「緊張している人」 − パスタ 【1】 BACK | INDEX | NEXT

2014/09/20 update

 彼女はまるでペナルティキックに立ち向かうゴールキーパーのようだった。
 両拳を握ったかと思うと、すぐに開く。そしてまた拳を固める。
 せわしなく上半身を左右に揺すり、時折首を傾げる。
 座り慣れているはずの椅子だろうに、尻の座りが決まらない。
 テーブルの上には大皿が一つ。盛られているのは小山のように盛り上がったスパゲティ。
 それをはさんで対峙する俺を、彼女は瞬きせずに見据える。
 睨まれている俺は今まさにシュートを放とうとするフォワードと言ったところか。
 小山のてっぺんにフォークを突き刺す。パスタが巻き取られ、ボールになる。
 俺はこのボールをゴールマウスではなくて自分口の中にねじ込まないといけない。
 彼女の「腕」はそれを阻止するのか、あるいは逆にアシストするのか。
 俺は素早くフォークを口に運んだ。
 パスタ玉から滴ったソースが、弧を描いて跳ねる。
 口腔の中でボールは解け、歯に当たり、はね回る。
 彼女は拳を握りしめ、身を乗り出し、言う。
「どう?」
 大きく目を見開いて、瞬きもせずに俺を見つめる。
 俺はのど仏を大いに揺らし、パスタ玉を胃の腑に落とし込んだ。
 そして舌先で唇を舐め、口笛を吹いた。
 試合終了のロングホイッスルを聞いた可愛いゴールキーパーは、椅子を蹴飛ばして立ち上がって歓喜のダンスを踊った。
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死を看取る人

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