まま逃走する……。
この舞踊の筋立てこそが、すなわちハーンとギュネイの「公式見解」ということだ。
初代皇帝はたしかに略奪者であったが、その略奪によって姫は巨悪から救われたのだから、むしろ讃えるべきである。
為政者たちは民衆に対して無言のメッセージを送り、それを広めようとしている。
その証拠に、この演目は誰もが上演することが許されている。それも時を問わず、場所を問わず、である。
めでたい婚礼の席でも、真夜中の神殿の拝殿でも、葬儀の最中でも、皇帝の演説中であっても、唐突に突拍子もなく舞うことが許可されている。
見事に演じきれば、演技者は喝采を受け、皇帝直々に褒美を与えられる。
しかし。
この演目は公文書管理庁が発行する楽譜と台本が唯一無二の演出法とされており、筋立てを改変することは許されない。
筋立てどころか、伴奏がほんの少し音程を外しただけでも、舞い手がほんのわずかステップを踏み間違えただけでも、演技者総てとその三族が捕縛され、投獄される。
運が悪ければそのまま一生日の光を浴びられぬまま、死を迎えることになりかねない。
故に、このリスクの高い演目を非公式に演じようという者はまれだった。
結果としてこの舞踊は、すみれの月スカディの日に帝都専用劇場でのみ演じられる特別なものとなっている。