、怯者もひとり退くことを得ず。
これ衆を用うるの法なり。故に夜戦に火鼓多く、昼戦に旌旗多きは、人の耳目を変うるゆえんなり。
故に三軍には気を奪うべく、将軍には心を奪うべし。
この故に朝の気は鋭、昼の気は惰、暮くれの気は帰。
故に善よく兵を用うる者は、その鋭気きを避けてその惰帰を撃つ。これ気を治むる者なり。
治をもって乱を待ち、静をもって譁を待つ。これ心を治おさむる者なり。
近きをもって遠きを待ち、佚をもって労を待ち、飽をもって饑きを待つ。これ力を治むる者なり。
正々の旗を邀うることなく、堂々の陳を撃つことなし。これ変を治むるものなり。

故に兵を用うるの法は、
高陵には向むかうことなかれ、
丘を背にするには逆うことなかれ、
佯り北には従うことなかれ、
鋭卒には攻むることなかれ、
餌兵には食うことなかれ、
帰師には遏むることなかれ、
囲師には必ず闕き、
窮寇には追ることなかれ。
これ兵を用うるの法なり。

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九變篇 第八

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