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Νεκρός Όνειρα-ねくろすおーにら-

これらの短文はみな「いつか見た夢物語」です。
実在する人物場所組織などとは一切関係ありません。
今宵も良い夢を見られますように……。
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  【こんな夢を見た】
Date: 2017-01-25 (Wed)
サイドカー付のモンスターバイクが、突然私の店の前に止まりました。
ライダーは俳優のU氏で、後部のシートに「兄弟分」のM氏が乗っておられました。
M氏はいそいそと降車し、楽しそうに私の店の中を覗かれました。
「何かお探しですか?」
私がお訊ね致しますと、M氏は嬉しげにお笑いになり、
「この店にね、真田幸村の缶バッチがたくさんあると聞いてね」
と仰いました。
私は店にあるだけの缶バッチを並べました。
ニコニコと笑いながら品物を選んでいるM氏のお顔は、その半分から喉のあたりにかけて、肌が酷く荒れて赤黒く爛れて、もう半分も肌色が大変にお悪い様子でした。
「ご病気だと伺っておりましたが?」
おそるおそるお伺いしましたところ、
「うん、外出の許可が出てね」
嬉しげにお笑いになったM氏は、
「昔、真田幸村の役を演ってね」
「はい、存じ上げております。拝見させて頂きました」
「うん。それでね、そのとき“兄ぃ”に頼み込んで兄貴の役をやって貰ってったんだ。だから外出許可が出たら、“兄ぃ”と一緒にゆかりの地を廻ろうと思ってね」
そう仰ると、M氏は結局の所、お出しした缶バッチの全部の種類を一つずつ、お買いあげになりました。
M氏が懐に手をお入れになった時、U氏がその手を押さえて、
「ここは俺が出すよ。この旅は、お前の退院祝いじゃないか」
ご自分の札入れをお出しになったU氏は、優しげに頬笑んでおられましたが、私に代金をお渡し下さった時には、大変寂しそうな、お辛そうなお顔をなさっておいででした。
「ああ、すまないねぇ。そういうことなら遠慮なく乗っかるよ」
M氏は嬉しそうに、本当に嬉しそうにお品を胸に押し抱いて、
「じゃあね、また来るよ」
軽く左の手を挙げて、U氏と連れ立ってお店の外へお出になりました。
私も、お見送りをしようと、その後について外に出ました。
サイドカーの中におられた大御所歌手のK氏が、お二人を満面の笑みでお迎えになり、
「さぁて、次はどこへ行くんだい?」
と謡うように仰いました。
M氏はU氏に背負われるようにしてバイクにお乗りになり、もう一度、
「じゃあね、また来るよ」
と、私に手を振ってくださいました。

サイドカー付のモンスターバイクは、吼えるような排気音を残して、あっという間に、どこかへ行ってしまいました。


……そんな夢を見た。

年末年始があんな感じだった為、初夢的なものを見ぬままに来たのですが、今朝方ようやく夢らしい夢を見ました。
松方弘樹兄貴と梅宮辰夫兄貴がウチの店にいらっしゃるという内容です。
これだけですと #真田幸村の謀略 の謀略っぽいですが、北島三郎御大もご一緒だったので、多分違うと思います。

— 神光寺かをり(銭さん家) (@syufutosousaku) 2017年1月8日


http://https://twitter.com/syufutosousaku/status/817993920130863104

  【こんな夢を見た】
Date: 2016-02-17 (Wed)
どうしてもあちらの方へ行かなければならないのです。
日の沈むあの方角へ。
でもココは見知らぬ道筋で、このまま進んで良いのかどうかもわかりません。
といっても、白壁の土蔵造りの建物が右にも左にもぎっしりと立ち並んで、右に折れる筋も左に折れる角もないのですから、ただまっすぐ進むより他に手だてがないのですけれども。

