HAMLET, PRINCE OF DENMARK(TALES FROM SHAKESPEARE)(デンマークの王子ハムレット)

Charles Lamb(C.ラム)

SOGO_e-text_library訳




 デンマークの王妃ガートルードは、ハムレット王が突然亡くなったため未亡人となったのであるが、王の死後二ヶ月も経たぬうちに、亡き王の弟であるクローディアスと結婚した。このことは、無分別とか不人情とか、あるいはもっとたちの悪い行為として世間の注目を集めた。というのは、このクローディアス王、先の王とは外見も中身も全然似たところがなく、顔立ちも下品なら、気質も卑しくて下劣であったのである。人々の頭には当然起こるべき疑いが浮かんでいた。それは、クローディアスが先王を密かに殺したのではないか、そして未亡人と結婚し、それによって先王の子で正当な王位継承者でもある若きハムレット王子を差し置いてデンマークの王位に就くべく事を起こしたのではないだろうか、というものであった。
 ところで、王妃のこの思慮のない行為は、この若い王子に、他のもの以上にひどい衝撃を与えていた。何しろ彼は亡き父のことを崇拝といってもいいくらい深く愛し尊敬していたし、名誉を大変重んじるたちであるとともに、みずから礼節を大変やかましく守る人であったから、母ガートルードがやったあきれかえる行為にひどく心を痛めた。そのような心持ちの中、父の死を悲しんだり母の結婚を恥ずかしく思ったりしているうちに、この若い王子は深い憂鬱の中に落ち込んでしまい、快活さや美しさといった美点をすっかりなくしてしまい、読書を楽しむという習慣もうっちゃってしまったし、彼のような若者によく似合った、王子らしい運動や競技も進んでやらなくなってしまった。王子にとって世界はただもううんざりするだけのものとなり果ててしまった。彼にとって世の中は、除草していない庭、新鮮な花がすべて枯れ果てて、ただ雑草ばかりが生い茂る庭園としか思えなくなっていた。本来自分が受け継ぐべき王位から自分が排除されそうだという見込みだけでも、たしかに王子の心を大きく痛めつけるものであり、若く気高い心にとって激しい苦痛とひどい侮辱ではあったが、何にもまして彼を苦しめ、快活さを失わせたのは、母親がすっかり父親の思い出を忘れてしまったかのような振る舞いをハムレットに見せることであった。あぁ父君! 母の第一の恋人にして心優しき夫だったあの父君! 母だって父を愛し、いつも貞淑な妻として振る舞っていたし、夫への愛がますます深くなっていくかのごとく夫を頼っていたはずなのだ。それが今やわずか二ヶ月――ハムレットの心の中ではもっと短い間でしかなかった――母は再婚した、あの愛していた夫の弟と結婚したのだ。あれはきわめて過激かつ不法なものだ、何しろ血縁関係が近すぎる。おまけに事の運び方があまりに見苦しかったし、母上が王位と閨房《けいぼう》の相手として選んだあの男、国王としては全くふさわしくない性質を持っているぞ。まさにこれこそ、十の王国を失う以上に、かの高潔な若き王子の意気を挫き、心を曇らせるもととなったのである。
 王子の母ガートルードや現王はハムレットの心を晴らそうと様々試みたが、すべて徒労に終わった。王子は宮廷内では真っ黒な衣服で通していた。実の父たる先王の喪に服していたのだ。王子は決して喪服を脱ごうとはしなかった。母の結婚式当日、母に対して祝賀を述べるときにも彼は喪服を着ていた。もちろん、その彼にとっては恥ずべき日たる日に執り行われた祭典やら祝賀の輪には加わる気にもなれなかった。
 ハムレットの心を最も悩ましたのは、父の死に方がはっきりしないことであった。クローディアスは、蛇が先王を咬んだのだ、とその死を説明していたが、ハムレットは明敏なたちであったから、クローディアス自身がその蛇だったんじゃないかと疑いの目を向けていた。分かりやすく言うとこうなる。クローディアスが王座目当てで先王を殺したんじゃないのか。ハムレットの父を咬んだ蛇が今は王座についているのではないか。
 ハムレットのこの推測がどれくらい真実を突いているのか、母についてはどう考えるべきか、いったい母は先王殺しにどの程度関わっているのか、同意していたのか、知ってはいたのか、それとも全く関わりはなかったのか、そういった思考の堂々巡りがハムレットを悩まし、迷わせていた。
 このとき、ハムレットの耳にある噂が届いた。彼の父である先王そっくりの亡霊を、不寝番の兵士たちが見かけたというのだ。真夜中になると宮殿前の高台に現れる、それも二晩とか三晩続けて出てきたというのだ。その姿はいつも同じで、頭のてっぺんからつま先まで、亡き王が生前着ていたことで有名な甲冑で固めているという話だった。それを見た人(ハムレットの腹心の友であるホレーシオもその一人であった)が話す、亡霊が現れる時刻やその振る舞いはみな一致していた。それによると、亡霊は時計が十二時を告げるまさにその時に姿を現すのだった。顔色は青白く、怒りというよりはむしろ悲しみを浮かべていた。顎髭《あごひげ》は半ば銀が混じった黒色で、まさに生前の姿そのままといえた。その姿を見たものが話しかけたが、亡霊は何も言わなかった。いや、一度だけ顔を上げ、何か言いたげに唇を動かしたようにも思えたのだが、ちょうどその時一番鶏が時を告げた、そしたら急に姿をくらまし、消え去ってしまった、というのであった。
