ああ、その人の名前のことは勘弁してください。いつの時代の、どんな立場の人であったかも、です。
例え殿様ご自身が願った領地替えであっても、外から見れば都落ちの左遷です。ご家中の方々にとっては恥とも言えましょう。
とうの昔に無くなった方です。死人に鞭を打つのはあまりに可哀相だと思って頂けませんか?
それが駄目なら、生きているこの私を哀れんで、どうか訊かないでおいてください。
そう。これは昔話です。遠い所の昔話。
色々な経緯があって、深い山奥の、古い城跡に立つ寂しいお屋形……「幽霊屋敷」に閉じこめられることになった、お優しくてお寂しい殿様のお話。
そう思って聞いてください。