どれほど進んだことでしょう。
不意に、右手の白壁が途切れていることに気付きました。
ちょうど家一軒ほどの空き地に、背の高い、名も知らぬ稲科の植物らしい草が、一面風にそよいで揺れているのです。
その向こう側に、知っている家並みによく似た道筋があるように思えましたので、草をかき分けてそこへ入って行きました。
進んで行きますと、空き地の突き当たりには金網の柵が張ってあって、見覚えのありそうな道筋に直接は出られそうにありませんでした。
首を振ると、右手に一段高い盛り土があるのが見えました。
その上に三階建てほどの、銀色の骨組みばかりの櫓じみた物がありましたので、上ってみることにしました。

階段は螺旋のようで、一階と二階と三階の区別もなく、上へ上へと昇って行きます。
ふと下を見ますと、盛り土の下の草むらの辺りに、大きな蠅が幾匹も幾匹も羽音を立てて旋回していました。
金網の向こう側をのぞき込みますと、確かに細い道があるのですが、ホンの五公尺も行った先で、背丈の三倍ほどもある赤い岩が、道も建物も覆い隠していました。

この道は進めない――。

あきらめて目を転じますと、櫓の二階の辺りに白黒の模様の大貓熊が二頭折り重なっているのが見えました。
その脇には、真っ白な柯莫コ熊が一頭、俯しています。
どちらも本物のように見えました。ただ二つともぴくりともしないのが気がかりでなりません。
この三頭の大きな生き物が、果たして眠っているのか、あるいは息をしていないのか、それとも本物のようなぬいぐるみなのか、はっきりと区別ができません。
本物のようなぬいぐるみに違いない、と自分に言い聞かせ、大きな蠅を手で払いながら、櫓を転がり降りて、草を掻き分け、元の道へ駆け戻りました。

空き地を振り返りますと、櫓の二階の柯莫コ熊が、顔をこちらに向けておりました。
目が黒々としております。

右へ向き直ったその先にある、赤い鉄の細い橋を渡れば、その場所に着くでしょう。

どうしても前へ踏み出してくれない左右の足を引きずって、背中に誰かの視線を思いながら、私は、知らない道を日の沈むあの方角へ歩いて行くのです。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2015-08-27 (Thu)
今日の晩餐は私の手料理です。

ネットで見付けたレシピですけど、あなたの好みに合うように、和風仕立てにアレンジしてみました。
お出汁をたっぷり、醤油をちょっぴり、味醂をほんのり。
たっぷりのキャベツと一緒に、圧力鍋でじっくりと火を通したから、骨まで柔らかくなっていますよ。

どうしたのですか?
さあ、遠慮をなさらずに、お上がり下さいな。
どうか食べて下さい、私の手料理を。
爪の先まで、余すことなく。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2014-09-01 (Mon)
高い椰子の木を見上げていた。
濃い緑色の葉が傘のように開いているその頂点に、明らかにその木の枝葉ではない、黄緑色の小さな木の葉の群れが茂っていた。
「アレは何だろう」
疑問を口に出すと、椰子の向かいの家の家主に招かれた。
三階の小窓から見ると、あの椰子を見下ろすことができるのだという。

畳敷きの天井の低い部屋の、出窓風な小さな窓を開けると、確かに椰子の木を見下ろすことができた。
椰子は隣家のブロック塀の際の灰色い道ばたから、真っ直ぐ生えていた。
まるで、電柱を見下ろしている気分だった。

椰子の葉の傘の上に「生えて」いたのは人参と苣だった。
厳密に言えば、椰子の木の上に拭かれた板張りの脇に据えられたプランターに人参と苣が「生えて」いたのだ。

五十糎四方ほどの板張りの上には、二羽の茶色い兎がいた。
どうやらつがいらしい。
ひくひくと鼻を動かし、ひょこひょこと狭い板の上を動き回り、もぐもぐと人参の葉を食べている。

