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「麻糸の色の髪、石ころ冷たさの目、雪よりも白い肌、血の滴る色の唇。気をつけろ、気をつけろ、あの女に気をつけろ」
薄汚く黄ばんだまあるい物の中に残された、朽ちることを許されぬ舌は、ただその言葉のみを繰り返します。
旅の男の人は小さく笑うと、まあるい物の二つ穴の穿たれた方を風の吹く上へ向けました。
そちらには細い影が一筋、頼りなげに立っておりました。
長い髪は麻糸の色をしております。瞳は翠がかった暗い色で、肌の透き通るほどに白い、それはそれは美しい女の人でした。
ぽってりとして赤く濡れた唇が、ふわりと笑いました。
ぞっとするほど艶やかな微笑を投げかけられたというのに、まあるい物と来たら、
「気をつけろ、あの女に気をつけろ」
と、ただただそれを繰り返すばかりでございます。
「飛沫を受けたのが目玉でなかったのは、
其方にとって無念なことか、あるいは運良きことか……」
男の人はまあるい物を、元の茂みにそっと置き戻しました。
それから懐を探って、小さな切り子の瓶を取り出しますと、まあるい物の前に置きました。
空っぽの瓶の透き通った向こう側で、赤く爛れた肉の塊は、のたりべたりと動き回り、止まることはありません。
「気をつけろ、気をつけろ。あの女に気をつけろ」
その言葉の繰り返しが、風の抜けるヒョウといううすら冷たい響きと一緒に、立つ影の人たちの耳に流れ込んで参ります。
宿場外れの道端に人影が二筋、闇の中に融けて消えました。
墨を流した天空に、炎の色の惑い星がただ一つちらちらと瞬くのみの、真っ暗な夜でございました。
-終-