地形篇 第十 − 【地形篇 第十】読み下し文 【2】 BACK | INDEX | NEXT 2019/05/16 update |
孫子曰く、地形には、通なる者あり、挂なる者あり、支なる者あり、隘なる者あり、険なる者あり、遠なる者あり。 我れ以て往くべく彼れ以て来たるべきは即ち通なり。 通なる形には、まず高陽に居り、糧道を利してもって戦わば、すなわち利あり。 もって往くべく、もって返り難きを挂という。挂なる形には、敵に備えなければ出でてこれに勝ち、敵もし備えあらば出でて勝たず。もって返り難くして、不利なり。 我れ出でて不利、彼も出でて不利なるを支という。支なる形には、敵、我れを利すといえども、我れ出ずることなかれ。引きてこれを去り、敵をして半ば出でしめてこれを撃つは利なり。 隘なる形には、我れまずこれに居らば、必ずこれを盈たしてもって敵を待つ。もし敵まずこれに居り、盈つればすなわち従うことなかれ、盈たざればすなわちこれに従え。 険なる形には、我れまずこれに居らば、必ず高陽に居りてもって敵を待つ。もし敵まずこれに居らば、引きてこれを去りて従うことなかれ。 遠なる形には、勢い均しければもって戦いを挑み難く、戦えばすなわち不利なり。 およそこの六者は地の道なり。将の至任、察せざるべからず。 ゆえに兵には、走なるものあり、弛なるものあり、陥なるものあり、崩なるものあり、乱なるものあり、北なるものあり。 およそこの六者は、天の災にあらず、将の過ちなり。 それ勢い均しきとき、一をもって十を撃つを走という。 卒強くして吏弱きを弛という。 吏強くして卒弱きを陥という。 大吏怒りて服さず、敵に遇えば懟みてみずから戦い、将はその能を知らざるを崩という。 将弱くして厳ならず、教道も明かならずして、吏卒常なく、兵を陳ぬること縦横なるを乱という。 将、敵を料ることあたわず、小をもって衆に合い、弱をもって強を撃ち、兵に選鋒なきを北という。 およそこの六者は敗の道なり。将の至任にして、察せざるべからず。 それ地形は兵の助けなり。敵を料りて勝ちを制し、険阨・遠近を計るは、上将の道なり。 これを知りて戦いを用うる者は必ず勝ち、これを知らずして戦いを用うる者は必ず敗る。 故に戦道必ず勝たば、主は戦うなかれというとも、必ず戦いて可なり。 戦道勝たずんば、主は必ず戦えというとも、戦うなくして可なり。 故に進んで名を求めず、退いて罪を避けず、ただ民をこれ保ちて利の主に合うは、国の宝なり。 卒を視みること嬰児のごとし、故にこれと深谿に赴くべし。 卒を視みること愛子のごとし、故にこれとともに死すべし。 厚くして使うことあたわず、愛して令することあたわず、乱れて治むることあたわざれば、譬えば驕子のごとく、用うべからざるなり。 我が卒のもって撃つべきを知るも、敵の撃つべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。 敵の撃つべきを知るも、我が卒のもって撃つべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。 敵の撃つべきを知り、我が卒のもって撃つべきを知るも、地形のもって戦うべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。 故に兵を知る者は動いて迷わず、挙げて窮せず。ゆえに曰く、彼を知り己を知れば勝乃ち殆うからず。 天を知り地を知れば勝乃ち窮まらず。 |
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