慌て者の黒騎士の話 − 【1】

右左、辺りを見回すそのために、マントなびかせ背伸びする。
 びゅうと風吹き風はらみ、マントはなびいて膨ららんで、バタバタ震えてそのうちに、煽られ飛ばされ黒騎士は、谷の底へと落ちたとさ。

 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。

 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
 小鳥がさえずり言うことにゃ、
「暑い暑い砂漠の果ての、
 高い高い砂山に、
 お姫様が捕らわれて、
 石のベッドに石の枕、
 横たえられて眠ってる。
 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
 慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、鉄鎧を身につけて、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた砂の原。
 逸る気持ちにせかされて、砂地に飛び降り砂面を走り、
「前へ前へ」
 とひた走る。  
 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。
 眼前迫る砂の丘、
「止まれ」
 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、小山のてっぺんに飛び上がる。
 慌て者の黒騎士は、砂山を探して右左、辺りを見回すそのために、鎧を軋ませ背伸びする。
 雲無き空と砂地から、太陽熱波が照りつけて、汗をだくだくそのうちに、蒸して渇いて黒騎士は、倒れて砂に飲まれたとさ。

 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。

 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
 小鳥がさえずり言うことにゃ、
「荒れた荒れた海果ての、
 小さな小さな島の小屋に、
 お姫様が捕らわれて、
 石のベッドに石の枕、
 横たえられて眠ってる。
 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
 慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、立派な長槍ひっ抱え、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた岩の島。
 逸る気持ちにせかされて、海に舟出し嵐の中を、
「前へ前へ」
 と漕ぎ進む。  
 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。
 眼前迫る島の岸、
「止まれ」
 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、岩場のてっぺんに飛び上がる。
 慌て者の黒騎士は、小屋を探して右左、辺りを見回すそのために、長槍立てて背伸びする。
 黒雲雨雲裂け目から、ぴかりと光った雷鳴が、尖った槍のその上に、めがけて落ちて黒騎士は、打たれて海に落ちたとさ。

 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。

 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
 小鳥がさえずり言うことにゃ、
「遠い遠い国境の、
 可愛い可愛い離宮に、
 お姫様が住んでいて、
 綿のベッドに羽根の枕、
 横たえられて眠ってる。
 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
 慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、豪華な衣裳を身に纏い、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた小宮殿。
 逸る気持ちにせかされて、御門を駆け抜け扉を抜け、
「前へ前へ」
 と突っ走る。  
 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。
 眼前迫る大広間、
「止まれ」
 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、ひな壇のてっぺんに飛び上がる。
 慌て者の黒騎士は、姫様探して右左、辺りを見回すそのたびに、衣裳の袖裾広がって王様王妃の頬を打つ。
 王様怒って兵を呼び、ぞ


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