ものですから、長者は痛さのあまり豆のサヤがはじけたときのような勢いで身を起こしました。
長者の頭は、テーブルの天板の裏側にぶつかりました。
あんまり勢いよくぶつかったものですから、テーブルは大きな音を立ててひっくり返りました。
テーブルがひっくり返ったものですから、テーブルの上にあった物も全部ひっくり返りました。
パンが転げてぽとん。
チーズが転げてごろん。
ワインがこぼれてばしゃん。
スープがこぼれてびちゃん。
お皿が割れてぱりん。
コップが割れてがちゃん。
料理は全部で百人分。
お屋敷から追い出された料理長が、追い出される前に作り上げた、百人分のご馳走が、転げてこぼれて散らばって、全部が大きな音を立て、全部が床に広がって、全部がダメになってしまいました。
村で一番の金持ち長者は、真っ暗闇の中でただただ口をぽかんと開けておりました。
お腹がぐぅと悲鳴を上げましたが、食べるものはありません。
「ああ、お腹が空いた、ああ、腹が減った」
長者はがっくりと肩を落とし、床にぺたんと座り込みました。
灯りも火もないお屋敷は、深々と冷えております。立派な石を敷き詰めたお屋敷の床は、氷のように冷えておりました。
村で一番の金持ち長者のおしりがじんじんと冷えました。
痺れるような冷たさは、脚をつたってつま先に届き、背骨をつたって頭の先に届き、腕をつたって指先に届き、あっという間に体全部が氷のように冷えてしまいました。
「ああ、冷たい、ああ、寒い」
村で一番の金持ち長者はもたもたと立ち上がりました。足元の床にはお皿や食べ物が散らかっています。
パンが蹴飛ばされてぽとん。
チーズにつまずいてごろん。
ワインの壺を踏みつけてばしゃん。
スープの皿に足を突っ込んでびちゃん。
お皿の欠片がぱりん。
コップの破片ががちゃん。
料理は全部で百人分。
長者の足はぶつかったり、ひねったり、刺さったり、切れたりしてできた、赤いあざに青いあざに、刺し傷に切り傷で赤黒くなりました。
長者はつまずかないように踏みつけないようにぶつからないように引っ掛からないように気をつけて、壁に手を付いて、そうっと歩きました。
ようやっと廊下に出ますと、指の先になにやら当たりました。
暗闇に目を凝らしますと、それは古い壁掛けの燭台でした。尖った先端に蝋燭の燃えさしがこびりついております。
長者は大変よろこんで、火を付けました。
小さな小さな明かりが点きました。手に持てば足元が見えず、床に置けば手元が見えない程に小さな灯でしたが、長者は少しだけからだが温かくなった気がしました。
「温かいところはないか? 温かい物はないか?」
長者は燭台を手に持って長い廊下を歩き始めました。
ところが、急いで歩きますと、小さな灯が大きく揺れて、今にも火が消えそうになりました。
「消えてしまう、消えてしまう」
そこで、ゆっくり歩きますと、小さな灯は大きくなって、すぐにも蝋が燃え尽きそうになりました。
「消えてしまう、消えてしまう」
長者は早く遅く、遅く早く、壁伝いに廊下を進みました。
足は冷たくて痛くて、手も冷たくて痛くて仕方がありません。
どれほど歩いたのかさっぱり判りませんが、ようやく長者は、どこかの部屋にたどり着きました。
小さな明かりを掲げて部屋を照らしますと、たくさんの織物がたくさんの山になって積まれているのが見えました。
「これは助かった。この布を着込めば、寒くなくなるに違いない」
大喜びで真っ暗な部屋の中に飛び込んだ長者は、高