付き従いて…… − 序 【1】 BACK | INDEX | NEXT 2014/09/20 update |
美しい声が聞こえた。 その声が己を呼んでいる。 薄闇の中、そっと手を伸ばすと、柔らかな乙女の頬に触れた。 思わず、抱きしめた。 と。 簡雍かんよう憲和けんかの頬に、弾けるような痛みが奔った。 「そんなにおなごの肌が恋しいのなら、妻を娶ったら良いでしょう?」 美しい声と、激しい痛みの元が言う。 大あくびをした簡雍の、霞んだ目に、ぼんやりと、若い官吏の姿が映った。 「阿花(あか)、お前さんが嫁いできてくれるって言うんなら、考えてやってもいいがね」 「阿花と呼ぶのは、やめてください。大体、私に『寧国(ねいこく)』という字あざなをくれたのは、叔父上でしょう?」 背が高く、華奢で、童顔の頬に新しい刀傷が痛々しく残る若者が、ため息を吐いた。 「子供扱いしなければ、嫁にきてくれるかね?」 無精ひげの中に埋没した口元に、にやけた笑いを浮かべる簡雍に、若い官吏……の衣服を着た娘が、ぴしゃりと、 「父上に聞いてください」 「ちっ。雲長(うんちょう)兄ぃが愛義娘(まなむすめ)を俺にくれるはずがねぇ」 簡雍は大きく伸びをして、寝台から起き上がった。 「伯父上……いや、主公(との)がお呼びです。軍議が始まりますよ」 王索(おうさく)寧国はにっこりと笑った。 |
Copyright Shinkouj Kawori(Gin_oh Megumi)/OhimesamaClub/ All Rights Reserved
このサイト内の文章と画像を許可無く複製・再配布することは、著作権法で禁じられています。