王子はその話を聞いて大変驚いたが、何人かが話す内容が奇妙な一致を見せ、かつ、筋も通っているので、信じないわけにはいかなくなった。彼らが見たのは父の亡霊であろうと思い、今夜は兵士たちとともに寝ずの番をしようと決意した。そうすれば、彼自身の目でそのものを見られるだろうとの思いからだった。ハムレットが考えたところによれば、このような亡霊が何の理由もなく現れるはずはない、きっと何か伝えたいことがあるのだろう、今までは黙っていただろうが、自分にならば何か話してくれるに違いないのだった。そうして、夜が来るのを今か今かと待ちあぐんだ。
 夜になると、ハムレットはホレーシオと、番兵マーセラスとともに、高台に陣取った。この場所でいつも亡霊が歩いていたのだ。この夜は寒く、いつもより空気が冷え冷えとして肌を刺すようだったので、ハムレットたちは夜の寒さについて話し始めた。だがその話は、亡霊が来たというホレーシオの知らせによって突然打ち切られたのである。
 父の亡霊の姿に、ハムレットは驚きと恐れとを覚えた。最初のうちは天使や守護神の降臨を願った。亡霊が善きものなのか悪しきものなのか、善悪いずれの目的で来たものなのかが分からなかったからだ。しかし次第に、勇気を奮い起こし、我が父(と彼は思った)のひどく哀れな有様、特にハムレットと話をしたいような感じを見て取り、かつ、あらゆる点で亡霊が生前の父そっくりだったから、ハムレットは亡霊に話しかけずに入られなかった。彼は父の名を呼んだ。ハムレット! 国王! 父上! そして、こう話しかけた。父上はなにゆえに墓から出てこられたのか、我々には安らかに眠っておられるように見えました、再び姿を現し、この地上と月光とを訪ねられたのはいかなる理由があるのでしょうか、是非教えていただきたい、父上の魂を安らかにするために、なにか我々にできることがあるのでしたら、何なりとおっしゃってください。すると亡霊はハムレットを手招きした。明らかに、どこか別の場所へ移動して、二人きりになろうというのだった。ホレーシオとマーセラスは、王子が亡霊についていくことを思いとどまって欲しかった。二人は亡霊が、悪魔のたぐいなのではないか、どこか近くの海だとか恐ろしい絶壁に王子を誘いだして、そこでなにか恐ろしいものに変身し、王子の理性を失わせるようなことがありはしないかと恐れていたのだ。だが、二人がいかになだめすかしたり頼み込んだりしたところで、ハムレットの決心は揺らがなかった。命などほとんど念頭に置いていなかったから、みずからの死など何とも思っていなかったし、「自分の魂は亡霊などにどうにかできるものか、亡霊と同じく不朽なのだろう?」と言うのだった。そして王子は獅子のごとく大胆となり、なんとしてでも王子を引き留めようとする二人を振りきって、亡霊の導くままに後をついていった。
 やがて二人きりになると、亡霊は沈黙を破った。「自分はハムレット王だ。むごたらしく惨殺されたおまえの父親なのだ。」そして殺害の様子を語りはじめた。それによると、殺害は亡霊自身の弟にして王子には叔父に当たるクローディアスによって為されたのだった。それはハムレットの方ですでに十二分に疑っていたとおり、閨房と王冠を狙って実行されたのだった。父王がいつもの習慣に従って昼過ぎに庭園で寝ていたところ、あの悪い弟が、眠っている王の傍らに忍び寄り、有毒なヒヨスの汁を王の耳の中に注ぎ込んだ。この汁はまさしく致命的な猛毒であり、たちまち水銀みたいに体中の血管を駆けめぐり、血液を凝固させ、全身の皮膚にらい病で見られるようなかさぶたをつくる作用を持っている。こうして、眠っている間に、弟の手によって王冠も女王も、命までも絶ちきられてしまったのだった。ここで亡霊はハムレットにこう命じた。もしもおまえが父を愛しているのなら、このような非道な殺人に復讐してくれ。さらに息子の前で、その母親が貞操を踏み外したことを嘆いた。つまり、最初の夫と契った愛に背き、夫の殺害者と結婚してしまったことを悲しんでいたのだ。だが亡霊はハムレットにこうも言った。あの悪逆たる叔父にはどう復讐してもいいが、母親には決して手荒なことはせず、神の手にゆだね、良心の呵責に任せるように。そして、ハムレットがすべて言葉通りにすると約束すると、亡霊は消え去った。
 さて、ハムレットは一人だけになると、厳かな決意を固めていった。今自分の頭の中にあるもの、今までに書物や観察で得たものを今すぐ忘れよう、そして、亡霊が自分に告げ、そして命じたことだけを頭に留めておこう。そしてハムレットは、亡霊と交わした話の詳細を親友ホレーシオだけにうち明け、そしてホレーシオとマーセラスとに、今夜自分たちが見たことは一切他言無用だと命じた。
 亡霊を見たことにハムレットは恐怖し、精神錯乱に陥った。もともと病弱なたちで元気がなかったのだが、これにより精神の平衡を失い、今にも理性が吹き飛ぼうとしていた。そして、こんな状態がずっと続くようなら、自分の振る舞いに人々の耳目が集まり、叔父も警戒するようになるだろう、自分が叔父に対してなにかたくらんでいるとか、実は父親の死について叔父が発表した以上のことを自分が知っているなどと感づかれたらまずいな、と心配し、とても妙な決心をした。本当に発狂してしまったと見せかけようと考えたのである。ハムレットの考えによれば、自分が重大な計画など立てられないようだと叔父に信じさせることができれば、疑惑の目が自分に向くことはほとんどなくなるだろうし、今自分が抱える心の乱れも、凶器を装うことで都合よく覆い隠せると思ったのだ。
