タウンゼント版イソップ寓話集

hanama(ハナマタカシ) 訳




略記号:
Pe=ペリー版 Cha=シャンブリ版 H=ハルム版 Ph=パエドルス版 Ba=バブリオス版
Cax=キャクストン版 イソポ=天草版「イソポのハブラス」 伊曽保=仮名草子「伊曽保物語」
Hou(Joseph Jacobs?)=ヒューストン編  Charles=チャールス版 Laf=ラ・フォンテーヌ寓話
Kur=クルイロフ寓話 Panca=パンチャタントラ
J.index=日本昔話通観28昔話タイプ・インデックス TMI=トムスン・モチーフインデックス
<>=cf ( )=系統 Aesop=ペリー 1〜273に属する寓話



181、鷲と猫と猪。

 そびえ立つ樫の木のてっぺんに、鷲が巣をつくった。猫が、その木の中間に、ほどよい穴を見つけて、引っ越して来た。そして、猪が木の根元の穴に、子供と共に住まわった。
 猫は、この、たまたま知り合った者たちを、出し抜いてやろうと、悪賢いことを考えた。まず彼女は、鷲の巣へと登って行き、こんなふうに言った。
「大変です。あなたと私の身に、危険が迫っているのです。あなたもご存じのように、あの猪は、毎日、地面を掘り返していますが、あれは、この樫の木を、根っ子から倒してしまおうと、目論んでいるのです。そして、我々の家族が落ちたら、捕まえて、子供の餌食にしようとしているのです。」
 猫は、このように、鷲に恐怖を吹き込んで、彼女を恐慌状態に陥れると、今度は、猪の許へ、そおっとおりて行き、そしてこんなことを言った。
「お子さんたちに、大変な危機が迫っています。鷲の奴は、あなたの子供を、狙っているのです。あなたたちが、餌を探しに穴から出たら、すぐさま一匹さらってしまおうと、目論んでいるのです。」
 猫はこのように、猪にも恐怖を吹き込むと、自分の穴にこもって、身を隠すふりをした。彼女は夜になると、そおっと出掛けて行き、自分と子供たちのために、餌を捕った。しかし、昼間は、一日中外を見張り続けて、恐怖に駆られているふりをした。
 一方、鷲は、猪が木を倒すのではないかと恐れて、尚も枝に止まり、猪は、鷲に怯えて、決して巣穴から出て行こうとはしなかった。
 こうして、鷲と猪の家族は、飢えて死に、猫とその子供たちの、豊かな栄養となった。

ペリー488 、パエドルス2.4 、ラ・フォンテーヌ3.6 、トムスンモチーフインデックスK2131.1 、この話の系統は、パエドルス。


182、泥棒と宿屋の主人。

 泥棒が、宿に部屋を借りて、何かめぼしいものを盗んでやろうと、しばらく逗留することにした。
 数日間、泥棒はむなしく時を過ごしたが、宿屋の主人が、仕立ての良い新しいコートを着て、店の前に座っているのを見つけた。泥棒は主人の脇に座って話しかけた。
 会話が一段落つくと、泥棒は、恐ろし気に、大きな口を開けて、狼のように吠えた。すると宿屋の主人が尋ねた。
「どうして、そんなに恐ろしい声を張り上げるのかね。」
 すると泥棒がこう答えた。
「わけはお話しますが、でも、その前に、私の服を持っていてもらえないでしょうか。さもないと私は服をズタズタに引き裂いてしまうのです。」泥棒は更に続けた。「いつから、こんな大口を開けるようになったのか、分からないのです。また、この遠吠えの発作にしても、私が何か罪を犯して、罰として、与えられたものなのかどうかも、分からないのです。ただ分かっていることは、私は三回大口を開けると、狼に変身して、必ず人間を襲うのです。」
 泥棒はこう言うと、二度目の大口を開けて、狼のように吠えた。泥棒の話を、まに受けた宿屋の主人は、恐怖に駆られて、跳び上がると、そこから逃げて行こうとした。すると泥棒は、彼のコートを掴んで、こう言った。
「お願いです、どうかここにいて、私の服を持っていて下さい。さもないと、私が狼に変身して、狂暴になった時に、服をズタズタに引き裂いてしまうのです。」
 泥棒はそう言うと、三度目の大口を開いて、そして恐ろしい唸り声を上げた。恐怖に震えた宿屋の主人は、男に襲われないようにと、自分の新しいコートを手渡すと、一目散に宿の中へ逃げ込んだ。
 泥棒は、そのコートを持って、とんずらすると、二度と戻ってこなかった。

