しっかり会話をしていた人が、手術が終わって目が覚めたら、何で自分が入院している理由が分からなくなったりするんだ」
「不思議」
ちょっとだけ唾が出て、前よりは湿った龍の口の中から、一言だけ言葉が出た。
シィお兄さんは小さくうなずいた。
「伯母さんも、そうだった。確かにとても悲しそうだったけれど、お坊さんやお葬式に来てくれた人や、家族と普通に話しができた。お墓にお骨が入るまでの間も、普通に起きて、普通にご飯を炊いて、普通にお掃除をして、普通に暮らしていた。
でも、小さな寅の小さなお骨がお墓の中に入ったその次の日、眠って起きた伯母さんは、全部忘れていた。
寅の納骨のこと、お線香をあげに来てくれた人のこと、お葬式のこと、病院のこと、事故のこと。
そして、寅が生まれたことも」