 このときから、ハムレットは服装・話しぶり・振る舞いなどを荒々しく、かつ奇妙なものとするように心がけ、本当の狂人と見まごうほどに演じていったので、王も王妃もハムレットは狂ってしまったと信じ込んでしまった。だが二人とも、こんな行動を起こすに至った原因が王子の父親の死にたいする悲しみから来ているとは考えなかった(二人とも前王の亡霊が出たことを知らなかったのだ)。二人は王子が恋をしているのだと断定し、それが原因でこんな風になってしまったと思ったのである。
 ところでハムレットは、すでに述べたような憂鬱な状態に陥る前に、オフィーリアという美しい乙女を深く愛していた。オフィーリアは、国王の主席顧問として国政を預かるポローニアスの娘であった。ハムレットはオフィーリアにたびたび手紙や指輪を贈り、かつ愛の告白も重ねて行い、まじめに愛を訴えてきた。オフィーリアの方でもハムレットの誓いや願いを信頼するようになっていた。だが、最近陥った憂鬱な感情のために、ハムレットはオフィーリアを無視するようになってしまった。しかも、発狂したと見せかけようと考えてからは、わざと彼女に冷たく、むごいと言っていいほどの振る舞いを見せるようになった。しかしオフィーリアは、善良な乙女であったから、ハムレットが冷たくなったのを責めたりはしなかった。自分につらく当たるようになったのは、すべて心の病からであって本心からのことではないと信じていた。そして彼女は、今まで見てきたハムレットの気高い心や優れた理解力を、たしかに彼自身が深い憂鬱に落ち込んでいるために損なわれてはいるが、とても素晴らしい音を奏でる鐘そのものだ、ただ、調子外れに振ったり、手荒く扱ったりすれば、耳障りで不愉快な音しか出せない、そういう鐘に喩えていた。
 ハムレットが企てている手荒な仕事(父の殺害者に復讐すること)には、求婚のような戯れ事はそぐわないものであるし、恋愛などという(ハムレットにとっては)無駄な感情を抱く仲間には全く入る気はなかったものの、それでもなお、彼のオフィーリアに対して、甘く優しい感情がわき起こるのを禁じ得なかった。そして、時々は自分の振る舞いはあの優しい女性に対してあまりにもむごいものであったなどと思い返し、狂おしいまでに情熱的な言葉をこれでもかとたっぷり使った手紙をオフィーリアに出すこともあった。このような行為は、ハムレットが演じているような狂気にふさわしいものではあったが、やはりある程度は愛情に根ざしたものでもあった。そう、心の奥に今もあの気高き乙女に対し深い愛情を抱いていることを、彼女に見せない訳にはいかなかったのだ。彼はオフィーリアにこんなことを言った。星が火であること、太陽が動くこと、真実が嘘つきであること、たとえこれらを疑ったとしても、自分が愛していることを疑ってはいけない。そのほかにも、このような大げさな言葉をふんだんに手紙に使っていた。ハムレットが出した手紙をオフィーリアは忠実にも父に見せた。そして、老臣は現王夫妻にそのことを伝える義務があると考えたから、そのようにした。それを聞いた二人は、ハムレットがあのように狂ってしまったのは恋の病からだと考えた。そして王妃は、オフィーリアの美貌こそがハムレットを狂わせてしまったのが不幸中の幸いであって欲しいと願っていた。というのも、もしそういうことであれば、やがてその美徳によって、ハムレットが狂気から回復し、前のような息子に戻り、祝福されるカップルになるに違いないと思ったからである。
 しかしながら、ハムレットの病は王妃が考えているよりも根深いものであったから、そんなことで治るようなものではなかった。ハムレットが目撃した父の亡霊は、その視界の中にいまだ姿を現していた。そして、殺人犯に対する復讐を絶対にやり遂げるよう常にハムレットに命令し続け、彼に休む間を与えなかった。復讐が遅れればそれだけ、父の命令に背いているという罪が重くなると、ハムレットは感じていた。それでも、現王を殺害するという計画は、王のまわりを常に護衛が取り巻いていたから、容易なものではなかった。さらに、その計画が容易だったとしても、ハムレットの実の母である王妃がいつも王の傍らにいたから、その存在がハムレットに対する抑止力として働き、実行をためらわせるのであった。その上、王位簒奪者がハムレットの母の夫であるという状況を思うと、ハムレットの良心は幾分うずき、矛先を鈍らせるのだった。単に人間を一人殺すという行為自体が、ハムレットにとって不愉快で恐ろしいものであった。彼は本来生まれつき優しい気質であったからだ。ハムレットが抱える非常なる憂鬱、そして、とても長いこと気持ちが落ち込んでいるという状態から、すっかり優柔不断になってしまい、最後の手段を使うことを躊躇していた。それに加えて、ハムレットは心の中でこう思わずにはいられなかった。俺が見たあの幽霊は果たして本当の父であったのだろうか、ひょっとすると悪魔ではないのだろうか、悪魔は何でも相手が望むものに変化《へんげ》すると聞く、そいつが俺の父の姿をまねて、俺の弱さと憂鬱とにつけこんで、殺人というとんでもない行為をさせようとそそのかしているんじゃないだろうか。そこでハムレットは、心の迷いとも思われる幻覚や亡霊などより、もっと確実な証拠をつかもうと決心した。
