いる。
『めずらしいなぁ。あいつが宿題わすれてくるなんて。でも運がいいや。自習の時間ができたんだもの』
龍はその生徒の隣の席に自分の図書袋をおいて、書架に向かった。
低学年用の絵本や、絵本ではないけど同じくらい絵の多い本が詰まった低い棚の向こうに、伝記や課題図書が並んだ棚があって、そのまた向こうに百科事典が並んでいる。
龍の足は、その重たそうな棚よりももっと向こうへと進んでいた。
そのあたりの冷たい空気は、少しほこりっぽくて、ほんのりと甘い匂いがする。
棚の柱のところに「地方史(ふるさとの歴史)」と書かれた、茶色にくすんだシールが貼ってあった。
天井までぎっしりと本が詰まった棚だった。
詰まっている本は、どれもこれも古くさくて、どれもこれも読めない漢字の並んだ題名が書いてあった。
龍は、住んでいる町の名前が書かれていて、できるだけ薄くて、できるだけ新しそうな本を選って、ぎゅうぎゅうの本棚から抜き出した。
相変わらず算数ドリルをやっているAの隣の椅子に戻ってくると、龍は持ってきた本の一冊の、目次のページを開いた。
算数ドリルの回答ページよりも小さな文字がズラズラ続いている。
龍の目は、その読みづらくて読めない文字の上を直滑降で滑っていった。