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探偵小説は一種の知的ゲームである。いや、それ以上に―スポーツである。したがって、探偵小説を書くのにあたっては、とても厳格なルールが存在する。もちろん、成文化されてはいないけれども、拘束力にはかわりがない。自他ともに認める、偉大なミステリー文学の書き手はみなこのルールを守っている。それゆえ、ここに私の”信条”としているルールを書く。このルールは、推理小説に貢献したすべての作者の慣習と、私の内なる良心に基づいて決めたものである。それを以下に記す:
[注1]ギリシャ劇で、混乱した筋を解決するため登場する神。
S.S. Van Dine(以下ヴァン・ダインと表記)、本名Willard Huntington Wrightは、1939年4月11日に、冠状動脈血塞のために、51歳で亡くなっています(「グリーン家殺人事件」創元推理文庫より)。したがって、日本においては 死後50年+戦時加算(アメリカなので3794日)+日本語での翻訳出版にあたるためさらに6か月
の著作権保護期間が、2000年11月22日をもって切れました。そのため、ようやくここに公開できる運びとなりました。(2001年10月30日注記:この記述は間違っていたようです。翻訳権10年留保を考慮しないときには6ヶ月分は足さないでよかったみたいです。原文はこのままにしておきます。)
まず、「探偵小説」という用語をここで採用した理由を説明します。今では、一般的には「detective stories」は「推理小説」と訳されます。しかし、戦前には「探偵小説」と訳されていました。探偵がいるから探偵小説。しごく当たり前ですね。ではなぜ戦後になって訳語が変わったか。それは、漢字制限に「偵」の字が引っかかったために、「探てい小説」と表記しなければならなくなってしまったからです。こんな表記では字面が悪いので、漢字制限に引っかからない「推理小説」を採用しました。そのため、今でも「推理小説」と呼ばれているのです。
しかし私は、「探偵小説」という用語にこそ、探偵小説の特徴が現れていると思うのです。冒頭に提出された謎を、探偵が論理的に一歩一歩確実に解いていく、そういった小説を説明するのに、探偵という要素は必要不可欠だと思うのです。
それにもう一つ、ヴァン・ダインは1920年代から30年代にかけて、次々と傑作を発表していきました。その彼が想像したのは当然本格探偵小説です。それに、彼が読破した小説も当然本格探偵小説(または隣接ジャンル)なのです。したがって、彼がここで念頭に置いているのは、アメリカが生んだハードボイルドや、戦後日本で生まれた社会派推理小説などではなく、本格探偵小説であることはまちがいのない事実です。
こういった理由により、「探偵小説」という訳語を採用させていただきました。もし、それではいやだという人がいましたら、ダウンロード後、探偵小説を推理小説に置き換えた上でお読みください。
さて、ヴァン・ダインの決意表明ともいえる「探偵小説を書くときの二十則」ですが、この文章は、ヴァン・ダイン自身がフェアプレイ精神に乗っ取って謎を提出することを表明しています。たとえば、20番目に「使い古された謎は使いません」という決意を書いていますし、1.2.5.8.9.10.12.14.15.はフェアプレイ精神そのものです。4.13.17.はいわばヴァン・ダイン自身が課した足かせとでもいえるものです。
もちろん、ヴァン・ダインの勇み足とでもいう部分も存在していますが、それはそれとして、全体としてかなりまじめな性格をあらわにしています。こんな人だからこそ、神経衰弱にかかったりするんでしょう。
【付記】
参考までに、Gaslightのファイルについている使用条件を訳してみました。もちろん、これは法律文書の一種なので、これをあてにしないで、原文に当たることをお勧めしておきます。
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原作(底本):"Twenty rules for writing detective stories"(from Gaslight)
原作者:S.S. Van Dine (pseud. for Willard Huntington Wright)
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翻訳履歴:2000年11月30日,翻訳初アップ。
2000年12月30日,結城さんの指摘を反映。
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原文(英語)はこちら(2010/03/18)