タウンゼント版イソップ寓話集

hanama(ハナマタカシ) 訳





略記号:
Pe=ペリー版 Cha=シャンブリ版 H=ハルム版 Ph=パエドルス版 Ba=バブリオス版
Cax=キャクストン版 イソポ=天草版「イソポのハブラス」 伊曽保=仮名草子「伊曽保物語」
Hou(Joseph Jacobs?)=ヒューストン編  Charles=チャールス版 Laf=ラ・フォンテーヌ寓話
Kur=クルイロフ寓話 Panca=パンチャタントラ
J.index=日本昔話通観28昔話タイプ・インデックス TMI=トムスン・モチーフインデックス
<>=cf ( )=系統 Aesop=ペリー 1〜273に属する寓話




1、狼と、こ羊。

ある日のこと、狼は、群とはぐれて迷子になった、こ羊と出会った、狼は、こ羊を食ってやろうと思ったが、牙を剥いて襲いかかるばかりが、ノウジャナイ。何かうまい理由をでっち上げて、手に入れてやろうと考えた。
 そこで、狼はこんなことを言った。
「昨年お前は、俺様にひどいわるぐちを言ったな。」
 こ羊は、声を震わせて答えた。
「誓って真実を申しますが、私はその頃、まだ生まれていませんでした。」
 すると狼が言った。
「お前は、俺様の牧草を、食べただろう。」
「いえいえ、私はまだ、草を食べたことがありません。」
 すると、またしても狼が言った。
「お前は、俺様の井戸水を飲んだな。」
 こ羊は悲鳴を上げて答えた。
「いいえ。まだ、水も飲んだことがありません。だって、お母さんの、お乳以外は、何も口にしたことがないのですから。」
「ええい。もうたくさんだ。 お前がなんと言おうとも、俺様が、夜飯を抜いたままでいるとでも思っているのか。」
 狼はそう言うと、こ羊に襲いかかって、貪り食った。
 
教訓。暴君は、いかなる時にも、自分に、都合のよい理由を、見つけるものである。

ペリー155、シャンブリ221、パエドルス1.1、バブリオス89、キャクストン1.2、エソポ1.1、イソホ2.11、ジェイコブス2、チャーリス1、ラ・フォンテーヌ1.10、クルイロフ1.13、トムスンモチーフインデックスL31。この話の系統は、バブリオス。


2、蝙蝠と、二匹の鼬。

 蝙蝠が、地面におっこちて、鼬に捕まった。蝙蝠は、命ばかりはお助けを、と、懇願した。しかしこの鼬は、生まれてこの方、ずうっと、鳥と戦ってきたと言うのだ。そこで蝙蝠は、自分は鳥ではない。鼠だと言い張った。それを聞いて鼬は、蝙蝠を逃がしてやった。
 それからまもなく、蝙蝠は、また、地面におっこち、そしてまたしても、鼬に捕まってしまった。
 蝙蝠は今度も、命ばかりはお助けを、と、懇願した。しかし今度の鼬は、鼠を大変憎んでいると言う。そこで蝙蝠は、自分は鼠ではなく、蝙蝠だと言った。
 こうして、蝙蝠は、二度までも窮地を脱した。

教訓。賢い人は、その場その場でうまく立ち回る。

ペリー172 、シャンブリ251、チャーリス29 、ラ・フォンテーヌ2.5 、トムスンモチーフインデックスB261.1。この話の系統は、イソップの原典。


3、驢馬とキリギリス。

 驢馬は、キリギリスの歌声を聞いて魅了され、自分もあんなふうに、美しい声で歌ってみたいものだと考えた。そこで驢馬は、キリギリスたちに、どんなものを食べるとそんなに素敵な声が出るのかと尋ねてみた。
 キリギリスたちは答えた。
「スイテキダヨ。」
 それで驢馬は、水しかとらないことに決めた。