 ハムレットがこのように計画の実行をためらっている頃、宮廷にはとある俳優たちがやってきた。ハムレットが以前楽しみにしていたものであり、中でもそのうちの一人が語る、トロイの老王プリアムの最後と、その女王であるヘキュバが抱える深い悲しみを謳《うた》った悲劇を聞くのがお気に入りであったのだ。ハムレットはなじみの俳優たちを歓迎した。そして、以前自分が気に入った話があったことを思い出し、もう一度やってくれるように俳優に頼んだ。すると俳優は、とても真に迫った感じに語りだした。年老いて弱った王を残酷に殺したこと、王の人民と都市とを炎で焼き払ったこと、老妃が深い悲しみのあまり気が狂ったこと、宮殿を裸足で右往左往していたこと、かつては王冠をかぶっていた頭にボロ切れ一枚巻いて、王服をまとっていた腰には、大急ぎで巻いた毛布一枚だけだったことなどを語って聞かせた。その語り口が、実際に見てきたかのように真に迫っていたから、居合わせた人がみな涙を流しただけでなく、俳優自身でさえも時折語りを本当の涙で止めてしまうほどであった。ここでハムレットは考えた。あの俳優が、自分が語る架空の作り話にあれだけ感動して、前に会ったこともないヘキュバ――なにしろ数百年前の人だ――のために涙を流せるのであれば、俺はなんて鈍い人間だったんだろう、真の王にして俺の父親を殺されたという情熱を駆り立てるにたるだけの真の動機・真のきっかけを持っていながら、ほとんど心が動くこともなく、復讐心がこれまでずっと、忘却の中でぼんやり眠っていたように思えるんだからな! そして、俳優や演劇や、真に迫った演技が観客に与える強力な効果について考え続け、やがて、舞台で演じられた殺人劇を見て、舞台という場所が持つ力と、類似の場面が演じられたということに心を動かされて、その場で自分が犯した罪を告白したという殺人者のことを思いだした。そしてハムレットは、俳優たちに、叔父の面前で父の殺害に似た場面を演じさせよう、それを見た叔父にどんな効果を及ぼすのか注意深く観察しよう、と決めた。そうすれば、叔父の表情から、彼が殺人者であるかどうか、もっと確実に推論できるだろうという思いからだった。このような理由から、ハムレットは俳優たちに芝居の用意をするように命じ、その席に現王と王妃とを招待した。
 芝居の内容は、ウィーンでとある公爵に対して行われた殺人劇であった。公爵の名前はゴンザーゴといい、その妻はバプティスタといった。ルーシアーナスという公爵の親戚筋のものが、公爵の持ち物であった庭園において公爵を毒殺し、その後短い時間でゴンザーゴ夫人の愛を獲得した、一連の出来事を芝居にしたものであった。
 この芝居が上演されたとき、王は自分に向けて仕掛けられた罠の存在を知らなかったから、王妃や廷臣たちとともに劇を見るべく席に着いた。ハムレットは王の表情を観察すべく、王のそばに席を占めた。芝居はゴンザーゴとその妻との会話から始まった。その会話の中で、夫人は幾度となく愛の誓いを口にし、自分は夫ゴンザーゴよりも長生きすることがあれば、決して他の夫を迎えはしないと語った。もし他の夫を迎えたならば呪われても構わないと言い、最初の夫をみずから殺すような姦婦でもなければ、そのようなことをする女性はいないと続けた。ハムレットは王である自分の叔父が顔色を変えたのを見て、王と王妃にとって、この会話がニガヨモギのように苦いものであることを見て取った。さらに芝居は進み、ルーシアーナスが庭園で眠っているゴンザーゴを毒殺する場面が上演されたとき、その芝居が、自分が兄である前王を庭園で毒殺するという邪悪な行為にとてもよく似ていたために、現王の良心を刺激し、芝居の残りを見続けることができなくなってしまった現王は、自分の部屋に明かりをつけるように命じ、急に気分が悪くなったと言って――幾分は本当のことだったろう――あたふたと劇場から出ていった。王が出ていったために、芝居は中止された。これを見たハムレットは、亡霊の言葉は真実であり、幻覚などではなかったことを確信するに至った。そして、大きな疑問や疑惑が突然解けた人によくやってくるうれしさから、ホレーシオに、あの亡霊の言葉には千ポンドの価値があったと言い放った。だが、叔父が父を葬り去ったことは確実に分かったものの、どうやってその復讐をやり遂げるか、それにはまだ解決の糸口が見つけられないでいた。すると突然、ハムレットは王妃である母親から、彼女のクローゼットがある私室にて個人的な話をしたい、と使いがやってきた。
 王妃がハムレットを呼びだしたのは王の希望によるものであった。ハムレットの最近の言動が王と王妃にとってどれだけつらいものであるのかを息子に認識させようとしたのである。そして王は、この会談における会話をすべて知りたいと思い、また、母親からの短すぎる報告から、王が知っておくべき趣旨を含むようなハムレットの言葉が抜け落ちることがあるだろうと考えたから、老臣ポローニアスに、王妃のクローゼットにかかっているカーテンの後ろに隠れて、会談で交わされた内容をすべて聞いておくように命じた。この計略は、ポローニアスの性格にもぴったり合ったものだった。ポローニアスは宮廷の中で歪んだ処世術と政治力学の中を生き抜いてきたため、今回の計略のような不正直で狡猾な手段を使って情報を知ることを好んでいたからである。
