煎り豆 − 【1】

き込みました。
 山のてっぺんがぱっくりと割れ、土の小さな塊が崩れて落ちました。
 老夫婦はほっぺたをくっつけて、地面をのぞき込みました。
 小さな割れ間の中で、何かがきらりと光りました。
 老夫婦が地面に顔を近づけようとしたときです。きらりと光った何かが急に地面から突き出しました。
 おじいさんはひっくり返って尻餅をつきました。おばあさんは腰を抜かしてひっくり返りました。
 二人が驚いて円くなった目で見ましたら、地面から出てきたのは、青々としてつやつや光った、大きな豆のふたばでした。
「なんとあれまあ、芽が出た、芽が出た」
「煎った豆から、芽が出た、芽が出た」
 びっくりの上にびっくりした老夫婦は、思わず手を取り合ってピンと立ち上がりました。
「大変だ大変だ、水をあげねば育たない」
 おじいさんが言いましたので、おばあさんは酸っぱいチーズの上澄みをふたばの根元の地面にかけました。
 からからに乾いた痩せ土に、水気がぐんぐん吸い込まれてゆきました。
 撒いた上澄みが全部地面に吸い込まれると、ふたばがブルブルッと震えました。
 老夫婦がふたばをじっと見ますと、ふたばの間で何かがきらりと光りました。
 老夫婦がふたばに顔を近づけようとしたときです。きらりと光った何かが急にふたばの間から突き出しました。
 おじいさんはひっくり返って尻餅をつきました。おばあさんは腰を抜かしてひっくり返りました。
 二人が驚いて円くなった目で見ましたら、ふたばの間から出てきたのは、青々としてつやつや光った、大きな豆の本葉でした。
「なんとあれまあ、葉が出た、葉が出た」
「煎った豆から、葉が出た、葉が出た」
 びっくりの上にびっくりしたその上にびっくりした老夫婦は、思わず手を取り合ってシャンと立ち上がりました。
「大変だ大変だ、水をあげねば育たない」
 おじいさんが歌うように言いましたので、おばあさんは水筒に残った酸っぱいチーズの上澄みを全部地面にかけました。
 からからに乾いた痩せ土に、水気がぐんぐん吸い込まれてゆきました。
 撒いた上澄みが全部地面に吸い込まれると、本葉がブルブルッと震えました。
 老夫婦が本葉をじっと見ますと、本葉の間で何かがきらりと光りました。
 老夫婦が本葉に顔を近づけようとしたときです。きらりと光った何かが急に本葉の間から突き出しました。
 おじいさんはひっくり返って尻餅をつきました。おばあさんは腰を抜かしてひっくり返りました。
 二人が驚いて円くなった目で見ましたら、本葉の間から出てきたのは、青々としてつやつや光った、太い豆のつるでした。
「なんとあれまあ、つるが出た、つるが出た」
「煎った豆から、つるが出た、つるが出た」
 びっくりの上にびっくりしたその上にびっくりしたそのまた上にびっくりした老夫婦は、思わず手を取り合ってぴょんと跳ね上がりました。
「大変だ大変だ、水をあげねば育たない」
 おばあさんが歌うように言いましたので、おじいさんは家の中に飛んで戻り、すぐに瓶を抱えて飛び出しました。
 瓶の中には酸っぱいチーズの上澄みが少し残っておりました。
「大変だ、大変だ」
 おじいさんは瓶を抱えたままトントンと足拍子を踏みました。
「大変だ、大変だ」
 おばあさんは杓子ですくった上澄みを拍子に合わせてまきました。
 するとどうでしょう
 一まきするとつるが伸び、二まきすると枝が伸び、三まきすると葉が茂り、四まきするとつぼみが付いて、五まきするととうとう花が開いたのです。
「なんとあれまあ、花が咲いた、花が咲いた」
「煎った豆から、花が咲いた、花


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まろやか連載小説 1.41
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