 驢馬は空腹で、すぐに死んでしまった。

ペリー184 、シャンブリ278、チャーリス24 、トムスンモチーフインデックスJ512.8。この話の系統は、イソップの原典。


4、ライオンと、鼠。

 ライオンが気持ちよく、寝ていると、何者かに眠りを妨げられた。鼠が顔を駆け抜けたのだ。
ライオンは、いきりたって鼠を捕まえると、殺そうとした。
 鼠は、必死に哀願した。
「命を、助けて下されば、必ず恩返しを致します。」
 ライオンは、鼻で笑って鼠を逃がしてやった。それから数日ご、ライオンは、猟師の仕掛けた網にかかって動けなくなってしまった。鼠は、ライオンの、うなりごえを聞きつけると、飛んで行き、歯で、ロープを、ガリガリとかじり、ライオンを逃がしてやった。  鼠は、得意になって言った。
「この前、あなたは私を嘲笑しましたが、私にだって、あなたを、助けることができるのですよ。どうです。立派な恩返しだったでしょう。」

ペリー150 、シャンブリ206、バブリオス107 、キャクストン1.18 、エソポ1.10 、イソホ2.23 、ジェイコブス11 、チャーリス8 、ラ・フォンテーヌ2.11、クルイロフ9.9、トムスンモチーフインデックスB371.1。この話の系統は、イソップの原典。


5、炭屋と、洗濯屋。

 あるところに、働き者の炭屋が住んでいた。ある日のこと、炭屋は友人の洗濯屋にばったり出合った。そして洗濯屋に、自分の所へ来て、一緒に住まないか。 そうすれば、家計は助かるし、一生楽しく暮らせるからと熱心に誘った。
 すると、洗濯屋は、こう、答えた。
「私は、あなたと住むことなどできません。だって、私が洗濯して、白くしたそばから、あなたは、黒くしてしまうでしょうからね。」

教訓。水と油は混ざらない。

ペリー29 、シャンブリ56、エソポ2.5 、チャーリス81 、トムスンモチーフインデックスU143 、この話の系統は、イソップの原典。


6、父親と、その息子たち。

 その男には、息子が大勢いたのだが、兄弟喧嘩が絶えず、いつもいがみ合ってばかりいて、父親が止めても、喧嘩をやめないというありさまだった。
 この期に及んで、父親は、内輪もめが如何に愚かなことであるかを、教え諭さなければならぬと痛感した。
 頃合いを見計らって、男は息子たちに、薪の束を持ってくるようにと、言いつけた。息子たちが薪の束を持って来ると、男は、一人一人にその束を手渡し、そして、それを折るようにと命じた。
 息子たちは、懸命に力を振り絞ってみたが、薪の束はびくともしなかった。そこで、男は、束をほどくと、今度は、一本一本、バラバラにして、息子たちに手渡した。すると息子たちは、たやすく薪を折った。
 そこで、彼は息子たちに、こんなことを語って聞かせた。
「よいか、息子たちよ。もしお前たちが、心一つに団結し、互いに助け合うならば、この薪の束のように、どんな敵にもびくともしない。しかし、互いがバラバラだったなら、この棒きれのように、簡単にへし折られてしまうのだ。」

ペリー53 、シャンブリ86、バブリオス47 、エソポ2.31 、ジェイコブス72 、チャーリス68 、ラ・フォンテーヌ4.18 、トムスンモチーフインデックスJ1021、この話の系統は、イソップの原典。


7、イナゴを捕まえる少年。

 ある少年が、イナゴを捕まえていた。そしてかなりの数が集まったのだが、少年は、イナゴと間違えて、サソリに手を伸ばそうとした。するとサソリは、鋭いどくばりをふりたてて、少年に言った。
「さあ、捕まえてごらん。君のイナゴを、全部失う覚悟があるならね。」

友だちを作るなら、ちゃんと見定めてからにせよ。見誤って悪い友だちを作ろうものなら、善い友だちを一瞬にして、総て失うことになる。

ペリー199 、シャンブリ293、クルイロフ6.9、この話の系統は、イソップの原典。



8、オンドリと、宝石。

 オンドリが、餌を探していて、宝石を見つけた。
 すると、オンドリはこう叫んだ。
「なんと詰まらぬものを見つけたことか。 俺にとっちゃ、世界中の宝石よりも、麦一粒の方がよっぽど価値がある。」

ペリー503 、パエドルス3.12 、キャクストン1.1 、イソホ2.10 、ジェイコブス1 、チャーリス49 、ラ・フォンテーヌ1.20、クルイロフ2.18 、トムスンモチーフインデックスJ1061.1、この話の系統は、パエドルス。


