て者の黒騎士のお話を。
ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
小鳥がさえずり言うことにゃ、
「暗い暗い森の奥の、
深い深い龍の巣に、
お姫様が捕らわれて、
石のベッドに石の枕、
横たえられて眠ってる。
ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、夕刻一番に剣を持ち、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた龍の谷。
逸る気持ちにせかされて、剣を振り振り馬腹を蹴って、
「ハイヨー(進め)、ハイヨー(進め)」
と青毛を煽る。
叫ぶ黒騎士に急かされて、青毛は常歩速歩駈歩と、勢い上げて突き進む。
眼前迫る龍の鱗、
「ドウ(止まれ)」
の一声言い忘れ、襲歩の勢いそのままに、前へ前へと突き進む。
慌て者の黒騎士は、剣を構えて龍の尻に、ごつんとぶつかり、落ちたとさ。
龍は驚きぎゃーぎゃー啼いて、足踏み腕降り首振って、地面も風もぐらぐらと、揺れて震えてそのうちに、しっぽで地面を打ったとさ。
暗い暗い森の奥の、深い深い龍の巣の、石のベッドに石の枕、囚われていた姫様は、鱗と爪としっぽと足が、暴れた下敷きになったとさ。
さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。
ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
小鳥がさえずり言うことにゃ、
「茂り茂った藪の奥の、
寒い寒い古城に、
お姫様が捕らわれて、
石のベッドに石の枕、
横たえられて眠ってる。
ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、夜一番に松明を持ち、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた藪の山。
逸る気持ちにせかされて、剣を振り振り馬腹を蹴って、
「ハイヨー(進め)、ハイヨー(進め)」
と青毛を煽る。
叫ぶ黒騎士に急かされて、青毛は常歩速歩駈歩と、勢い上げて突き進む。
眼前迫る藪茂み、
「ドウ(止まれ)」
の一声言い忘れ、襲歩の勢いそのままに、前へ前へと突き進む。
慌て者の黒騎士は、松明掲げて彼藪に、ごつんとぶつかり、落ちたとさ。
火の粉は散ってぱちぱちいって、枯葉に枯れ草枯れ枝と、そこもかしこもめらめらと、燃えて移ってそのうちに、お城は火の海の底に落ちたとさ。
茂り茂った藪の奥の、寒い寒い古城の、石のベッドに石の枕、囚われていた姫様は、梁と煉瓦と焼けぼっくい、崩れた下敷きになったとさ。
さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。
ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。
小鳥がさえずり言うことにゃ、
「険しい険しい崖の上の、
古い古いお屋敷に、
お姫様が捕らわれて、
石のベッドに石の枕、
横たえられて眠ってる。
ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」
慌て者の黒騎士は、早速直様逸早く、立派なマントを翻し、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた白い崖。
逸る気持ちにせかされて、岩に飛びつき割れ目を掴み、
「上へ上へ」
とよじ登る。
自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。
眼前迫る長上に、
「止まれ」
の一声言い忘れ、全速力の勢いで、崖のてっぺんに飛び上がる。
慌て者の黒騎士は、屋敷を探して