ゴミはゴミ箱に、おやつは3時にっていつも言ってるでしょう − ゾッキ男とベタ塗り姫 【1】

けど、多分間違いない。
 そうでなきゃ、アシ代どころか茶の一杯も出せねぇ俺の所へしょっちゅう助に来てくれるはずがありゃしない。
 いくら親の代から幼なじみ(俺のとーちゃんとあいつの親父さんが、俺のかーちゃんを取り合ってたなんて嘘くさい王道話は一ミリだって信じられん)とか、幼稚園のばら組さんからビーバップなハイスクールまで途切れることなくクラスメイトであり続けた(あいつは進学しやがったから、そこから先は途切れた)とか、全国ネットな漫画同人サークルに一緒に入ってた(誌上じゃペンネームのつきあいだから、オフ会で数年ぶりに会うまでお互い気付かなかった)とか、そういう腐れ縁があったとしても、だ。
 俺はそーっと後ろを見た。
 ひっつめ髪のデコっぱちの真ん中に、ポケットティッシュの束が貼り付いていた。
 染み出た墨汁一滴は、あいつの高い鼻んとこで二筋に分岐して、真っ黒い涙みてぇに流れて、とがった顎の先から落ちた。
 片一方は、あいつの胸の上。
 もう片一方は、消しゴムかけが済んだばっかりの俺の原稿の上。
「わっ!!」
 叫んだのは、俺。
 どんな絵描きだって、こだわって描いてるもの……俺の場合はきれいなねぇちゃんのロケット巨乳……が不細工なダルメシアン柄になっちまえば、悲鳴をあげずにいられるわけがねぇ。
 あいつはデコの真ん中からティッシュを取って、素早く墨の染みて無い方の角っこを原稿の上に押しつけた。墨は広がらないうちに吸い取られ、シミが主線に被るような面倒な事態は避けられた。
 線が滲むような惨事にみまわれっちまうと、線を残してホワイトで塗りつぶすなんてイラ付く修正をしなけりゃならなくなる。
 俺はやりたくないし、あいつに押しつけるのも面倒くさい。
 あいつは
「紙原稿スキャンのデジタル仕上げなんて中途半端なIT化をするから、こういうことになる」
 ぶつくさ言いながら、無駄にでかい道具袋から「マイ・ティッシュボックス」を取り出した。
 一箱二百円はする高級品、俗に言う「柔らかい方のティッシュ」ってやつだ。
 あいつはそれで自分の顔を拭いた。
 俺は思わず言った。
「原稿の方、拭けよ」
 大体こういうときは、言っちまったあとで、海より深く後悔するのが相場だ。
 本物のおっぱいと紙のおっぱい、天秤にかけて紙の方を取ったとありゃぁ、取られなかった方の持ち主は、怒るのが道理だろう。
「データ上で消す。どのみちしっかり乾くまでは待ち」
 事務的に言うあいつの声は、とげとげしている。眠たそうな二重の目を針みたいに細くして、俺を睨む。
「墨汁は、乾くのが遅い。ゴムかけできるようになるまでの時間が無駄。ハナからパソコンで描けなんて野暮は言いやしないけど、せめて製図か耐水インクに替えられないもんかね?」
「俺は墨汁の真っ黒が好きなんだって。製図なんて薄いのはゴメンだね」
 ここだけは絵描きとして譲れない。でも、突っぱねておいて、また後悔する。
「製図の黒は充分な黒。印刷にもちゃんと出る。そもそも入稿前にデジタルにしてる。もしどうしようもなく薄くっても、ちゃんとあんた好みの真っ黒に調整できる」
 理屈が帰ってきた。反論の余地のない、圧倒的に正しい理屈が。
 俺はあいつのこういうところに弱い。餓鬼の頃から絶対に勝てない。
 妙に頭が良いんだ。俺なんか到底敵わないくらい利口だ。
 高校が一緒だったのは、あいつが本命と滑り止めの進学校、両方とも落っこったのが原因。
 その度、乗る電車間違えて試験に間に合わなかった、なんて、薄ら笑いながら同じ言い訳してたっけ。
 もっとも、そんな不


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まろやか連載小説 1.41
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