9、ライオンの、王国。

 野や、森の動物たちは、王様に、ライオンを、戴いていた。ライオンは残酷なことを嫌い、力で支配することもなかった。つまり、人間の王様のように、公正で、心優しかったのだ。
 彼のみよに、鳥や獣たちの会議が開かれた。そこで彼は、王として、次ぎのような宣言をした。
「共同体の決まりとして、狼と、こ羊。ヒョウと、こヤギ。トラと、ニワトリ。犬と、兎は、争わず、親睦をもって、共に暮らさなければならない。」
 兎が言った。
「弱者と強者が、共に暮らせるこんな日を、私はどんなに待ちこがれたことか。」
兎はそう言うと、死にものぐるいで逃げていった。

教訓。地上の楽園など、この世にはない。

ペリー334 、シャンブリ195、バブリオス102、狐ラインケ1.1、この話の系統は、バブリオス。

 注意、原典などでは、最後の、「兎はそう言うと、死にものぐるいで逃げていった。」と、いうような記述はなく、「めでたし、めでたし」で終わっている。


10、狼とサギ。

 ノドに骨が刺さった狼が、多大な報酬を約束して、サギを雇った。と、いうのも、口の中へ、頭を突っ込んでもらって、彼女に骨を抜いて貰おうと、考えたからだった。サギが、骨を抜き出し、約束の金を、要求すると、狼は、牙を光らせて叫んだ。
「何を言ってやがる。 お前は、もう俺様から、じゅうぶんすぎる報酬を受け取ったはずだぞ。俺様の口から、無事に出られたのだからな。」

教訓。悪者へ施す時には、報酬など期待してはならぬ。もし、なんの危害も受けずにすんだなら、それでよしと、しなければならない。

ペリー156 、シャンブリ224 、パエドルス1.8 バブリオス94 、キャクストン1.8 、エソポ1.5 、イソホ2.16 、ジェイコブス5 、チャーリス12 、ラ・フォンテーヌ3.9、クルイロフ6.12、トムスンモチーフインデックスW154.3 、狐ラインケ3.11、この話の系統は、イソップの原典。


11、笛を吹く漁師。

 笛の上手な漁師が、笛と、網を持って海へ出掛けた。彼は、突き出た岩に立ち、スウキョク、笛を奏でた。と、いうのも、魚たちが、笛のねに引き寄せられて、足下の網に、自ら、踊りいるのではないかと、考えたからだった。
 結局、長いこと、待ったが、無駄であった。そこで、男は笛を置き、網を投じた。すると、ひとあみで、たくさんの、魚が捕れた。
 男は、網の中で跳ね回る魚たちを見て言った。
「なんとお前たちは、ひねくれ者なんだ。 俺が笛を吹いていた時には、踊らなかったくせに、吹くのをやめた今、こんなに陽気に踊りやがる。」

ペリー11 、シャンブリ24、 バブリオス9 、キャクストン6.7 、ジェイコブス42 、ラ・フォンテーヌ10.10 、トムスンモチーフインデックスJ1909.1 、この話の系統は、イソップの原典。

12、ヘラクレスと、牛追い。

 ある牛追いが、牛に車をひかせて、田舎みちを、進んで行った。すると、車輪が溝に深くはまり込んでしまった。頭の弱い牛追いは、ぎっしゃの脇に立ち、ただ呆然と見ているだけで、何もしようとはしなかった。そして、突然大声で、お祈りを始めた。
「ヘラクレス様、どうか、ここに来てお助け下さい。」
 すると、ヘラクレスが現れて、次ぎのように語ったそうだ。
「お前の肩で、車輪を支え、牛たちを追い立てなさい。それから、これが肝心なのだが、自分で何もしないで、助けを求めてはならない。今後そのような祈りは、一切無駄であることを肝に銘じなさい。」

教訓。自助の努力こそが、最大の助け。

ペリー291 、シャンブリ72、バブリオス20、アウィアヌス32 、ジェイコブス61 、チャーリス101 、ラ・フォンテーヌ6.18 、トムスンモチーフインデックスJ1034、この話の系統は、バブリオス。