教訓、世の中には、信じてよい話と、信じてはならぬ話がある。

ペリー419 、トムスンモチーフインデックスK335.4.1 、この話の系統は、Laurentianus。


183、ラバ。

 ラバは、仕事をさせられるわけでもなく、トウモロコシをわんさか与えられたので、浮かれて、大層得意になって、ギャロップしながら、一人こう言った。
「僕の父さんは、とても優秀な競馬馬だったにちがいない。僕は、その速さを父さんから受け継いだのだ。」
 次の日、ラバは、長い距離を走らされて、くたくたになると、絶望的に叫んだ。
「僕の考えは間違だった。僕の父さんは驢馬だったのだ。」

ペリー315 、シャンブリ128 、バブリオス62 、ラ・フォンテーヌ6.7 、トムスンモチーフインデックスL465、この話の系統は、バブリオス。

註釈:ラバは、雌の馬と雄の驢馬の交雑種。
原典などでは、ラバは父親を自慢するのではなく、母親が競馬馬だったと自慢する。


184、鹿と葡萄の木。

 鹿が、猟師に執拗に追い立てられ、大きな葡萄のハカゲに隠れた。猟師たちは、鹿に気付くことなく、足早にそこを通り過ぎて行った。
 鹿は、危険が去ってほっとすると、葡萄の蔓を食べ始めた。すると、一人の猟師が、葡萄の葉が、カサカサいうのに振り返り、鹿を見つけると、見事に弓で射抜いた。
 鹿は、死ぬ間際にこう呻いた。
「こんな目に遭うのも当然だ。助けてくれた葡萄の木に、ひどい仕打ちをしてしまったのだからな。」

ペリー77 、シャンブリ103 、エソポ2.35 、ラ・フォンテーヌ5.15 、トムスンモチーフインデックスJ582.2 、この話の系統は、イソップの原典。


185、蛇と鷲。

 蛇と鷲が壮絶な死闘を繰り広げていた。蛇が優位に立ち、鷲を絞め殺そうとした時、それを見つけた農夫が、走って来て、鷲に巻き付いている蛇を解いてやった。
 蛇は、獲物をふいにされたことを根に持ち、農夫が愛用しているツノ製の盃に、自分の毒を、そそぎ込んだ。農夫は毒に気付かず、その杯から飲もうとした。と、その時、鷲の翼が、農夫の手を打ちすえた。そして、見る間に鷲は、カギヅメで盃を掴むと、そら高く持ち去っていった。

ペリー395 、トムスンモチーフインデックスB521.1、 N332.3、この話の系統は、アプトニウス。


186、烏と水差し。

 喉がカラカラに渇いた烏が、水差しを見つけて、喜び勇んで飛んで行った。しかし、水差しには、水がほんの少ししか入っておらず、どうしても水面まで嘴が届かない。烏は悲嘆に暮れたが、それでも、あらゆる手段を講じて、水を飲もうとした。しかし、その努力もみな徒労に終わった。 
 だが、烏はまだ諦めなかった。烏は集められるだけの石を集めると、嘴で、一つ一つ、水差しの中へ落としていった。水はどんどん嵩を増し、ついに烏の嘴まで届いた。
 こうして烏は命を長らえることが出来たのだった。

必要は発明の母。

ペリー390 、アウィアヌス・27 、キャクストン7.20 、ジェイコブス55 、チャーリス27 、トムスンモチーフインデックスJ101 、この話の系統は、Ps.Dositheus。


