九地篇 第十一 − 【九地篇 第十一】読み下し文 【2】 BACK | INDEX | NEXT

2019/06/15 update
孫子曰く、兵を用いるの法は、散地あり、軽地あり、争地あり、交地あり、衢地あり、重地あり、圮地あり、囲地あり、死地あり。諸侯みずからその地に戦うを散地となす。人の地に入りて深からざるものを軽地となす。われ得れば利あり、かれ得るもまた利あるものを争地となす。われもって往くべく、かれもって来たるべきものを交地となす。諸侯の地三属し、先に至れば天下の衆を得べきものを衢地となす。人の地に入ること深くして、城邑を背にすること多きものを重地となす。山林、険阻、狙沢、およそ行き難がたきの道を行くものを圮地となす。由りて入るところのもの隘く、従りて帰るところのもの迂にして、かれ寡にしてもってわれの衆を撃つべきものを囲地となす。疾く戦えば存し、疾く戦わざれば亡ぶるものを死地となす。このゆえに散地にはすなわち戦うことなかれ。軽地にはすなわち止まることなかれ。争地にはすなわち攻むることなかれ。交地にはすなわち絶つことなかれ。衢地にはすなわち交わりを合す。重地にはすなわち掠む。圮地にはすなわち行く。囲地にはすなわち謀る。死地にはすなわち戦う。

いわゆる古の善く兵を用うる者は、よく敵人をして前後相及ばず、衆寡相恃まず、貴賤相救わず、上下相収めず、卒離れて集まらず、兵合して斉わざらしむ。利に合して動き、利に合せずして止む。

あえて問う、敵衆く整いてまさに来たらんとす。これを待つこといかん。曰く、先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん、と。兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞らざるの道により、その戒めざるところを攻むるなり。

およそ客たるの道は、深く入ればすなわち専にして、主人克たず。饒野に掠めて三軍食足り、謹み養いて労するなく、気を併せ力を積み、兵を運らし計謀して測るべからざるをなす。これを往くところなきに投ずれば、死すもかつ北げず。死いずくんぞ得ざらん。士人力を尽くさん。

兵士、はなはだ陥ればすなわち懼れず。往くところなければすなわち固く、深く入ればすなわち拘し、己むを得ざればすなわち闘う。このゆえに、その兵修めずして戒め、求めずして得、約せずして親しみ、令せずして信ず。祥を禁じ疑を去り、死に至るまで之くところなし。わが士、余財なきは貨を悪むにあらず。余命なきは寿を悪むにあらず。令、発するの曰、士卒の坐する者は涕襟を霑し、堰臥する者は涕頤に交わる。これを往くところなきに投ずれば諸劌の勇なり。

ゆえに善く兵を用うる者は、譬えば率然のごとし。率然とは常山の蛇なり。その首を撃てばすなわち尾至り、その尾を撃てばすなわち首至り、その中を撃てばすなわち首尾ともに至る。あえて問う、兵は率然のごとくならしむべきか。曰く、可なり。それ呉人と越人と相悪むも、その舟を同じくして済り風に遇うに当たりては、その相い救うや左右の手のごとし。このゆえに馬を方べ輪を埋むるも、いまだ恃むに足らず。勇を斉しくし一のごとくするは政の道なり。剛柔みな得るは地の理なり。ゆえに善く兵を用うる者は、手を携うること一人を使うがごとし。已むを得ざらしむればなり。

軍に将たるのことは、静もって幽、正もって治、よく士卒の耳目を愚にし、これをして知ることなからしむ。その事を易え、その謀を革め、人をして識ることなからしめ、その居を易え、その途を迂にし、人をして慮ることを得ざらしむ。帥いてこれと期すれば、高きに登りてその梯を去るがごとし。帥ひきいてこれと深く諸侯の地に入りて、その機を発すれば、舟を焚き釜を破り、群羊を駆るがごとし。駆られて往き、駆られて来たるも、之くところを知ることなし。三軍の衆を聚め、これを険に投ず。これ軍に将たるの事と謂うなり。九地の変、屈伸の利、人情の理、察せざるべからず。

およそ客たるの道は、深ければすなわち専らに、浅ければすなわち散ず。国を去り境を越えて師するものは絶地なり。四達するものは衢地なり。入ること深きものは重地なり。入ること浅きものは軽地なり。固を背にし隘を前にするものは囲地なり。徃くところなきものは死地なり。このゆえに散地にはわれまさにその志を一にせんとす。軽地にはわれまさにこれをして属せしめんとす。争地にはわれまさにその後うしろに趨かんとす。交地にはわれまさにその守りを謹まんとす。衢地にはわれまさにその結びを固くせんとす。重地にはわれまさにその食を継がんとす。圮地にはわれまさにその塗に進まんとす。囲地にはわれまさにその闕を塞がんとす。死地にはわれまさにこれに示すに活きざるをもってせんとす。ゆえに兵の情、囲まるればすなわち禦ぎ、已むを得ざればすなわち闘い、過ぐればすなわち従う。

このゆえに諸侯の謀を知らざる者は預め交わることあたわず。山林、険阻、沮沢の形を知らざる者は軍を行ることあたわず。郷導を用いざる者は地の利を得ることあたわず。四五の者、一を知らざるも覇王の兵にあらざるなり。それ覇王の兵、大国を伐てば、すなわちその衆聚まることを得ず。威、敵に加うれば、すなわちその交わり合うことを得ず。このゆえに天下の交わりを争わず、天下の権を養わず、己の私を信べ、威、敵に加わる。ゆえにその城は抜くべく、その国は隳るべし。無法の賞を施し、無政の令を懸け、三軍の衆を犯すこと一人を使うがごとし。これを犯すに事をもってし、告ぐるに言をもってすることなかれ。これを犯すに利をもってし、告ぐるに害をもってすることなかれ。これを亡地に投じてしかるのちに存し、これを死地に陥れて然る後に生く。それ衆は害に陥れて然る後によく勝敗をなす。

ゆえに兵をなすの事は、敵の意に順詳し、敵を一向に并せて、千里に将を殺すに在り。これを巧みによく事を成す者と謂うなり。このゆえに政挙ぐるの日、関を夷め符を折りて、その使を通ずることなく、 廊廟の上に獅ワし、もってその事を誅む。敵人開闔すれば必ず亟かにこれに入り、その愛するところを先にして微かにこれと期し、践墨して敵に随い、もって戦事を決す。

このゆえに始めは処女のごとく、敵人、戸を開き、後には脱兎のごとくにして、敵、拒ぐに及ばず。
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用間篇 十三

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