13、アリとキリギリス。

 ある晴れた冬の日、アリたちは、夏の間に集めておいた、穀物を干すのに、おおわらわだった。そこへ、腹をすかせて、死にそうになった、キリギリスが通りかかり、ほんの少しでよいから、食べ物を、分けてくれるようにと、懇願した。
 アリたちは、彼に尋ねた。
「なぜ、夏の間に、食べ物を、貯えておかなかったのですか。」
 キリギリスは、こう答えた。
「暇がなかったんだよ。日々歌ってイタカラネ。」
 すると、アリたちは、あざ笑って言った。
「夏の間、歌って過ごしたお馬鹿さんなら、冬には、夕食抜きで、踊っていなさい。」

ペリー373 、シャンブリ336、バブリオス140、アウィアヌス34 、キャクストン4.17 、エソポ1.23 、イソホ3.1 、チャーリス14 、ラ・フォンテーヌ1.1、クルイロフ2.12 、トムスンモチーフインデックスJ711.1、この話の系統は、バブリオス。 


14、旅行者と、彼の犬。

 男が、旅にデカケヨウトスルト、彼の犬が、ドアのところで、伸びをしていた。
「なぜ、伸びなどしているんだ。 用意万端、直ぐに出かけられるのか。」
 男は、犬をピシャリと叱った。すると、犬はしっぽを振りながら答えた。
「ご主人様、わたしゃ、支度は済んでます。待っていたのは、わたしの方です。」

教訓。自分のせいで、遅くなったくせに、難癖をつけて、相手のせいにする者がいる。怠け者は得てしてそういうものだ。

ペリー330、バブリオス110 、トムスンモチーフインデックスJ1475、この話の系統は、バブリオス。


15、犬と、影。

 犬が肉をくわえて、橋を渡っていた。すると、ミナモニ写る自分の影を見て、どこかの犬が、もの凄く、大きな肉を、くわえているのだと思った。
 彼は、自分の肉を放り出すと、大きな肉を目指して、烈火の如く躍り掛かった。こうして、彼はどちらの肉も失った。
 彼が、水の中でウバオウトシタニクワ、影であったし、自分の肉は、流が、ハコビサッテシマッタカラダ。

ペリー133 、シャンブリ185、パエドルス1.4、バブリオス79 、キャクストン1.5 、エソポ1.3 、イソホ2.13 、ジェイコブス3 、チャーリス3 、ラ・フォンテーヌ6.17、ニホンムカシバナシツウカン・タイプインデックス843 、トムスンモチーフインデックスJ1791.4、この話の系統は、イソップの原典。


16、モグラと、その母親。

 モグラは、生まれながらに目が見えないのだが、そんな彼が、ある日、母親に言った。
「僕は、ちゃんと目が見えます。」
 母親は、息子の間違いをきちんと正さなければと考え、彼の前に、一片の、にゅう香を置き、そして尋ねた。
「これは、なんだと思う。」
「これは、すいしょうです。」
 すると母親は、大声で言った。
「なんてことだい。お前は、目が見えないだけでなく、鼻まで利かなくなってしまったんだね。」

ペリー214 、シャンブリ326、トムスンモチーフインデックスJ446.1、この話の系統は、イソップの原典。

17、牛飼いと、盗まれた牛。

 ある牛飼いが、森で牛たちの世話をしていたのだが、一匹の雄のこ牛が、囲いからいなくなってシマッタ。牛飼いは、あちこちこ牛をサガシマワッタガ、徒労に終わった。そこで、牛飼いは、ヘルメスやパーンなど森の神々に、もし、牛泥棒を見つけることができたならば、生贄にこ羊を捧げると誓った。
 それからすぐに、牛飼いが小高い丘に登ると、丘の麓で、ライオンが、こ牛を食べているのを発見した。その恐ろしい光景に、牛飼いは、天を仰ぎ、両手をさしのべてこう言った。
「オーオ、森の神々よ。 私は、たった今、泥棒を見つけることが出来たなら、こ羊を捧げると誓いましたが、今度は、こ牛に立派な牡牛もおつけ致しますから、どうか、私を無事に、ライオンから逃がして下さい。」