187、二匹の蛙。

 小さな水たまりに、二匹の蛙が住んでいた。一匹は、広く世間を知っていたので、遠くにある、深い池に引っ越していった。もう一匹は、溝にかろうじて残った水たまりから離れようとはしなかった。しかもそこには、馬車の行き交う、太い路が横切っていた。
 池の蛙は、友達の身を案じて、自分の住んでいる所は、こんな水たまりよりも、ずうっと安全で、しかも餌も豊富だから、一緒に来て住むようにと、熱心に誘った。
 しかし、水たまりの蛙は、住み慣れたこの場所を、引き払うのは忍びないと言い張って、首を縦には振らなかった。
 数日後、大きな馬車が、水たまりを通り抜け、蛙は車輪でぺしゃんこにされてしまった。

教訓、頑固者は、その頑固さ故にひどい目にあうものだ。

ペリー69 、シャンブリ67、チャーリス7 、トムスンモチーフインデックスJ652.1、この話の系統は、イソップの原典。


188、狼と狐。

 ある日のこと、ある狼の群に、大層大きくて、力のつよい狼が生まれた。彼は、強さ、大きさ、速さと、全てにおいて、並外れていたので、皆は彼を、「ライオン」と呼ぶことにした。
 しかし、この狼は、体は大きかったが、その分、思慮に欠けていたので、皆が、「ライオン」と呼ぶのを、まに受けて、仲間から離れて行くと、専らライオンと付き合うようになった。
 これを見て、狡知にたけた、年老いた狐がこう言った。
「おいおい、狼さんや、一体、どうすりゃ、お前さんのような、馬鹿げたことができるのかね。その、見栄と虚栄心には、目も当てられぬ。いいかね、お前さんは、狼たちの間では、ライオンのように見えるかもしれぬが、しかし、ライオンたちの間じゃ、ただの狼にしか見えぬのだよ。」

ペリー344、バブリオス101 、トムスンモチーフインデックスJ952.1 、この話の系統は、バブリオス。


189、胡桃の木。

 道端に立っていた胡桃の木は、たわわに実った自分の実が、恨めしかった。と、言うのも、道行く人々が、胡桃を採ろうと、石を投げたり、棒きれで、枝を折ったりするからだ。
 胡桃の木は、哀しげに嘆いた。
「ああ、なんてみじめなんだろう。私は、この実で、皆に喜びを与えているというのに、その礼が、この苦痛だとは!」

ペリー250 、シャンブリ152、トムスンモチーフインデックス154.6 、この話の系統は、イソップの原典。


190、蚋とライオン。

 蚋が、ライオンの許へとやって来て、こう言った。
「俺はお前など、ちっとも怖くない。一体お前の何処が強いのか。お前の爪や歯など、女が口答えした時に、役に立つくらいのものだ。繰り返し言うが、俺はお前よりも、ずうっと強いんだ。疑うなら、俺と勝負しろ。」
 蚋はこう言うと、進軍ラッパを吹き鳴らし、ライオンに挑みかかった。そして、鼻の穴など、毛の生えていない所を、刺しに刺した。
 ライオンは、蚋を叩き潰そうと、鋭い爪を振り回したが、しかしそのたびに、蚋はさっとよけ、逆に自分自身を引き裂いてしまう。
 蚋はこのようにして、ライオンを打ち負かした。そして、勝利のラッパを響かせて、飛んでいった。と、突然、蚋は蜘蛛の巣に絡まった。
 蚋は嘆き悲しんでこう言った。
「ああ、なんて哀れなんだろう。百獣の王に勝ったこの俺が、こんなちっぽけな蜘蛛に、命を奪われるとはな。」

ペリー255 、シャンブリ188 、エソポ2.19 、ラ・フォンテーヌ2.9、クルイロフ3.9 、トムスンモチーフインデックスL478 、この話の系統は、イソップの原典。