 ハムレットが母の所にやってきたので、王妃はハムレットの言動をとても激しく咎めだし、あなたは父親が気分を悪くするようなことをしたんですよ、と言った。ここで『父親』というのは、今王となっているハムレットの叔父のことであり、叔父が母親と結婚したことから、王妃は現王をハムレットの父親と呼んでいたのだ。ハムレットは大きな怒りを覚えた。何しろ、彼にとっては非常に大切で、敬意を持って扱われるべき『父親』という名称を、本当の父を殺した者に他ならぬ悪漢に与えられたからだ。そして、やや声を荒げて「母上、あなたは私の父をたいへん怒らせたのです。」と言い放った。王妃は、それは根拠のない言いがかりだと言った。「あなたの問いにふさわしい答えですよ。」とハムレットは返した。王妃は彼に、おまえは自分が誰にものをいっているか忘れてしまったのかいと尋ねた。ハムレットはこう返した。「あぁ! 忘れることができればどんなにいいことか! あなたは王妃です。そして、あなたの夫の弟の妻です。そして、私の母上です。そうでなければよかったのに。」それを聞くと王妃は「そうかい、もしそんなに私を馬鹿にするんなら、ちゃんとおまえと話せる人をここに呼んでこよう。」と言って、王かポローニアスを呼んでこようとした。だがハムレットは、せっかく母と二人だけで相対しているので、自分の言葉が王妃に過去の不埒な行いを自覚させることができるかどうかを試してみるまでは王妃をどこにも行かせたくなかったから、王妃の手首をつかみ、しっかりと捕まえ、椅子に座らせてしまった。王妃はハムレットが本気で気が狂ってしまったとびっくりしてしまい、狂気のあまり自分を傷つけてしまうのではないかと怖くなって、叫び声をあげた。するとカーテンの後ろから「助けよ、王妃を助けよ!」という声が聞こえてきた。ハムレットはその声を聞いて、すっかり王自身がそこに隠れているんだと思いこんでしまい、剣を抜き、まるでネズミでも刺すかのような感じで、声のしたあたりを突き刺した。やがて声が聞こえなくなり、ハムレットはこいつは間違いなく死んだなと思った。しかし、死体を引き出してみると、それは王ではなく、スパイとしてカーテンに隠れていた老臣ポローニアスであった。「おぉ!」王妃は叫んだ。「おまえは何と向こう見ずでむごいことをやってしまったのだ!」「確かにむごいことです、母上。」ハムレットは答えた。「ですが、あなたのやったことに比べれば大したことはありませんよ、王を殺し、その弟と結婚したんですからね。」ハムレットはあまりに度を超してしまったため、今更止めてしまうわけにはいかなかった。もう母にぶっちゃけてしまおうという気になっていたから、彼はそうした。曰く、両親の過去の過ちを子供は普通は優しく許すべきなんでしょう、ですが、それが大きな罪となるならば、子供だって自分の母親に少しはひどいことを言っても許されるはずです、そうすることが母親のためであるし、母を邪道な道から救うためになされ、単に非難するために言うんじゃないならそれでいいんです。さて、この有徳の王子は心が動くような言葉で話を続け、王子の父であり愛していた王を忘れて、ほんのちょっとしか時間が経っていないのに、父の弟であり、王を殺害したという評判があった者と結婚してしまった王妃の不貞を責めた。最初の夫と誓いを交わしたのにそんなことをするということは、女性が行うあらゆる誓言の真実性を疑わせるものだ、すべての美徳を偽善と思わせ、結婚の契りをばくち打ちのそれにまで陥れ、信仰を単なる贋物《フェイク》やら言葉の形式やらに堕落させるようなものだ、などと王妃に言った。そしてまた、あなたのしたことを見て、神々も恥ずかしく思っているし、現世の人々もうんざりするようなことをしてしまったんだ、とも言った。そしてハムレットは、王妃に二つの絵を見るように促した。ひとつは先王(王妃の最初の夫)の肖像画であり、もう一つは現王(王妃の二番目の夫)の肖像画であった。そして二つの絵の違いをこう陳述した。我が父の眉のなんという優美さ、まさしく神そのものでありましょう! アポロの巻き毛、ジュピターの額、マースの眼差し、そして天に届かんばかりの丘の上に舞い降りたばかりのマーキュリーさながらのその態度! この人が、母上の夫だったんですよ、と母に言った。そしてもう一つの絵を見せながらこう続けた。まったく葉枯れ病とかカビみたいな顔ですよ、なにしろこの人は健康そのものの兄上を枯らしてしまったんですからね。さて、王妃は王子のおかげで自分の心の痛い部分に目を向けさせられ、我が心がすっかり腹黒く醜いものであることに気づかされてしまったため、すっかり恥ずかしくなってしまった。さらにハムレットは言葉を続け、あなたはそれでもなお、自分が最初に結婚した夫を殺し、不正な手段で王位をかすめ取ったこの男と、生活をともにし、夫婦として生きていけるのですか、と尋ねた。そんなことをハムレットが話していたその時、ハムレットの父親の亡霊が、生きているときと変わらぬ姿、ハムレットが目撃した姿そのままに、王妃の部屋の中に入ってきた。ハムレットはすっかり恐ろしくなりながら、いったい何をしに来られたのかと亡霊に問いかけた。すると亡霊は、お前は我に復讐を約束した、だがお前がそれを忘れてしまっているようだから、そのことを思い出させるために来たのだと答えた。そして、お前の母に話しかけてやれ、そうしなければ、深い悲しみと恐怖のために、母親が死んでしまうからな、とハムレットに命じた。そして亡霊は姿を消した。さて、亡霊の姿はハムレットにしか見えなかった。ハムレットが亡霊の立っていたあたりを示し、いくら言葉を尽くしても、王妃に亡霊の存在を分からせることはできなかった。王妃はハムレットがずっと空中に向かって――王妃にはそうとしか見えなかった――話をしているのを見て、すっかり怖くなってしまった。王妃はハムレットが錯乱状態に陥ったんだと思った。