ペリー49、シャンブリ49、バブリオス23、ラ・フォンテーヌ6.1、トムスンモチーフインデックスJ561.2。この話の系統は、バブリオス。


18、兎と亀。

 ある日のこと、兎が、亀を、足が短くてのろまだと嘲笑った。すると亀は、笑みを浮かべて、こう答えた。
「確かに、あなたは、風のように速いかもしれない。でも、あなたを、ウチマカシテミセマス。」
 兎はそんなことは、無理に決まっていると思い、亀の挑戦を受けることにした。狐が、コースとゴールの位置を決めることになり、両者はそれに同意した。
 競争の日が来た。二人は同時にスタートした。亀は、遅かったが、一瞬たりとも止まらずに一歩一歩着実にゴールへと向かった。兎は、道端でごろりと横になると、眠りこんだ。
 しまった。
 と思って、目を覚ました兎は、あらん限りのスピードで走ったが、亀はすでに、ゴールインして、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

教訓。ゆっくりでも、着実な者が勝つ。

ペリー226 、シャンブリ352、ジェイコブス68 、チャーリス36 、ラ・フォンテーヌ6.10、日本昔話つうかん545B 、トムスンモチーフインデックスK11.3、この話の系統は、イソップの原典。


19、柘榴と林檎と茨。

 柘榴の木と、林檎の木が、どちらが美しいかということで、言い争っていた。両者の議論が最高潮に達したとき、近くの垣根から、茨が、しゃしゃり出た。
「ねえ、お友達の柘榴さんに、林檎さん。せめて、私のいる前では、そんな無益な議論は、おやめ遊ばせ。」

教訓。争いごとに乗じて、とるに足らぬ者が、しゃしゃり出るものだ。

ペリー213 、シャンブリ324、トムスンモチーフインデックスJ466.1、この話の系統は、イソップの原典。


20、農夫と、鸛。

 ある農夫が、種蒔きを終えたばかりの畑に、網を仕掛け、種をタベニキタ。ツルの群を一網打尽にした。
すると、ツルの群と一緒に、鸛が一匹捕らえられていた。網に足が絡まり傷ついた鸛は、農夫にナキツイタ。
「私は骨を折っているのです、どうか私を哀れんで、今回は見逃して下さい。それに、私は下世話なツルではなく、鸛なのです。
私が、父や母をどんなに慈しみ、お世話するか、あなたもご存じでしょう。 
私の羽を見て下さい。ツルの羽とは違うでしょう。」
 すると農夫は、大きな声で笑った。
「言いたいことは、全部言ったか。 では、俺の番だ。お前は、あの、盗人どもと一緒に捕まった。よって、お前は奴らと一緒に、死なねばならぬ。」

教訓。尻尾を捕まれているのに、言い逃れをしても無駄である。同じ穴のむじな。

ペリー194 、シャンブリ284、バブリオス13 、キャクストン6.9 、チャーリス111 、トムスンモチーフインデックスJ451.2 、この話の系統は、バブリオス。

21、農夫と蛇。

 ある冬の日のこと、農夫は、寒さに凍えて、今にも死にそうになった蛇を見つけた。彼は可哀想に思い、蛇を拾い上げると、自分の懐に入れてやった。
 蛇は暖まると、元気を取り戻し、本性をあらわにして、命の恩人に、カミツイタ。農夫は今際のきわに、こう叫んだ。
「オオ、これも、悪党に哀れみを与えた、当然の報いだ。」

教訓。悪党には親切にしないのが、一番の親切。

ペリー176 、シャンブリ82、パエドルス4.20 、バブリオス143 、キャクストン1.10 、ジェイコブス17 、チャーリス43 、ラ・フォンテーヌ6.13 、トムスンモチーフインデックスW154.2、この話の系統は、イソップの原典。


22、こジカと彼の母親。

 むかし昔のことである。こジカが、ハハジカに言った。
「お母さんは、犬よりも大きいし、敏捷で、駆けるのも、とっても速い。その上、身を守るつのだって持っている。それなのになぜ、猟犬を怖がるのですか。」
 ハハジカは、にこやかに答えた。
「お前の言うことは、みな、その通りだけど、でも母さんは、犬の吠えるのを一声聞いただけで、卒倒しそうになり、飛んで逃げたくなるんだよ。」