191、猿とイルカ。

 ある船員が、長い航海の慰めにと、猿を連れて、船に乗り込んだ。ところが、船がアテネの岸から離れると、烈しい暴風雨がまきおこり、船は転覆し、全員海に投げ出されてしまった。
 猿が波と格闘していると、イルカがやってきて、彼を人間だと思い、無事に岸まで運んでやろうと、猿を背中に乗せてやった。(イルカは人を必ず助けると言われている)。そして、アテネまでほんの僅か、陸地が見えるところまで来ると、イルカは猿に、「アテネ人か?」と尋ねた。すると、猿は、正しく自分はアテネ人であり、しかも、アテネでも屈指の名家のでであると言った。するとイルカは、ピレウスを知っているかと尋ねた。(これはアテネの有名な港の名前なのだが)。猿は人の名前だと思い、彼のことはよく知っているし、大変懇意にしているとまで言った。
 この嘘に腹を立てたイルカは、海に潜ると、猿を溺死させた。

ペリー73 、シャンブリ3.5、ラ・フォンテーヌ4.7 、トムスンモチーフインデックスM205.1.1 、この話の系統は、イソップの原典。


192、烏と鳩。

 烏は、鳩たちが小屋の中で、たくさん餌をもらっているのを見て、その餌にありつこうと、体を白く塗って仲間に加わった。
 鳩たちは、烏が黙っていたので、仲間だと思い、彼を小屋に入れてやった。しかし、ある日のこと、烏は迂闊にも、鳴き声を上げてしまった。鳩たちは、烏の正体を見破ると、嘴でつついて烏を追い立てた。
 烏は、餌にありつけなくなると、自分の仲間の許へと帰っていった。しかし、カラスたちもまた、彼の色が違うので、仲間とは認めず、彼を追い払った。

このように烏は、二つの生活を望んだために、どちらも失うことになった。

ペリー129、472 、シャンブリ163 、エソポ2.18、パエドルス1.3、キャクストン2.15、エソポ1.15、イソホ2.27、ジェイコブス21、ラ・フォンテーヌ4.9、日本昔話つうかん592、トムスンモチーフインデックスJ951.2、この話の系統は、イソップの原典。


193、馬と鹿。

 昔、馬は草原で自由に暮らしていた。そこへ鹿がやってきて、馬の草をぶんどった。馬は、このよそ者に仕返ししてやろうと、人間に協力を求めた。すると人間は、馬がくつわをつけて、自分を乗せてくれるなら、鹿をやっつける武器を考案してやると言った。
 馬は承知して、人間を乗せ、見事鹿への復讐を果たした。しかしその代償として、馬は人間の奴隷となってしまった。

ペリー269a、269 、シャンブリ328、パエドルス4.4 、キャクストン4.9 、ジェイコブス32 、ラ・フォンテーヌ4.13、狐ラインケ3.8 、トムスンモチーフインデックスK192 、この話の系統は、アリストテレス「弁論述」1393b13。


194、子山羊と狼。

 牧草地からの帰り道、群からはぐれた子山羊が、狼に狙われてしまった。
 子山羊は、逃げられないと観念すると、狼に向かってこう言った。
「あなたに、食われる覚悟はできました。でも、死ぬ前に一つだけお願いがあります。私が踊れるように、笛を吹いてくれませんか。」
 狼は、子山羊の願いを叶えてやることにした。
 こうして、狼が笛を吹き、子山羊が踊っていると、犬どもが、その騒ぎを聞きつけて、走って来た。
 狼は逃げる時に、子山羊をチラリと振り返ってこう言った。
「こうなるのも当然だ。屠殺しかできないこの俺が、お前を喜ばせようと、笛吹きなどに、転向したのだからな。」

ペリー97、680 、シャンブリ107 H134 、エソポ2.15 、チャーリス18 、トムスンモチーフインデックスK551.3.2、この話の系統は、イソップの原典。


