グランドパレスには国内外からの来賓以外に、主命を帯びて集う者達もいた。
地方貴族の子弟達であった。
彼らに与えられた役目は、来賓達のエスコートである。
遠国からの国賓方を丁寧にもてなし、心地よく過ごして頂いた上、心地よくご帰国をして頂くのが、その仕事の内容なのである。
それによって、今後も友好的な外交関係を意地継続し、あるいは今以上に固い絆を結ぶ……それが舞踏会を主催したギネビア宰相姫の目的だった。
絆の結び方にはいくつか種類がある。
友情であったり、信頼であったり、畏怖であったり、庇護であったり。……そう。国同士の関係というものは、常に対等とは限らない。
しかし、例え優劣のある関係、利害のある関係であっても、結びつく、ということそのものが重要なのだ。特に、小さな国家にとっては。
そういう訳であるから……。
ユミル王家の支配下にある属国属領から、「家督の相続権がなく、且つ配偶者または配偶予定者のいない貴族達」が招集された。
彼らも、ギネビアの「手駒」だった。国同士を血縁という強い絆で縛り付ける、政略結婚の手駒なのだ。
ピエトロは、一応王子である。
彼の家は、ユミル王家に朝貢する事によってようやくその家名を名乗ることを許されている小国だ。その領地といえば、村二つ分に過ぎない。
城と呼ぶのもはばかれるほど小さな住まいの極々小さな小部屋が、彼の居場所だった。
国民達から「お館」と呼ばれているその城で、老いた父母と、二人の優れた兄と、三人の姉の顔色を窺いながら、日々を過ごしていた。
そんな身の上だから、家督は元より、幾ばくかの遺産すら望めない。詰まるところ、俗に「冷や飯食いの部屋住」と云われている身の上だ。
「ピエトロ、ピエトロ。ああ、たいへん。タイが曲がっているわ。衣服に解れはない? それよりも、どこか具合が悪いなどと言うことは、よもやないでしょうね?」
亜麻色の髪に白いものの混じった小柄な婦人が、末っ子の身体を落ち着かない様子であちらこちら触ったり撫でたりしていた。
息子の方は、少々迷惑そうではあったが
「母上はまるで僕が戦場にでも行って、二度と戻らないみたいにに思っているようですよ。大丈夫です。そんなに心配なさらないでください」
母親の手をしっかり握った。
ところが母親は顔をこわばらせ、息子の手をふりほどいた。
「いいえ、ピエトロ。あなたが行くのは戦場に他なりません」
「ただの舞踏会ですよ?」
「外国からのお客様が大勢見えるのですよ。国の威信が掛かる重要な行事なのですから、剣を使わないだけで、戦争と同じ事です」
母親があまりに真剣な顔で言うので、ピエトロも居住まいを正さないわけには行かなくなった。
背筋を伸ばし、神妙な顔つきになった息子を見て、母親はようやく少しの安堵を得た。
「恥ずかしいことに、我が国は貧しく、おまえに充分な旅支度を備えてあげることができません。おまえに渡せるのは、これただ一つ」
母后は一振りの剣を取り出し、ピエトロに渡した。