教訓。いくら説得しても、臆病者は、勇者にはならない。

ペリー351 、シャンブリ247 、エソポ2.33 、チャーリス95 、トムスンモチーフインデックスU127、この話の系統は、バブリオス。


23、熊と狐。

 ある熊が、我こそは、動物の中で、一番、人間への愛情がこまやかであると、痛く自慢した。
と、言うのも、自分は人の死体にさえ、触れようとはしないからだと言うのだ。それを聞いて、狐が言った。
「オオ、熊さんや、生きた人を食べずに、死んだ人を食べなさい。」

ペリー288 、シャンブリ63、バブリオス14、クルイロフ6.19、この話の系統は、バブリオス。


24、燕と烏。

 燕と烏が、羽のことで言い争っていた。そして、烏がこんな事を言って、その議論に、決着をつけた。
「君の羽は、春の装いには、ぴったりかもしれない。でも、僕の羽は、冬の寒さからも、身を守ってくれるんだよ。」

教訓。困難な時の友こそ、本当の友。

ペリー229 、シャンブリ348 、チャーリス76 、トムスンモチーフインデックスJ242.6、この話の系統は、イソップの原典。


25、山のお産。

 かつて、山が大いに揺れ動いたことがあった。巨大な、ウナリゴエが、響き渡った。一体、何が起こるのか、ひと目見ようと、あらゆる所から、人々が集まってきた。何か、恐ろしい大災害が、起こるのではないか。 
皆、固唾を飲んで見守った。
 しかし、出てきたのは、鼠一匹だった。

教訓。タイザン鳴動して、鼠一匹。

ペリー520 、パエドルス4.24 、キャクストン2.5 、ジェイコブス14 、ラ・フォンテーヌ5.10 、トムスンモチーフインデックスU114、ホラーテウス詩論・引用句集139、この話の系統は、パエドルス。

26、驢馬と狐とライオン。

 危ない目に合ったら、互いに助け合おうと約束して、驢馬と狐が、森へと狩りに出かけた。
だが、森の奥へと踏み込む前に、ライオンと、出くわしてしまった。絶体絶命の窮地に立って、狐はライオンの所へ行き、もし、自分を、助けてくれるならば、驢馬を捕らえるよい知恵を授けると言った。
 狐は、驢馬を言いくるめると、深い穴に連れて行き、驢馬がその中に落ちるように仕向けた。ライオンは、驢馬が動けないのを見ると、即座に狐を捕まえた。そして、驢馬に取りかかったのは、狐を食ってからだった。

ペリー191 、シャンブリ270 、エソポ2.39 、トムスンモチーフインデックスQ581、この話の系統は、イソップの原典。


27、亀と鷲。

 ヒガナイチニチ、日向ぼっこをしていた亀が、海鳥に向かって、ダレモ、ソラの飛びかたを、教えてくれないのだと愚痴をこぼした。近くを、飛んでいた鷲が、亀の溜め息まじりの言葉を聞くと、何かお礼をくれるのなら、ソラ高く、連れて行って、飛びかたを教えてやると言った。
 亀は、喜び勇んでこう答えた。
「紅海のサチを、全てあなたに差し上げます。」
「よし、わかった、ではお前に、ソラの飛びかたを、教えてやろう。」
 鷲は、そう言うと、亀を、かぎづめで、ひっつかみ、雲間へと運んでいった。
「さあ、飛ぶのだ。」
 鷲はそう言うと、突然、亀を放り出した。亀は、そびえ立つ山の頂きに落ちて、甲羅もろとも、粉々に砕け散った。亀は、死ぬ間際にこう言った。
「こうなったのも当然だ。地上を歩くのさえ、おぼつかぬものが、翼や雲の真似をして、空を飛ぼうとしたのだからな。」

教訓。望むことの全てを、叶えようとするならば、破滅が待っているだろう。

ペリー230 、シャンブリ351、バブリオス115、アウィアヌス・2 、キャクストン7.2 、エソポ2.25 、ジェイコブス47 、トムスンモチーフインデックスK1041、この話の系統は、バブリオス。