195、予言者。

 ある予言者が、市場に座って道行く人の運勢を見ていた。そこへ、男が慌てて駆けてきて、家に泥棒が入り、家財道具一切合財盗まれた。と、予言者に知らせた。予言者は、重いため息を一つつくと、急いで駆けていった。
 彼の駆けて行く後ろ姿を見て、ある人がこんなことを言った。
「お前さんは、人の運命を予言出来ると言っていたのに、自分のことは予言できんとはどういうことなんだね。」

ペリー161 、シャンブリ233 、トムスンモチーフインデックスK1956.4 、この話の系統は、イソップの原典。


196、狐と猿。

 狐と猿が、一緒に旅をしていた。二人が道を歩いていると、立派な石碑の立ち並ぶ墓地へと、やってきた。
 すると猿がこう言った。
「この石碑は、全て、僕のご先祖様を讃えて、建立されたものなんだよ。僕のご先祖様たちは、皆、偉大な名声を博した市民だったのさ。」
 すると狐はこう言い返した。
「僕が君の先祖のことを、知らないと思って、よくもそんな嘘っ八が言えるもんだね!」

教訓、嘘は大抵ばれるものだ。

ペリー14 、シャンブリ39 、バブリオス81 、トムスンモチーフインデックスJ954.2 、この話の系統は、バブリオス。


197、泥棒と番犬。

 夜、泥棒が、ある家に忍び込んだ。泥棒は、番犬に吠えられないようにと、肉を持参して投げ与えた。
 すると、犬はこう言った。
「こんなことで、私の口を封じられると思うのなら、それは大間違いですよ。この親切には、何か裏があるのでしょう? あなたが得ようとする利益は、私の主人の不利益に繋がるのではないのですか?」

ペリー403 、パエドルス1.23 、キャクストン2.3 、エソポ2.20 、トムスンモチーフインデックスK2062、この話の系統は、パエドルス。


198、人と馬と牛と犬。

 馬と牛と犬が寒さに凍えてしまい、人に助けを求めた。すると人は親切に、彼らを中に入れてやると、火をおこして暖めてやった。そして、馬には麦を好きなだけ食べさせ、牛には藁をどっさりと与え、犬には自分のテーブルから肉を与えてやった。これらの親切に感謝をあらわそうと、動物たちは、自分たちの最高のもので、お返しをすることにした。
 こうして、彼らは、人間の寿命を3つに分けると、各自がそれぞれのパートを自分たちの気質で、引き受けることにした。
 馬は、最初の部分を選んだ。それ故に、人は皆、若い頃は激しく、頑固で、そして、執拗に自分の意見を主調する。牛は、二番目の部分を選んだ。それ故、人は中年になると、仕事を好み、労働に身を捧げ、富を蓄え、倹約しようと心がけるようになる。最後の部分は犬が受け持った。それ故、年寄りは怒りっぽく、短気で気むずかしく、我侭で、そして自分の家族には寛容だが、よそ者や、自分の好みに合わぬものや、自分に必要でないものは、全て嫌悪する。

ペリー105 、シャンブリ139、バブリオス74、日本昔話つうかん10 、トムスンモチーフインデックスA1321、グリム童話・KHM176、この話の系統は、バブリオス。


199、猿たちと二人の旅人。

 一方はいつも真実を語り、一方は嘘しか言わないという二人が、一緒に旅をしていて、猿の国へと迷い込んでしまった。
 猿の国の王様は、自分が、人間たちにどのように映るのか知りたいと思い、二人を捕まえてくるようにと命じた。それと同時に、他の猿たちには、人間の宮廷のように、左右に長い列を作り、玉座を用意するようにと命令した。
 準備が整うと、猿の王様は、二人を自分の前に連れてくるように命じ、次のような挨拶で、彼らを迎えた。
「異国の者たちよ、そちたちには、朕がいかなる王に見えるか?」
 嘘つきの男はこう答えた。
「私には大変偉大な王に見えます。」
「それでは、朕の周りにいる者たちは、そなたには何とみえる?」
「彼らですか、彼らは、大使や将軍たちに違いありません。王様に相応しいお仲間と、お見受け致します。」
 男がこう答えると、猿の王様と、廷臣たちは、すっかりその嘘に、気をよくして、この、太鼓持ちに、素晴らしい褒美を使わすようにと命じた。
 これを見て、正直者は、こんなふうに考えた。「嘘でこんなに凄い褒美が貰えるのだから、いつものように、本当の事を言えば、どんな褒美が貰えるかしれない。」
 すると、猿の王様が言った。
「そなたにはどのようにみえるか?」
 すると正直な男はこう答えた。
「あなたは、とても優秀な猿です。そしてあなたの模範に従うお友達も、とても優秀な猿です。」
 猿の王様は、本当の事を言われて、いかりに震えると、男を、仲間の歯と爪に委ねた。

