じいさんたちが普段から良い人だから、神サマが元気をお恵み下さったんでしょう」
おかみさんたちは合点して、大きくうなずきました。
すっかり若返って元気になった夫婦の話を聞いたおかみさんたちは、なんだか自分たちもすっかり元気になった気がしました。
つい先ほどまで今日のご飯を心配していたおかみさんたちは、白髪頭の旦那さんが持ってきた豆の粉のパンを家族一人に一籠ずつ、軽々担いで持ち上げて、それぞれ家に持って帰りました。
みんなが明日の食事に必要なだけパンの籠を持っていったので、旦那さんは毛玉牛に荷車を引かせて戻りました。
石の壁の小屋に着いて、残った籠を数えますと、パンが詰まって膨らんだ籠が百と七つありました。
入れ替わりに、奥さんは、何にも載せない荷車を毛玉牛に引かせて、村の西の外れの石ころ川原へ行きました。
石ころ川原にはたくさんの人たちが住んでいて、今夜の寝床の心配をしていました。
何しろこの村は、村長さんよりも村一番の金持ち長者の方が威張っているくらい、ぜんぶのことを長者が取り仕切っております。長者が家や部屋を貸してくれなければ、今日は橋の下で寒さを我慢して寝るより他にないのです。
石ころ川原の橋のたもとにはいくつもの家族が集まって、毛布一枚でどうやって一家が一晩過ごす出す方法があろうかと、口々に話し合っておりました。
「はい村の衆、こんばんは」
白髪頭の奥さんは、橋の上に荷車を止めて、大きな声で言いました。
みんなはおどろいて、お互いに顔を見合わせました。
「この村にこんな女の人がいただろうか?」
奥さんはにこにこ笑って言いました。
「ほぅらよくごらん、石の壁の小屋の婆ですよ」
みんなは女の人の顔をじっと見ました。確かに石の壁の小屋のおばあさんによく似ています。
「確かに石の壁の小屋のおばあさんによく似ているけれど、あのおばあさんはもっとずっといっそうんとおばあさんだよ」
みんなちは口々に言いました。とてもとても信じられないからです。
「わけを話すと長くなるわ。私たちの家でみんなにご馳走をするから、荷台に載って道すがらにきいて頂戴な」
娘さんのようなおばあさんの奥さんは、たくさんの人たちを乗せた荷車を牛に引かせて、石の壁の小屋へと進ませながら、神殿の合唱団のように節を付けて話しました。
「よぼよぼのじいさんとよぼよぼの婆さんが、朝一番にでかけた。
二人揃って杖を突いて、神殿まで歩いていった。
空っぽのお財布のそっこから、銅貨を一つ捧げた。
心を込めてお祈りしたら、天から御使いが降りてきて、
じいさんとばあさんに子供ができると仰った。
それから煎った豆を植えろと仰った。
酸っぱい上澄みで育てろと仰った。
言われたとおりに豆をまき、言われたとおりに上澄みをかけた。
すると不思議、煎り豆から芽が出た。
不思議不思議、あっという間に木になった。
あっという間に花が咲き、あっという間に実がなった。
それがその豆、たくさんの豆。
夕べたらふく食べて、今朝たらふく食べてもまだ減らない。
なんて幸せな煎り豆だろう」
荷台に乗ったたんなははびっくりして訊ねました。
「その豆を食べておばあさんたちは若返ったんですか?」
奥さんは首を振りました。
「食べる前から元気が出てね。食べる前から若返った気がしましたよ」
「なるほどなるほど。それではきっと、おばあさんたちが普段から良い人だから、神サマが元気をお恵み下さったんでしょう」
みんなは合点して、大きくうなずきました。
すっかり若返って元気になった夫婦の話