深林の【魔術師】 − 【6】

ていた。
 縮んで行くのである。
 見えぬ手が、その掌で出来損ないのパン生地を丸める……そんな変化であった。
「あるいは、揺るぎない信念」
「信……ガッ……念?……ッグァ」
「大切なものを自分の命を懸けてでも守りたいと願う心。理不尽な出来事に決して屈服しない心」
 縮み行く【剣の従者】を見下ろして、ガイアは静かに言う。
「栄達のために故郷を捨て、長年使えた主君を見捨て、友人の言葉に耳を貸そうともしない貴公は、残念だが、両方とも持ち合わせていないようだ」
「がぁっ!」
 声なのか、音なのか、区別の付かない空気の震えを残し、フランソワ=ビロトーは消滅した。
 床に、紅い珠が一つ落ちている。
 ガイアはそれを拾い上げ、投げた。
 金属製の鋭い音がして、珠は、レオンの持つ金細工の小さな孔の中に吸い込まれた。
「さて」
 金細工を胸に止め、レオンは顔を【魔術師】の方へ向け直した。
「あなたに、お訊きしたいことがあります」
 レオンは深紅の鎌を肩に担った。
 【魔術師】の目玉らしきモノは、自分から離れてゆく刃の先を追い、動いている。
「皇弟フレキ殿下が、ミッドのクレール姫を保護しておられるそうですが、本当ですか?」
 答えは返ってこない。
 変わりに、粘膜に覆われた触手が、レオンの眉間めがけて勢いよく伸びた。
 触手はレオンの頭があった場所を突き抜け、壁をぶち破った。
「お答えいただけないのですね」
 レオンの声は、床近くから聞こえた。
 しかし、【魔術師】は彼の姿を完全に見失い、再び見付けることができなかった。
 湾曲した刃が、化け物の身体の真ん中を下から上へ通り過ぎていた。
 そしてやはり、紅い珠だけが残った。


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2015/01/15update

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