夏休みの前から夏休みの終わりまでの話。 − 【32】

するするすとんと喉の奥に落ちていった。
「ふわぁあ!」
 龍の口からは感動の声と、桃の甘い匂いがあふれ出た。
 彼は矢継ぎ早にお皿の桃を口に運んだ。そうして、飲み込むたびに桃味の息を吐き出す。
 お皿はあっという間に空っぽになった。
 龍は果汁が弾く小さな光の反射を、名残惜しくじっと見つめて、言った。
「僕は、嫌われっ子の方が好きだ」
「ありがとう」
 小さな声で「トラ」が言う。彼女は黒目がちな瞳を潤ませて、にっこりと笑っていた。


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2015/09/26update

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まろやか連載小説 1.41
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