海岸線が遠くへ去っていった。
こんなに早く引く潮は、今まで誰も見たことがない。
魚たちも初体験だったのだろう。波に乗りきれなかった群れは、濡れた砂浜の上で呼吸を封じられ、もがき、死んでいった。
「今夜は魚のスープね」
スカートの裾を広げて、女が言った。
「市場に持っていけば、いくらかになる」
男がバケツを持って駆け出した。
人々は息を弾ませ、争って魚を拾い上げている。
目の前にあるのは白く湿った砂。頭の中にあるのは幸せな食卓。
水平線の向こうでせり上がる茶色い水など、彼らには見えなかった。
やがて波を避けきれなかった人々は、濁った水の水の中で呼吸を封じられ、もがき、死んでいった。