歩き始めました。
二人が神殿に着いた頃には、もう朝のお祈りの時間はとっくに終わっていました。村の人たちはおくれてやってきた老夫婦にちょっと頭を下げて、先に家に帰って行きます。
人がいなくなった祭壇の前に行くと、老夫婦は辺りを見回してから、二人で一つのお財布を裏に返しました。中から銅貨が一枚きり転がり出ましたので、ふたりはそれを、浄財箱の中にそうっと入れました。
老夫婦は杖を床において、床の上に直接ひざまづきました。お祈り用の敷物がなかったからです。それから目を閉じ、手を合わせました。
おじいさんは歯のない口の中でもぐもぐとお祈りをしました。
「どうか私の奥さんが、元気で長生きできますように」
おばあさんも歯のない口の中でもぐもぐとお祈りをしました。
「どうか私の旦那さんが、元気で長生きできますように」
二人はほとんど同時にお祈りを終えて、ほとんど同時に目を開けました。ほとんど同じことをお祈りしていたから、ほとんど同じに、とってもゆっくりと立ち上がりました。
すると、祭壇の上の方から光がすぅっと一筋、降りてきました。
老夫婦が目をパチパチしばしばさせますと、祭壇の上に人の姿をした光が立っているのが見えました。
「持てる財産の総てを捧げた巡礼者に、神様のお告げがあります」
人の姿をした光が、威厳ある人のように言うので、老夫婦は驚いてどすんと尻餅をついてしまいました。
人の形をした光が、
「あなた方の子孫は大いに祝福されます」
と言いましたので、老夫婦は驚いて今度はポンと飛び起きました。
「私たちには子供はいません」
おじいさんが言いました。
「これから生まれる子供らと、そのまた子供らに祝福を」
光の人が言いました。
「私たちは年寄りです」
おばあさんが言いました。とても子供は産めませんと言いかけましたが、恐ろしくて口から言葉が出ませんでした。
「神様のお告げを信じないのですか?」
光の人が怒ったような声で言ったからです。
老夫婦が抱き合って震えていると、光の人は優しい声で
「さあ、帰ってあなた方の畑の一番日当たりの悪いところに、あなたの持っている煎り豆を一粒まいて、あなたの持っているチーズの上澄みを振りかけなさい。神様は例え火を通した豆に酢っぱい水をやったとしても、それを芽吹かせ、茂らせ、咲かせ、実らせることができます。それが証です」
そう言うと、光の人はすぅっと消えてしまいました。
老夫婦はがたがた震えて抱き合ったまま、ガクガクした足取りで神殿から出て行きました。杖を拾うのを忘れてしまうほど、恐れおののいていたのですが、二人は寄り添ったまま、ゆっくりゆっくり家に帰りました。
古ぼけた石の壁の小屋に帰り着きますと、老夫婦は這うようにして畑へ行きました。そうして、狭い畑の中で一番日当たりの悪い、一番石ころのごろごろしたところを掘りました。
老夫婦はお互いの顔を見合わせました。しわしわで真っ白な顔をしています。
おじいさんが煎った空豆を一粒埋めました。
おばあさんが煎った豆に痩せた土をかぶせました。
おじいさんは地面をじっと見ました。おばあさんもじっと見ました。なにやら土が動いた気がしたからです。
「気のせいだったかな?」
「気のせいだったでしょうか?」
二人ほとんど同時に言いました。
ですが、すぐに二人はお互いの言葉が間違っていると気付きました。
確かに、土の塊がひとつまみ、こそっと動いているのです。
地面の下から突っつかれ、出っ張って、ぽこりと小さな山ができました。
老夫婦は顔を寄せ、地面をのぞ