お姫様が「にっこり笑った」というのに驚いたからだ。
彼は、暗くて冷たい穴の底で、静かに笑うお姫様の顔を想像した。
真っ白で、大人びて、頭の良さそうな笑顔。
パチパチと何度も瞬きをして、コツコツと何度も頭を叩いて、何回も想像をし直したのだけれど、どうしてもそのお姫様の顔が「トラ」の顔になってしまう。
「トラ」の顔をしたお姫様は、「トラ」の声で、穴の底からこう言うのだ。
『さあ、早く土を被せなさい。私の父が、人柱が変わっていることに気付く前に、穴を埋めてしまいなさい』
龍はもう一度机に突っ伏した。そして両手で両耳を塞いだ。
わーんというノイズが耳の中で響く。その雑音の向こう側で、校長先生の声は続いた。