そのひさしの中側で、年をとった女の人がわぁわぁと叫んでいるのだ。
女の人はお婆さんと言ってもいいくらいの痩せたお年寄りで、薄い緑の混じった灰色のきれいな着物を着ていた。
お婆さんは教頭先生のスーツの襟を掴んで、泣きながら何かを訴えている。
他の先生達や、保健室の先生達もそこに集まってきていて、どうやらみんなでお婆さんを説得したり慰めたりしている様子だった。
それを登校してきた生徒達が遠巻きに眺めている。校舎の窓から下を見ようと身を乗り出している者もいて、先生や上級生に注意されたりもしている。
龍はその人垣の一番後ろのから、背伸びをしながら様子をうかがった。
お婆さんは小さくて悲しそうな声で、何かを言っている。教頭先生はお婆さんの話を聞き、首を横に振ったり、縦に振ったりしている。
他の先生のうち、何人かが校舎の中に出たり入ったりして、どこかに連絡を取っているようにも見えた。
残りの先生達は、集まってきた生徒達を注意したり怒ったりしながら、その場から立ち去らせようとしていた。
時々咳き込んだりするお婆さんの背中を、保健室の先生がなでたりもしていた。
教頭先生や保健室の先生がお婆さんに何を話しているのかまるで聞こえないのだけれど、お婆さんがその場を動こうとしないということは、説得しても納得してもらえていないと言うことだろう。