ました。
するとどうでしょう。
たちまちのうちに、今まで「見た」と言わなかった者達と、「聞いた」と言わなかった者達が、「見た」「聞いた」と騒ぎ出したのです。
君、今嗤いましたね? 確かにおかしな話でしょう。ですが、当人たちにとっては笑い話ではありませんよ。
祈祷が失敗した形になった件の神官たちは、震え上がりました。
奥方様は大層お怒りでしたから、殿様のお執り成しがなければ、神官たちがどのような目に遭ったか解りません。
暫く後のことですが、彼等は「本来の霊験」の方での祈祷を、それこそ命がけで行いました。これが「効いた」ということで、奥方様のお怒りもどうやら収まったらしいのです。
何分にも今となっては皆故人となっているものですから、本当のところがどうであったのかは、どうやっても確かめようがありませんけれども。
兎も角も、ご自身が見たわけではないものの、奥方は得体の知れないモノに大変な恐怖を抱かれました。
殿様の膝に縋って
「こんな恐ろしいところには住めない」
と、お泣きになられました。
若い女性の涙ほど強いものはないといいます。殿様は新しい「小さな御屋敷」を建てて、古い離宮から出ることになさいました。
そうは言いましてもあまり豊かでない国の、まるきり豊かではない貧乏殿様のご普請です。
ええ、都におられた頃の資産はほとんど没収されていました。それは平民の方と比べれば、幾分か持っている部類に入りましょうけれど、元の暮らしから考えればほとんど無一文と言っていい。
だからといって、今の主上に縁があると思うと、奥方の化粧領に手を出すことは、さすがに憚られましたからね。
どう足掻いても立派なお城など建つわけがありません。
土地の頭領が縄張りをし、土地にある石材を使うことになさいました。内装も土地の樹木で土地の指物師が作り、土地の織り子が土地の山毛玉牛の毛と山蚕の糸で敷物や掛物を織ることになりました。
まず第一に、奥方様の為の仮のご寝所が建てられました。奥方様が一日も早く古い屋形を出たいと仰ったからです。
真新しい小屋ができ、真新しい寝台が組み上がり、真新しい寝具ができると、すぐに奥方はそのご寝所にお移りになりました。
殿様は古いお屋形に残られました。
何故、と? 建てられた仮のご寝所は狭く、仮の寝台も小さく、奥方一人が休むのが精一杯だったからですよ。……そういう寝所を作れと命ぜられたのは、殿様ご自身でしたが。
それから、形ばかりの塀と門が作られて、浅い空堀が掘られて、形だけで跳ね上がらない跳ね橋が架けられました。
家臣たちが控える部屋ができ、奥方様の衣裳部屋ができ、形ばかりの物見櫓ができました。奥方の仮でないご寝所が建てられ、殿様の御座所も完成しました。
最後に手頃な広間のある天守が建ちました。
それは殿様が昔住んでいた「都のお城」の十分の一すらもない小さな御屋敷でしたけれども、それでも、殿様が考えていた以上に立派で素晴らしい出来栄えでした。
大工たちの普請が終わると、指物師たちが大いに仕事をしました。あっという間に家具調度が御屋敷の中一杯にできあがりました。
それは殿様が昔住んでいた「都のお城」の調度品と比べたら、小振りで質素なものでしたけれども、それでも、殿様が考えていた以上に立派で素晴らしい出来映えでした。
指物師たちの仕事が終わると、次に織り子たちが大いに仕事をしました。ふわふわの敷物が床と廊下の隅々まで敷かれ、ふわふわの掛け物が窓と壁とを覆いました。
それは殿様が昔住んでいた「都のお城」の床や壁と