いにしえの【世界】 − 忠臣 【12】

さがれた。同時に、仕掛けたイーヴァンからも気に喰わぬ小僧の姿が見えなくなった。
 決して、でたらめな攻撃ではない。
 飛び散った埃から逃れようとするならば、左右どちらかか後ろに飛び退くか、目を閉じ、腕をかざして避けるかしなければならない。
 前の策を採れば反撃のタイミングがずれる。後の策を採れば次の攻撃を見極めることができなくなる。
 エル・クレールの背後には、突然の乱入者におびえるシルヴィーが居る。飛び退くとすれば左右のどちらかの、空間がより広く空いている側となろう。
 イーヴァンの血走った眼球は右側に動いた。
 少年顔をした細身の剣士がそちらに移動した気配はない。
 となれば、標的は同じ場所に止まり、土埃の中で目を閉じ顔を覆っているに違いない。
 はたして、埃の向こうにうずくまる人影がうっすらと見える。
「おおぅ!」
 若い貴族は策の成功と勝利を確信し、雄叫びを上げながら勢いよく踏み込んだ。長剣は再び弧を描いて振り下ろされる。
 剣が硬いものに当たった。
 鞘に収まった一振りの細身の剣が見えた。イーヴァンの太い剣と垂直に交わった形にあてがわれている。
 障害にはならなかった。こともなく両断してなお、剣の勢いは増した。そのまま叩き付ける。
 床に二つめの穴が開いた。
 再び湧き上がった砂埃の中から、細い物が飛び出した。
 イーヴァンの目は、反射的にその物体を追っていた。
 細身の刀の鞘だ。半分に両断された石突の側だけが、軽い音を立てて床に落ちた。
 鞘の断片は床の上を回りながら滑り、中身を吐き出した。
 剣の切っ先の形をした、茶褐色の木ぎれだった。
 イーヴァンは驚愕をそのまま声にした。
「木刀だと!?」
 昼間、チビ助(エル・クレール=ノアール)はあの剣で己の攻撃を受け止めた。あの剣で己の剣を押し戻した。
「木刀で、だと!?」
 もう一度叫んだ。
 目玉を土埃に戻した。小柄な影がうずくまり、震えている。
 土煙が徐々に収まったその場所にあったのは、細く、華奢な踊り子の蒼白な顔だった。
「なッ……おおぅっ!」
 イーヴァンの喉から苦痛の声が絞り出された。上腿に激痛を感じる。
 下を向いた。筋肉の膨張した太腿から、質素な作りの刀の柄が突き出ていた。
 見覚えがあった。
「チビ助の、刀!?」
 イーヴァンは叫んでいた。
「刺さっているのか? 木刀だぞ!? 木切れが、私の身体に……俺の筋肉にっ!?」
 白金色の光の束が、身体の横を通過するのが見えた。
 イーヴァンは首を回し、その影を追った。
 青い上着の裾がちらりと見える。エル・クレールの服だ。
 信じがたかった。
 おそらく自分よりも年下で、間違いなく自分よりも腕力のない小僧が、彼の予測を遙かに超えた力量と動きを見せたことが、イーヴァンには理解できない。
 言いようのない屈辱を己に感じさせているのは、本当にあのチビ助なのか? 信じられるものか、この目で見るまでは――。
 身体ごと振り向こうとする動きは、しかしすでに封じられていた。
 背中に何かが押し当てられている。硬く尖った切っ先が、衣服の上から背の皮膚にちくりと刺さる。
 肋骨の少しばかり下だ。切っ先の向けられた先には、肝臓がある。
 刺し貫かれれば、ただでは済まない。
 動けない。
 イーヴァンは息を呑んだ。
 肩越しに背後を窺い見ると、丸く小さな肩と、そこから繋がるほそやかな腕が漸く見える。
 そして長い髪が、水にさらしたヘンプの色の髪が、光をはじいて揺れていた。
「君、痛みを感じるのですね?」
 エル・クレールが問うた。
「自分でやってお


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