「あの子達はどうやってあそこに?」
私が尋ねると、家主は首を捻った。
「さてねぇ。最初からいましたから」
「あの葉っぱが無くなったらどうなるのですか?」
疑問が溢れて止まらない。
「さてねぇ。最初から生えていたから」
「あの子達に子供が生まれたら、どうなるでしょう?」
不安がよぎる。
「さてねぇ。板の上が兎であふれかえるかも知れないねぇ」
「もし、子兎があふれて、落ちたら?」
胸騒ぎが止まらない。
「さてねぇ。たぶん数が減るんでしょうねぇ」

兎たちはひくひくと鼻を動かし、ひょこひょこと狭い板の上を動き回り、もぐもぐと苣の葉を食べていた。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2014-04-16 (Wed)
耳が聞こえない。
風の音も、君の声も、自分が運転する自動車のエンジン音も耳に入ってこない。

だが目は見えている。
たった今通り過ぎた信号が赤であったと認識できたのだから、間違いはない。
そして、目の前の信号も赤であると理解できているのだから、間違いはない。

耳が聞こえない。
風の音も、君の声も、自動車同士が衝突した破壊音も耳に入ってこない。

だが目は見えている。
「対向車」の紺色の軽自動車の、銀色のフロントグリルがぐにゃりと曲がっているのが認識できたのだから、間違いはない。
その車から降りてきた、リクルートスーツの女性が、能面のような白い顔で携帯電話を操作しているのが理解できているのだから、間違いはない。

耳が聞こえない。
風の音も、君の声も、自分の心臓の音も耳に入ってこない。

そして、目が見えなくなった。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-12-04 (Wed)
疲れ果て、倒れ込むようにして夜具に収まる。
灯りを消し、まぶたを閉じた。

降り積もった枯れ葉の下から、真っ白な草鞋虫が無数に這い出てきた。

目を開けた。
皺の寄った敷布とタオル地の枕カバーは、カサカサともワサワサとも言わない。

今私は再びまぶたを閉じることを拒んでいる。


……これが夢だったのか、判らない。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-11-28 (Thu)
古い家が取り壊された。
棲んでいたモノ達は身の隠し所を失って、あちらこちらに迷い込んでいる。
皆、戸は閉め、窓に目張りをし、排水穴に蓋をした。
しかしそれは入ってくる。
きいきい、かたかた、がりがり、ごそごそ、ざわざわ。
我が家にもとうとう来たらしい。
寝入り端に、小さな影が目の前を横切った。
行く先を目で追う。
床の間の柱の陰に気配があった。
床柱に飛びかかる勢いで布団をはね除ける。
幅木がぼろぼろに食い散らかされていた。
土壁もぽっかりと大穴が空いている。
それほど大きなモノであったのかと、ふるえながら穴をのぞき込んだ。
穴の向こうに部屋があった。
あの古い家の、懐かしい子供部屋が。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-11-28 (Thu)
母方の遠い親戚の葬式だという。
両親はいつも私の都合など関係なく呼び出すから困る。
突然のことで、喪服の準備もできない。
嫁いで実家を出ている私が、グレーのハイネックのセーターのまま父の運転するバンに押し込められただけならばまだしも、同居の弟まで平服のまま困惑しているのは、さすがに問題だと思う。
日頃父と折り合いの悪い弟は、濃紺のズボンに白いシャツ一枚のまま、ふてくされて、一言も口を利かない。
葬式だから陽気に振る舞う必要がないのは、好都合だった。
我が家はそろって仏頂面を並べて、式場の後ろの方に座り込んだ。

