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「やっぱり取り憑かれた!?」
 膝をふるわせる悠助の情けない顔をじっと見て、光輝は首を小さく横に振った。
「取り憑かれたという言葉が適切だとは思えないな。『オバケ』のネットワークの中で『あいつは美味い』って噂が広がっている、とでも言った方がしっくり来る。あいつ等にとって大きなエネルギーを持っている存在は、美味そうな食べ物で、特に君のように生命力にあふれた人間が好みらしいから」
「好物って!?」
「今までも奴らはどうにかして君からエネルギーを奪おうとしていた。でも運が悪いというか良いというか、君の周りには彼らを実体化させられるほど高度な計算能力を持ったコンピュータが無かったから、さっきみたいな直接的な攻撃ができなかった。それでも何とか君と接触しようと彼らなりの努力を行なった結果……」
「俺はトラブル続きだった、ってことか?」
 悠助は光輝がこの質問に否定的な答えを返してくれることを願っていた。
 彼にだって、今までの話の流れから言って、そんなことはあり得ないということはおおよそ見当が付いていた。
 そして予想通りに彼の願いは叶わなかった。
 小さく、しかしはっきりとうなずいた光輝は、
「困ったことにあいつ等は生き物からエネルギーを吸えば実数の存在になれるって、厄介な勘違いをしているんだ。虚数に実数を乗算しようが加算しようが実数にはなれないのに」
 と付け足した。
 その「説明」を、悠助は理解できなかったし、理解するつもりもなかった。
 悠助の目と声と腕は華奢なクラスメイトにすがりついている。しかし光輝は彼の手を引いたり、立ち上がる手助けをしようとはしなかった。
 ただにっこりと笑って、言う。
「君は奴らに『好かれて』いる。言ってみれば、君の存在は奴らにとっては『焼き肉無料食べ放題』なんだ。何しろ君の生命エネルギーは、奴らのもっとも好む波長で、しかも相当に強い」
 何かを叩くコツリという小さな音がした。光輝が音のした方向に目をやったので、悠助もその視線の後を追った。
 真田の指先が、キーボードのエンターキーから離れてゆくと同時に、モニタにワイヤフレームモデルが映し出された。
 人間の形をしたその3Dグラフィックの横には、棒やら折れ線やら円やらのグラフが幾つか並んでいた。
 グラフはことごとく「通常値」を大きく超えた数値を表していた。
 人間型のグラフィックが自分を示していることに気付いた悠助は、グラフの数値にとどめを刺されたような気がした。
 ギザギザの波形がメモリを突き抜けているグラフらしいものの隣に立つワイヤーフレームの「悠助」は、とうぜん中身が空っぽで、本物の悠助の目に頼りなく見えた。
 薄ら寒いモノを感じ、彼はモニタから目を背けた。目玉の動いた先に光輝の笑顔があった。
「まあ、そういった訳だから、君をこのまま釈放することはできない。多分、君の生命力に惹かれて実体化する『オバケ』がこれからも相当数出てくるだろうからね。その状態で君が僕たちの監視下から離れたら、その時こそ君の言うところの『取り憑かれた』状態になる訳だ。しかも、その『オバケ』は君だけでなく、君の周囲にいる人たちにも悪影響を及ぼすだろう」
 光輝の声は耳障りの良い優しい音だったが、口調は冷たくて断定的だった。
 その後ろから、ねっとの声が続く。
「ま、キミは一匹や二匹に吸われたって死にはしないでしょうけど。でも『オバケ』が実体化するときに生じる空間歪みに、キミ以外の人間が巻き込まれたら、危ないかもね」
 悠助が頭を持ち上げると、彼女は彼を見ておらず、持っていたマイクから出る短いコードを指先でもてあそびながら、真田の机の上のモニタを眺めていた。
「冗談じゃない。それじゃ俺は、ずっとこんな場所に閉じこめられるってのかよ」
 ようやく反論じみたことを喉から絞り出した悠助だったが、その声音は弱々しく頼りない。
「別に何処に行ってもらっても構わない」
 応えたのは、真田だった。
 だが続く言葉は、悠助を安堵させる物ではなく、それどころか光輝までもある種の不安に陥らせるものだった。
「君はウチのおみつの目の届く範囲であれば何処にいても構わない」

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