夏休みの前から夏休みの終わりまでの話。 − 【52】

ける。
 茶色い水はゴミと土と石ころを連れて下流に突き進む。
 やがて本流と合流し、さらに下って海に出るのだろう。
 そして、
「戻ってくる」
 龍はもう一度天を仰いだ。
 わずかにのっこった雲がオレンジ色の光に裂かれ、紫がかった空がその裂け目を浸食している。
 彼はそのオレンジに手をかざした。
 長い爪、節くれ立った指、大きな甲の、逞しい手が、彼の頭上にあった。
 その内側に、短い爪、細い指、薄っぺらい甲の、幼い手があった。
 ほっぺたがゆるんだ。二つの違うモノが同じモノに思えた。
 心が軽い。でも濡れた洋服と身体は、ずっしりと重かった。
 龍はその場にぺたりと座り込んだ。体育座りの格好で膝を抱え、膝小僧の間の谷間に額を押し当て、目を閉じた。


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2015/10/14update

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まろやか連載小説 1.41
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