焼香をすませ帰ろうとすると、どういった訳かお斎によばれた。
不祝儀だって包んでいないも同然だというのに。
いや、そもそも私は誰の葬式であるのかも知らないのに。

是非に是非にと連れて行かれたのは、山奥の墓地の脇にある小屋のようなところだった。
暖房器具らしきものはない。
コンクリートの床と薄板の壁から、冷気がじわじわと室内にしみこんでくる。
会議室にあるような古い長テーブルの上には、冷え固まった握り飯と、白いキャップのペットボトルのお茶が並べられていた。
周囲に見知った顔は一つとしてない。
私と弟は無言でパイプ椅子に座っている。
そこへ顔も名前も存じ上げない従姉妹だというご婦人が寄って来た。
「あなたのお母さんから、いつもあなたの自慢話を聞いているのよ」
にこにこ笑っている。
それにしても、親などというモノは、なんでいつでもよけいなことをするのだろう。
あなたの娘のどこに自慢があるというのか。
間違いを広められては困る。
文句を言ってやろうと母の姿を探すが、無い。
弟が不機嫌そうに出口を指した。
「便所だって。親父と一緒に車で出ていった」
「トイレならここにだってあるじゃないの」
壁には青いマークの扉だけが幾つも並んでいる。
訝しんで、従姉妹女史に尋ねた。
「女子トイレは、どこでしょう?」
「確か、町の入り口まで下っていかないと無いのよ。不便ねぇ」
かわいらしい桜色の笑顔を見て、弟の顔色は青くなった。
「親父らが戻ってこないと、オレらも帰れない」
彼の身震いとため息を聞いた途端、私は膀胱のあたりに重さを感じた。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-10-03 (Thu)
風呂蓋を開けると、一番風呂のまっさらな湯の水面に一匹の小蟲が浮かんでいた。
長さ三cmほどもある、御器噛の幼虫だ。
手桶ですくい取って捨てた。

湯面に目を移すと、また小蟲が浮いている。
今度は三匹。やはり三cm前後の御器噛と羽虫と雲母虫らしい。

はて、御器噛はともかく、羽虫や雲母虫はこれほど大きかっただろうか。

いや、大きさなどこの際どうでも良い。
ともかく捨てねばならない。
蟲の浮いた湯に入るなどまっぴらだ。
ぴくりとも動かない蟲たちを周囲の湯ごと手桶ですくって捨てた。

湯面に目を移すと、また小蟲が浮いている。
ゆらゆら揺れる透明な湯の表面全体を隙間なくびっしりと、動かない蟲たちが埋めている。
御器噛、羽虫、雲母虫、竈馬、大蚊、麦蛾、透翅、暝蛾、白火取、虫引虻、草鞋虫、団子虫、馬陸、百足……。
すくっては捨て、すくっては捨て、すくっては捨てた。

すっかり蟲たちをよけつくしたあと、湯は半分以下に減っていた。
浸かると温度も冷め切っている。

息を吐き、ふと湯船の底を見ると、何か白い物が沈んでいた。
手桶ですくい上げると、手のひらほどの大きさの半透明の凝膠の固まりだった。
中に、一頭の一角馬がいた。
凝膠を割いて取り出したが、身動き一つしない。
手桶のまま戸外へ出した。

やがて一角馬は身震いとともに立ち上がった。
身にこびりついた凝膠の断片を振り払うと、細い足を小刻みにふるわせながら、手桶から飛び出してあたりを駆け回っていた。

私は湯船の中からそれを眺めている。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-23 (Mon)
ある人はお花畑だという。
あるいは走馬燈だという。
私には万華鏡でのぞき込んだステンドグラスに思えた。

音のない真っ暗闇の中、おそらく上だとおぼしき方角に、原色の細かい光のかけらがモザイクのようにいくつも組み合わさって、大きな円を描いていた。
光は彼方で輝いている。
暖かい色なのに、熱が感じられなかった。
無数の色はこちらに降り注がず、私の体はあの光に照らされることがない。
手を伸ばしても、あの場所には届かない。
無数のきらめきは、遙か上空で私を拒絶している。