28、蝿と、ハチミツの壷。

 蝿たちは、倒れた壷から溢れ出る、蜜の匂いに誘われて、台所へと、ヤッテキタ。彼らは、ハチミツの上へと降り立つと、一心不乱にナメマ鷲タ。ところが、蜜が、足にベタベタ、カラミツキ、蝿たちは、飛べなくなってしまった。蜜の中で息が詰まって、死にゆくときに、蝿たちはこんなふうに叫んだ。
「ああ、なんて我等は間抜けなんだ。 ほんの少しの快楽のために、身を滅ぼすとはな。」

教訓。楽しみの後には、痛みと苦しみが待っている。

ペリー80 、シャンブリ239、チャーリス36 、トムスンモチーフインデックスN339.2、この話の系統は、イソップの原典。


29、人とライオン。

 人とライオンが、一緒に森の中を旅していた。すると、両者とも、力と、勇気について、自慢しはじめた。互いに、言い争っていると、二人は、ある石像の前へとやってきた。それは、人がライオンを絞め殺している石像だった。男は、それをゆびさして言った。
「あれを見ろよ。 俺たち人間が、どんなにつよいか、わかるというものだ。百獣の王さえ、あの通りだ。」
 すると、ライオンはこんなふうに言い返した。
「この石像は、あんたがた、人間が造ったものだ。もし、我々、ライオンが、石像を、造れたなら、足下にいるのは、その男の方だろうよ。」

教訓。どんなに下らない話でも、反論されるまでは、一番である。

ペリー284 、シャンブリ59 、アウィアヌス・24 、キャクストン4.15 、ジェイコブス35 、ラ・フォンテーヌ3.10 、トムスンモチーフインデックスJ1454、この話の系統は、バブリオス。


30、農夫と鶴たち。

 鶴たちは、種蒔きを、おえたばかりの、小麦バタケを、エサバにしていた。農夫はいつも、パチンコをからうちして、鶴たちを追い払っていた。と、いうのも、ツルたちは、からうちしただけで、怖がって、逃げたからだ。
 しかしツルたちは、それが、くうを、切っているだけだと気付くと、パチンコを見ても、お構いなしにそこに居座った。そこで農夫は、今度はパチンコに、本当に石を装填し、そして、たくさんのツルを、ウチコロシタ。
 ツルたちは皆、一様に、こんなことを言って嘆いた。
「リリパットの国に、逃げる時がきたようだ、彼は、我々が怯えるだけでは、満足せずに、本気で撃ってくるのだからな。」

教訓。優しく言われているうちに言う事を聞け。さもないと、げんこつが飛んでくるぞ。

ペリー297 、バブリオス26 、トムスンモチーフインデックスJ1052、この話の系統は、バブリオス。

注意。リリパットは、ガリバー旅行記に出てくる、小人の国のこと。原典などでは、ピグミーとなっている。(ピグミーはギリシア神話の、伝説の小人) 


<前へ><一覧><次へ


底本にしたのは、
Project Gutenberg aesop11.txt
Aesop's Fables Translated by George Fyler Townsend
訳に際して、意味の分かりにくい部分には筆を加えました。

主な参考文献:
イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫
イソップ寓話集 山本光雄訳 岩波文庫
新訳イソップ寓話集 塚崎幹夫訳 中公文庫 
イソップ寓話集 伊藤正義訳 岩波ブックセンター 
叢書アレクサンドリア図書館10 イソップ風寓話集 パエドルス/バブリオス 岩谷智・西村賀子訳 国文社 
吉利支丹文学全集2(イソポのハブラス) 新村出 柊源一 平凡社 
古活字版 伊曽保物語 飯野純英校訂 小堀桂一郎解説 勉誠社 
寓話 ラ・フォンテーヌ 今野一雄訳 岩波文庫
寓話 ラ・フォンテーヌ 市原豊太訳 白水社
クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫
アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
カリーラとディムナ 菊池淑子訳 平凡社
日本昔話通観 28 昔話タイプインデックス 稲田浩二 同朋舎
狐ラインケ 藤代幸一訳 法政大学出版局
知恵の教え ペトルス・アルフォンシ 西村正身訳 渓水社


著作権はhanamaにありますが、制限は致しませんので、ご自由にお使い下さい。
(誤字脱字がありましたらお教え下さい) aesopius@yahoo.co.jp
「イソップ」の世界http://aesopus.web.fc2.com/
戻る