浄財箱の方に顔を向けていました。
遠くの人にも近くの人にも金色に光るお金が箱の中に落ちてゆくのが見えたからです。
「金貨をあんなにたくさん寄進するなんて、あの方はなんと立派な人だろう」
村一番の金持ち長者にはささやく声が聞こえました。長者はにんまりと笑いました。
古ぼけた銅貨を古くなった葡萄のお酢で磨き上げて、金貨のようにピカピカ光るお金にする方法を知っているのも、この村では長者だけです。
他の人には、そんな方法を知る必要がありませんでしたから、当然のことでした。
さて、たくさんの人たちの目を自分に向けさせた長者は、襟を正して胸を張って祭壇の前へ行きました。そうして、恭しく頭を下げますと、大きな身振りと大きな声でお祈りを始めました。
神殿はお祈りをする場所ですから、お祈りならば大きな声を出しても怒られません。逆に、神官も僧侶もその他の人たちも、熱心にお祈りをする信心が深い人だと思うことでしょう。
本当に信心深い人ならば、それは本当に良いことなのですけれども、村一番の金持ち長者は本当に信心深い人とは違っておりました。でもどのように違っているのか、誰にも判りませんでした。村一番の金持ち長者自身も違いがちっとも判っていないのですから、仕方がありません。
長者は大きな声でお祈りの文句を叫び、大きな身振りで拝礼をしました。
「なんて熱心なお祈りをする、偉くて立派な人だろう」
村一番の金持ち長者にはささやく声が聞こえました。長者は、顔が上を向いている間は真剣な顔をしていましたが、顔が下に向いた途端ににんまりと笑いました。
地面にひれ伏していた長者は、にんまり顔をきゅっと引き締めてから、とってもゆっくり頭を上げました。
すると、祭壇の上の方から光がすぅっと一筋、降りてきました。
村一番の金持ち長者が目をパチパチしばしばさせますと、祭壇の上に人の姿をした光が立っているのが見えました。
「有り余るものの中から僅かに捧げた巡礼者に、神様のお告げがあります」
人の姿をした光が、威厳ある人のように言うので、長者は驚いてどすんと尻餅をついてしまいました。
人の形をした光が、
「あなたの財産はあなたの片方の掌の中に握っていられる分と同じほどになります」
と言いましたので、村一番の金持ち長者は驚いて今度はポンと飛び起きました。
「私にはたくさんの財産があるのに」
長者が言いました。片方の掌の中に握っていられるだけの財産といったら、どれほど少ないものでしょう。
「これまでの行いと、これからの行いに正しい報いを」
光の人が言いました。
「どんな報いもあるはずがない」
長者が言いました。悪いことなどしていないのだからと言いかけましたが、恐ろしくて口から言葉が出ませんでした。
「神様のお告げを信じないのですか?」
光の人が怒ったような声で言ったからです。
村で一番の金持ち長者が自分の体を抱えて震えていると、光の人は優しい声で
「さあ、目を覚ましてあなたの友人があなたにしてくれたことに感謝をしなさい。神様は例え誰一人として見ておらず知ることのなかったことでさえも、よくご覧になってよく知っておられます。正しいことには正しく報われ、正しくないことには厳しい報いがあるでしょう」
そう言うと、光の人はすぅっと消えてしまいました。
光の人が消えるのと同じに、神殿の中の明かりもすぅっと消えてしまいました。
薄ぼんやりとした赤い闇が、長者の回りに漂っております。形のあるものは何も見えません。それは、まるで光の中で目を閉じているような景色でした。
村で一