ペリー569 、パエドルス4.13 、キャクストン4.8 、イソホ2.39、 狐ライネケ4.4 、トムスンモチーフインデックスJ815.1 、この話の系統は、パエドルス。


200、狼と羊飼い。

 ある狼が、羊の群の後について、歩いていた。しかしこの狼は、羊を一匹たりとて、傷つけようとはしなかった。初めのうち、羊飼いは、警戒して、狼の行動を厳しく監視した。しかしいつまでたっても、狼は、羊を噛んだり、傷つけたりするそぶりすら見せなかった。いつしか羊飼いは、狼を、悪賢い敵ではなく、群の見張り役と見なすようになっていた。
 ある日のこと、羊飼いは、町に用事が出来たので、羊たちを皆、狼に任せて出掛けて行った。
 ところが、狼はこの機会を待ちわびていたのだ。狼は、羊に襲いかかると、群の大部分を食い尽くした。
 羊飼いが町から帰ってきて、この惨状を目にすると、こう言って嘆いた。
「こんな目に会うのも当然だ。狼など信じた自分が馬鹿だった。」

ペリー234 、シャンブリ229 、チャーリス89 、トムスンモチーフインデックスK206.1.1、この話の系統は、イソップの原典。


201、兎たちとライオン。

 兎たちが集会で、熱弁をふるって、誰もが平等であるべきだと論述した。するとライオンたちがこう答えた。
「おい、兎どもよ、なかなか善いことを言うじゃないか。だが、その議論には、カギヅメや歯が足りない。我々はそれを身につけている。」

ペリー450、トムスンモチーフインデックスJ975、この話の系統は、アリストテレス「政治学」1284a15。


202、雲雀とその雛。

 春先のこと、雲雀が新緑の小麦ばたけに巣を作った。それから、雛たちはぐんぐん成長し、空を飛べるまでになっていた。そんな時、畑の主が、たわわに実った作物を見てこう言った。
「近所の皆に、刈り入れを手伝ってもらわねばなるまいな。」
 一羽の雛が男の話を聞いて、「どこか安全な場所に避難しなければなりません」と、母親に言った。すると母親はこう答えた。
「まだ、逃げなくても平気なのよ。友達に手伝ってもらおうなんていうのは、真剣には、刈り入れのことを、考えていない、証拠なのだからね。」
 数日後、畑の主がまたやって来て、実が入りすぎて落ちた小麦を見てこう言った。
「明日は、使用人と一緒に、来なければなるまい。そして雇えるだけ人を集めて、刈り取りをせぬことにはな。」
 母雲雀はこの言葉を聞いて、雛たちに言った。
「さあ、坊やたち、出掛ける時が来ました。今度こそ彼は本気です。友達を頼りにせず、自分で、刈り取ろうとしているのですからね。」

教訓、自助の努力こそが、我が身を助ける。

ペリー325、バブリオス88、アウィアヌス・21 、チャーリス4 、ラ・フォンテーヌ4.22 、トムスンモチーフインデックスJ1031 、この話の系統は、バブリオス。


203、狐とライオン。

 まだ、ライオンを見たことのなかった狐が、森で初めてライオンに出会った時、死ぬかと思うほど恐怖した。
 二度目に会った時には、とても驚いたが、最初ほどではなく、三度目には、近づいて行って親しく話しかけるほど、大胆になっていた。

