「そりゃ、あまり上品な行動じゃなかったとは、思う。だからって、頬桁をグーで殴るな。おまえさんのグーパンチは、すんごく痛いンだぞ」
そっぽを向いたエルの、恥ずかしさで紅潮した顔をのぞき込み、ブライトは必死で弁明する。
「それに、俺はホントーに解らないから訊いてるンだ。女の……いや、男にとっても同じだが……一番守らないといかん股ぐらを、守るどころか隠しもしないこのおパンツの構造が、俺にはどーしても理解できん」
のぞき込む視線をかわすようにそっぽを向き直しながら、エルはさらに顔を紅くして、
「お城のご不浄(トイレ)は大概、舞踏会の開かれる広間からも控えの間からも、遠く離れたところにあるものです」
「あン?」
「つまり、生理現象が……限界を迎えたからと言って、はしたなく駆けていっては……その、それにドレスやペチコートをたくし上げて、ガーターをはずして、あ、あの……しゃがんで……そんな余裕はありませんし、第一、裾が汚れてしまっては大変ですから」
「じゃ、どーやって小便垂れるのさ?」
ブライトにとっては、純粋な知的好奇心である。それはエルにも解る。だから、恥を忍んで説明しているのだ。
「従者が、スカートの中に……容器を差し入れて、そこに……」
「立ち小便かよ! ……って、大きい方はぁ!?」
エルの紅潮は耳先を通り越し、膝を抱え込んでいる指の先まで達した。
そのおかげでブライトは「貴婦人達の用の足し方」を察することができた。
「ですから、私はドレスが嫌いです。小さな頃から、年に一度袖を通せばよい方でした。表面上は美しく着飾っていても、中は『垂れ流し』なのですから」
「でもな、今回ばかりは着てもらわンと困るしなぁ」
ブライトが顎で指した先に、あの布の山がある。
「私が、これを!?」
「おう」
腕組みをして、下唇を突き出す。
「何故ですか?」
「死霊に取り憑かれた伯爵夫人が、仮面舞踏会って名前の乱痴気騒ぎを、今夜開くンだとさ」
「『仕事』ですか……」
エルは大きく息を吐いた。
「『仕事』ですよ、姫様」
ブライトはニッっと笑い、
「コルセットを締めるお手伝い、不肖ながらこのわたくしめがいたします」
深々と頭を下げて見せた。
「ドロワースの構造は知らぬというのに、コルセットの付け方はご存じなんですか?」
右の拳を、白くなるほどに握りしめて、エルは引きつった笑顔を浮かべた。
|