だがハムレットは王妃に、父上の魂が再びこの地上に戻ってきたのを、私の狂気のせいにして、あなた自身の罪ではないかのように思いこんで、不道徳な魂をいたずらに慰めようとするのはやめてください、と頼んだ。そして王妃に自分の脈を取らせ、自分の脈は穏やかなものであって、狂った人のそれではないんだと語った。そして涙を流しながら王妃にこれまでのことを悔い改めて天に懺悔してください、それから、もうあんな王の仲間であることをやめて、妻として振る舞うことをおやめ下さいと乞うた。その後で、これからは我が父上との思い出を敬い、私に我が母としての態度をお示し下さい、そうしていただければ、私も息子として母上に神の祝福を願いましょうと言った。王妃が王子の訴えを守りましょうと約束し、この会見は終わった。
 ここでハムレットはようやく、自分が軽率にも殺してしまったのは誰なんだろうと考える余裕を持った。死体に近づいてよく見ると、それはポローニアスであった。ハムレットがこよなく愛したかわいいオフィーリアの父であった。ハムレットは死体に近づき、気持ちも少し静まったので、自分がしたことを悔いて泣いた。
 ポローニアスが不幸にも死んでしまったことは、現王にハムレットを国外追放とするための口実を与えた。王としてはハムレットが生きていることは危険だという懸念から、むしろ殺してしまいたかった。だが、ハムレットを愛する国民や、いろいろな欠点を持ちながらも息子ハムレット王子を溺愛する王妃がどう出るかが不安だったのである。そこで狡猾な王は、ハムレットがポローニアスの死について責任を問われないようにと、ハムレットの安全を確保するという理由を付けて、ハムレットに廷臣を二人つけて、イングランド行きの船に乗るようにさせた。そして廷臣には、イングランド宮廷(当時はデンマークに従属して貢ぎ物を送っていた)にあてた手紙を持たせた。手紙には、現王がでっち上げたある特別な理由から、ハムレットをイングランドに上陸し次第殺して欲しいと書いてあった。ハムレットはうすうすそのたくらみを疑っていたので、ある晩その手紙を手に入れ、彼自身の名前を巧妙に消してしまい、その跡に彼に付き従っていた二人の廷臣の名前を書き加え、彼らを殺してしまうような内容に細工をしておいた。そして再度手紙の封を閉めて、もとの場所に戻しておいた。まもなく、彼らが乗っていた船が海賊に襲われ、戦が始まった。ハムレットは戦のさなか、勇気を示すべく単身剣を携えて海賊の船に乗り移った。一方ハムレットが乗っていた船はというと、卑怯にもその場を離れていってしまった。ハムレットを運命の手にゆだねると、廷臣たちはイングランド目指して一生懸命船を進めた。だが彼らは、ハムレットの手によって彼らが当然受けるべき身の破滅を自分自身で被るよう書き換えられた手紙を持っていたのである。
 王子を捕らえた海賊たちは、敵ながら紳士的な態度を示した。彼らは捕らえた囚人のことをよく知っていた。王子に親切にしておけば、やがて宮廷に帰ってから自分たちの行動に対する返礼として何かいいことをしてくれるだろうと期待し、ハムレットを一番近いデンマーク領の港まで送っていった。港に着くとハムレットは王に手紙を書いた。その中で彼は、まことに不思議な運命からまた故国に帰り着くこととなった次第を王に知らせ、また、翌日にみずから陛下の御前に参上いたしますと告げていた。そしてハムレットが宮廷に帰ったとき、彼の目に悲しい光景が真っ先に飛び込んできた。
 それは、あの若く美しきオフィーリア、かつてハムレットが愛した女性の葬式であった。若きオフィーリアは、哀れな父が死んでしまってから、だんだん気が狂っていってしまった。父が非業の死を遂げ、しかも自分が愛した王子の手にかかって死んだという事実は、あの優しい乙女に打撃を与え、しばらくするとすっかり狂気に落ちてしまっていた。宮廷の女性たちに花を与えながら、この花は父上の葬儀に使うんだと言い、愛の歌や死の歌を歌ったり、ときには誰にもよく分からないことを歌ったり、まるで自分のみに何が起こったのか記憶を失っているみたいな感じであった。ある小川の上にヤナギが斜めに生え、その葉っぱが水面に映っていた。誰も見ていないある日のこと、オフィーリアはヒナギクやイラクサなど、花や草を編んで作った花輪を持ってその小川にやってきた。そしてヤナギの枝に花輪をかけようとよじ登っていき、やがて枝が折れ、あの美しい乙女も、花輪も、その他彼女が集めたものもみんな、水の中に落とされてしまった。しばらくの間は服のおかげで浮いていて、自分が抱える悩みを忘れてしまったのか、あるいはもともとそこにすんでいる生物であったかのように、古い歌の節々を歌っていた。だがすぐに服が水を含んで重たくなり、彼女を美しい旋律から引き離し、泥だらけの無惨な死に追いやってしまった。オフィーリアの葬式は、彼女の兄であるレアティーズが取り仕切っていた。そして、王や王妃、廷臣たちはみな列席していた。まさにそのさなかに、ハムレットは宮廷に到着したのである。ハムレットはこの行事が何を意味するものなのか知らなかったので、式の邪魔をしないようにと、片隅に立っていた。そして、乙女の葬式における習わしとして、墓の上に花が撒かれている様を見ていた。王妃みずから花を投げ入れ、こう言っているのも見ていた。「愛しい人に愛しい花を! おぉ美しき娘よ、私はお前の花嫁の臥床《ねどこ》を飾るつもりだったのです。それがまさかお前の墓に撒くことになってしまうとは。