教訓、面識を持てば、先入観も払拭される。

ペリー10 、シャンブリ42 、ジェイコブス34 、チャーリス2、クルイロフ5.17 、トムスンモチーフインデックスJ1075.2 、この話の系統は、イソップの原典。


204、鼬と鼠たち。

 寄る年波には抗しきれずに、衰えて、動きが鈍くなった鼬は、以前のように鼠が捕れなくなってしまった。そこで、粉の中をごろごろ転がって、体中に粉をまぶして、薄暗い隅の方へ横たわった。
 鼠は、これを食べ物と思って飛びつき、そして、即座に鼬に捕まって絞め殺されてしまった。二番目も同じことをして殺され、三番目も殺された。それでもまだ、同じ目に遭う者が、あとを絶たなかった。
 今まで多くの罠や策略から逃れてきた、一匹の年老いた鼠が、鼬の狡猾な罠を看破して、安全な場所からこう言った。
「そこに寝転がっているおかたよ。あんたの、その扮装がうまければうまい分だけ、あんたの腹は膨れるという寸法なんだね。」

ペリー511 、パエドルス4.2 、キャクストン4.2 、ラ・フォンテーヌ3.18 、トムスンモチーフインデックスK2061.9、この話の系統は、パエドルス。

注意、タウンゼント140参照。


205、水浴びをする少年。

 川で、水浴びをしていた少年が、深みにはまって溺れてしまった。
 少年は、大声で、通りかかった旅人に、助けを求めた。しかし旅人は、手を差し延べようとはせずに、無頓着に傍観したまま、少年の軽はずみを、叱りつけるばかりだった。
 すると、少年は叫んだ。
「おじさん。お願いだから助けてください。それから、いくらでも叱ってください。」

教訓、助けの伴わない忠告は、役に立たない。

ペリー211 、シャンブリ297、チャーリス37 、ラ・フォンテーヌ1.19 、トムスンモチーフインデックスJ2175.2 、この話の系統は、イソップの原典。


206、驢馬と狼。

 驢馬が草原で、草を食べていると、狼が近づいて来た。驢馬はそれに気付くと、足を痛めている振りをした。
 狼は、「なぜ足を引きずっているのか」と尋ねた。すると驢馬は、垣根を抜けようとした時に、鋭い刺を踏んでしまったのだと答えた。そして驢馬は、狼が自分を食べる時に、喉を痛めたりしないように、刺を抜いてくれるようにと頼んだ。
 狼はそれを承知すると、驢馬の足を持ち上げた。そして、刺を見つけようと、全神経を集中させた。と、そのとき驢馬は、蹄でもって、狼の歯を蹴飛ばした。そして、パッカ、パッカと逃げて行った。
 狼は、独りごちた。
「こんな目に遭うのも当然だ。俺はなぜ、医術を施そうとしたのだ。オヤジは、俺に屠殺の仕事しか、教えなかったのに。」

ペリー187 、シャンブリ281、バブリオス122 、キャクストン3.2 、エソポ1.17 、イソホ2.30 、ラ・フォンテーヌ5.8 、トムスンモチーフインデックスK566 、この話の系統は、イソップの原典。


207、神様の像を売る男。

 ある男が、マーキュリーの像を造って、売りに出していた。しかし、まったく売れないので、人々を惹きつけようと、大声で叫んだ。「トリイダシタリマスワ、富と利益を授けてくれる、ありがたい神さまだよ。」
 すると客の一人がこう言った。
「おい、相棒。そんなにありがたい神さまならば、なぜ売るんだ。 自分がその御利益に預かればよかろうものを。」
「なぜですと。」男は答えた。「私は今すぐに利益が欲しいのです。でも、この神様は、恵みを授けてくれるのがとても遅いのですよ。」

ペリー99 、シャンブリ2、この話の系統は、イソップの原典。


208、狐と葡萄。

 葡萄棚に、よく熟れた葡萄がぶら下がっていた。それを見つけた狐は、あらゆる手段を講じて、葡萄を取ろうとした。しかし、全て徒労に終わった。どうしても葡萄の房に届かなかったのだ。
 とうとう彼女は諦めて、悔し紛れにこう言った。
「あの葡萄は酸っぱい。熟してないのよ。」