やがて光は静かに動き始めた。
ゆっくりと、私から離れていって行く。
色とりどりの光はついにまぶしい白の点になり、見えなくなった。

きらめく光の届かない深い闇の底で私のそばに残されたのは、粘った液体が細い管を流れるザァザァという耳障りな音だけだった。

点滴とカテーテルと拘束帯で白いベッドに縛り付けられた日に、そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-23 (Mon)
活火山でも休火山でも死火山でもない。
小学生が遠足で登るような、ただ隆起しているだけのありきたりの山が、突如として噴火した。
揺れも轟音も熱も、前触れの一つもない。
灰色の噴煙などは一筋も上がらない。
山頂はただひたすらに燃える火山弾を吐き出していた。
大きく丸く、真っ黒が表面のヒビの奥に赤く溶けたマグマを覗かせた岩の固まりが、音もなく飛び交っている。
一抱えもある大岩が、こちらにまっすぐ向かって来くるのが見えた。
鋼板の波板の、小学校の渡り廊下のような屋根の下に逃げ込むと、今立っていたその場所に、件の大岩が落ちた。
ごろりと僅かに転がって、内部のマグマの赤い色をこちらに見せつけた岩は、恨めしそうに炎を吹き出して燃えている。
空はどこまでも青く、雲はどこまでも白かった。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-19 (Thu)
引越し先は、山の中腹の一軒家だった。
古く、大きな家だ。元は地元の名士の屋敷だったという。
継ぐものがいなかったため長く放置されていたのを、どういう伝手があったものか我が家のような貧乏人が住むことになった。
玄関を入ると、けやきの一枚板の衝立がてらてらと油びかりを放ちながら出迎えてくれた。
中に入れば、達筆すぎて読めない書額が部屋ごとに掲げられており、立派な螺鈿細工の座卓が鎮座し、分厚い座布団が並べられている。
どうやら前の住人の荷物がそのまま残っているようだ。あまり気味の良いものではない。
しかしそこは貧乏人の貧乏な根性というもので、家財を新調しなくて済むことはたいそうありがたく思えた。
建物は平屋だったが、納戸代わりの屋根裏があるというので、急な階段を登ってみた。
電灯のたぐいは無いはずだが妙に明るい。床には相当な埃が積もっているのに、空気に埃臭さはなかった。
古い家具が林のように並び、明日からでも民宿が営めるほど大量の布団の山がそびえている。
太くて立派で曲がりくねった梁をくぐり、奥へと向かうと、布団山の陰に籐の椅子が一脚あった。
背筋に冷たいものを感じた。
足元を、黒っぽく、生暖かい、ヌメッとした小動物が走ってゆく。
ソレが籐椅子の下でキィキィと鳴いている。
恐る恐る――ある種の期待を持ちつつ――覗きこんだ。
……そこには地元の名士の母親の枯骸が……ありはしなかった。
この世の中、思ったような事変は、簡単に起こったりしない。
安堵と拍子抜けを合図にして、尿意が襲ってきた。
面倒なことに、お手洗いの出入口は家の外にある。
脚を震わせながら階段を降り、玄関を出、家の周りをぐるりと半周して、板戸の前にたどり着いた。
臭突の天辺で、風力換気扇がカラカラと回っている。
ドアを開けると板張りの床に、ぽかんと四角く穴が切られていた。
ここにしゃがみこんで用を足すという式らしい。
四角い穴の下には水が流れている。
その水は、正面の壁下に小さく繰り抜かれた窓の外の、轟々と流れる用水に流れ込んでいた。
何よりもまず、トイレの改修が必要だ。
私は穴の上にぺたりと尻を落として、息を吐いた。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-18 (Wed)
その文学賞は、公募ガイドにも文学賞告知サイトにも載っていない。
大賞を取ったところで賞金も副賞もなかった。
入賞作は「ある文芸誌」に掲載されるが、それに対して稿料どころか謝礼の図書券もが出ることもない。
名誉という形のないメダルだけが授与される、そんな賞だった。
知る人ぞ知る、知らぬ者はまるで知らない、しかし私のようなワナビ……作家になりたくてなりたくて仕方のない素人……と、出版業界に住まう人々の間では評判が高く、一種の権威のようになっている。
紙上で評判となれば、ベストセラー作家の仲間入りが約束されるという。
しかし、何かしらヘマをやらかせば「文壇」から永久追放されるという話だ。