汝《なんじ》を私のハムレットの嫁として迎えたかったのに。」そして、彼女の兄がオフィーリアの墓からスミレの花が咲いてくれよと祈るのを聞いていた。兄が深い悲しみのあまり気が狂ったように墓穴に飛び込み、自分の上に土の山を築いておくれ、妹と一緒に埋められたいんだと従者に言っているのを聞いていた。そうこうするうちに、ハムレットの心にあの美しい乙女に対する愛情が甦《よみがえ》ってきた。彼女の兄がそんな風な激しい悲しみを見せているのを見ていられなくなってしまった。ハムレットの中では、彼はその他四万の兄弟よりもオフィーリアを愛していたからだ。そこでハムレットは姿を現し、レアティーズが飛び込んだ墓穴に、彼と同じようにかそれ以上の狂い方で飛び込んだ。さて、レアティーズは男がハムレットであることに気づき、彼こそが自分の父と妹を死に追いやった張本人であったから、にっくき敵とのどに掴みかかったので、従者たちは二人を引き分けた。ハムレットは葬式が終わった後で、レアティーズに対し、挑みかからんとばかりに墓穴に飛び込んだ自分の軽率な振る舞いを詫びた。だが同時に、誰であれオフィーリアの死による悲しみが、自分よりも勝っているように見えたのが許せなかったのですとも言った。そしてその場では、この二人の高貴な若者たちは和解したように思われた。
 しかし、レアティーズが父と妹オフィーリアの死を深く悲しみ、怒っている様を見て、ハムレットの叔父にして邪な心を持つ現王は、ハムレットを破滅させようと企んでいたのである。王はレアティーズに、二人の平和と和解を現すと称して、ハムレットとフェンシングの試合をしないかと持ちかけた。ハムレットもそれを承諾し、試合の日時も決められた。この試合を見ようと廷臣たちはこぞって集まった。レアティーズは王の示唆を受け入れ、毒を仕込んだ武器を用意した。ハムレットもレアティーズも、宮廷人たちの間でフェンシングの名手と評判だったから、この試合には廷臣たちが多くの賭をした。ハムレットは、レアティーズの悪巧みなど夢にも思わず、レアティーズの武器を改めもしないで、フォイル[#注一]を取り上げた。一方レアティーズは、フォイルや、刃をなくした刀――剣術試合ではそういう刀を使うようにと定められている――ではなく、先のとがった、しかも毒を仕込んだ剣を武器としていた。最初のうち、レアティーズはハムレットを軽くあしらい、わざとハムレットが優勢に見えるようにしていた。王はそれを見て、とても大げさに驚き、ハムレットに心ないお世辞を浴びせ、ハムレットの勝利に乾杯を捧げたり、彼の勝利に大金を賭けたりしていた。だが何合か剣を交わしているうちに、レアティーズはかっとなって毒入りの剣でハムレットを突き、致命傷を与えた。ハムレットは激怒し、レアティーズの計略を知らぬまま、試合の中で自分の無害な武器とレアティーズの危険なそれをと取り替え、レアティーズの体を彼自身の剣で突き通した。レアティーズはまさしく自分自身の計略に引っかかってしまったのである。その時突然王妃の悲鳴が響き渡った。王妃は毒物を飲んでいた。王がハムレットのために特別に用意した杯からうっかり毒を飲んでしまったのだ。その杯は、ハムレットがフェンシングに熱中した後に飲み物をほしがったときに彼に与えるつもりだった。その杯に、王はレアティーズがフェンシング試合でハムレットを殺し損ねたときに備えて致死量の毒を仕込んでいた。だが、王妃にそのことを注意しておくのを忘れたため、王妃はその杯から毒を飲み、毒を飲んだ人がよくあげる金切り声をあげてまもなく死んでしまったのである。ハムレットは、これには何か陰謀が潜んでいると考え、陰謀を暴き出す間ここのドアを閉めろと命令した。ここでレアティーズが、もう探す必要はない、自分が首謀者だからとハムレットに言った。ハムレットの攻撃で受けた傷のせいでもう自分が長くはいきられないことを悟り、みずからの計略をすべてハムレットにうち明け、俺はその犠牲を受けたんだと言った。そしてまた、剣の切っ先に毒を仕込んだことも告白し、もう君は三十分と生きられないだろう、この毒に治療法はないんだからとも語った。すべて語った後、レアティーズはハムレットに許しを請い、王こそがこの陰謀を企んだ張本人なのだという言葉を残して死んだ。ここでハムレットは、自分の最後が近づいているのを感じ取り、まだ少し毒が残っていた剣を取るやすばやく邪な叔父の方に向き直り、心臓にその剣を突き刺した。こうして、ハムレットは父の亡霊との約束を果たし、その命令を完遂し、卑劣な殺人に復讐が行われたのであった。その後ハムレットは、いよいよ自分が息絶え、命が消えるときが来たと思うと、親友であり、この運命的な悲劇の目撃者であるホレーシオの方を見た。そして、虫の息になりながら、この悲劇を全世界に向けて語っておくれとホレーシオに頼んだ(ホレーシオが王子の後を追い、殉死しようというそぶりを見て取ったのだ)。ホレーシオは王子に、すべての事情を知る人として、真実を公にすることを約束した。ハムレットは満足し、その気高い心は砕け散った。ホレーシオ他その場に居合わせた人たちは大粒の涙を流してこの美しき王子の魂を天使のご加護にゆだねた。当然の事ながら、ハムレットは親切心と上品さを兼ね備えた王子であったし、王子にふさわしい気高さや美点を数多く持っていたので、多くの人々に愛されていた。もし彼が生き続けていたら、間違いなくデンマーク史上にその偉大な名を残し、完璧な王となっていたことであろう。

