番外編 舞殿の【女帝】3


 エル・クレール=ノアールとギネビア=ラ・ユミレーヌとは「友人」である。
 もっとも、実際に合ったのは数度に過ぎない。
 二人が出逢ったのは、互いの父親同士が交わしていた書簡の中、であった。遠く離れた古い友人同士が、己の跡継ぎの自慢合戦をしたのが始まりなのだ。
 エル・クレールは、その父親であるジオ・エル=ハーンが年を経てからようやく授かった一粒種だった。
 もうそれだけで目の中に入れても痛くない存在だ。その上我が子は若い母親似の美しさと、気品と賢さを備え持っている……。
 生真面目な父は、普段なら絶対に口にしないであろう子供自慢を、気の置けない友への手紙にのみしたためた。
 それを受け取ったギネビアの父親ユミレーヌ大公もまた、その厳格さからは想像もできない文面の書簡を送り返してきた。
 曰く――
 白い肌と赤い唇と優しい心根は母親似。黒い髪と黒い瞳と、思慮深さと積極的な行動力と、何より人を惹き付ける力は、自分に似ている。
 下世話な言葉だが「親バカ」としか言いようがなかった。本人達はそれを自覚していたし、むしろ互いの親バカぶりを楽しんでいた。
 手紙には時として小さな肖像画が添付されもした。
 それゆえ、子供達は「父の友人の子供」の顔をよく知っており、実際に会う以前から強い親近感を覚えていた。
 こうした手紙のやりとりは、各々の性格に相応しい生真面目で厳格な書簡の中に散在する形で、都合十数年……エル・クレールの故国が滅亡するまで……続いた。
 ブライト=ソードマンとギネビアとの間柄は、少々複雑だった。 彼らも又、面識はほとんどない。それでも互いのことを「よく知る」いう点では、エル・クレールとギネビアの間と同様だった。
 ただ、それが「友人関係」に当たるかというと、どうもそうではない様子だ。だからといって、単なる知り合いとも言い難い。
 では、憎しみや嫌悪があるのかというと、それも違う。
 少なくともブライトはギネビアを嫌ってはいない。むしろ、若くして一国の宰相たる美貌の姫を、彼は深く尊敬している……ねじ曲がった性格ゆえ、正直に口に出すことは皆無だが。