その文学賞が特に面白いのは、投稿規約の緩さだった。
作品が未発表である必要もない。寧ろ同人誌や自分のウェブサイトに掲載されているモノの方が喜ばれるぐらいだ。
唯一厳しいのは「同一作品を複数回投稿してはならない」ということ程度で、それ以外の決まりはない。
投稿方法も簡単だった。
文学賞のウェブサイトのメールフォームに、筆名と作品名とURLを入力して送信するだけ。
それで入賞すれば、紙の本になる。
競争率は高いのだろうが、そんなことはどうでもいいことだ。
私は自分が書いたものを端からメールフォームに入力し、送信ボタンを押し続ける。
すべての簡単な作業を終え、私は本屋へ向かった。
古書店の奥で「ある文芸誌」のバックナンバーが埃をかぶっている。
何年も前に発行された雑誌の、黄変したページをめくった。
細かい文字がみっしりと詰め込まれた薄い紙の上に、私の名が、私が書いた文章が、印刷されている。
つい先ほど、メールフォームから投稿したあの作品の――。

規約を破ってしまった。
もうこれでプロの作家には成れない。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-18 (Wed)
家族が多いのにトイレは一つしかない。
争奪戦が……特に朝方に……起こるのは必然だろう。
私がトイレの座を手に入れ安堵して座り込んだところへ妹が現れた。
切迫しているのが目に見えて解る。
「すぐに退くから」
慌てて腰を浮かそうとすると、
「いいよ、こっちを使うから」
彼女は私が座る便座の対面に置かれていた、白くて真四角な樹脂製の箱を持ち上げた。
その移動可能な簡易便器には、数日分の誰かの糞尿がつまっているはずだ。
たぷたぷと音を立てながら歩いて行く妹の背を、私は呆然と見送った。
「転ばなければいいけれど」


