る光が、二筋の紅い軌跡を描く。
二つの紅蓮は、一対の剣と成った。
ブライトは身を縮め、踏み込むと、低い弾道の跳躍で、グロテスクな人型に寄った。
左腕を袈裟懸けに振り下ろし、同時に右腕を逆袈裟に振り上げる。
「死人の分際で、生きてる者の足を引っ張ってンじゃねぇ!」
切っ先は、かの「鞭」と、司祭の肩口とを捕らえた。
拘束していた「鞭」が切り落とされた拍子に、エルは膝を落とした。
一方、司祭の肉体は猛烈に床に叩き付けられた。
肩口からドロリとしたものを吹き出しながら、そいつがわめく。
『何故だ、何故だ、何故だ! 我の不死の兵が、我の不死の肉体が! 何故崩れる!?』
「自分の進む道は正しい。自分の考えは正しい。脇道や、他人の考えなど見向きもしない。だから行き詰まった。
……国を護るという遺志には同意したモルトケ殿が、【グール】を作り出すことには反対していたのを、自分の正面しか見えていないあなたは、気付けなかったから……」
ブライトに助け起こされながら、エルが答えた。
『我は……われ……わ……わたし……私は』
床に叩き付けられた肉体が、うめく。
「私は……生きている?」
モルトケ司祭は切り裂かれたはずの肩口に手をあてがった。
傷口などなかった。
衣服にはほつれもない。
赤黒い液体で汚れたはずの床には、一滴の水気すらない。
だが、身を起こし辺りを見回せば、そこは確かに戦禍の跡だった。
見上げれば、二人の剣士が立っている。
赫いきらめきを携え、微笑んでいる。
「最初に言ったはずですがね」
「我々は、人を傷つける道具は嫌いなんですよ」