ペリー15 、シャンブリ32 、パエドルス4.3 、バブリオス19 、キャクストン4.1 、ジェイコブス31 、チャーリス10 、ラ・フォンテー


209、男と女房。

 その男の女房は、召使いたちに嫌な思いをさせるので、皆に嫌われていた。男は、妻が実家の使用人に対しても、同じように振る舞うのかどうかを確かめようと、なにか理由を見つけて、彼女を父親の家へと送った。
 ところが、彼女はすぐに帰って来た。そこで彼は、妻に尋ねた。
「実家では、どのような生活をし、そして、使用人たちの態度はどうだったかね。」
 すると、彼女はこう答えた。
「牛飼や羊飼いは、嫌悪の表情で私をみました。」
 すると、男はこう言った。
「ねえ、僕の奥さんや。彼らは朝早く、羊や牛の群れを連れて出掛けて行き、夕方遅く帰ってくるのだろう。そんな彼らに嫌われるとするなら、一日中お前と一緒にいる者たちが、お前を、どう思っているか、分かるだろう。」

教訓、鈍感な者でも、色々な事例を示せば嫌でも分かる。

ペリー95 、シャンブリ49、ラ・フォンテーヌ7.2 この話の系統は、イソップの原典。


210、孔雀と女神ユノー。

 孔雀が、ユノーに、不満を申し立てた。
「ナイチンゲールは、その歌声で、皆を幸せな気分にさせるのに、自分が口を開くと、その途端、皆が笑い出すのです。」
 すると女神は、こう言って慰めた。
「でもお前は、美しさや、大きさの点で、秀でているではありませんか。首は豪華なエメラルドで輝き、そして、色とりどりの立派な尾が広がります。」
 すると、孔雀がこう答えた。
「しかし、いくら美しくても、歌声が劣っていては、その美しさも輝きません。」
 すると、女神がこう言って嗜めた。
「よいですか、それぞれには、領分というものがあるのです。鷲には強さ、ナイチンゲールには歌声、ワタリガラスは瑞兆を知らせ、コガラスは凶兆を知らせる。お前には美しさがあるのです。他の者は、与えられたもので、満足しているのですよ。」

ペリー509 、パエドルス3.18 、キャクストン4.4 、ジェイコブス33 、ラ・フォンテーヌ2.17 、トムスンモチーフインデックスW128.4 、この話の系統は、パエドルス。
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底本にしたのは、
Project Gutenberg aesop11.txt
Aesop's Fables Translated by George Fyler Townsend
訳に際して、意味の分かりにくい部分には筆を加えました。

主な参考文献:
イソップ寓話集 中務哲郎訳 岩波文庫
イソップ寓話集 山本光雄訳 岩波文庫
新訳イソップ寓話集 塚崎幹夫訳 中公文庫 
イソップ寓話集 伊藤正義訳 岩波ブックセンター 
叢書アレクサンドリア図書館10 イソップ風寓話集 パエドルス/バブリオス 岩谷智・西村賀子訳 国文社 
吉利支丹文学全集2(イソポのハブラス) 新村出 柊源一 平凡社 
古活字版 伊曽保物語 飯野純英校訂 小堀桂一郎解説 勉誠社 
寓話 ラ・フォンテーヌ 今野一雄訳 岩波文庫
寓話 ラ・フォンテーヌ 市原豊太訳 白水社
クルイロフ寓話集 内海周平訳 岩波文庫
アジアの民話12 パンチャタントラ 田中於莵弥・上村勝彦訳 大日本絵画
カリーラとディムナ 菊池淑子訳 平凡社
日本昔話通観 28 昔話タイプインデックス 稲田浩二 同朋舎
狐ラインケ 藤代幸一訳 法政大学出版局
知恵の教え ペトルス・アルフォンシ 西村正身訳 渓水社


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