……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-17 (Tue)
博物館は、電車で二駅先にある。
駅に降り立つと、目の前には高い金網とナイター照明がそびえていた。
照明の柱の根本に、博物館があった。
小さな、民営の博物館だ。古びた機械と古びた部品が、いくつもいくつも展示されている。
どの機械もどの部品も、大切に保存されている。
空気の動かない箱の中で、暗い明かりにぼんやりと照らされ、ピンで固定されて、ぴくりとも動かない。
油と埃の混じった甘いにおいのする博物館だった。
見学を終えて駅に向かうと、駅員が戸締まりをしていた。
「もう電車は終わりです」
私はバス停に向かった。
時刻表にはセルに何も入っていない表が貼られている。
歩いて帰るより他にないらしい。
車通りの無い道の片側は大きな工場に面していて、高いコンクリートの壁が長々と続いている。
道の反対側には金網のフェンスがあり、ナイター照明の柱が林立している。
歩いても歩いても、ずっと工場の壁と高い金網のフェンスが続く。
やがて工場の敷地が終わり、交差点が現れた。
三叉路だった。
前に進むか、右に折れるか。
私は工場の裏門あたりに立っていた従業員らしき男性に訊いた。
「○○に帰るにはどちらに行けばよいですか」
「あちらですよ」
男性が指し示したのは元来た道だった。
「夕ご飯までに帰れるかしら」
私は金網フェンスとコンクリ壁の間の道をずっと歩いた。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-17 (Tue)
私は高校生だ。
一度卒業しているのに、もう一度入学した、二度目の高校生だ。
そして今日、二度目の卒業に関わる大事な試験を受けている。
一度卒業できたのだから、二度目だって簡単だと高をくくって、試験用の勉強など一切していない。
だから当然、どうにも問題が解けない。
時間は過ぎるのに、答案は白紙のまま。
「お前は留年だ」
そう言う担任に、私はどうしても今年卒業しなければならない、と力説した。
もう一年仕事を休んで学校に通うだけの経済的余裕はないのだ。
「ならば退学してしまえ」
にべもなく、言い切られる。
私は肩を落として、教室を後にした。
校舎の一番東の端は小講堂だ。壁三面に硝子窓が入っている。
右手の窓からは第二校舎の昇降口が見下ろせる。
左手の眼下には校庭が広がっている。
真正面にはヒマラヤスギの並木のとがった先端が見えた。
杉の枝が右に左に、大きく、千切れんばかりに揺れている。
やがてバラバラと音を立てて空気が振動した。
耳を手で覆いふさぎ、右側の窓の外を見た。
AH-1Zヴァイパーがホバリングしている。
所属を表すマークも識別番号もない真っ黒なヘリコプターは、機体を斜めに傾けて、ゆっくりと校舎に近づいた。
メインローターが窓に接触した。硝子が切り刻まれる。
とがった破片がキラキラと宙を舞った。それはやがて地面と、そこに立つ人々の上に降り注ぐのだろう。
二〇ミリ機関砲が盛んに弾丸を吐き出すと、床のコンクリートがリノリウムの皮膜をまとったままはじけ飛んだ。
私は腰をかがめ、物陰に隠れながら逃げ出した。
担任が青い顔をしてわめき散らす。
「こっちに逃げろ、こっちに逃げろ」
手招きに応じて、私は走った。
そして心から安堵した。
「ああ、これで学校が無くなって、留年の心配をしなくて済む」
背中に破壊音を浴び、どこまでもどこまでも闇の中を下り続ける階段を転げ降りながら、私は笑いをかみ殺している。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-16 (Mon)
一つ二つ年上の先輩だった。
長く患っているというのは聞いていたが、そこまで酷いとは知らなかった。
手足は枯れ木のようで、肌も茶色く干涸らびている。
目は落ちくぼみ、鼻は高さを失って、口元には歯が一本もない。
ただ髪だけが依然と同様につややかに黒々と長いのが不思議だった。
「お墓に入るのにも医者の診断書がいるのだって。一目瞭然のことなのに、何をするにも紙切れがいるだなんて、本当に困っちゃうわ」
先輩は皮膚をひび割れさせながら笑った。
「そんなわけだから、私を医者に連れて行って欲しいのよ。だって私には『足』が無いんだもの」
そして先輩は、私のボロ軽貨物自動車のハッチバックドアを開けた。
もとより人の乗り降りするドアではない。踏み台も何もなく、段差も大きい。
先輩の枯れ木の手足には当然その段差を上る力などない。
上ったところで、固まった関節を曲げることだってできないのだ。
それでも無理矢理に体を収めようとするので、私は慌てて手助けをした。
……つもりだったが、寧ろじゃまをしたようなモノだった。
私が後ろから押すと、先輩の足は奇妙にねじれ、乾いた音と埃を立てて折れ落ちた。
「あら、本当に足がなくなっちゃった」
先輩は喉をヒュゥヒュゥと鳴らした。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-16 (Mon)
強盗団のリーダは拳銃を持っていた。
人質達はひとかたまりになってふるえている。
私はどうしても助かりたかった。
だから、他の人質達を出し抜いて、強盗団に取り入ることにした。
裏切り者となじられながら、私は強盗団のリーダーにぬかづいたのだ。
人質達の罵詈雑言など、私の耳には入らない。
私は生きなければならない。生きて帰らなければならない。
そのためだったら、何だってしてやろう。
私はおびえるばかりの人質達を罵った。
「莫迦共め、愚か者共め! 弱虫共、意気地無し共め!」
つばをまき散らして品無くわめいた後、私は精一杯の笑顔を強盗団のリーダーに向けた。
直後、額が銃口の冷たさを感じた。引鉄にかかった指がゆっくりと収縮して行く。
ああ、死ぬ。脳漿をまき散らして、醜く死ぬ。
私は目をつぶって叫んだ。
「神様、懺悔します」
鉛玉が私の頭の中を突き抜けて行った。

