魅惑の【剣の女王】《クイーンオブソード》 − 【剣の女王】《クイーン・オブ・ソード》 【5】

 倦怠な時が、どんよりと流れる。
 その間、大勢の女がエルに対してエスコート役の交換を懇願し、何人もの男がブライトに対してダンスパートナーの交代を依頼してきたが、二人は応じなかった。
 断る方法というのは、実に簡単なものだ。
 品定めをするのだ。
 言い寄ってきた女あるいは男の顔と、自分が抱き抱かれている相手の顔とを見比べて、言い寄ってきた方に薄笑いを投げてやればいい。
 それでもだめなら、ブライトがにらみ付ける。
 あざけるようなまなざしに女は渋々あきらめ、射抜くような眼光で男はすごすごと引き下がる。
「現れませんね」
 二刻も踊り続けたころ、エルがぽつりと言った。
 ブライトは時折顔をしかめながら、辺りに気を配っていた。
「奥の部屋にいるのは確かだが……。銘《ナマエ》は……?」
 アームの銘はそのアームの能力を表しているものなのだが、普通の者はもちろん、ハンターにすら戦ってみないことには判別ができない。
 なにしろ一見すると、みな同様の赤い珠なのである。そして取り憑かれた者はみな同様に醜い化け物だ。
 アームの銘は、そのアームと同化した者にしか解らない。それゆえ、銘がそのアームの能力を解き放つキーワードになっている。
 ……のだが、エル・クレール=ノアールは、何故か他人の持つアームの銘を高い確率で見抜くことができた。
 この不可解な能力のおかげで、エルとブライトは他のハンターよりも幾分か「仕事」をはかどらせている。
「【剣の女王】《クイーン・オブ・ソード》……です」
「小さい方《ミヌゥスケェル・アーム》、か」
 アームは大別して2系統の種類がある。違いは、大きさだった。
 大人の拳大の大きさの物は大文字《マジュスケェル》、赤子の拳大の物を小文字《ミヌゥスケェル》と呼ぶ。
 どちらも、人に憑《つ》いてオーガに堕落させ、人を扶《たすけ》てハンターに成させることに変わりはないが、ミヌゥスケェルの方がやや力が弱い……というのが通説である。
 ふと立ち止まり、ブライトは一点を見据えて、言う。
「おまえさんが、やれよ」
 やはり、顔色が悪い。脂汗が額に浮いていた。
 心配の色を濃くしたエルの視線だったが、ブライトが顎で指した方に移った直後、厳しく鋭いモノに変わった。
 どよめきと共に、ドレープとレースを下品に盛り込んだドレスをまとい、目がチカチカするほど濃い化粧を塗りたくった女が一人、三人の仮面をかぶった者を取り巻きにして現れた。
 どよめきは、
「アーデルハイド様よ……」
「ああ、なんて美しいのだろう」
「お側に寄りたいわ」
「私も取り立てていただきたいものだ……」
 などという身勝手な言葉の不共鳴が作り上げたものだった。
 熟れすぎて腐り始めた桃に小蠅がたかるように、人々は主賓の回りに集まり始めた。
 大きな目、通った鼻筋、整った唇。
 柔らかそうな頬、尖った顎、細い首。
 はち切れそうな乳房、折れそうな腰、弾けんばかりの臀部。
 所作自体が官能的で、笑顔は人形のよう、文字通りの猫なで声。
 アーデルハイド夫人は、男の目から見た「良い女」の要素を、すべて足し込んだ容姿をしている。
「たしかに、お美しい方なのですが……」
 エルは、こういった「欠点のない美女」が苦手だった。
「どっちかってーと、父親似だ。あのぽってりとしたスケベったらしい唇が、特に似ている」
「帝室がお嫌いなのに……」
 『ずいぶんと帝室のことに詳しいのですね』と言いかけて、エルは口をつぐんだ。
 ブライトの額からは、脂汗が玉のように吹き出している。
「グールは、あの三匹だけだ。チビ《


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