[#訳者注:先端にたんぽなどをつけて丸くした剣のこと]

【このファイルに関して】

この物語は、The Tales from Shakespeare:Designed for the Use of Young People(若き人々のためのシェークスピア物語)と題して、1807年に出版された本の中の一遍です。この本の著者はCharles&Mary Lamb(C&M.ラム)ですが、HAMLET, PRINCE OF DENMARKはCharles Lambの執筆となっていたので、作者をCharles Lamb単独にしました。

この翻訳は、南雲堂英和対訳学生文庫「シェイクスピア物語(I)」(1952年8月15日1刷発行)より、HAMLET, PRINCE OF DENMARKを翻訳したものです。原文が、作者が書いたままだということで、原文に関しては著作権がすでに切れていると判断しました。なお、翻訳の際には上記本についていた対訳および注記を参考にさせていただきました。

一部《》によってルビをふってあります。また、[]によって、注があることを示してあります。

【訳者あとがき】

本当はずっと前に訳していたのですが、なんかいろいろあってモチベーションが下がってしまってました…

結局前よりも下がってしまっていますが、公開しておきます。せっかくなので活用してください。まあぼちぼちとやっていきますよ。待っている間に今まで公開したものの添削でもしていただければありがたいのですが。

2007.02.10


原作:AS YOU LIKE IT(TALES FROM SHAKESPEARE)

原作者:Mary Lamb

SOGO_e-text_library責任編集。Copyright(C)2007 by SOGO_e-text_library

この版権表示を残すかぎりにおいて、商業利用を含む複製・再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト。

翻訳履歴:2007年2月10日,翻訳初アップ。

SOGO_e-text_library(http://www.e-freetext.net/)

代表:sogo(sogo@e-freetext.net)


戻る