兄さんはちょっとだけ笑った。
龍もちょっと笑った。「トラ」がものすごくたくさんのことを知っている理由が解ったのと、彼女にも判らないことがあるらしいことが知れたので、大分ホッとしたからだ。
でもシィお兄さんの笑顔はすぐに消えて、ちょっと悲しそうな顔になった。でもその顔も深呼吸でするふりをして、すぐに消してしまった。
「小学校に上がる前には、あの子は漢字博士になってたよ。だから読めちゃったんだ……一番新しいお墓になんて書いてあるか」
龍は唾を飲み込んだ。膝の上でげんこつを握りしめた。靴下の中で足の指を全部縮めた。
全身が硬くなった。
鼻腔の開いた鼻の奥で、古い本の甘い匂いがした。
凍り付いた耳元で、水が渦を巻く音が聞こえた。
頭の中が真っ白になって、目の前が薄暗くなった。