こんな夢を見た自分が情けなく、恥ずかしく、憎らしくてならない。

私は泣いた。声を上げて泣いた。
泣き顔を埋めた布団は、涙と血と溶けた脳髄で汚れていった。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-16 (Mon)
父は兎に角食事のマナーがなっていない。
汁はずるずると啜るし、モノを咬めばクチャクチャと音を立てる。
何にでも七味をふりかかけては、辛みに当たって大きくくしゃみをする。
当然、口を覆うようなことはしない。
そうやって、よくわからない飛沫をあたりに飛び散らせる。
大体、食事時に新聞ならばまだしも、本を読むというのが、私には気にくわない。
それも私の本を。
今朝も父は分厚い本を膝の上に開いて朝食を摂っていた。
ずるずる、クチャクチャと音を立て、挙げ句箸先で文字を追っている。
新品のハードカバーの百科事典。私の気に入りの歴史の巻。
私が開かれたページをのぞき込むと、遺跡の発掘調査風景の写真が載っていた。
その墳墓に埋葬されていたのは、高貴な人であったらしい。
粘土質の土に埋まった茶色い頭蓋には緑の錆が浮いた金属が巻き付いている。
父は茶色の中に空いた二つの黒い穴に箸先を付き込んだ。
箸を引き抜くと、その先に茶色くて丸くて大きなカルシウムの固まりが刺さっていた。
「こうなっちまうと、偉いも偉くないもねぇな」
父は唾を飛ばしながら笑い、それを床に投げた。
それは粘土をこぼしながら転がって、玄関から飛び出し、側溝の泥の中に落ちた。
本当に、父は食事のマナーがなっていない。

……そんな夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-16 (Mon)
君と町一番の商店街を歩いていた。
アーケードの上の空は、紫色に暮れている。
交差点の向こう側に、パラボラアンテナをたわわに実らせた電波塔が、影の色で立っていた。
ふいに、腹に響く大きな音がした。
「ああ、あの飛行場に降りるのだね」
街路樹の上を指す君の示指の先に、大きな飛行機がいた。
「あっちに飛行場なんてあったかしら?」
私が首をかしげると、君は不思議そうな顔をした。
「戦争中に作ったのがあるじゃないか」
「あれはずいぶんと昔、戦争が終わったときに無用になったからと廃止したじゃないですか」
「だから、最近使い始めたのだよ……また入り用になったからね」
君は意地悪に笑ったあと、ぽつりと付け足した。
「撃墜されなきゃいいね」
ああ、君の言葉は『フラグ』だ。
紫がまだ赤みを帯びている高い空から、尾を引いた火がまっすぐに落ちてくる。
私は顔を覆ってしゃがみ込んだ。
指の隙から空を見ると飛行機のいた場所には黒い煙があった。
その中心から、私たちのいる方向に、長細いモノが回転しながら吹き飛ばされてくる。
太くて立派な、一本の脚が。

……そんな、夢を見た。

  【こんな夢を見た】
Date: 2013-09-16 (Mon)
実家に戻ると、「これから葬式だ」と告げられた。
「誰の葬式か」と問うたのだが、答えてくれない。
質問を「私はなにをすればいいの?」に変えると、答えはすぐに返ってきた。
「お前の車で火葬場へつれて行け」
「誰を?」
当然のことを聞くよりも前に、葬式の主役が私のオンボロ軽自動車の後部座席に乗せられていた。
見も知らないがどうやら親戚であるらしい。
物言わぬ親戚氏は、生白い肌に白い手術着のようなモノを着ていた。
狭い車内に親戚氏を押し込んだ誰かが、いらついた声を上げる。
「お前も手伝え」
私はその親戚らしき人の冷たい体にシートベルトをたすきがけにした。
親戚氏の体には張りも力も無く、四肢や首はだらりとしている。
シートに縛り付けられてうつむいた無言の人を乗せて、私は車を発進させた。
車の幅より細い小路を抜けて、児童公園を突っ切り、川を飛び越える。
車は揺れる。親戚氏の体からクタクタと水っぽい音が立った。
ルームミラーで親戚氏の顔色を窺いながら、
『そう言えば火葬場はどっちの方角だろう?』
私はぼんやりと不安な考え事をしていた。

……そんな、夢を見た。

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