彼女はまるでペナルティキックに立ち向かうゴールキーパーのようだった。
両拳を握ったかと思うと、すぐに開く。そしてまた拳を固める。
せわしなく上半身を左右に揺すり、時折首を傾げる。
座り慣れているはずの椅子だろうに、尻の座りが決まらない。
テーブルの上には大皿が一つ。盛られているのは小山のように盛り上がったスパゲティ。
それをはさんで対峙する俺を、彼女は瞬きせずに見据える。
睨まれている俺は今まさにシュートを放とうとするフォワードと言ったところか。
小山のてっぺんにフォークを突き刺す。パスタが巻き取られ、ボールになる。
俺はこのボールをゴールマウスではなくて自分口の中にねじ込まないといけない。
彼女の「腕」はそれを阻止するのか、あるいは逆にアシストするのか。
俺は素早くフォークを口に運んだ。
パスタ玉から滴ったソースが、弧を描いて跳ねる。
口腔の中でボールは解け、歯に当たり、はね回る。
彼女は拳を握りしめ、身を乗り出し、言う。
「どう?」
大きく目を見開いて、瞬きもせずに俺を見つめる。
俺はのど仏を大いに揺らし、パスタ玉を胃の腑に落とし込んだ。
そして舌先で唇を舐め、口笛を吹いた。
試合終了のロングホイッスルを聞いた可愛いゴールキーパーは、椅子を蹴飛ばして立ち上がって歓喜のダンスを踊った。