広大な領土を有する大帝国、ギュネイ。
それは、帝都を遠く三千里…小公国「ツォイク」で、ほんの百年前に起きた話。
ルイ=ワンは、忠臣だった。
少なくとも、彼自身はそう思っていた。
諌言をよくし、主君の政を正している…と、自認していた。
そして、主君はその注進を良く聴いてくれている…と、自負していた。
確かに、主君は彼の言葉を良く容れていた。
第十八皇子殿下が、ツォイクを訪れる以前は。
時の皇帝の末息子で、利発だけれども何の権限も与えられられていない冷や飯食いを、何故か主君は厚遇した。
それがルイ=ワンの癪に触った。
歓迎の宴が、盛大に開かれた。重臣として列席せねばならなかったルイ=ワンの杯は、不満の大きさに比例して重なる。
『臣籍に落とされることが確実の皇子などとよしみを結んで何の利があろう。むしろ、跡目争いの余波を被る不利のあるのみ』
苦渋を酒で呑み下した丁度その時に、主君が彼に声を掛けた。
「殿下に讃辞を」
堰が、切られた。
直截な男は、思ったままを言った。
「偉大なる殿下が、寛大なる我が君の元へお越しになられた。軒先を借りて母屋を盗る為に」
場が、凍った。
「ルイよ、酔うておるな? 失言を詫びよ」
誰かが機会を与えてくれた。
すると、一徹な男は、重ねていった。
「貧乏人には恋しかろう、まばゆい玉座の柔らかさ。似合わぬことを知らずに欲す、汚れた地べたに置く身の上で」
思慮深い第十八皇子は、笑って聞き流そうとした。ところが、主君は許さなかった。
「我が敬愛深き殿下に、二度までも侮言を吐くとは言語道断!」
殿下が、また家臣達が止めるのも聞かず、主君は彼に死罪を言い渡した。
即座に刑は確定し、ルイ=ワンは城門の「軒先」に吊されることになった。
死の間際、彼は叫んだ。
「我が魂は見る、哀れな主家の最期を!」
刹那、ルイ=ワンの身は紅の光を発し、消えた。
そして、彼が吊された下の地面に、一つの輝石が残された。