意外な話 或いは、雄弁な【正義】 − 【12】

 ……そうですよ。件の殿様のご家来衆はみな忠義者だった。
 ああ、君の言うのはもっともです。確かに、現実には二心のある者も、少なからずいたことでしょう。殿様のお立場を考えれば、そう思った方が正しい。間違いなく、都の主上と繋がりを持っていた者が、殿様の周りには……と言うことは当然彼の子供の周囲にも、幾人もいたに違いありません。
 例えば……そう、奥方であるとか。
 ああ、なんと恐ろしいことを私は考えているのか。
 夫を見張る妻、妻を信用できない夫。互いの心持ちを互いに、そして周囲に、ほんの少しも感じさせない夫婦。
 その夫婦を、この世で一番のおしどり夫婦だと信じていた浅はかな子供。
 万一これが事実そうだったとしても、なんておぞましい。考えるだに気分が悪くなる。
 ……ああ、有難う。この宿の井戸水は、格別に美味しい。飲めば心が洗われるようです。
 あの頃のあの子供はにはこんな感情は無かったことでしょう。少なくともこの頃のまだ幼かった御子の目には、みな忠義者と映っていたのですから。
 良く言えば真面目すぎるが故に疑うことを知らなかったということでりましょうが、それにしても浅はかに過ぎました。
 仕方ないと思ってください。何分子供のことです。……本当に、仕方のないことです。



2015/07/28update

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まろやか連載小説 1.41
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