るのが見えました。
「これは一体何事だ?」
最後に北の窓から顔を出しますと、大きな風車がぐるぐると回ってい、その下で粉碾きをして働く者達が、みな楽しげに歌い踊っているのが見えました。
「これは一体何事だ?」
長者はあわてて番頭を呼びました。番頭はいつも長者の部屋の隣にある狭い控えの部屋におりますので、小さな呼び鈴をチリンチリンチリンと三度振れば、すぐにやってきます。
すぐに来なければ長者が酷く怒るので、番頭は一度目の小さなチリンで部屋から飛び出すようにしているのです。
ところが、今日に限っては番頭はやってきません。
なにしろ、屋敷の内外でみなが歌って踊っておりますから、その声も足音も、耳が破けてしまいそうなくらいに大きくて、小さな呼び鈴のチリンチリンチリンという音はきれいさっぱりかき消されてしまい、番頭の耳にはちっとも聞こえなかったのです。
実を言いますと、番頭も外から聞こえる歌の声を聞いているうちに、なんだか心がうきうきし、じっと立っていられなくなって、終いには狭い控えの部屋の中で歌い踊っていたのですけれども。
屋敷中、牧場中、畑中、工場中のみなが歌い踊るその声と足踏みとは、長者にはそれはそれは酷く騒がしい音に聞こえました。
村で一番の金持ち長者は両の手で両の耳を塞ぎました。ほんの少し音が小さくなったような気がしましたので、長者は大声を上げました。
「誰かいないのか!? このうるさい音は、いったい何の騒ぎだ!」
誰の返事も聞こえませんので、長者は脚をドタバタと踏みならして、声をギャンギャンと張り上げました。
「ええい、うるさい! 静かにしないか!」
ですが、ドタバタはみなの踊りの足音でかき消されましたし、ギャンギャンもみなの歌の声でかき消されてしまいました。
村で一番の金持ち長者は両の人差し指を両の耳の穴に差し込みました。だいぶん音が小さくなったような気がしましたので、長者はもう一度叫びました。
「誰かいないのか!? このうるさい音は、いったい何の騒ぎだ!」
それでも誰の返事も聞こえませんでした。
もっとも、誰かが返事をしたところで、長者は両耳を塞いでいるのですから、返事の声など聞こえるはずもないのですけれども。
屋敷中、牧場中、畑中、工場中のみなが歌い踊るその声と足踏みは、終いには長者の屋敷の壁という壁、柱という柱をビリビリと揺すぶり始めました。
天井からぱらぱらと、埃のような砂粒のようなものが降ってきて、村一番の金持ち長者の頭の上に白く積もりました。
長者は音と揺れとに耐えられなくなって、お屋敷の門から一番遠い棟の、一番高い所にある、一番日当たりの良い、一番広い部屋から飛び出しました。
村一番の金持ち長者は、両の人差し指で両の耳の穴を塞ぎ、長い長い階段を駆け下りて、長い長い廊下を駆け抜けて、広い広い中庭を突っ切って、広い広いお屋敷中を走り回りました。
何処に行っても騒がしい歌は聞こえますし、何処に行っても騒がしい足音は止みません。
走り回った長者は疲れ果てて、顎が上がり、ぜいぜいと息を吐きました。
「これは一体どういうことだ」
思わず、天を仰ぎますと、南に向かって羽を広げる背の高い大きな風車が、ぐるりぐるりと勢いよく回っているのが見えました。
長者は一昨々日の夕方、粉碾きの人足頭に麦を挽いて粉を百袋作るように命令したことを思い出しました。
村一番の金持ち長者はフラフラとした足取りで、粉碾き小屋に向かいました。
粉碾き小屋の前では、人足頭と職工長と料理長と、それから鍛冶屋が、車座になって座っており