ヴァンには量りかねる。それがまた口惜しい。
「私はあの小僧よりも強い。あの場は突然で真の力が出なかった。本気であれば……」
「……お前は今頃血の海の底だわよ」
グラーヴ卿はうっすら微笑んだ顔をイーヴァンの鼻先にまで近づけた。
「わ……私をお見限りですか? 私よりあのチビ助を……」
屈辱と嫉妬に震えるイーヴァンの唇を、卿の薄い唇が塞いだ。
柔らかな皮膚と甘い香りに包み込まれる快楽を感じた直後、イーヴァンの喉の奥に小さな何かが落ちた。
それは始めは小さくひんやりとした塊だったが、彼の喉の粘膜に触れたところから硬さを失ったかと思うと、蝋のごとくに溶けた。
形を失い、どろりと広がったそれは、食道を焼き、胃の腑を焼いて流れる。
イーヴァンの身体はばたりと床に倒れ伏した。全身から噴き出した汗は、すぐさま蒸発してゆく。痛みのあまり声は出せず、胸を掻きむしり、悶え苦み、しかし彼は飲まされたものを吐き出そうとはしなかった。
その様を、グラーヴ卿は微笑みつつ眺めていた。
「そう。アタシはあのおチビさんとその連れの男が、とっても気になるのよ」