夏休みの前から夏休みの終わりまでの話。 − 【44】

兄さんはちょっとだけ笑った。
 龍もちょっと笑った。「トラ」がものすごくたくさんのことを知っている理由が解ったのと、彼女にも判らないことがあるらしいことが知れたので、大分ホッとしたからだ。
 でもシィお兄さんの笑顔はすぐに消えて、ちょっと悲しそうな顔になった。でもその顔も深呼吸でするふりをして、すぐに消してしまった。
「小学校に上がる前には、あの子は漢字博士になってたよ。だから読めちゃったんだ……一番新しいお墓になんて書いてあるか」
 龍は唾を飲み込んだ。膝の上でげんこつを握りしめた。靴下の中で足の指を全部縮めた。
 全身が硬くなった。
 鼻腔の開いた鼻の奥で、古い本の甘い匂いがした。
 凍り付いた耳元で、水が渦を巻く音が聞こえた。
 頭の中が真っ白になって、目の前が薄暗くなった。


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2015/10/05update

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まろやか連載小説 1.41
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